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舞台 「Les Misérables」 観劇レビュー 2021/07/24

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【写真引用元】
Corich舞台芸術
https://stage.corich.jp/stage/111412


公演タイトル:「Les Misérables」
劇場:帝国劇場
企画:東宝
原作:ヴィクトル・ユゴー
作:アラン・ブーブリル、クロード=ミッシェル・シェーンベルク
演出:ローレンス・コナー、ジェームズ・パウエル
出演:吉原光夫、伊礼彼方、知念里奈、屋比久知奈、三浦宏規、加藤梨里香、橋本じゅん、樹里咲穂、相葉裕樹他(観劇回の出演者を記載)
公演期間:5/21〜7/26(東京)、8/4〜8/28(福岡)、9/6〜9/16(大阪)、9/28〜10/4(長野)
上演時間:約180分(途中休憩25分)
作品キーワード:ミュージカル、舞台美術、心温まる、西洋
個人満足度:★★★★★★★★☆☆


1987年から日本で数年に1回帝国劇場で上演されているビクトル・ユゴーの代表作「レ・ミゼラブル」を観劇。
映画版の「レ・ミゼラブル」である、1998年版(リーアム・ニーソン主演)と2012年版(ヒュー・ジャックマン主演)は視聴済みであったが、生のミュージカル舞台として観劇するのは初めて。

私が観劇した回は、ジャン・バルジャン役を吉原光夫さん、ジャベール役を伊礼彼方さん、ファンティーヌ役を知念里奈さん、エポニーヌ役を屋比久知奈さん、マリウス役を三浦宏規さん、コゼット役を加藤梨里香さんが演じた。
吉原さんと伊礼さんの演技は過去に観たことあったというのが決めて。

ストーリーはよく知っていたので、どちらかというと舞台美術がどうなのかという部分を一番の楽しみにしていたのだが、大満足の迫力だった。
特にバリケードのシーンは想像を超える迫力で、まずバリケードの舞台装置の大きさに圧倒され、そして銃撃戦の銃弾が飛び交う音、大砲の音、そしてオーケストラによる生演奏の聴覚的な迫力にも圧倒され、本当に自分が市街戦の現場にいるかのような感覚に襲われるくらいの臨場感を楽しめた。
バリケードシーン以外でも、大きな馬車がドンと倒れてくるシーンの迫力、テナルディエ夫妻が営む居酒屋でのシーンの滑稽ぶり、終盤の結婚式のシーンの華やかさなど見所が多い上にバラエティーに富んだシチュエーションが詰め込まれていて素晴らしかった。
ジャベールが川に身を投げるシーンや、地下水道のシーンなどはこうやって演出するのかと見せ方の上手さに驚いた。
特に、地下水道のシーンや市民が街を行進するシーンは映像を駆使して舞台の奥行きを感じさせるような立体感のある演出がとても好きだった。

誰もが一度は耳にしたことのある「レ・ミゼラブル」だと思うので、ぜひ生のミュージカルとして多くの人に観劇して欲しいと思った。とてもおすすめ。

↓小説『レ・ミゼラブル』


【鑑賞動機】

ストーリーもよく知っていて映画も観ているので、いつか生の舞台として観劇したいと思っていたから。そして今回は過去に生で演技を観たことがある、ジャン・バルジャン役を吉原光夫さん、ジャベール役を伊礼彼方さんが演じている回を選んで観劇することにした。期待値は長年上演され続けている作品である上に、東宝ミュージカルということもあって期待値は非常に高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

金に困ってパンを一つ盗んだという罪で刑務所送りにされていた囚人のジャン・バルジャン(吉原光夫)がジャベール警部(伊礼彼方)によって釈放される所から物語は始まる。身の拠り所のないジャン・バルジャンはシャバに出たものの、囚人というレッテルが貼られたことによって誰一人彼を迎え入れてくれる人は街にいなかった。しかし、ある心優しい司教(鎌田誠樹)はそんなジャン・バルジャンを温かく迎え入れ一晩泊めることにした。だがジャン・バルジャンはその優しさを裏切るかのように銀の燭台を盗んでしまう。逃げる道中で捕まったジャン・バルジャンだったが、その盗みさえも許してくれる司教に心動かされることになる。
一方、盗みを働いたジャン・バルジャンを再逮捕しようとジャベールは彼を捜索するが逃してしまった。

その数年後、美人ではあるが貧乏人であるファンティーヌ(知念里奈)は、娘のコゼットをテナルディエ家に預けている養育費を稼ぐために工場に勤務していた。しかし同じ職場で働く女工たちにいじめられ、そしてテナルディエ家から送られてきた手紙の存在がバレたことによって、ファンティーヌが娘のためにお金を稼いでいることを知られてしまう。まもなくファンティーヌは工場から追い出されてしまう。
職場を失ったファンティーヌは放浪していた。ファンティーヌのその美貌から、娼婦たちから娼婦になれば大金を稼げると誘われるが彼女は断る。そしてとある金持ちな男から強引に迫られそうになるファンティーヌだったが、彼女はその男を思い切り引っ叩いてしまう。警察沙汰になりジャベールがファンティーヌを取り押さえようとする。そこへ市長(ジャン・バルジャン)がやってきて、ファンティーヌを解放するように命ずる。市長の命令ということもあり、ジャベールはファンティーヌを解放する。

その後、馬車に下敷きになった男を市長は救出する。ジャベールは馬車を持ち上げられる怪力持ちの市長に驚き称賛するも、その体つきがどことなく囚人だったジャン・バルジャンに似ていると感じる。しかし、ジャン・バルジャンと思しき人物は本人はジャン・バルジャンであることを否定するが取り押さえられており、これから裁判にかけられる所であった。
偽物のジャン・バルジャンが取り押さえられていることを知った市長である本物のジャン・バルジャンは、直ちにその裁判へと向かう。そして市長は裁判所で、「私がジャン・バルジャンだ」と皆の前で公言する。
そして本物のジャン・バルジャンはそのまま姿を消してしまう。ジャベールは彼を追跡する。

ファンティーヌの娘であるコゼット(若井愛夏)は、みすぼらしい服装をしてテナルディエ家の掃除をしていた。そしてテナルディエ夫人(樹里咲穂)に掃除がなっていないとこっ酷く叱るといった酷い仕打ちを受けていた。一方、テナルディエ家の娘でコゼットと同年代で幼馴染になるエポニーヌ(小田島優月)は、テナルディエ夫人の娘ということもあって非常に可愛がられるという理不尽な状況だった。

ファンティーヌは病気にかかって療養していた。そこへジャン・バルジャンが現れる。ファンティーヌは彼に、「コゼットをよろしく頼みます」と言って息を引き取る。ジャン・バルジャンはコゼットを探しに行く。
ある日井戸へ水汲みにコゼットは出かけている所にジャン・バルジャンが現れる。そして彼はコゼットに、「今日から私の娘だ。もう井戸汲みなどしなくても良い」と言う。コゼットは日々の雑務から解放されたことに大喜びするが、そこへテナルディエ夫人がやってくる。
テナルディエ夫人は、ジャン・バルジャンがコゼットを養子にすることに反対するが、ジャン・バルジャンから高額の資金を渡されることによって満足し、コゼットを引き渡すことにする。

数年の月日が経ち、コゼット(加藤梨里香)も立派な嬢へと成長した。
その頃フランスでは自由を求めて革命を起こす動きが加熱していた。アンジョルラス(相葉裕樹)率いるABC友の会が政府に対して革命を起こそうと会議をしていた。そこには若き青年マリウス(三浦宏規)の姿もあった。
エポニーヌ(屋比久知奈)はマリウスに対して密かに恋心を抱いていて、彼の後にいつもくっついていた。
ある日、マリウスは街中で見知らぬ女性とぶつかってしまうが、彼はそのぶつかってしまった女性に一目惚れをする。そしてその女性は、エポニーヌに尋ねるとコゼットという名前であるということを知る。その日からマリウスはコゼットのことが頭から離れなくなり、コゼットのことを知るエポニーヌにコゼットの屋敷へ案内するように依頼する。エポニーヌは複雑な気持ちになりつつも、大好きなマリウスのためにとコゼットの屋敷へ案内する。
マリウスとエポニーヌはコゼットの屋敷までたどり着くも、コゼットはいつもジャン・バルジャンと一緒にいてなかなかコゼットと話が出来る機会を得られずにいた。

ここで幕間に入る。

いよいよ革命の気運も高まってきて、ABC友の会の革命勢力と政府との攻防戦が始まろうとしていた。街には革命軍の本拠地となるバリケードが築かれていた。ジャン・バルジャンも革命軍の一員として攻防戦に参加していた。
攻防戦が開始した、革命軍の最初の犠牲となってしまったのはエポニーヌで、彼女はマリウスの胸の中でそっと息を引き取った。
いよいよ総攻撃を開始しようという日の前夜、革命軍の中に裏切り者が潜んでいることをガブローシュ(井伊巧)は告発する。その裏切り者とはジャベールだった。ジャン・バルジャンはジャベールを始末するように命じられるが、彼はジャベールを逃がすことにする。
ジャベールを殺したと嘘を付いたジャン・バルジャンは、そのまま革命軍と合流して政府との全面戦争に参加する。

激しい攻防戦が始まる。ガブローシュなどABC友の会のメンバーが次々と撃たれていく。マリウスも負傷して意識を失い、ジャン・バルジャンによって地下水道へと運ばれる。ジャン・バルジャンはテナルディエ(橋本じゅん)に出会う。テナルディエはジャン・バルジャンから金目になるものを貰い去っていく。その後ジャベールに会う。ジャベールはジャン・バルジャンになぜ殺さなかったのかと追及する。
ジャベールは本来ならあそこで死んでいた自分に対して、今生かされている自分の存在そのものを許すことが出来なくなってしまい、自ら川へ身を投げて自殺するのだった。

マリウスは目を覚ます。彼はそれでもコゼットのことが忘れられず彼女の元へ会いに行く。コゼットに会うことの出来たマリウスは、ジャン・バルジャンから彼女と結婚することを許され、コゼットとマリウスは無事結ばれる。
その時、ジャン・バルジャンは自分は元々囚人でありコゼットの父親ではないことをマリウスに告白するが、コゼットには黙っていて欲しいと言う。

マリウスとコゼットの結婚式は盛大に行われ、式にはテナルディエ夫妻も出席していた。テナルディエはマリウスに、地下水道でジャン・バルジャンから貰った高価な品物を見せ、それによって革命の際に自分を助けてくれたのはジャン・バルジャンであったことを知り、急いで彼の元に駆けつける。
ジャン・バルジャンは教会でひっそりと余生を過ごしていた。そこへマリウスとコゼットが駆けつけ、マリウスは命の恩人であるジャン・バルジャンにお礼をする。ジャン・バルジャンはマリウスにコゼットを託され、コゼットには自分がコゼットの父親ではなく母のファンティーヌから託されたことを告げ、自分は元囚人であることを告白する。そしてジャン・バルジャンはジャベール、ファンティーヌ、そして革命によって亡くなっていったABC友の会の面々の元へと旅立っていくのだった。ここで物語は終了。

私は今回の観劇で久しぶりに「レ・ミゼラブル」のストーリーを改めて追ってみたが、ジャン・バルジャンがこれでもかというほど善良な人物で、たった一度の司教との出会いによってこんなにも心変わりするものなのかと、改めて考えさせられた。
そしてジャベールという男の存在がかっこよい。規律に忠実で完璧主義な所が凄く好きなのだが、最期で本来なら殺されているはずの自分がジャン・バルジャンに助けられて生きているという事実に対して、自分自身を許せなくなって自殺してしまったという結末が、非常にジャベールらしくて好きだった。ここまで完璧主義な人間には惹かれるものなんだなあと感じてしまう。
また、コゼット、マリウス、エポニーヌの三角関係もとても心を動かされる。特にエポニーヌが物凄く可哀想な立場で非常に魅力的に感じてしまう。ずっとマリウスのことを思いながら、ずっとそばにいながら想いは叶わず。でも最期はマリウスの胸の元で眠るように亡くなっていくというシーンは本当に観ていてたまらなかった。
感動・感動の連続、素晴らしい脚本。100年以上も前に書かれても尚、今もこうやって愛され続けている普遍的な作品なんだと感じた。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今回の観劇で一番楽しみにしていた舞台美術、言葉で表せないくらいの迫力と美しさとセンスを感じた。今回の観劇は2階席だったのだが、それでもその迫力は十分に伝わってきた。一方でもっと近くで体感したかったという気持ちもあったが、そんな気持ちは置いておいて舞台装置、映像、衣装、照明、音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。まずステージが非常に横に広くて、下手側と上手側にそれぞれ手前側に出っ張ったステージが存在していて、ステージが客席に対してややコの字になっていた。下手側と上手側の手前に飛び出たステージには、木造の舞台装置が置かれており、その手前側に狭いスペースがあってそこからでハケが出来るようになっていた。ジャン・バルジャンがジャベールを逃がすシーンもこの下手側のステージで演じられていた。
そして中央のステージには、両端に3階建てのハウスが設置されていて、序盤では娼婦たちのミュージカルシーンなどに使われていた。これらも全部木造で近代西洋のクラシカルな印象を感じた。また、上手側のハウスの1階は地下水道への入り口になっていて、ジャン・バルジャンが意識を失ったマリウスを運ぶシーンで使われていた。
以上が常設の舞台装置となっていて、後はシーンによって出現したりハケたりする舞台装置となっていた。それらは沢山存在するが、主要なものをいくつか紹介する。
まずは一番迫力のあったバリケード、中央の舞台上いっぱいに広がっていたバリケードの大きさにまずは圧倒された、ハリウッド映画の舞台セットのような豪華さだった。バリケードを構成するガラクタなんかもシルエットが物凄く格好良くて、一度自分もバリケードに登ってみたくなるくらいのインパクトのある舞台装置だった。
あとは、序盤に登場する馬車もインパクトがあった。男が馬車によって下敷きになるのだが、その倒れる時のインパクトが馬車が想像以上に大きかったので迫力あった。あれを持ち上げられるジャン・バルジャンは怪力持ちだ。
ジャン・バルジャン、コゼットの邸宅も好きだった。こちらは邸宅のシーンになる度に登場するが、下手側半分を使って、邸宅の垣根がヌッと出現するのだが、垣根に絡まる植物がリアリティあって好きだったり、街頭も付いていてオシャレだったりでよかった。凄く温かみのある舞台セットだった。
ジャベールを象徴する、月夜の橋の上の舞台装置もよかった。橋の手すりが舞台中央奥にセットされて、その頭上に橋灯がセットされて凄く美しい舞台美術だった。
テナルディエ家の雑多な舞台装置も、あそこだけ大衆っぽさ、陽気さがあってメリハリがついて好きだった。そこに「宿屋の主人の歌」が流れることで、一気に雑多感、ワチャワチャ感が出てくる。素晴らしい演出だった。

次に映像、今作品では場面を分かりやすくするために舞台中央奥のスクリーンに映像を投影して場面を表現していた。
まず映像が全体的に油絵っぽくて、近代西洋の世界観を非常にクラシカルに表現している箇所が凄く好きだった。あの質感というか、あの良い意味でボンヤリと背景を描く点が、ある意味フランスっぽくてそして凄くファンタジックで好き。それだけで、だいぶ作品の世界観に没入出来る良い作りだった。
さらに、特に市民たちが街中を行進する時や、馬車がやってくるシーン、ジャン・バルジャンが地下水道の中マリウスを運ぶシーンで印象的だったのだが、人が舞台手前方向に進んで行く際にまるで移動しているかのように、映像も合わせて動いている演出が物凄くよかった。それによって、舞台の奥行きがあるように感じられて舞台上の垂直方向の立体感が増してる感じがした。
また、ジャベールがセーヌ川に入水するシーンを上手く映像を駆使して演出している点も面白かった。あんな感じで入水を表現するのかと合点した。あの時、ジャベールってワイヤみたいなもので吊るされていたのだろうか。気になった。

衣装はとにかく豪華だった。
個人的に好きだったのは、エポニーヌの赤い帽子を被って薄汚れた感じの衣装。凄く可愛げがあるし、ちょっと目立つ感じがあって好きだった。
また、テナルディエ夫婦のマリウス・コゼットの結婚式での衣装がド派手で好きだった。特にテナルディエ夫人の鶏冠のような帽子?にはびっくりした。でもテナルディエ一家だからこそ許されるド派手感と特異性があって好きだった。
アンジョルラスの衣装も目立っていて格好良くて好きだった。いかにもリーダーって感じの衣装だった。

照明もミュージカルでありがちな派手な色でカラフルに仕上げてくる感じではなく、控えめだけれどもセンスを感じさせるような演出で良かった。
個人的に好きだった照明は、ジャン・バルジャン、コゼット邸宅に差し込む日差しと、夜の橋の上のジャベールのシーンの月光と、バリケードのシーン。
まず、邸宅に差し込む日差しは、邸宅自体が非常に植物に囲まれた温かみのある邸宅なので、そこに明るい日差しが差し込むことで非常に温もりのあるシーンとして仕上がっていて、コゼットがテナルディエ家から解放されて健やかに育っていったことを象徴してくれるような印象を受けてとても良かった。
ジャベールのソロパートはなんでこんなに夜のシーンが似合うのだろうか。映像で映し出される星々も歌に登場する通り素敵なのだが、なんといってもジャベールを照らす月光の白い光が本当に美しく、哀れみを感じてしまう。良い演出だった。
バリケードのシーンは文句なしのクオリティだった。特に攻防戦のシーンでは、白く発光する照明がランダムに舞台上全体を点々と照らし続けていて、音響も相まって非常に迫力があった。敵軍(政府軍)が登場しないからこその恐怖とインパクトがあった。

音響は、生演奏・効果音と歌で分けて記載する。
まず、生演奏で良かったのは始まりのインパクトと、バリケードのシーンだろうか。開演時の暗転まではいかないが結構暗くなってからの生演奏のかかり方、幕間終了時の生演奏のかかり方が、全てカットイン的に入っていくのだが、非常にインパクトがあって鳥肌が立った。オーケストラだからこそ出せる迫力で、物語が始まるぞという気持ちに一気にさせてくれた。
バリケードのシーンは、「民衆の歌」の伴奏が少しテンポが上がった形で演奏されていたが、それが凄く戦闘シーンらしくて好きだった。
効果音に関しては、攻防戦シーンの銃声が素晴らしかった。まるで戦争映画を観ているような感覚といったら伝わるだろうか。自分があたかも攻防戦の地にいて、戦っているような気分にさせられる。自分のすぐ横を銃弾が飛び交っているんじゃないかと思ってしまうくらいの、ハイクオリティな銃声に驚いた。素晴らしかった。
歌・合唱も素晴らしかった。個人的に好きだったのは、「宿屋の主人の歌」の陽気さと、娼婦たちの合唱、そして一番好き歌はやはり「民衆の歌」といった所。
「民衆の歌」は何度も聞いたことがあったが、改めて生舞台のミュージカルで聞いてみると迫力が違うので鳥肌が立った。それによって、心も動かされるしワクワクさせられる。そこから一気に攻防戦のシーンに向かうので、その導入という意味でも凄く心のスイッチの入る楽曲だった。

その他の演出については、ロウソクや松明を本物を使用することで臨場感があったという点と、一番最初のシーンの囚人たちが登場するシーンや民衆たちが行進するシーンで、スモークの中から登場する演出が好きだった。
ジャン・バルジャンが客席に向かってジャベールを撃つはずだった銃弾を撃つシーンにはびっくりした。
細かい点だが、幼少コゼットが大きな竹箒を歌いながら引きずりながら登場するあの、竹箒の音が印象的だったり、ジャン・バルジャンが幼少コゼットを高らかに持ち上げるシーンがほっこりしたり、ガブローシュの死に際で、バリケード中央で銃に撃たれてそのまま倒れ込むシーンが印象的だったりと印象に残るシーンは上げても上げてもキリがない。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

プリンシパルキャスト、アンサンブルキャスト合わせて37人という大人数だったが、当たり前かも知れないけど皆歌が上手くて非常に惚れ惚れしながら観劇していた。
特に印象に残ったキャストのみ紹介していく。

まずは、ジャン・バルジャン役を演じた吉原光夫さん。吉原さんの演技はシス・カンパニーの公演である「23階の笑い」で初めて拝見したが、とてもやんちゃなコメディアンという印象で面白かったが、今作は元劇団四季俳優というバックグラウンドを活かした役柄として、全く別の側面が観られて大満足だった。
2階席だったので遠くからの観劇になってしまったが、それでもジャン・バルジャンという男としての落ち着きを凄く感じさせる演技だった。徐々に歳を重ねていってコゼットと接している姿なんかは、凄く落ち着きのある優しい紳士といった感じで、観ていて凄く安心させられるキャラクターだった。そして歌も凄く上手い。素晴らしかった。

次にジャベール役を演じた伊礼彼方さん。伊礼さんのジャベールはとにかく格好良いの一言に尽きる。法令遵守で完璧主義という役柄にこんなに惚れ惚れするのも稀な気がする。そんなキャラクターだけど凄く感情移入してしまう感覚が個人的にはある。それは脚本自体がジャベールという人物にもしっかりスポットを当てて作られているという点もあるのだが、伊礼さんがそういうキャラクター性を上手く作り出せているという点もあると思っている。
ジャベールに関しては、本当にもっと近くで演技を拝見したかったという印象。けど遠くからでも素晴らしさは十分伝わった。

次にファンティーヌ役を演じた知念里奈さん。私が観劇した回は知念さんの東京公演での千秋楽だったので、カーテンコールで舞台挨拶も聞くことが出来た。
序盤に登場するファンティーヌのソロパートがあるのだが(「夢やぶれて」という楽曲)、その時の歌声で私は胸を鷲掴みにされた感じだった。
そして、女工たちにいじめられた末に工場を追い出され、街に出ても娼婦たちや悪い男たちに翻弄されるシーンがとても心を締め付けられた。俗になればなるほど金こそが全てみたいな思想に、腹正しさを感じたが、そこでジャン・バルジャンが駆けつけるからこその救いというものを感じられた。

エポニーヌ役の屋比久知奈さんも凄く良かった。エポニーヌという役柄自体が凄く好きなのだが、彼女は歌声がとても素敵だった。また、マリウスの腕の中での最期も儚くて悲しいが素敵だった。

テナルディエ役の橋本じゅんさんは、地下水道のシーンでソロパートがあることに驚いた。そして、想像以上に歌が上手かったことにも驚いた。

個人的に押したいのが、ガブローシュ役を演じた井伊巧さんの存在感である。幼いけど人一倍役に立つことをすんぞ的な見栄っ張りな意気込みがとても好き。だからこそ、攻防戦で銃に撃たれてしまうシーンは辛く感じてしまう。ああやって意気込んでいる役柄は本当に良いと思う。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今回始めて東宝ミュージカル版の「レ・ミゼラブル」を観劇したのだが、キャストたちの歌声と舞台美術の迫力と何から何まで感動しっぱなしの3時間だった。
ここでは、初めて生舞台で「レ・ミゼラブル」を観劇した感想をつらつらと書いていくのだが、個人的に驚かされたのは舞台美術の迫力と演出の仕方。特にバリケードのセットがここまで大きなセットだと思わなくてそのサイズに驚いたというのと、銃声だったり戦闘シーンの迫力が凄まじかったことは、「世界観・演出」パートで書いた通りである。
生演奏というのが良くて、こんなにも臨場感を追及した作品に仕上がっているとは思わなかった。客席に座っているが、自分もその攻防戦に参加しているような感覚。戦争映画の体験と近い印象だった。舞台作品を観劇してこんな感覚を覚えるのは初めてのことだった。それだけ、舞台美術にこだわった仕上がりになっているということだろう。
馬車の演出も舞台装置の大きさに驚いたし迫力があった。これを前方の1階席で観劇できたら圧倒されていただろう。

物語自体場面も多岐に渡るので、それぞれのシーンをどう表現するのかと楽しみにしていたが、表現の仕方がとても上手いと感じた。
映像を駆使していたが、そして舞台作品で映像を使うのは非常に難しくて生である良さを崩しがちだったりするのだが、今作で使われている映像は非常に効果的で素晴らしくて、勿論生舞台の良さを崩してはいなかったのだが、それに加えて舞台の奥行きを感じさせる演出にしていたのは本当に素晴らしかった。これはむしろ映像がなかったら成し遂げられない演出だろう。

キャストという観点でいくと、子役が本当に素晴らしいなと感じた。幼少コゼット、幼少エポニーヌ、ガブローシュがそれに当たると思うのだが、たしか子役は昨年の秋くらいに東宝が一般募集をしていた記憶がある。そこから何人の中から選ばれたのか分からないが、選ばれて小学校低・中学年くらいでここまで大舞台で演じられてしまう素晴らしさ。心を動かされた。

それと、今作は5月下旬から東京で公演がスタートして、7月下旬に東京で千秋楽を迎えるが、そこから福岡、大阪、長野と10月初旬までロングランで上演される。そんな長いスパンで役者として舞台に立つということが凄いことだと思う。ましてやコロナ禍というのもあるので、常に体調管理を意識しながら本番に望む姿勢にも尊敬する。

改めてストーリーも追ってみたが、これだけ多くの人に愛され上演され続ける理由が分かった気がする。この作品で描かれるテーマは自由を求める思想や、貧富の格差による不平等って普遍的で多くの人の心に刺さると思う。
そんな作品をこの目でしっかりと観劇出来た嬉しさがあるが、また数年後劇場で改めてこの作品を観てみたいとも思った。次は1階席で観てみたい。そして海外版のレミゼもいつか観てみたいと思った。


↓吉原光夫さん過去出演作品


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