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舞台 「Birdland」 観劇レビュー 2021/09/19

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【写真引用元】
パルコステージTwitter公式アカウント
https://twitter.com/parcostage/status/1427103140168433666


公演タイトル:「Birdland」
劇場:PARCO劇場
企画:パルコ・プロデュース2021
原作:サイモン・スティーヴンス
翻訳:高田曜子
演出:松居大悟
出演:上田竜也、安達祐実、玉置玲央、佐津川愛美、目次立樹、池津祥子、岡田義徳
公演期間:9/9〜10/3(東京)、10/9(愛知)、10/15〜10/18(京都)、10/30・31(福岡)
上演時間:約150分(途中休憩20分)
作品キーワード:バンド・シンガー、考えさせられる、海外戯曲
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


最近は映画「くれなずめ」などで話題の劇団ゴジゲンの主宰である松居大悟さんが演出を手掛ける、有名ロックスターを主人公に据えたイギリスのサイモン・スティーヴンスの戯曲「Birdland」が初めて日本で上演されるということで観劇。

物語は、お金と名声とファン全てを手に入れて頂点に立った売れっ子のロックスターであるポール(上田竜也)が、最後のワールドツアーを終えるまでの一週間を描いたもの。
ポールは、欲しい物が全て手に入ってしまう生活をしていたので、金にセックスにだらしがなかった故にとある事故を起こしてしまい、そこから奈落の底へと転落していく話。

観劇の決めてとしては、「ポポリンピック」以来1年半ぶりに松居大悟さんの演出作品を観たかったというのと、演出助手に劇団東京夜光の川名幸宏さんが入っていたこと、フライヤーデザインがいかしていたこと、そして有名ロックスターの凋落ということで非常に熱い展開を予想して興味を唆られたことがある。

公演が始まる前はロックスターの話なので、バンドシーンなど音楽劇のようになることを想定していたのだが、全くそういった内容は存在せずほぼ素舞台に近いステージでひたすら会話中心のシーンが繰り返されていく、良い意味で裏切られた舞台演出だった。
非常に作風全体がバラードといった感じで静かで、ポールが主体となって様々な登場人物と会話を交わしていく。
そこにピアノの伴奏や美しくカラフルな照明演出などが作品全体を繊細なものにしていて、これはこれで非常に綺麗な形に仕上がっていて好きだった。

そしてポールを演じるKAT-TUNの上田竜也さんの、傲慢で破天荒なキャラクター性が非常に確立していて良かった。
脚本上なんでそんなことするの?っていう理解不能な行動ばかりしてしまうのだが、最後のシーンで非常に彼に感情移入してしまい、どんなに自分が偉くなったりしても周囲の人間関係や身近な存在を大切に生きていこう。
大切ななものは失ってから初めてその重要さに気がつくんだと自分を戒められた。

ロックバンドで活躍している人はもちろん、舞台表現者として活躍している人に是非観て欲しくて感想を求めたくなる作品。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/444367/1659639


【鑑賞動機】

久々に松居大悟さんの演出作品が観てみたかったというのと、この作品のあらすじに惹かれて観劇することにした。
とにかく、上田竜也さんのマイクに向かって歌うシルエットが赤いスポットライトに照らされるフライヤーデザインが格好良くて、そして有名ロックスターの苦難みたいな作風は、どことなく「ボヘミアン・ラプソディー」あたりも想起されて非常に興味を唆られ胸が熱くなった。
また、舞台「夜は短し歩けよ乙女」で好演だった玉置玲央さんや、劇団ゴジゲンの目次立樹さんがPARCO劇場という大ステージで観られるというのも、というか松居大悟さんの演出作品がPARCO劇場で観られるというのも注目のポイントだった。期待値は高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

金と名声と多くのファンを手にしロックバンドの頂点に立ったポール(上田竜也)は、最後となるワールドツアーを開催するべく、親友であり相棒でもあるバンドメンバーのジョニー(玉置玲央)と世界中を回っていた。
物語は、モスクワでのツアーから始まる。
ポールは欲しい物は全て手に入る贅沢な暮らしをしていた。桃が食べたいと言ったら、ウェイトレスがすぐに桃を本番直前に用意してくれた。モスクワでの本番が始まる。

モスクワでのツアーを終えた後、ポールとジョニーと、ジョニーの愛人のマーニー(安達祐実)とアナリサ(佐津川愛美)の4人でバーで飲んでいた。ポールは冗談交じりにアナリサといちゃついているが、ジョニーがマーニーとお互い愛し合っていると聞いて、一人の人を心底愛し合える二人を理解出来ないとポールは言う。そして、ポールは今度はマーニーに惚れジョニーの前でマーニーに接近していく。ジョニーもマーニーもポールが冗談であろうと思いこむ。
その後、ホテルにてジョニーに気づかれない間にポールはマーニーを誘い出し、二人で飲むことになる。そしてそのまま二人は良い感じになりベッドインする。
雪の降る朝、二人はベッドから起きるがマーニーはこのことがジョニーにバレたらマズいと思い、このことはジョニーには話さないようにポールに忠告する。しかし、ポールは冗談交じりにもこのことをジョニーに話すとマーニーを面白半分に脅し、マーニーを怒らせて彼女は立ち去ってしまう。

その後ポールは、マーニーはそのホテルの屋上から飛び降りて自殺したという情報をホテルのウェイトレスのジェニー(安達祐実)から聞く。ポールは自分がマーニーと一晩寝てしまったことが原因ではないかとよぎる。
そのままポールはジェニーと会話することになる。ジェニーは26歳まで数学者を目指していたが諦めてホテルのウェイトレスをやるようになったという話をする。数学者であれば、投資銀行など優良な就職先は沢山あっただろうになぜウェイトレスをやっている?と尋ねると、彼女は数字が曖昧な存在であり信用出来ないことに気づいたからだと話す。例えば100万という数字も1や2という数字がなかったら意味をなさず崩壊してしまう。小さな数字一つ一つの積み重ねが大きな数を作るのだと。
ポールはジェニーを気に入って、そのまま彼女を次のツアーから連れて行こうと決意する。

ポールたちは飛行機でベルリンへ向かう。
ベルリンに到着すると、ポールはマネージャーのデイヴィッド(岡田義徳)と今後の打ち合わせをしたり、街中でポールの大ファンであるマデライン(目次立樹)に話しかけられる。
マデラインにはポールの方から自分に何か歌を歌って聞かせてくれと注文し、何の歌が良いか尋ねてポールはある曲を指定するのだったが、その直後にマデラインがその歌を歌いだすとポールはその歌をリクエストしたことを記憶から忘れ去ってしまって、どうしてその曲を歌ったのか?と尋ねてマデラインも困惑するというトラブルが起きる。
その後、ポールはジェニーと二人でベルリンのカフェでデートをし、ベルリンの街や音楽について熱く語る。

ベルリンでのツアー直前に、ポールはジャーナリストであるリュック(池津祥子)からインタビューを受ける。しかしどんな質問をされても「うん、いいねえ」しか答えない。そこでリュックは「うん、いいねえ」で答えられない質問をするが、するとポールは無言になってしまった。
しかし、リュックから取材インタビュー中であるにも関わらず、ポールは電話をかけて食べたいものを沢山頼んで持ってくるように注文する。リュックは呆れる。
ポールは幻覚にうなされる。「radiohead?それともcoldplay?」「アメリカ?それともインド?」「フィッシュ&チップス?それともエスカルゴ?」二択で問いただされる質問が彼の頭の中を飛び交ってうなされる。

ここで幕間に入る。

ポールとジェニーは、亡くなったマーニーの両親であるマーク(岡田義徳)とソフィー(佐津川愛美)の元へ訪問する。本来なら亡くなったマーニーのことを考えるはずだが、ポールはマーニーの両親に対して失礼な態度を取ってしまう。ジェニーは焦る。
また、ポールはマーニーの両親だけではなく関係する多くの人々に対する態度の悪さに、ジョニーから「自分みたいな寛容な人間が相棒で良かったと思え。自分でなかったらとっくに愛想を尽かされているところだぞ」と忠告される。
それでもポールは以前として態度を変えることはなく、むしろ周囲への態度はどんどん横柄で失礼なものになっていった。それに耐えかねたジェニーは、「名声があって、お金もあってロックスターだからと言って、周囲の人間に何をやっても良い訳ではないから」と怒られ彼の元を去ってしまう。

ベルリンでのツアーを終え、最後のツアーを開催する都市であるパリに向かうポール。
パリでのツアーを控える夜、ポールはジョニーと二人で眠れぬ夜を過ごしていた。ワールドツアーが終わって地元のロンドンにお互い戻ったら何をしようかといった未来の話や、ポールとジョニーで二人でコンサートを2度目に開催した時の、泊まる宿がなくて野宿した話など。
しかし、ポールはその勢いでジョニーに対して、マーニーに生前忠告されたにも関わらず、ポールがマーニーと密かに一夜を過ごしたことを話してしまう。ジョニーはポールに対して愛想を尽かしてしまい、パリのツアーまではしっかり役目を果たすがそれ以降は絶交、今後一切会わないことを言い渡される。
パリのツアーを終え、ポールの元からジョニーは去っていった。

ワールドツアーを終えてロンドンに戻ったポール、ポールは地元のロンドンでニコラ(佐津川愛美)という15歳の少女に会う。ポールは彼女と話して仲良くなるとそのままホテルに連れて行ってお泊りをする。
ポールは父のアリステー(岡田義徳)と久しぶりに再会する。父のアリステーは地元でひもじい生活をしており、金がないと嘆いていた。ポールは金なら沢山持っているから出すと言うが、生きてきた世界が違うせいか話が噛み合わず終わってしまう。
ポールはロンドンでこの前ホテルに連れて行ったニコラという女性と一緒にいるところをスクープされ、SNSなどでも拡散され大問題になっていた。世間の人々はその報道を目にし、ポールに対する好感を落としていった。

落ち込んでいるポールの元へ、マネージャーのデイヴィッドが現れる。ポールはデイヴィッドから、なぜニコラとホテルで寝たことが問題になってしまったのかその理由を知ることになる。ロンドンでは他のヨーロッパの都市と異なり、15歳以下の女性を勝手にホテルに連れ込んだ時点で犯罪になるのだと知らされる。だから問題となり、人気を落とすことになってしまったんだと。
そして、そのニコラとのスクープを拡散させたのはジョニーだったことも告げられる。ポールは驚きを隠せなかった。
その上、デイヴィッドからさらに投資金の返済を要求されることになる。今までロックバンド活動中に使ってきた金は、全て今後の音楽活動の活躍を見込んでの投資金によって多くが成り立っていたのである。その投資金を返済していくように言われたのだ。
ポールはそんなこと知らないと激怒し、唾を吐く。デイヴィッドはキレる。今すぐ私の前で唾を吐いてすみませんでしたと謝れと。

デイヴィッドにも見放されたポールは孤独だった。
ポールは幻覚を見る。そこには死んだはずのマーニーがいた。マーニーがポールに元気にしているか尋ねてくる。ポールは自分の周りからジョニーもジェニーも父もデイヴィッドも、みんないなくなってしまって孤独だと答えた。マーニーはどうかと尋ねる。マーニーは非常に心地よい環境にいるようである。
ポールは金と名声と女に明け暮れて、周囲の人間のことを何も考えなかった結果、人生が崩壊してこうなってしまったと嘆いた。ここで物語は終了。

脚本自体は割とストレートで分かりやすい作品だと思うが、私を含めて一般の人からするとポールがなぜあそこまで異常な行動に走ってしまうのかは意味が分からないかもしれない。私自身も観劇中は、なんでそんなこと言っちゃうんだよという箇所が多すぎて、正直終盤まではポールに感情移入は出来なかった。しかしアーティストってそういう存在になってしまうみたいなことをパンフレットに書いていたので、考察パートで掘り下げることにする。
それとイギリスの戯曲ということで、かなり西洋の文化、特に西洋のアンダーグラウンドカルチャーの知識があると楽しめる台詞や内容が多かったのではないかと思った。
例えば、ベルリンでポールとジェニーの会話で、「ベルリンの共産主義と資本主義が混在したカルチャー」みたいな台詞が出てきたと記憶しているのだが、そういう西洋の歴史的背景などをもっと知っていたら楽しめた戯曲なのかもしれない。
西洋の文化を勉強した上で再度観劇したい演目だと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/444367/1659640


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

最初に今作品に惹かれてチケット予約をした際は、バンドシーンがあったりと舞台美術にも相当力の入った作品に仕上がるだろうと予想していたのだが、その予想は外れて至ってシンプルでバラードのように美しい舞台演出となっていた。そしてそれが逆に今作品には合っているなと実感した。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
至ってシンプルな舞台装置で、ステージ上に多角形の形をした大きな台のようなものが10個程度配置されていた。イメージとしては氷床が溶けて海上に大きな破片として浮いているような感じ。その台に腰掛けたりしながら、様々な場面が展開されていく。
また、シーンによってはその台を舞台上からはけさせたりするので、出番でない役者がその辺の導線を担当していたりした。
個人的にはこの氷床のような台が、ある種今回の舞台のシンプルさを一番物語っているような感じがあって、エレガントで恍惚な印象が凄く舞台全体を美しくシンプルにそして静かに研ぎ澄ましている感じがした。

またステージ上部から、巨大な一枚の多角形の破片が一つ吊り下がっており、そこには映像が投影される仕組みになっていた。一つはポールたちがワールドツアーで飛行機で移動するルートを世界地図で表現する映像が流れ、モスクワにたどり着いた時は世界地図のモスクワの位置に飛行機が移動し、ベルリンにたどり着いた時はベルリンに飛行機が移動するという映像が可愛げがあって素敵だった。
そしてもう一つが、これが凄くユニークな演出で面白いと感じたのだが、とあるいくつかのシーンでビデオカメラで舞台上のリアルタイムの演技を撮影して、その多角形型のスクリーンに投影するという演出である。これは非常に面白いと感じた。
実際、舞台上で演技が行われているのだが、演技をしていない別の役者が端からビデオカメラを構えて撮影することによって、また違った角度での演技がスクリーン上でリアルタイムで投影されるのである。
そしてその投影された映像に、若干装飾として鏡のようにスクリーンの端に白い模様みたいなものが入って、まるでドキュメンタリーを見ているかのような感覚にさせる演出効果で非常に面白かった。
ポールにスポットが当たることが多かったので、ポールが徐々に狂い始めて衰退の道へ向かっている過程をドキュメンタリーとして見ているような、そんな感覚を覚えさせられた。
また、私は客席後方で観劇したのでスクリーンのシーンになったら映像を観に行ってしまったが、客席前方だと演技と映像でどちらにフォーカスするか選べる気がする。そういった客席によって違った視点で観られる工夫があるという観点でも素晴らしかった。

物語終盤で、ポールと死んだマーニーが出てくるシーンがあるが、あの時のステージ上に黒い幕が一面に敷かれて、その下から空気を送ることによって黒い幕が波のようになびく演出も素敵だった。
まるで異世界に来たような感覚、死者がそこにいるから。凄く幻想的で静かで儚い演出だった。

次に舞台照明について見ていく。
まず全体的に、かなり白に近い感じの黄色い照明がステージ手前の下から向けられることによって、ロックスターのポールが非常にロックスターとして映える演出になっていて良かった。そしてワールド・ツアーを終えた後、そういった照明は一切なくなるので、それがポールがスターでなくなったことを上手く演出している感じがあって意味合いの凄く感じる舞台照明だったと思う。
特に印象に残った照明演出は、前半の方のポールとジェニーのシーンで青と黄色のカラフルな照明が水玉模様を作ってステージ上の氷床のような多角形型の台を照らす演出が非常に神秘的で素敵だった。凄く繊細に感じた。
また、舞台の後半の方でポールがジェニーやジョニーに態度を改めろと説教されている時のシーンで、ポールが自暴自棄になっている姿の影がステージ上部から吊り下がっている多角形型のスクリーンに、まるで怪物が影を大きくしてうごめいてるが如く映るシーンもおそらく意図的だと思うが素晴らしかった。次第にポールが影響力を失って失墜している感じを上手く反映している演出だと捉えた。
終盤のポールと死んだマーニーのシーンでは、全体的に濃いブルーの照明で照らされていて、凄く切ない気分になった。異世界という感じと、完全に失墜したポールの心境を表す色だった。

そして舞台音響について見ていく。
音響はなんと言ってもSWING-Oさんの下手側から聞こえるピアノの生演奏だろう。ロックスターを主人公とした作品であるのに、基本的に音楽がピアノ演奏という点がバラードチックで非常に繊細な作風となっている。
そしてこのピアノの生演奏が物凄く今作品と合うのである。特にジェニーとジョニーに追求されるポールのシーンや、終盤の死んだマーニーとのシーンでの悲愴さを物語るかのようなピアノの生演奏が心を打つ。
あとは、役者の台詞にエコーがかかる演出だろうか。幕間に入る直前の「フィッシュ&チップス?それともエスカルゴ?」みたいなポールに二択を迫るシーンで、役者たちが次々と二択の質問をしてきて全部にエコーがかかって、ポールを陥れるような感じの演出が印象的だった。

最後にその他の気になった演出について見ていく。
一番気になったユニークな演出だと思ったのが、ポールがロンドンに戻ってきて世間の人々がポールのことを15歳の少女に手を出したと噂話するシーンである。一枚の多角形型の台に全員のキャストが座り、ポールを囲んでヒソヒソと噂話をするシーンがなんとなく西洋チックな演出にみえて良かった。
あとは、ポールがこれだけ多くの人が僕を見ている、みたいなことを行って1度だけ客席の明かりが点いたシーンがあったが、なんかそもそも客席の明かりが点灯するのに時間がかかるので、ちょっとタイムラグ的な部分を含めると話の流れを止めてしまう演出で、個人的にはいらなかったんじゃないかと感じた。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/444367/1659642


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

豪華キャストが勢揃いで皆素晴らしかったが、ここでは特に触れておきたい役者に着目して書き記しておく。

まずは主人公のポールを演じたKAT-TUNの上田竜也さん。上田さんの演技を拝見するのは初めてだが、2時間半ずっと登場しっぱなしで台詞量も多かったのによくやり切っているなという感想。
ただ台詞量が多いというだけでなく、キャラクターとしてかなり体力を消耗させる演技も多かったのだが、全然もろともしない強いメンタルを持った役者だなと感じた。
役作りという観点でも、でしゃばったロックスターってたしかにこうなるな、と違和感を感じる点はなくてすんなりとキャラクターが入ってきたので、非常に狂っていくスターという点においては上手い演じ方をしていたんじゃないかと思う。

次に、ジェニーやマーニーを演じた安達祐実さん。本物の安達祐実さんを拝見するのは初めてだったが、1981年生まれということは40歳くらいであるはずなのに、この外見の若さが半端ないなって思った。まだ20代前半くらいに見えてしまう。パンフレットの写真も40歳とは思えないくらいの若さとセクシーさを感じられる。
そして演技もとてもキュートでセクシーだった。マーニーにしろジェニーにしろ凄く声に可愛げがあって、こんなの男だったらたしかにコロッと好きになってしまう。
個人的にはマーニーの役よりもジェニーの役の方が好きで、ジェニーの方がキュートなんだけど理性的で知的で、自分の価値観がしっかりしている所が好き。特に、26歳までは数学が好きで専攻していたという過去と、そこから数学を辞めてウェイトレスになってしまった理由が深すぎて、あの台詞だけでも何回か聞きたいと思うくらい。100万という数字は1とか2などそれまでの数字が一つでもなくなってしまうと崩壊してしまう極めて不安定で曖昧な存在、凄い考え方だと思う。SNSのフォロワーの数や金額など数字でしか価値を判断して来なかったポールにとっては響く台詞だったんじゃないかと思う。そして、そこからこの二人の関係性はどこかで破綻してしまうという意味合いも込められていて先が読めてしまうという要素も暗示されている点でも好きだった。
逆にマーニーは、もっと本能的で人当たりが良くて、でもそういったキャラクター性が伝わるくらい安達祐実さんは、役を上手く演じ分けられていたんだと思う。素晴らしい。

次に、ジョニー役を演じた劇団柿喰う客所属の玉置玲央さん。玉置さんの演技を拝見するのは、2021年6月に観劇した「夜は短し歩けよ乙女」以来2度目となる。
今回の玉置さんの役は、ただただ格好良いの一言。玉置さんのミュージシャン姿が非常に似合っていたというのと、キャラクター性としても内面的にダメダメなポールをずっと支え続けてきて、マーニーのことは一途で、でもマーニーには先立たれてそれが親友ポールが原因でって悲劇的過ぎる。それは心優しいジョニーでもポールを見限るわ。
経ち方も、ちょっとポケットに手を突っ込むあたりが凄く良い。

アナリサやニコラなどを演じた佐津川愛美さんも好演だった。
どうしても安達祐実さんの役と比較してしまうが、佐津川さんのアナリサは特に西洋系の女性を演じているという感じが強く感じられた気がする。真っ赤なドレスを着てちょっとマリリンモンローのようだった。
ニコラも外国にいそうな若い女の子といった感じが強かった。
そう、佐津川さんの役だけ凄く西洋を感じた。良い意味で。

ポールの大ファンのマデラインなどを演じていた、劇団ゴジゲンの目次立樹さんも良い役だった。ああいうオタクみたいな役は目次さん似合っているなという印象。
凄く特徴のある顔と特徴のある演技をする方だから、ピタリとハマる役があれば凄く個性豊かな役として仕上がって、今回の役も好きだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/444367/1659643


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、なぜポールは有名になって満たされた生活をしていたにも関わらず、周囲の人間を苦しめるような態度をとって破滅してしまったのかについて考察する。

この舞台を観劇した直後は、このポールというロックスターが起こす行動一つ一つが意味分からなくて、「なぜそんなことをする!」と突っ込みたくなる言動ばかりだった。
例えば、マーニーの両親に失礼な態度をとってしまったり、ジョニーとの夜で折角未来の話をしたり過去の話をしたり良い感じで落ち着いた時間を過ごしていたのに、マーニーとやってしまったことを伝えてしまったり、なぜそれをやる、なぜそれを言うってことが多すぎて、自分自身も理解出来なくてついていけなかった。
しかし、パンフレットを読んでみて、ロックスター、だけではないが芸能活動をする人間として、売れれば売れるほどさらに売れるものを作らないとという強迫観念から、自分の身を削ってまで身を捧げて活動を続けていかなければならないから、そういった俺様態度へと変貌せざるを得ないということを著者のサイモン・スティーヴンスは述べている。

ちょっとこの感覚は、芸能活動をする人間でないと分からないかもしれない。ちょっと自分には理解し難いものがある。まあそういうものなのだと捉えて進むのが正しいのだろう。
だからこそ、この作品はミュージシャンだったり役者だったり芸能活動をする人間が観た感想を是非とも聞きたいと思った。きっと自分とは観え方が異なってくるはずである。

芸能活動をする人間は、世間やファンに消費され続ける存在なのだろう。
物語の序盤で、ポールがモスクワのツアーが始まる直前に、「ポールでない人間が帽子を深く被ってポールであるかのように出てきても、人々は皆ポールだと思って満足するだろう」みたいな台詞があった。有名になったロックスターはただの符号と化してしまって、ポールその人自身を見なくなってしまうのかもしれない。
それによって、ポール自身も自分というアイデンティティを失っていくのかもしれない。それによって、人生が徐々に崩壊していくんじゃないかと推測した。

また、今作品のパンフレットを読んで一つ衝撃の事実を知った。劇中でも登場する音楽活動の投資金についてである。
これは世界中どの国もそうであるか分からないが、少なくともイギリスでは、アーティストが今後も音楽活動を続けて儲けを出すことを前提として音楽活動に投資されているというシステムがあることである。
要は借金を抱えたまま音楽活動をしているという訳である。
だから、ワールドツアーを終えたポールはロックスターを辞めてしまうと、ただ借金だけが残ってしまうのである。
これはリーマンショックを経験した後に、このような作品が書かれたことが頷ける。

人生何が起きるか分からない。もし今でもそういった制度が残っているのであれば、未来の音楽活動家のためにもなくなって欲しいものである。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/444367/1659641


↓松居大悟さん演出作品


↓玉置玲央さん過去出演作品


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