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舞台 「ワレワレのモロモロ2022」 観劇レビュー 2022/07/09

【写真引用元】
劇団ハイバイ Twitterアカウント
https://twitter.com/hibye_net/status/1543037253421010944/photo/1


公演タイトル:「ワレワレのモロモロ2022」
劇場:シアタートラム
劇団・企画:ハイバイ
構成・演出・脚色:岩井秀人
出演:秋草瑠衣子、板垣雄亮、岡部ひろき、岡本昌也、川面千晶、後藤剛範、松本梨花、まりあ
公演期間:7/7〜7/10(東京)
上演時間:約140分
作品キーワード:オムニバス、ヒューマンドラマ、笑える
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


岩井秀人さんが主宰する劇団「ハイバイ」の公演を初観劇。
今作は、劇団「さいたまゴールド・シアター」というシニア劇団やフランスの劇場でもリメイクされ上演された、ハイバイの代表作である「ワレワレのモロモロ」の新作を上演。

「ワレワレのモロモロ」とは、「参加者が自らの体験を台本にし、自ら出演する」企画。
出演する役者が実際に遭遇した「ヒデーめに遭ったこと」を上演する。
今作では、ダンサー兼女優のまりあさん、京都の劇団「安住の地」を主宰する岡本昌也さん、若手男性俳優の岡部ひろきさん、ハイバイ所属の女優・川面千晶さん、元宝塚歌劇団所属の女優・秋草瑠衣子さんが自らの体験を元に「ヒデーめに遭ったこと」を上演した。

5人の体験談が上演されるので、短編集の演劇バージョンといった感じで上演時間2時間20分の中でストーリーを5つ観た感覚。
序盤のまりあさんのエピソードと岡本さんのエピソードは個人的にはそこまでグッとくることはなかったのだが、岡部さんのエピソードから一気に引き込まれた。
岡部さんの『自己紹介岡部』という演目は、岡部さんがどうして俳優を目指そうと思ったのかについて、家族事情を絡めながら物語が進んでいくのだが、夫婦の仲のいざこざに呆れるも、父の演劇を観て俳優を目指そうと向かっていく姿に、自分と重なる部分もあって(別に俳優を目指したいと思った訳ではないが)心動かされた。

さらにそこから続く、川面さんの『川面の出産』というエピソードが強烈で終始笑った。
川面さんが実際に2019年に娘さんを出産した時のエピソードがそのまま上演されるのだが、陣痛の苦しさ、夫のデリカシーのなさに対する怒り、帝王切開がかなりコメディ風に且つリアルに描かれていてとても面白かった。

最後の秋草さんの新宿2丁目の女装カフェで出会った、女装がしたい男性との恋を描く『新宿マスカレードカフェ』は、まさにラストを締めくくるようなロマンスに満ち溢れた素敵なエピソードだった。
そして何より秋草さんが非常に格好良かった。流石元宝塚といった演技ぶりで好きだった。

あまり見慣れない形式の公演だったけれど、自分が今置かれている立場によって、他人事のように笑えたり、自分にも似た経験があると考えさせられたり、もしくは出産時のエピソードなんかは勉強にもなってとても充実した時間が過ごせた。
どんな人が観ても楽しめるように創られた趣向の凝らされた舞台演劇だった。多くの人にオススメしたい。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483947/1851591



【鑑賞動機】

劇団「ハイバイ」はよく名前を耳にする有名劇団だが、観劇したことがなくていつか観劇したいと思っていたから。2020年4〜5月に「ヒッキー・カンクーントルネード」と同時上演されるはずの公演を予約していたが、緊急事態宣言の発令によって延期となったため観る機会を失った。
今回はたまたまタイミングもあって観劇出来そうだったので観劇することにした。また、私が俳優として好きな川面千晶さんやオーストラ・マコンドー所属の後藤剛範さんも出演されていた点も興味を惹かれた一因。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

今作では、東京公演のみ特別上演された武田立さん作出演の『ザ・シャワー』を含め、6作の出演する役者が実際に遭遇した「ヒデーめに遭ったこと」が上演された。上演された順にタイトルと共に記載していく。

『ザ・シャワー』(作・武田立)
武田は鼻歌を歌いながらシャワーを浴びている。そしてカミソリで毛を剃り始める。しかし乳首を剃った際に乳首から出血してしまう。騒ぎ出す武田は母親に助けを求めるが誰もやってこない。そして血を流して倒れる演技をするがそれでも誰も助けに来ない。
武田は風呂場で糞をする。糞をシャワーでお湯をかけながら溶かしていく。すると何やらノズルが出てくる。シャンプー?リンス?に付いていたノズルのようだった。
もう一度武田は風呂場で糞をする。そしてその糞にシャワーでお湯をかけながら移動させながら退出する。

『デート注意報』(作・まりあ)
まりあ(まりあ)が制服を着て登場する。自己紹介を始め、彼女は長野県の小布施町という田舎で育って地元の中学校に進学したことを話す。しかしそんな田舎では今までハーフなんて出会ったことがなかったが、中学に入学した際に同じクラスにハーフの男の子と出会い恋をする。その後彼女は2回のデートをしたのだと言うが、そのデートについて話していくという。
そのハーフの男(岡部ひろき)は、いつも「ウィス」と言って調子の良い感じの男の子だった。まりあは彼からデートの誘いが来て大喜びする。そしてそのことを父親(板垣雄亮)にも話すが、自分の筋肉のことしか頭にないようで話を聞いていなかった。
しかしそのハーフの男はまりあに意味不明な要望を突きつける。それは、デート中に公園で4リットルの水を飲んでくれとのことだった。まりあは首をかしげる。そして友達(松本梨花)に相談すると、そいつはヤバい奴なんじゃないかと言われる。しかしまりあは彼のことが好きだったのでデートで水を4リットル飲むことを決意する。
デート直前、さらに訳の分からない要望がそのハーフの男からやってくる。それは、黒色以外のタートルネックを来てやってこいとのことだった。まりあはピンク色のタートルネックを着てハーフの男の前に現れる。そして、ハーフの男にペットボトルで水を飲まされる。まりあは息苦しそうになってgive upする。
まりあはその後、ハーフの男とのデートはしないことに決めたが、ピンク色のタートルネックだけは寒い冬の日に着ていた。友達には「よくタートルネック着ていられるね。私だったらトラウマになって一生タートルネック着ないでマフラーで過ごすわ」と言われる。それからというもの、まりあはタートルネックを着ることを辞めてしまう。

次に2回目のデートの話。
同じクラスに「ピ、ピ、ピ」という細長い男(岡本昌也)がいて、その男からまりあはデートに誘われた。しかしその男からもドン引きされるようなことをされて、デート恐怖症になってしまった。
その後細長い男は、ハーフの男と付き合って同性愛者になったそう。まりあはその後10年近く男性とデートしていない。

『目を合わせるのは優しい頃を踊りたいだけだよ』(作・岡本昌也)
岡本昌也(岡本昌也)が私服に着替えて登場する。彼は大学時代に付き合っていた女性(まりあ)の話を始める。
付き合っていた女性はいつも手首に傷を付けていた。岡本は彼女のそういった不安定な部分を上手くフォローしながらセックスしていたつもりだった。彼女もそういった精神不安定な部分をセックスで解消しているだろうと思っていた岡本だが、彼も自身が抱える悩みやトラウマをセックスで解消させていた。
岡本が抱える悩み、トラウマというのは自身の家族事情だった。岡本の家族は父親(後藤剛範)が母親(川面千晶)と自分に家庭内暴力を奮っていた。それが今でもトラウマになっていて、それを思い出して彼女に話し、その過去を慰めてくれる彼女の優しさをダシにセックスに持っていっていた。というかセックスへの導線はそれしかなかった。
岡本は、彼女の精神的に不安定な部分を慰め、彼女が自分の家庭内暴力のトラウマを慰めるこの独自のセックス導線を気に入っていて崩れることはないと思っていた。

しかし、彼女は突然岡本を振り別れることになる。岡本はなぜそうなったのか意味が分からなかった。後で分かった話、彼女がリストカットをするようになったのは岡本と付き合い始めてからであったそう。彼女は岡本の家庭事情の話を聞くことがストレスになっていて、それを断ち切りたくて別れたようだった。
岡本は、岡本の父親のことを団塊世代と嘲り、団塊世代が生きる時代は終わったと罵った。そして大喧嘩になる。彼女は歌を歌いながら岡本に「さようなら」を告げる。

『自己紹介岡部』(作・岡部ひろき)
岡部ひろき(岡部ひろき)が登場する。彼は自己紹介をして、彼の実家が神奈川県川崎市にあることを告げ、そこで暮らしている両親のことについて語り始める。
岡部が小学生の時の話。父親(板垣雄亮)は舞台俳優をやっており、母親(秋草瑠衣子)も仕事をしていて共働きだったが、父親は他に好きな女性がいて最近は好きな女性の方に寝泊まりに行ってしまったりと、家を留守にすることが多かった。
それが原因で母親は病んでしまい寝込む毎日だった。小学生だった当時の岡部は母親を慰めようと「ビリーブ」を歌う。すると母親は次第に元気になって仕事に復活するようになった。

しばらく父親は家を留守にする状態が続いており、岡部も中学生になった。しかし、岡部が知らないところで最近は父親と母親がまた再び仲良くなり始めていた。岡部が学校から帰ってくると、父親と母親が2人でテレビを観ながらイチャイチャしていた。
理由を聞いてみると、東日本大震災で連絡を取り合ったことがきっかけで、父親と母親は再び仲良くなっていき、久々に父親と母親が会って会話をした中で打ち解け合うようになったという。最近は父親はかなりの頻度で家にいることが多くなり、その後完全に戻ってきた。
この様子をみて、岡部は父親に対してブチ切れる。自分の好き勝手な感情で家族をそっちのけにして好きな女性のところへ行って、そしてまた家に戻ってきたりとフラフラしてふざけるなと。
しばらくした後、父親は上半身裸になりながら、岡部に映画「タクシー・ドライバー」を勧めてくる。ロバート・デ・ニーロがいかに格好良い俳優かを語りながら勧めてきた。

岡部は中学卒業後、土木系の高校に進んだ。しかし、岡部は土木系の勉強や実習が自分には合っていないと気付き、そのままその道へ就職することに悩んでいた。
そんな時に岡部は父親が出演する舞台を観に行った。それまで演劇というものに興味はなかったが、そこで初めて父親の演技を観て衝撃を受け興味を持った。父親の役がベンチに腰掛けていた女性(松本梨花)に話しかけるシーンで、父親は岡部が思わず発した声に敏感に反応していた。岡部は終演後、どのくらいの期間で稽古するのかとか色々演劇のことについて父親に尋ねる。
そして岡部は俳優を目指すことになる。父親と台本稽古をする。ちょっと台詞の言い方が早いとか遅いとか厳しく注文をつけられる。そんな経緯を経て、岡部は今舞台俳優として劇場に立っているのであった。

『川面の出産』(作・川面千晶)
川面千晶(川面千晶)が登場する。川面はヨーロッパ企画の諏訪雅さんと結婚していた。
川面はトイレで妊娠検査薬を確認して妊娠していることがわかり、すぐに夫(後藤剛範)に妊娠したことを報告して抱き締めあった。
徐々に川面のお腹は大きくなっていく。そしてそろそろ産婦人科で入院となる日も近づいてきたので、出産する部屋を決めようと言う。部屋は選べる形式でそれなりに綺麗で広くて機能も充実している部屋は1泊云十万円かかって費用的な負担が大きかった。逆に格安の部屋もあるが綺麗でなくて設備も良くなかった。そんな出産する部屋に関してもこうやって金額に差があるのかと落胆する川面。結果的に、今後出産してから育児でもお金がかかることを考えて一番安い部屋にした。
いよいよ陣痛が始まってきた。機械を装着してベッドに横になる川面。川面はあまりの陣痛の痛さに発狂し始める。「大丈夫?大丈夫?」と必死で慰める夫。
陣痛でしばらく普通の食事が出来ない川面だったが、その横で夫は肉料理を食べ始める。川面は激怒する。自分は陣痛も激しくて美味しいものが食べたくてもありつけない状況なのに、なんで目の前で肉を食べ始めるのだと。
川面も何か食事をと看護師(松本梨花)が食事を用意して食べさせてくれるが戻してしまう。その後、夫がヨーグルトのようなものをスプーンで川面に食べさせてくれて、そのままキスをしたりと仲睦まじい様子になる。

川面はいきなり帝王切開と言われ部屋に案内される。若手の産婦人科医(岡部ひろき)が手術着で登場する。川面は帝王切開という言葉をいきなり聞いて、そしていきなり実施されることに恐怖し泣き始める。
そこへ若手の産婦人科医の父親(板垣雄亮)が杖を付きながらやってくる。息子が帝王切開をすると聞いて様子を見に来たらしい。しかしその父親は妊婦に対してデリカシーのない言葉しかかけてこない。
帝王切開が始まり、川面は下半身に麻酔がかけられ、痛みなど全て感じなくなった状態で出産が始まる、そのことを夫が解説する。そして無事、元気な女の子が産まれる。産婦人科医の父親は「汚ねえから洗ってきー」と言う。
赤子(後藤剛範)は元気に育ち、母親である川面にいないいないばあをされて喜んでいた。

『新宿マスカレードカフェ』(作・秋草瑠衣子)
秋草瑠衣子(秋草瑠衣子)が登場する。彼女は自己紹介を始める。生まれは目黒区と品川区の間の良い感じのところなのだが、小さい頃に兵庫県の宝塚市に引っ越して24歳までそちらに住んでいた。その時、宝塚歌劇団に入団してタカラジェンヌとして男役として活躍していた。その後は宝塚歌劇団を退団して、再び目黒区と品川区の間の良い感じのところに住み始めた。その時、新宿2丁目の「新宿マスカレードカフェ」で働き始めた時の話である。

秋草は「新宿マスカレードカフェ」に入り、そこで宝塚歌劇団出身の強みを生かして男役として人気を得ていた。「新宿マスカレードカフェ」で働く女装店員2人(板垣雄亮、後藤剛範)も秋草のパフォーマンスを高く買っていて気に入られていた。
そこへ下を向いたか細い男(岡本昌也)がやってきた。女装店員は何しに来たの?と厳しい目線で彼を見ると、彼は女装して働きたいですと申し出る。女装店員2人は、最初はその自信なさそうな男を見下している感じがあったが、男がいざ女装をしてみると非常に美貌だったため誰もが彼を褒め称えた。そして一躍「新宿マスカレードカフェ」では人気になった。
ある日男は「2001年宇宙の旅」という映画が好きであることを告げる。秋草はその映画を観たことがなかった。男はあの有名な映画を観たことがないのかとドン引きする。

ある夜、その人気になった女装男は新宿2丁目の路地でオヤジにキスされてしまう。男は非常に心を傷つけられてしまう。初めてのキスをオヤジに奪われてしまったと。そんなナイーブな気持ちになった女装男を秋草は慰める。
そしてそこから2人の心は打ち解けあっていき、ガラスに囲まれたホテルの部屋へと向かう。そしてそのガラスに囲まれた空間でキスをする。それが2人の恋の始まりだった。
そこから秋草と男は1年ほど付き合うことになる。別れた原因は男の進路だった。男は大学生で家庭環境も厳しかった。大学まではお小遣いを出してもらえるが、それ以降は自分で稼ぐように厳しく言われていた。ずっと親のスネをかじりながら演劇を続けていられる秋草とは住んでいる世界が違うのだなと思った。そして別れることになった。

そこから10年ほど月日が経った。「新宿マスカレードカフェ」も閉店することになっていた。秋草は違う彼氏(岡部ひろき)と付き合っており、今度映画「2001年宇宙の旅」を映画館で観に行くことになっていた。以前あの女装男に言われて知った映画。
映画館へ向かうと偶然あの女装男が同じ映画館にいるのを発見する。秋草は最初は話しかけられたくなくて隠れていたが、彼氏には話しかけてきなよと言われる。そして実は女装男も映画「2001年宇宙の旅」を一人で観に来ていて偶然席が隣だった。まさかこんなところで再会するとはと声をかける。どうやら女装男は、既に結婚しているとのことだった。
映画が始まる。ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」が流れる。映画に没入する3人。ここで物語は終了。

個人的には岡部ひろきさんの『自己紹介岡部』からの没入感が凄かった。岡部さんのあの家庭状況はなんとなく自分の家庭状況とも重なる部分があったからだと思う。そして自分は演者ではないが、演劇を観て衝撃を受けて興味を持つというステップは似ているので、岡部さんには非常に親近感を抱きながら観劇していた。非常に岡部さんの生い立ちがよく分かって共感出来て好きだった。
そしてそこからの『川面の出産』で大爆笑だった。川面さん自身が体験した出産経験だから、川面さん自身があそこまで役に入り込めるのも納得出来るし、「産後の恨みは一生」という言葉ではないけれど、あの時の恨みをぶっ放ってやるくらいの勢いだったのが非常に面白かった。登場人物の設定も非常にリアルだったのでよく練られた作品だと思った。
最後の秋草瑠衣子さんの『新宿マスカレードカフェ』は、「ヒデーめに遭ったこと」というよりは非常にロマンチックな物語で、本当にこれ実話なの?と思ってしまった。全然違うけれど映画「ラ・ラ・ランド」のようなラブロマンスと結局は結ばれることはないけれど素敵な再会と。非常にラストを飾るに相応しい感動もので面白かった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483947/1851589


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

抽象度の高い舞台装置が並んでいて、それらを上手く使って全ての物語が上演されていてとてもユニークだった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番でみていく。

まずは舞台装置から。
常時置かれていたものは、上手側と下手側に大きな立方体の枠がそれぞれ一つずつ。その立方体は枠を左右にずらすことが出来て、さらに四角形の枠として取り外すことが出来る。そのような装置を使って、岡本さんのエピソードの家庭内暴力の過去をその立方体内で描いたり、特にラストシーンでは映画「2001年宇宙の旅」のあの宇宙船に乗っているシーンをその立方体を使って再現する演出が個人的には好きだった。
あとは舞台中央背後にあった大きな脚立も印象的だった。たしか使われていたのは、岡本さんのエピソードで、彼女のまりあさんが岡本さんに別れを告げる歌をマイクを使って歌っていたシーンでまりあさんが登っていた。凄く印象に残っていて好きだった。
それと舞台上にあちらこちらに散らばっている大小の石を象った舞台道具。それをまるで赤子に見立てたり、心理的描写として悲劇が起きたときに崩れさせたり、虐待対象にしたりと多種多様な使われ方をしていてユニークだった。なんで石なんだろうと思うが、ハイバイではよく劇中に石が登場すると聞いたことがある気がした。
あとは椅子も複数舞台上にあった。特に印象に残るのは、岡本さんのエピソードで、セックスに至るまでの独自の導線を様々な要因の重ね合わせのように表現していて、それを椅子を積み上げる形で表現していたのが記憶に残った。
舞台下手天井部分から舞台中央床にめがけて大きな黄土色の絨毯のようなものが垂れ下がっていて、『自己紹介岡部』で秋草瑠衣子さんが演じた母親が体調を崩してしまった時に、その絨毯を掛け布団にして眠っていたのが大胆な表現方法で記憶に残った。
あとは『川面の出産』で登場した、陣痛時に装着する機械とベッドだろうか。非常におもちゃっぽい感じが逆にコメディ要素を強くしている感じがして好きだった。

次に舞台照明。
ド派手に変わるのは、岡本さんのエピソードでまりあさんが歌い上げるシーンのカラオケっぽくミラーボールの斑点照明が舞台上全体を動く照明と、秋草さんのエピソードでタカラジェンヌが女装店員たちと踊るシーンで、やはりミラーボールのように斑点の照明が舞台上を動く照明演出。よくある演出だけれど好きだった。
個人的に一番好きだったのは、一番最後の映画「2001年宇宙の旅」を3人で鑑賞するシーンのあの宇宙を想起させる照明。上手く説明出来ないけれど、とてもエレガントで洗練されて綺麗な舞台照明だった。
あとは、『川面の出産』で色々な出産部屋を紹介されるシーンがあって、そこの一番宿泊費が高い部屋のアロマっぷりを表現する照明も、花柄とか背後に映っていて好きだった。

次に舞台音響。
個人的には、映画「2001年宇宙の旅」を鑑賞している時に流れるヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」が本当に心動かされて好きだった。実際に映画でもこのクラシック音楽は使用されていたと記憶している。「2001年宇宙の旅」といったらクラシック音楽というイメージもあるので、映画の醍醐味を彼らは堪能しているんだなと感じさせてくれる良い演出だった。
あとは、岡本さんのエピソードでまりあさんが熱唱している曲も凄く良かったのだが、何という曲なのか分からなかった。ああいうダサいJ-POP音楽っていいよなと思う。

その他演出については、演出的に面白かった点を取り上げていく。
『自己紹介岡部』での、岡部さんと父親の交流が非常に良かった。例えば、映画「タクシードライバー」のDVD?Blue-ray?を息子に貸そうとするシーン。中学生に「タクシードライバー」を勧めるあたりが舞台俳優だなと思うし、中学生にそれを見せるのか!と映画の内容を知っているからこそびっくりした。また、岡部のリアクションで舞台上の父親がリアクションをするのが面白かった。
『川面の出産』では、看護士さんなど川面さんの周囲に登場する人物が皆コメディ作品に登場する妙にポジティブでぶっ飛んだキャラが多かった印象なので、そのキャラ作りが非常に面白かった。
秋草さんのエピソードでは、鏡が沢山あるホテルの一室でキスをするシーンがなんともロマンチックだった。立方体を鏡のように使って、役者がそれぞれ男女でペアになって登場して、立方体の中でキスを一斉にすることで、鏡の中の彼らを表現していて素晴らしかった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483947/1851592


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

川面千晶さんや後藤剛範さんのような以前から知っていて素晴らしかった役者もいれば、今作ではじめましての素晴らしい役者もいて、それぞれ違った俳優の良さを持ち合わせて一つの作品が出来上がっている印象を強く受けた。
特にピックアップしたい役者に絞って紹介していく。

まずは、『デート注意報』で主役を演じたまりあさん。まりあさんは以前から存じ上げなかった女優さんであり、演技拝見も初めて。
非常に声が広瀬すずさんに似ていると感じた。外見は全く広瀬さんには似ておらず、ハーフという印象を強く感じさせるのだが。初めてのデートの約束にワクワクを募らせる女子中学生っぽさは凄くときめいていて好きだった。凄く輝かしくて、こんな演技はピュアな女優さんにしか出来そうにないからはまり役だなと思いながら観ていた。
かといって、ピュアな女子中学生だけで役が終わらなかった点が、彼女の演技の幅を感じさせられた。岡本さんのエピソードではちょっと色気のある大人の女性、そして秋草さんのエピソードでクラブで派手に踊るまりあさんも凄く魅力的、また学生とは違った良さを観られた。

次に、『目を合わせるのは優しい頃を踊りたいだけだよ』で主役を演じた岡本昌也さん。彼は京都の劇団「安住の地」の主宰。
非常に細長くて凄く女々しくて、登場シーンが「ピ、ピ、ピ」とか言っている変は役だったので、個人的には気持ち悪く感じてしまって好きになれなかった。けれど、あそこまで化けの皮をとって演技が出来る役者っていうのは素晴らしいなと感じた。
そして個人的に一番好きだったのが、秋草さんのエピソードで、ラストの映画「2001年宇宙の旅」を観に来ていた時の大人びた感じ。既婚者という感じがして落ち着きがあって、個人的にはそういった役の方が好印象に感じた。

そして男性俳優で個人的MVPだったのが、『自己紹介岡部』の主役を務めた岡部ひろきさん。岡部さんは、2022年1月に上演された玉田企画の「夏の砂の上」で一度演技を拝見している。
岡部さんは菅田将暉さんを幼くしたような感じの俳優さんだなと思った。今作では非常におとなしい真面目な坊やといった印象が強かったが、今後はもっとやんちゃな役も期待したいなと思う。
岡部さんが演じた岡部さん自身は、非常に自分の境遇や体験、価値観とも共通する部分があったため、結構感情移入出来たし凄く好感の持てるキャラクター設定だったなと思う。演劇を観て衝撃を受けて、今まで興味のなかったものに矛先を向ける感じはわかるし、それによって父親へ興味を示し始めるってなかなか良い親子関係の再生と成長ではないか。好きだった。

女優で個人的MVPだったのは、『川面の出産』の主役を務めた劇団「ハイバイ」所属の川面千晶さん。川面さんの演技は、月刊「根本宗子」の「今、出来る、精一杯。」、蓬莱竜太さん作演出の「広島ジャンゴ2022」と3度目になる。
もう彼女の演技は天才だった。自分の出産の体験に基づいたストーリーということで、本当にヒデー目に遭ったんだなと凄く痛感したのだが、彼女のあの役に対する熱量と気持ちの入り方が凄まじかった。そしてめちゃくちゃ面白いので観客も笑いが絶えなかった。ここでこみ上げてきた笑いというのは、大真面目に必死にやっているからこそ笑いたくなってしまう感じ。これはずるかった。
「産後の恨みは一生」というがまさにそれ。夫に対する怒り、産婦人科に対する怒り、全てが共感出来るし必死だからこそ笑ってしまう。本当にあの内容であの空気感は彼女にしか作れないと思った。

『新宿マスカレードカフェ』の主役を務めた元宝塚歌劇団所属で、女優だけでなく演出家としても活躍する秋草瑠衣子さんも非常に魅力的な女優さんだった。
演技自体は初めて拝見するが、あの元タカラジェンヌだと一発で分かる格好良さ、勇ましさは十分に堪能できた。ストーリーも非常に心動かされるシーンが多くて好きだった、特に女装男とは家庭状況の違いを感じて別れてしまうのはなんだか切ない、でもどうしようもない。魅力的に観える女優だからこそ心動かされやすくなっていると思う。
欲をいえば、もっと女性っぽく甘えるシーンとかあっても良かったかなと思う。そうするとタカラジェンヌとのギャップもあって、僕はハートを撃ち抜かれていたかもしれない。
『自己紹介岡部』で母親役をやっていた時も、気品のある母親で非常に魅力的に感じた。

その他は、後藤剛範さんは何度も演技を拝見しているが、特に川面さん赤子役がヤバすぎて笑った、あの表情は反則だった。板垣雄亮さんは、一番印象に残ったのが岡部さんに演技指導する厳しい舞台俳優としての演技の時。ダメ出しがブレブレだったのは非常に面白かった。松本梨花さんは制服を着ていると伊藤万理華さんに似ているなと思った。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483947/1851588


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作は前述した通り、出演する役者が実際に遭遇した「ヒデーめに遭ったこと」を上演する形式の公演だったが、自分の置かれた立場によって全く各々のエピソードに対して抱かれる感情は異なるのだろうなと思いながら観劇していた。
ここからは5つの演目に対して、自分が感じた感想とどんな人だとどう感じうるのかを想像で書きながら考察していこうと思う。

『デート注意報』について
私は女性でもないし、中学時代に恋愛とかしなかったので、非常に客観的に舞台を観劇していたし、あまり心に響かなかった。きっと自分の人生にとっては通過しなかった「ヒデーめ」の要素だからだろう。
きっと学生時代にトラウマになるような恋愛経験をした方なら今作はホラーに感じたに違いない。逆に学生時代に恋愛に対して甘い思い出がある女性ってどうなのだろうか。恋愛は学生時代に上手く行っていても、その後別れてしまったりはあるもの。学生時代からの付き合いで結婚までいくカップルはごくわずかだと思う。となると、どこかで男性不信まではいかないけれどネガティブな感情を抱くことは女性ならあるだろう。そういった場合に、ひどい男性に対する憎悪という感情を今作から呼び覚ましてしまうんじゃないかという気がする。

『目を合わせるのは優しい頃を踊りたいだけだよ』について
これはどちらかというと、男性側での恋愛事情での「ヒデー目」に対応すると思うが、私はあまり岡本さんのように感じながら交際したことがないので冷静に観られた。
自分の背負っていることを打ち明けることによって、それをセックスで浄化するという発想すらしたことなかった。というかもしそんな気持ちでセックスしていたのならば、ちょっと女性をモノ扱いし過ぎなんじゃないかと思う。
ただ一点だけなるほどと思ったことが、自分が彼女のためだとやっていたことが実はそうなっていないことがあるというのは注意かもしれない。

『自己紹介岡部』について
このエピソードに関しては、個人的には非常に共感する箇所が多く、なんなら自分の父親も家をしばらく留守にしたり戻ってきたりしていたので、岡部の父親に対する怒りがよく分かってくる。
また演劇を観て衝撃を受けて興味を持ったというのも自分の境遇と似ていて、とはいっても自分は役者にはならなかったが、その魅力への引き込まれ方は似ていた気がする。だから岡部さんのエピソードは一番好きだったし、ここから私はだいぶ没入出来た気がしている。
家族絡みの話なので、結構共感を得る人は多いのではないかと思うが、これを役者の方が観たらどう思うだろうか。特にこのエピソードの終盤での、父親と台本稽古をするシーンは役者にとっては誰もが経験する体験だと思うし、上手く演技出来なかった自分を思い出したりなんかして考えさせられるのかななんて思う。

『川面の出産』について
私自身は女性でもないし、子供がいる訳でもないが非常に楽しむことが出来た。というのは、もちろん川面さんの演技が破壊的面白さだったというのもあるかもしれない。しかし私は今作の脚本にも非常に惹かれた。
一般的に女性が妊婦になった時に抱きそうな悩みが盛り込まれていて、描写もかなりリアルに再現されている点だと思う。自分はまだこれから子供を授かる身なので、女性ってこういう所で恨みを持つのかと色々と勉強になったので個人的には有り難かったからかもしれない。
私は終始大笑いしながら観劇していたが、これは一歩間違えるとホラーだなとも感じられる。きっと出産を経験した女性だったら色々自分が感じた産後の恨みを思い出して笑えなくなる気がする。そういった意味で、立場と経験によって極論コメディにもホラーにもなりえるこの脚本は凄いのである。おそらくそこまで織り込み済みで制作されている気がする。

『新宿マスカレードホテル』について
私はラブロマンスとしてエンターテイメントとして十分楽しむことが出来た。きっとこのラブロマンス要素は多くの方が感じて楽しんだのではないかと思う。
一方で、叶わぬ恋をした経験のある方、大きな失恋を経験したことある方なら涙なしには観られないんじゃないか。映画「ラ・ラ・ランド」などが好きな方には刺さるんじゃないかと思った。
あとは女装、ゲイといった性を超えた描写も出てくるので、そういった方たちもこの作品に対して受け取り方が異なってくるかもしれない。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483947/1851590



↓岡部ひろきさん過去出演舞台


↓川面千晶さん過去出演舞台


↓後藤剛範さん過去出演舞台


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