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2020/07/24 フルリモート演劇「むこうのくに」鑑賞レビュー

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公演タイトル:「むこうのくに」
劇団:劇団ノーミーツ
劇場:フルリモート
作・演出:小御門優一郎(劇団ノーミーツ)
出演:竹田光稀、尾崎由香、イトウハルヒ、オツハタ、めがね、鍛治本大樹、河内美里、淺場万矢(柿喰う客)他
公演期間:7/23〜7/26
個人評価:★★★★★★★☆☆☆


オーディションから本番まで、一度も会わずに全てオンラインで完結させる劇団ノーミーツの第2回本公演。第1回本公演の「門外不出モラトリアム」が良かったので、そこからどう進化しているか楽しみにしながら鑑賞。
「ヘルベチカ」というオンライン上のユートピアで起きる近未来的友情物語。まず、世界観がとても作り込まれていて、まるで以前Eテレでやっていた「天才ビットくん」を彷彿させるようなバーチャルな社会と個性豊かなアバターたちによって、自分もその世界の一員のような気がしてとても引き込まれた。
ただこれは果たして演劇なのかというと違うと思っている。これはリモート作品という新たなジャンルとして、今後アフターコロナの世界でも確立していくのだろう。

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【鑑賞動機】

劇団ノーミーツの第1回本公演「門外不出モラトリアム」は、全て画面上で演劇を完結させる全く新しい作品として注目を集め面白かったので、その劇団が企画する2回目の本公演ということで期待値高めで鑑賞。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

現実世界に友達が1人も居なかった青年・マナブ(竹田光稀)は、自ら「トモダチ」をAIで作り「レイン」と名付けた。レインとチャットで会話するマナブだったが、「レイン以外にももっと沢山トモダチがいたら幸せ」みたいなことをマナブが呟くと、レインはマナブの元を離れてしまった。

「ヘルベチカ」そこはオンライン上に存在する仮想コミュニティでユーザー数は1億人を突破。そのユーザー数の多さから近頃は、「仮想人権法案」といって「ヘルベチカ」で暮らすパペット(アバターのこと)にも現実世界と同様の人権を与えてあげようという動きすらあった。しかしそれは、「ヘルベチカ」に暮らすAIにも人権を与えてしまうことも意味し意見が分かれていた。
この「ヘルベチカ」にマナブも身を置いており、AIの友達を募集していた。
またこの「ヘルベチカ」はリイン・カーネーション(安藤聡海)が支配しており、一週間後に「仮想人権法案」を巡る選挙を行うという。

しかし「ヘルベチカ」にはリイン・カーネーションがAIなのではないかという噂が実しやかに囁かれていた。その事実を暴くべく「ヘルベチカ」の刑事(渡辺芳博)と新米の警察官・コトリ(イトウハルヒ)は、リインの経歴を追っているうちにマナブに辿り着き、彼を尋問する。しかし、マナブはリインを作り上げた覚えなんてないと答える。なんの成果も挙げられなかった刑事とコトリは、上司の議員(淺場万矢)と秘書(水石亜飛夢)に叱られる。

マナブの元にスズ(尾崎由香)という女性が現れる。マナブはスズの紹介で、ゲン(オツハタ)、ソウスケ(そら)、マミ(大山実音)、タイチ(出口晴臣)という友達ができ、次第にスズに惚れていく。

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「ヘルベチカ」の選挙の日、忽然とスズが姿を消した後怪しいアラート音が鳴り響く。今までフィルターをかけて素顔を隠していたバトラー(鍛冶本大樹)とピコ(河内美里)は、この「ヘルベチカ」の危機によってフィルターを剥がされ素顔が見えてしまう。
マナブはやっとスズを見つけるも、リインとスズの姿が重なって非常に姿が曇った状態であることを目撃する。

一方、国家機密を極秘で捜査していたコトリは、議員が影でAIを操って選挙で「仮想人権法案」可決の方向に舵を切っていたこと、AIをデリートしていたことを知る。議員と秘書を追い詰めることに成功した刑事とコトリだったが、「ヘルベチカ」崩壊を防ぐことは出来なかった。

「ヘルベチカ」が崩壊し引きこもっていたマナブ。ゲンたちから連絡があり、スズからのメッセージを見つけたので聞いて欲しいと言われる。そこには、スズからマナブへのメッセージがあり、スズがAIであったこと、「ヘルベチカ」崩壊後に存在するファイアウォールの奥にリインはまだ存在することを知る。
コトリに協力を仰いでファイアウォールを突破したマナブは、リインから「リインはマナブが開発したレインであること」「マナブを幸せにするためにヘルベチカを作り、マナブに沢山トモダチを作って欲しかった」ことを知る。そしてマナブにトモダチが出来て役割を果たしたと感じたリインは姿を消す。マナブは泣き叫ぶ。

「ヘルベチカ」に代わるオンラインコミュニティが作られ、今日も多くのユーザーがオンライン上に居場所を求めている。

第1回公演で題材としていた大学生・青春ものとは打って変わって、オンラインコミュニティとAIのお話。とても近未来的でSF好きには刺さる内容だったと思う。ストーリー構成は確かに在り来たりかもしれないが、これをフルリモートで実演するところが素晴らしい。
フィルターをかけて素顔を隠して生きているユーザーは沢山いるが、現実世界で素顔を出しながらも周りの空気を読んで自分を出せずにいるよりもよっぽど生きやすい。まさにSNSが発達した現代らしい現象である。きっと共感する観客は多かっただろう。
これこそオンライン世界のメリットであり、それを肯定してくれる今作品は特にネット民にとっては救いの言葉なのではないかと思った。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今回今作品を鑑賞して最も驚いたのは「ヘルベチカ」の世界観である。まるで「天才ビットくん」を思わせるバーチャルな仮想社会のデザインは凄く素敵だった。自分が本当に「ヘルベチカ」の住人になた気分でストーリーを楽しめるのも醍醐味の一つ。UI/UXデザイナーを雇ってそこもしっかりやっている点さすがだと思った。
宣伝美術も物凄くクオリティが高くて、第1回公演とは段違い。あのドットの感じがとても好きで近未来っぽさを醸し出している。

また演出でとても印象的だったのが、スズとリインが交互に映ってもやみたいなのがかかっていた映像演出。あれはとても面白かった。あれだけで引き込まれた。

そしてエンディングにYOASOBIの「ハルジオン」はびっくりした。YOASOBIとか今超売れっ子のアーティストで、その新曲をテーマソングに出来るってとても凄いことだと思う。まあコロナのご時世でテレビ局側も新曲を取り入れる機会がない且、劇団ノーミーツは今回かなり資金的に出資して獲得したのだろうか。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今回も魅力的なキャストさんが数多く見受けられた。

まずは主人公のマナブを演じた竹田光稀さん。イケメン俳優且つあの引っ込み思案な性格はとても似合っていた。いつも下を向いていて自信のなさそうな感じ、フィルターでなんとか顔を隠そうとする感じもキャラクターをよく反映していて魅力的だった。

次に、今回個人的に推したいのがコトリ役のイトウハルヒさん。高学歴で真面目で仕事熱心な彼女。髪の毛ボサボサになりながらも仕事にのめり込んでいる。そして楽観的な刑事に叱られるあの構図・バランスがとても好きだった。物語中盤の寝起きのシーンは色気半端なかったが、あれは狙っているのだろうか笑

もちろんスズ役の尾崎由香さんの演技も素晴らしかった。マナブとの掛け合いは見ていてとてもホッコリする。とてもAIとは思えないくらいの愛情溢れる接し方が堪らない。個人的に好きだったのが、「洋服を選んで欲しい」のくだり。スズはもういないと悟ってからのシーンはマナブと一緒に泣ける。

ゲン役のオツハタさんは相変わらずキャラが濃くて良かった。キャラが濃いというよりもソース顔過ぎて顔面がとてもインパクトあるってことだな(失礼)。個人的にはもっと出番があって欲しかったと感じたが、マナブにスズからのメッセージを送る重要な役のシーンがとても優しくて良かった。


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【舞台の深み】(※ネタバレあり)

今回はフルリモート演劇について考察する。
コロナ禍でリアルの場で演劇を行うことが難しくなっている昨今、多くの劇団はオンラインを駆使して観客に演劇を提供しようと試みている。
オンライン演劇には大きく分けて2種類あると思っている。一つは、オンラインで上演することに特化して作られたフルリモート演劇である。今回の劇団ノーミーツが企画しているような「むこうのくに」はこちらに該当する。もう一つは、劇場などで上演しているものをオンラインとして配信するものである。こちらは普段の演劇を映像に収めたものといっても過言ではなく、先日拝見したカムカムミニキーナの「猿女のリレー」もこの形で配信を行っていたし、これから上演開始の劇団チョコレートケーキの「無畏」もこのスタイルを取っている。

ここで一つ思うことは、フルリモート演劇と普段の演劇は全くの別物ということである。今回この作品を鑑賞してその意識はより高まった。
フルリモート演劇も、もちろんリアルタイムで演劇を行うのだが、どうしても画面越しである以上役者が意図的に作る「間」が作りづらかったり、役者同士が身体を使って関わり合う行為が全くないため、どうしても言葉だけのコミュニケーションになってしまう。この制約は、演劇として表現できるバリエーションを大幅に減らすことを意味する。
普段観劇をしていても、やはりリアルの演劇は会話も音もない無音の空間が演劇としても成り立つし、役者同士の身体による関わり方は極めて重要だ。それを取っ払ってしまったフルリモート演劇はやはり普通の演劇とは別物と考えるべきで、今までの演劇が全てオンラインに置き換わることは考えにくいだろう。

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第1回本公演「門外不出モラトリアム」を鑑賞した際は、たしかに発想は面白いが色々トラブルは起きるしリアルタイムで役者が演じる意味ってあまりないように思えて、フルリモート演劇の発展はそんなに期待出来ないものだと思っていた。
しかし、今作品を鑑賞して考えは180度変わった。フルリモート演劇はアフターコロナにおいても新しいエンタメのジャンルとして確立する気がしている。
今作品で感じたのは、「ヘルベチカ」というオンライン上のコミュニティに観客を誘うことで世界観を一緒に体験できる点である。これはオンラインでないと実現できない。こういった逆転の発想を持った作品が次々と生まれてくれば、フルリモート演劇は一つのエンタメジャンルとして定着するだろう。

今後のフルリモート演劇の可能性も信じつつ、従来の演劇も楽しんでいきたい。

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【写真引用元】

本ビラ・キャスト写真:https://twitter.com/k_mi_sa_to/status/1278186165619679232/photo/1
https://twitter.com/k_mi_sa_to/status/1278186165619679232/photo/3

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