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舞台 「PINKの川でぬるい息」 観劇レビュー 2021/02/11

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公演タイトル:「PINKの川でぬるい息」
劇団:キ上の空論
劇場:シアターサンモール
作・演出:中島庸介
出演:広川碧、岩井七世、薫太、陽和ななみ、小日向雪、須田拓也、大垣友、中島庸介、小関舞、川原一馬
公演期間:2/7〜2/14(東京)
個人評価:★★★★★★☆☆☆☆


Twitterや口コミ等で話題のキ上の空論は、「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」に続き2度目の観劇。広川碧さんや岩井七世さんなど、過去に舞台で演技を拝見しているキャストも多数出演していたので観劇することにした。
前作の「脳ミソぐちゃぐちゃの・・・(後略)」で描かれていた、LGBTQを扱ったテーマと学生時代に経験したトラウマを大人になっても抱え続けている設定は今作でも登場し、非常にキ上の空論らしさを体感出来た作品で個人的に好みだった。キ上の空論の作品は、自分に最も合った劇団かもしれないと思うくらい、この劇団と自分との相性の良さを再確認することが出来た。
主人公であるユキは他人のために尽くすことが出来ない、いつも文句を垂れているような落ちこぼれ女子である一方、友達のネオンは真面目でいつも目をキラキラさせている純粋な女子だった。しかし、ある出来事を境にして次第にユキは心優しく、そしてネオンはたくましく変化していく辺りがなんとも心揺さぶらる内容だった。
そして、主演の広川碧さんの好演が素晴らしい。力強い惹き付けられるような演技力だけでなく、歌まで歌えるバラエティに富んだ役者であることを再確認出来て良かった。
大垣友さんによる弾き語りも舞台の雰囲気に非常にマッチしていて、コロナ禍でライブっぽさに飢えているからこそ生演奏による臨場感が凄く良いものに感じた。
この作品は、悩める若き女性の背中をそっと押してくれる作品だと感じた。頑張る女性に観て欲しい良作。

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【鑑賞動機】

今回の観劇動機は、劇団とキャスト。キ上の空論は前回「脳ミソぐちゃぐちゃの・・・(後略)」を観ていて面白かったので、また新作を観たいという思いがあった。それに加えて、今回出演する広川碧さんは劇団4ドル50セントと柿喰う客のコラボ公演「アセリ教育/学芸会レーベル」にて、岩井七世さんは悪い芝居の「アイス溶けるとヤバい」にて非常に演技力の高い役者だと思っていたので、彼女らの掛け合いを舞台上で観たいと思ったから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーは、現実と回想を行き来するが、あらすじを書きやすいように多少物語の順序を変えてストーリーを説明していく。

ユキ(広川碧)は、拾い猫のカンザキ(薫太)と一緒に喧嘩した父親が借りていたアパートの一室を陣取って一人暮らしをしていた。両親とは不仲で、夜にデリヘル嬢をして生計を立てていた。ユキは、他人のために尽くして生きていくなんて考えられず、子供も作らず一生独身でいたかった。
ユキには、デリヘル嬢仲間の友達であるネオン(陽和ななみ)がいた。ネオンは自分と大違いで真面目でいつも目をキラキラさせていた。ネオンは、母親の借金を返済することと妹の私立高校の授業料を払うためにデリヘルで働いていた。ユキは、そんな他人のために頑張れてしまうネオンを理解することが出来ず、ネオンに対して心無い言葉をかけてしまう。

ユキは夜はデリヘルで働くことに加え、昼間は喫茶店で働くことにした。ある日その喫茶店に常連客であるミーナ(岩井七世)という女性が現れる。ミーナの長電話してくる友達を相手にせず、電話に出たまま放置する姿を見て一目惚れをしたユキは、その日からミーナが次にいつ喫茶店に訪れるかと待ちわびる毎日になった。
ある日ユキは喫茶店のオーナー(須田拓也)から、ユキが喫茶店にいない時間にミーナが現れてユキ宛への紙切れを預かっていると連絡をもらう。喜んだユキはその紙切れを受け取ると、そこにはミーナの連絡先が書かれており、急いでミーナに連絡してデートの予約をする。
ミーナと再会出来たユキは、話がどんどんはずんでそのままユキの家へ。ユキの家には猫のカンザキがいるが、ミーナが「どうしてカンザキという名前なのか」と問うと、ユキは中学時代にカンザキという同じクラスメイトの男子に憧れていたが亡くなってしまい、その日に拾った猫だからカンザキと名付けたと答えた。そんなエピソードを聞いて素晴らしいと褒めてくれるミーナのことが増々好きになったユキは、そのまま彼女とベッドインする。

ユキは中学時代を回想する。カンザキ(薫太)はいつも牛乳を校庭に投げ捨てる変わった学生だった。母親に食べ物を粗末にするんじゃないと言いつけられて育ったユキにとって、校庭に牛乳を投げ捨てるカンザキの反逆心に憧れを抱いてた。ある日、ユキはカンザキに自分の牛乳も投げ捨てるようお願いした。
ユキの誕生日の日、カンザキは学校の2階から飛び降りた。カンザキは松葉杖をついていた。カンザキはみんなに変人扱いされて後ろ指刺されるのが嫌だったと言う。そのままカンザキは青森へ転校してしまう。
その時カンザキから一つの鍵を受け取るが、学校のどのロッカーに入れても刺さらず、そのまま学校を卒業してしまった。

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現実に戻って、ネオンは最近デリヘルの客からの本物がしたいという要望に応えられておらず、デリヘルの店長であるケンイチ(須田拓也)から本物もしてくれないと新規が減ってしまうと呼び出されて説教される。学生時代から憧れだった先輩が知り合いと結婚してショックだったことも重なって、ひどく落ち込むネオンだった。
ネオンはある日、サカグチ(中島庸介)という男から指名されてホテルへ行くことになる。ネオンは本物をしてくれないと困るという店長からの説教を受けて、デリヘル嬢として仕方なく本物に持ち込もうとするが、サカグチはそういうのは初めての男性とするものではない、何回か顔を合わせて、お互いのことをよく知ってからやろうと拒む。
サカグチは、ネオンに対して自分の話をするよう求めてくる。ネオンは自分のことをサカグチに打ち明けることによって、次第にサカグチへ心を開放していくようになる。

ユキとネオンの働くデリヘルに、マカベ(川原一馬)という男性スタッフが新しく雇われた。彼は、自分が経営していた会社が倒産して大変だったらしく、そこをケンイチに救われてデリヘルで働くことになったらしい。
ユキはミーナとの関係も好調で、デリヘルなんて辞めてしまおうと退職を申し入れをしようとした時にマカベと遭遇し、些細なことがきっかけでユキとマカベはぶつかってしまう。ユキはそのままデリヘルを出ていってしまう。

マカベはネオンのデリヘルを車で送迎していた。マカベは直ぐによそ見をするので運転に集中をするようにネオンは言う。そこへ突然女子高校生が飛び出してきて危うく引きそうになる。彼女の名前はアイラ(小関舞)と言い、どうやらヒッチハイクをしていて乗車させてくれる人を待ちわびていたらしい。
アイラを乗せてそのまま車を走らせていたマカベだったが、またしても突然人が飛び出してきて引いてしまう。飛び出してきた女性は倒れており、どうやら息をしていない模様である。焦りに焦るマカベは、俺は悪くない、お前たちが話しかけるから、と言い捨ててそのまま車で逃げてしまう。
しかしその後倒れていた女性は起き上がり、彼女は特に車に引かれた訳ではなく気絶しただけだったと分かる。アイラは誰かに電話をかける。相手はユキだった。アイラはユキの妹だった。アイラは大きな荷物と共に今夜泊まられて欲しいから迎えに来るようお願いする。

翌朝、倒れていた女性はユキの家で目を覚ます。彼女は名前をベンジャミン(小日向雪)と名乗っており、ミーナとは以前から友達でいつも長電話をかけてくる相手だった。ミーナとベンジャミンは互いに口喧嘩をする仲だったが、どうやらユキとベンジャミンは馬が合うようである。
ベンジャミンは常に精神安定剤を飲んで生活しており、たまたまあの夜は車が通ったタイミングで薬が切れて気絶した様だった。
その事情はケンイチの耳にも入り、デリヘルでマカベを見かけた時、「お前、女性を車でひき逃げしたんだってな」と問いかけるとマカベは頑なに否定する。ただ、「その女性、車に引かれたわけではなく気絶しただけでひき逃げにならなかった」という結末をケンイチが伝えると、マカベは安堵したことによってその状況を認める。
ケンイチはマカベを雇い入れたものの、次第に彼の性格上信用しなくなっており、ケンイチとマカベの溝は深まっていた。

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ユキはある日、自分のアパートから拾い猫のカンザキがいなくなっていることに気がつく。風呂場にはカンザキがゲロを吐いた後と、そこには鍵が置かれていた。おそらくカンザキはどこかの鍵を間違って飲み込んでしまったのだろう。
ミーナはこのことに対して、きっとまた直ぐに戻ってきますよとあまり問題視せずに軽くあしらったことに対してユキは怒ってしまい、きっと死に際を見られたくないがために家を後にしたんだ、と泣きじゃくってしまう。ユキにとって拾い猫のカンザキは心の支えでもあり、大切なパートナーであった。
ユキはデリヘルへ趣き、ケンイチにもう一度私を雇ってはくれないかとお願いする。カンザキがいなくなってしまったことがショック過ぎて、早く誰かに抱かれたいと無性に人肌恋しくなっていた。しかし、ケンイチには相手にされなかった。

ユキはベンジャミンからもらった精神安定剤を飲んで、一度は地面が回転しているような変な錯覚に襲われて気絶したが、学生時代のカンザキとのことを思い出して、気持ちを落ち着かせる。優しく看病してくれるミーナの存在にも有り難いと思い、よりユキとミーナとの関係は深まっていく。そこへケンイチから連絡が入る。どうやらデリヘルのビルで火災が発生しており、ユキが火をつけたのではないかと疑っているようだ。

一方時間は少し戻って、ネオンとサカグチの関係の話になる。何回かの顔合わせを済ませてお互い本物をすることが出来た2人は、回転寿司を食べに来ていた。そこでネオンは、今までサカグチが払ってきた風俗代金を全て封筒に入れてサカグチへ渡し、こういうデリヘルと客という関係は終わらせてお互い付き合いましょうと告白をする。しかしサカグチはそれを笑い飛ばし、別にそんな関係になることを考えていた訳ではないからと振ってしまう。サカグチはネオン以外の女性にも同じように数回会って本物を済ませており、彼女たちを写真に収めてコレクションしていた。
ネオンはその写真をサカグチから見せてもらうと、なんとそこにはネオンの妹の姿もあった。サカグチはネオンの妹とも同じように数回会って、本物をしていたようである。サカグチはそれは奇遇だと語りつつ、その妹は私立高校を中退して母親の借金返済のためにデリヘルを始めたんだと言う。
ネオンはショック過ぎて言葉が出なかった。サカグチはそのままその場を退出してしまう。

ネオンがデリヘルに向かうと、そこにはマカベがデリヘルのあるビルで灯油を撒いている様子を目撃した。「火を付けるの?」ネオンがマカベに聞くと、さあどうかなと言ってマカベは立ち去る。ネオンは火を付ける。デリヘルは火事になる。

ネオンがユキとミーナにデリヘルに火をつけたのは自分であると自白するとみんなは驚き、ネオン、有名人になっちゃうよと笑いだしてしまう。でもネオンは物凄くスッキリしたらしく気分が晴れ晴れしていた。それに加えて母親からの電話にネオンは、「自分の借金くらい自分で返せ、他人に尽くすほど自分には余裕ない」ときっぱり母親との縁を切ってしまう。このネオンの変わり様にもユキは驚いてしまう。
そこへ拾い猫のカンザキがユキの元へ戻ってくる。ユキは物凄く喜ぶ。ユキはミーナとの仲も深められた上、カンザキとも再会でき、そしてネオンはずっと我慢し続けいていた人生をスッキリさせて、満足出来ましたとさ。ここで物語は終了。

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脚本の構成自体は、特に秀逸さとか上手さは感じないのだが、扱っているテーマが物凄く現代的で特に現代を生きる女性には物凄く刺さる脚本なのじゃないかと思った。ユキとネオンは性格は正反対なのだが、絶対どちらも共感できる女性って相当数いるんじゃないか。ユキみたいな他人のために尽くして頑張ることなんて出来ない、人生諦めかけているような女性にとっては、凄く前向きに捉えられるストーリー展開だと思うし、一方でネオンみたいな外見は真面目でお淑やかなんだが、周囲からの圧力によって打ちひしがれそうになっている女性も、強く生きようと思える後押しをしてくれるような物語展開なので、非常に最後はポジティブに思考出来るようになれる作品なんじゃないかと思った。
これは、現代を生きる女性を応援する舞台作品だと思う。個人的には、ラストのネオンの行動にはショックを隠せなかったが。キ上の空論らしい現代的なエモさ満載のヒューマンドラマだった。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今作品は特に大垣友さんによる弾き語りのインパクトが強かった演出ですが、他の舞台美術も見応えあったので、舞台装置、衣装、照明、音響(生演奏)の順に記載していく。

まずは舞台装置だが、今作品の舞台装置は至ってシンプル。舞台の中央に大きなベッドが置かれていて、ユキのアパートシーンで使用されることが多かった。特にユキとミーナがイチャイチャするシーンでベッドを使用することが多く、笑いながら2人で布団に潜り込む演出が最高だった。
ユキのアパート以外では、デリヘルでホテルに行ったシーンというシチュエーションもベッドで表現されることが多く、特にネオンとサカグチの2人のシーンでもベッドでイチャイチャするあたりが好きだった。
ベッドの手前には、喫茶店のテーブル席として使用されるテーブルと椅子と、上手側にはデリヘルでは店長、喫茶店ではオーナー用(つまり須田拓也さん用)の机と椅子が配置されていた。あの配置のされ方もなぜか良くて、下手側に弾き語りの大垣さんがいるからか、あのキャストの配置バランスが絶妙で見やすかった。

次に衣装だが、ユキ役の広川碧さんのダークグリーンな私服、ミーナ役の岩井七世さんのブラックな私服はどちらもよく似合っていた。
とりわけ好きだったのが、ネオン役の陽和ななみさんの青いチャイナドレス。凄く目立っていて良かった。
また、拾い猫カンザキの猫の着ぐるみはウケ狙いがあって丁度良かった。ああいった笑いを狙いにかかる演出が含まれているのも好きだった。
さらに、ケンイチと喫茶店のオーナーの早着替えも見どころだった。ユキが喫茶店のシーンからいきなり「店長(ケンイチ)!」と叫んで、無理やりはや着替えさせる演出も好きだった。

照明は、全体的に薄暗い青い照明が多かった印象。しかし、終盤になるとインパクトある演出が多かった気がした。
特に目立ったのは、ユキが歌っているシーンのカラーボールと、終盤のデリヘルの火事による赤い照明と、どのシーンか忘れてしまったが光量のかなり強い白に近い黄色の照明がガバーっと客席に向けられた演出。ここぞという時にしっかりと照明演出がしっかりあって、数は少ないものの全て印象に残りやすかった。

最後は、今作品のメインの演出である大垣友さんによる弾き語り。コロナ禍でライブハウスも閉鎖されて生演奏というものに対して人々がかなり飢えていたと思うが、そんなニーズをしっかりと盛り込んだ演出であったのは凄く有り難く感じた。
大垣友さんというアーティストは今まで存じ上げなかったが、凄く歌が上手くてしかも歌詞と曲がシーンにしっかりコミットしていたので、胸にじわっと来た。
特にユキとミーナが2人で元気よく歌い上げるシーンが好きだった。2人は女性同士の恋人関係となり、その時の高ぶる感情を精一杯歌い上げている感じが、聞いているこちらからしても物凄く楽しく感じた。
また、劇中で一人密かにギターを奏でるのも好きだった。まるでそのシーンのBGMを流すかのように。最高の演出だった。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

広川碧さん、岩井七世さん以外は初めて演技を拝見するキャストさんだったが、どの方も素晴らしかった。今回もその中でも印象に残った役者について紹介していく。

まずは主人公ユキ役を務めた広川碧さん。劇団4ドル50セントと柿喰う客のコラボ公演「アセリ教育/学芸会レーベル」で初めて拝見した時にも、物凄く声の通るインパクトの強い役者だなと思っていた。そして今回の作品でも広川さんが持っていらっしゃる、鋭く通る声や威圧感は健在だったのだが、なんとなく繊細さを感じさせてくれる演技だったように思えた。
例えば、拾い猫のカンザキが行方不明になってしまってメンタル的に弱ってしまった時に見せる弱く女性らしい演技や、ミーナを好きになってしまって恋する少女のようなルンルンな姿は、前回のコラボ公演で拝見した演技にはない一面で物凄く新鮮さを感じた。
そしてなんといっても、歌声が響いて素敵だった。あそこまで心の底から大声でマイク使って歌えたらそりゃ気持ちが良いだろうな。このシーンを見て、広川さんはボーカルとしてもいけるなと感じてしまった。

次に、ミーナ役を務めていた岩井七世さん。昨年末の「4ドルとろりえの年末」を拝見した時には、悪い芝居の「アイス溶けるとヤバい」の土地狂った演技とは180度変わって、お淑やかで優しく繊細な演技をされていたが、今作品でも繊細な演技が光っていた印象。ただ、思った以上に出番が少なく感じて、ユキやネオンに気を奪われて存在感はあまり感じられなかった。
ユキとは対照的で包容力のある大人な印象のミーナは、見ているだけで癒やされるキャラクターだった。特にユキとイチャイチャするシーンがなんとも愛おしい。ミーナの影響力によってユキも優しさを覚えて変わっていくのがなんとも心がじんわりと温かくなる。
もっと出番があってほしかったし、彼女自身の見せ所がもっとあっても良かったと思えた。

ミーナ以上に良い意味で目立っていて好きだったのが、ネオン役の陽和ななみさん。彼女のあの真面目で輝いている感じが個人的には好きだったので、最後デリヘルに火をつけてほしくはなかった。けれど、よくよく考えてみるとそれによって気持ちをスッキリさせることが出来たのならば、ポジティブな成長だったプラスに捉えてあげたい気もする。
一番胸が痛かったのが、本気でサカグチのことが好きになって自ら告白するも、とんだ野郎だったことが発覚し、妹にまで手を出していたというオチが結構ショックだった。真面目でポジティブな子であったからこそ、残酷な描写に非常に感じる。
そういう感じで、ネオンは見ていてこちら側が凄く辛い気持ちになってくるので、良い意味で心を揺さぶらせてくれた陽和ななみさんの演技に感謝したい。

ベンジャミン役の小日向雪さんのノイローゼ役も良かった。
弾き語りの大垣さんにくってかかるシーンが印象的だった。劇中では髪の毛ボサボサのヤバい女性だったが、普通にメガネ外すと美人な役者だと思うので、違う役で彼女の演技をもっと観てみたい。

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男性陣ではやはりインパクトあったのが、ケンイチ(店長)と喫茶店のオーナー掛け持ちの須田拓也さん。パンチパーマにちょび髭というパパイヤ鈴木みたいな風貌がまずインパクトあるが、あの優しさが個人的には好きだった。
女性の話をいつも聞いてくれる。従業員の女性のためなら力を尽くしてくれる感じがどちらの役にも感じて温かかった。包容力のあるおじさん良き。

個人的に気になったのが、マカベを演じた川原一馬さん。俳優としても技術のある人だと思うが、個人的にはマカベというキャラクター設定が残酷だった。
この人も相当苦しんで痛い目に遭ってきている人間だと思う。その生々しい描写がないから劇中では伝わりづらいのだが、店長の話に経営していた会社が倒産していたり、色々あった末にデリヘルにたどり着いている。それを見ず知らずの人間に否定されたりしたらキツイだろう。
そして、唯一頼りにしてたケンイチからも最終的には信用されなくなってしまう。たしかに、実際にはしていないがひき逃げに当たる行為をしたりする駄目な大人ではあると思う。でも、彼の支えになってくれる人が一人もいない。それは辛い状況だろうなと結構マカベには同情して観劇していた。
それと思い切りのない人間でもあると思う。灯油をデリヘルに撒いても火は付けなかった訳で、人を轢いたと誤解した時も警察に連絡出来る勇気はなかった訳で。なんか人間らしくて可愛そうで同情してしまった。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

色々ストーリーや演出、キャストを振り返ってみて今作品について思ったことは、前作の「脳ミソぐちゃぐちゃの・・・(後略)」よりは深いテーマには感じられなかったかなという印象である。勿論、役者のレベルも高かったし生演奏も使われていたので没入感は物凄くあったのだが、脚本という単位では評価はやや下がる作品かなと思っている。
今作品のテーマは、ユキとネオンという対照的な2人の女性が辿った全く異なる2つの成長かなと思っている。そしてこの2つの成長は、令和時代だからこそ響く現代的な女性のあり方を後押ししてくれるような描き方である。
ユキとネオンにフォーカスしてそれぞれ2人の成長について考察していく。

まずはユキ。彼女は、両親とも仲が悪く、父親の借りているアパートを陣取って自分で稼いで暮らしているという逞しい女性である。他人のために生きていくことに苦しさを感じ、結婚や子育てには全く興味がなかった。だからネオンみたいな、母親の借金の返済と妹の学費のためにデリヘルやってるんですみたいなシチュエーションを理解出来ないでいた。
そんなユキに転機が訪れる。ミーナとの出会いである。だがミーナのことを好きになった根拠は、拾い猫のカンザキの名前を素敵だと言ってくれたことからも伺えるように、未だに学生時代に出会ったカンザキという男性のことが忘れられずにいた。
そんな拾い猫のカンザキが突然行方をくらます。ユキは精神的に不安定になる。劇中でこんな状態は初めて、と語っていたくらいユキは精神的に追い詰められることになる。そこでユキは初めて、自分はカンザキに助けられてきたことを実感し始める。自分は散々他人のために生きるなんてゴメン、と人間関係というしがらみを断ち切るかのような態度を示してきていたが、自分自身誰かの頼り無しには生きられないことを自覚する。
それによって、ミーナとの関係もあって人と人を支え合うことの大切さを実感して、幸せを最後掴み取っているのである。
このストーリー展開は物凄くポジティブなものである上に、そういった他人のために尽くせないみたいに思っている女性も沢山いるのではないかと思う。ユキの成長を見ていて、個人的には物凄くスッキリしたし、日頃自分が支えられている人々の存在に感謝することは大事だなと思った。

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次にネオンである。彼女は母親の借金と妹の学費のためにデリヘルで高額な資金を稼いでいた。誰かに尽くすことが素敵なこと、そんな思いもあったのかもしれない。人を助けたい、そういったポジティブな思いもあって続けいていたのかもしれない。
しかし、自分がかつて好きだった男性が結婚してしまったり、デリヘルの客から本物してくれないとクレームが来たりと、周囲の環境がネオンを追い詰めていく。
そんな時に現れたのがサカグチという男だった。彼はすぐに本物を求めてくることがなかった。何回か出会ってお互いのことを深く知った上で本物をしよう。そんな紳士的な言葉にネオンは惑わされてしまう。
どんどんサカグチのことが好きになっていってしまったネオンは、もうデリヘルと客という関係は辞めようと、今までもらっていた資金を返して告白する。しかしサカグチは、そんなつもりはないと軽く突っぱねる。それどころか、ネオンのような関係性を保っていた女性は他に五万と存在し、その中に自分の妹までいることを知ってしまう。
ネオンは、ありとあらゆる女と関係を結ぶ淫らな男性を好きになってしまい、精神的に大きくダメージを受けてしまう。
もう誰かのために尽くしたりなどしない、自分は自分の身を守るためで精一杯だ。そんな思いでデリヘルに火を付けたのだろう。そして母親との縁も絶ってしまったのだろう。
個人的には、これをハッピーエンドと捉えたくないが、ずっと他人に振り回される立場で有り続けることも地獄である。それよりは、吹っ切れて自分に害の及ぼす人間関係を綺麗サッパリ清算してしまった方が本人にとってはプラスであろう。
そして、この行為によって勇気づけられる女性も少なくないのではないか。個人的にはなかなか受け入れ難かった結末だが、彼女のためを思うならそれが良かったのかもしれない。

そんなことを感じたのだが、やはりテーマとしての深みはやはり「脳ミソぐちゃぐちゃの・・・(後略)」よりは感じなかった印象。自分自身のセンサーが疎くなったのかは分からないが、脚本という観点ではもう少し厚みが欲しかった。
とはいえ、作品の好みや完成度という観点では大満足の作品なので、キ上の空論、これからも引き続き観ていきたいと思う。

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【写真引用元】

キ上の空論 公式Twitter
https://twitter.com/kijyooo

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