舞台 「六番目の小夜子」 観劇レビュー 2022/01/09
公演タイトル:「六番目の小夜子」
劇場:新国立劇場 小劇場
原作:恩田陸
総監督:鶴田法男
脚本:小林雄次
演出:井上テテ
出演:鈴木絢音、尾碕真花、高橋健介、熊谷魁人、山内瑞葵、飛葉大樹、仲美海、大原由暉、志田こはく、花崎那奈、緑谷紅遥
公演期間:1/7〜1/16(東京)
上演時間:約120分
作品キーワード:学園、ホラー、ミステリー、青春
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆
小説家恩田陸さんのデビュー作である「六番目の小夜子」が初めて舞台化されるということで観劇。
実は恩田陸さん原作の作品を商業演劇として観劇したことはなく、今作が初めての観劇となる。
出演者に私が知っているキャストも多かったため観劇することにした。
原作の小説は未読。
ストーリーは、とある高校に伝わる「サヨコ伝説」をテーマとした話で、この「サヨコ伝説」というのは3年に一度文化祭で誰かがサヨコ役を演じて「サヨコ」の舞台を行わないと、その年の大学受験はひどい結果になってしまうというもの。
高校3年生であった演劇部の部長である花宮雅子(尾碕真花)は、今年こそ自分が書いた脚本を文化祭で上演したかったため、「サヨコ伝説」に従ってサヨコの舞台を上演することに反対していたが、津村沙世子(鈴木絢音)という「サヨコ」の名を持つ転校生が登場したり、不気味な現象が次々と起こる。
学校に伝わる都市伝説を題材とした脚本ということで、内容はホラー要素が強かったのだが、それを舞台上で演出する技術が素晴らしくて、音響や照明も相まって観ていた私もビクッとさせられたし鳥肌もゾクゾクと立ったので効果的な舞台演出だったと思った。
さすがは、「Jホラーの父」と呼ばれビデオフューチャー映画やテレビドラマの「ほんとうにあった怖い話」を手掛けてきた鶴田法男さんが総監督なだけある舞台作品だった。
そして転校生を異物のように扱ってイジメるというテーマもこの作品には含まれていて、学校内ではいつの時代も絶えないイジメという普遍的な問題を上手く扱うことで響いてくるメッセージ性もあり、自分が学生時代だった時のことなんかも蘇ってきて良い観劇体験となった。
キャスト陣は、特に津村沙世子役の鈴木絢音さんと花宮雅子役の尾碕真花さんが素晴らしかった。
沙世子と雅子が非常に対照的な存在に見えてその関係性とか非常に演技が素晴らしかったので楽しめた。
DVDも販売されるそうで、恩田陸さんの小説好き、ホラー好きな方にはぜひおすすめしたい作品。
↓小説『六番目の小夜子』
↓DVD『六番目の小夜子』(2022年)
【鑑賞動機】
恩田陸さんの舞台作品を商業演劇として観劇したことがなかったのでこれを機会に観劇したかったのと、知っているキャストが多かったというのも観劇の決めて。自分の好きな劇団である企画演劇集団ボクラ団義の花崎那奈さんや緑谷紅遥さんが乃木坂46の鈴木絢音さんや、2.5次元舞台で活躍中の俳優と共演するということで興味を唆られた。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
とある高校の4月の始業式の日、演劇部の部室には赤い花が花瓶に挿されて用意されていた。演劇部の部長である花宮雅子(尾碕真花)やその親友の沢木容子(山内瑞葵)、唐沢由紀夫(熊谷魁人)、加藤彰彦(飛葉大樹)らは、その赤い花を不気味な様子で見ていた。
そこへ写真部の関根秋(高橋健介)がやってきて、この学校に伝わる「サヨコ伝説」について語り始める。「サヨコ伝説」は3年に一度この学校で現れる現象で、3つの掟があると言われている。1つ目は、4月の始業式の日に赤い花が花瓶に挿されている。2つ目は、生徒の中に「サヨコ」が隠れ潜んでいる。3つ目は、その隠れ潜んでいる「サヨコ」が文化祭で「サヨコ」の舞台を演じるというものだった。そして赤い花が置かれているということは、今年はその「サヨコ伝説」の年で丁度六番目のサヨコの年にあたるのだという。
そこへ演劇部の顧問の黒川先生(森下能幸)がやってきて、転校生が来たといって紹介する。その転校生は、津村沙世子(鈴木絢音)と言う非常に暗く大人しい女子高生だった。
津村を見るやいなや、唐沢は津村が学校の校庭にある石碑に立っていたのを目撃したと言う。そしてその時津村は石碑の前で一人笑っていたと。
雅子は、その「サヨコ伝説」はただの都市伝説じゃないかと軽く扱っていた。文化祭ではその「サヨコ」を上演しなければならないというけれど、まずその「サヨコ」の上演台本すら見つかっていない。雅子にとって今年は演劇部最後の年、自分が書き上げた台本を文化祭で上演したいと言って台本を書き進める。一先ず「サヨコ」の台本が出てきたらその件について考えようと。
文化祭実行委員長の設楽正浩(山本涼介)は、2学期の始業式までに文化祭でどんな作品を上演するか決まれば良いと言う。
転校生の沙世子は成績も良いが暗く転校生ということもあってか、クラスメイトからは少し敬遠されるような存在だった。
雅子が脚本を書いている時、沙世子は何かの台本の台詞を口にする。雅子はそれは何の台本の台詞?と首をかしげる。
ある日、加藤が発作で倒れて入院してしまう。一堂は騒然とするが、加藤は自分でこれは「サヨコ」の呪いのせいだと言っている。そして加藤は1つの鍵を持っていてそれを唐沢たちは受け取っていた。
その鍵を演劇部の部室のロッカーに差し込んだ所、ロッカーから台本が見つかった。
その台本を手に取った雅子は、その台本の冒頭が先ほど沙世子が口ずさんだ台詞と全く同じだったことに気づき驚く。
沙世子は、「サヨコ伝説」の「サヨコ」は加藤であると言ってその場を立ち去る。
唐沢や関根が、以前沙世子が笑いながら眺めていた石碑に掘られた文字を確認しに行ったところ、そこには12年前に17歳で亡くなった「津村沙世子」のことが書かれていた。2人は驚く。12年前に転校生と同姓同名の子が命を落としていたという事実に。
赤い傘を差した沙世子のモノローグが始まる。
15年前に文化祭でとある女子高生が「サヨコ」という舞台を演じた時、その年の大学受験の合格率は非常に高いものだった。その3年後の12年前、「津村沙世子」が転校してきた。しかし、転校生はその学校にとって異物のようなもの、イジメを受けていたそう。
彼女は文化祭で主演を演じたいと自ら立候補した。そして3年前に上演された「サヨコ」を演じたいと。しかし彼女は文化祭で「サヨコ」を演じることなく交通事故によって亡くなってしまった。その年の大学受験の合格率はひどく低いものだったそう。これを「サヨコ」の呪いだと噂していた。
それからというもの、3年に一度「サヨコ伝説」が起こるようになり、大学の合格率を落とさないためにも3年に一度「サヨコ」を文化祭で上演するのだという。そして今年は、その六番目の「サヨコ」の年だった。
夏になる。佐野美香子(仲美海)は、関根に恋心を抱くものの雅子と関根が幼馴染であることからいつも彼らで仲良くしており嫉妬心を抱く。
美香子が一人演劇部の部室にいる時、津村が現れる。津村はまるで幽霊であるかのように美香子を脅し、雅子への嫉妬心をむき出しにさせる。
ある日雅子の元へ、演劇部の新入部員の西野真耶(志田こはく)と平田雪江(花崎那奈)がやってくる。平田は演劇部を辞めたいと申し出て、その理由は学業に専念したいからだと言う。
唐沢は密かに雅子に恋心を抱いており、雅子に編んでもらったマフラーを嬉しく受け取る。そしてそっと2人でマフラーを巻き合おうとしたその時、誰かに見られそうだったので取りやめる。
唐沢は、例の「サヨコ」の台本の最後の部分を確認したがそれほどヤバい終わり方ではなく普通じゃないかと呟く。
しかし雅子は、次第に皆「サヨコ」の呪いが怖くなってきて文化祭で「サヨコ」を上演しようという気持ちに傾いており、自分の台本を上演したいという雅子は孤立してしまっていた。そこへ津村が幽霊のように現れ、孤独になっちゃったねと嬉しそうに呟く。
突如として演劇部の部室に赤い表紙が付けられた台本が見つかる。それは紛れもなく本物の「サヨコ」の台本で、ラストが体育館が火に包まれる内容となっていて、一堂は驚愕した。この台本を上演してしまったら大変なことが起こりそうだと。しかし文化祭実行委員長の設楽は、なんとしてでも「サヨコ」を文化祭で上演した方が良いと言う。
関根と唐沢は、では果たして誰が元々ロッカーにあった「サヨコ」の台本を差し替えたのだろうと疑った。すり替えられていた台本は綺麗で新しかった。そして印刷部分に線が入っており、そこからこれは黒川先生が印刷したものではないかと推測する。事実「サヨコ伝説」が起こる年の3年生の担任はいつも黒川先生だった。
彼らは黒川先生に、「サヨコ」の台本をすり替えたのは先生ではないかと尋ねに行く。しかし黒川先生はその台本を印刷した訳ではなかった。たしかにロッカーの鍵は持っていたのだが、「津村沙世子」という12年前に交通事故で死亡した女子高校生と全くの同姓同名の転校生の存在に驚き、彼女に鍵を渡したのだと言う。
演劇部員たちはまるで「サヨコ」の呪いがかけられたようにおかしくなっていた。「サヨコ」を上演する際にアルコールランプを使おうと言い出すのである。雅子はアルコールランプは危ないから劇中での使用は禁止だと言う。しかし部員たちは言うことを聞かなかった。
文化祭当日、「サヨコ」を上演出来なくするために雅子、関根、唐沢は津村沙世子を演劇部の部室に閉じ込めた。しかし、校内放送を聞く限り滞りなく「サヨコ」は上演されてしまうではないか。そしてまさかの、「サヨコ」の上演中に地震が発生して体育館から火の手が上がった。
演劇部の部室にいる津村沙世子と、体育館で「サヨコ」を演じる沙世子の亡霊(緑谷紅遥)は、2人で同じように体を動かしながら、転校生というだけでまるでクラスメイトの中の異物扱いされていじめられた恨みを語りだす。
なんとか火事はボヤで終わり、津村沙世子は負傷して病院に運ばれたが軽傷だったようだった。
雅子たちは、これは果たして良かったのだろうか悪かったのだろうかと部員たちに問いかける。雅子が演劇部の部室で一人になった時、津村が部室にいるのを目撃する。彼女は病院にいるはずなのに。
3月、津村も無事退院して皆卒業した。雅子と関根は同じ大学へ合格したらしい。皆にこやかな表情で卒業を迎えることが出来た。今後も「サヨコ伝説」が続くかどうかはわからないけれど。ここで物語は終了。
考察パートでも詳しく触れるが、学校と都市伝説って物凄く親和性高いし、「学校の怪談」とかそういったオカルトに触れたことがある私にとって、そういったものへの興味を掘り出してくれる作品だったかなと思う。
また転校生などマイノリティがいじめられてしまうという普遍的な問題にも触れていて、心動かされるものがあった。いじめとかもそうだが、この劇中で登場する様々なシーンにおいて、自分が学生時代だった時の記憶を蘇らせてくれる要素も多くて懐かしさを感じていた。例えば、上のストーリーでは書かなかったが、男子が扉を開けようとしたら女子が着替えている最中で勢いよく扉を締め出された経験だったり、男女がイチャイチャしている中に第三者が入ってきて気まずい空気になったり、色々と青春の懐かしい思い出が蘇ってくる辺りが好きだった。
私は原作の小説を読んだことがなかったが、むしろ読んだことない方が舞台を楽しめたんじゃないかというくらい満足度の高い作品だった。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
総監督が「Jホラーの父」の鶴田法男さんということもあって、非常にホラー的なぎょっとさせる演出が巧みだった印象。それだけではなく、舞台装置、舞台照明や舞台音響も今までの舞台で観たことがないような凝った演出になっていて存分に楽しむことが出来た。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置から。
大きな構造としては、二段舞台となっていて上段と下段で分かれている。客入れ時は私は上段が舞台となっていることに全く気づかず、開演して物語が始まった瞬間に上段のシーンから始まるので、そこにもステージがあったのかと驚いた。これも観客を驚かせる一つの演出だったのかもしれない。
下段は演劇部の部室となっていて、下手側から透明な窓ガラスの空間、骸骨の標本、序盤のシーンで赤い生花が置かれていた長机といくつかの椅子、本棚が置かれている。一番上手側の手前部分には一つの扉があり、その向こうは台本の発見されたロッカーなどがある更衣室へと繋がっている設定だった。上手側奥には、演劇部の部室から廊下へ通じる扉があって、廊下もしっかりと舞台装置として創り上げられていて、窓ガラス越しから見えるようになっていた。廊下には視力検査表が貼ってあった。
この演劇部の部室と廊下のクオリティが非常に高くて、まるで本物の学校の一部がそこにはあるんじゃないかというくらい本物に近いクオリティだった。舞台装置で本物に限りなく近づけられる技術って芝居を見ていると度々登場するが、セットが用意されているだけで感動する。
この窓ガラス越しの廊下を上手く使って、沙世子が幽霊のように彷徨ったりする演出が本当に見事で、舞台装置と脚本と演出が上手く一体となっていた。
上段は凄くシンプルで、下手側半分には白い大きな壁が存在し、上手側半分には例の石碑が置かれていたり、ベンチが置かれるシーンになったり、机の上に赤い生花が置かれていたりとセットがシーンによって変化した。
この二段舞台を使った演出で素晴らしいと感じたのは、ラストの「サヨコ」が上演される時の「サヨコ」の怨念が語られるシーン。演劇部の部室にいる津村沙世子と、上段のおそらく体育館にいると思われる沙世子の亡霊がシンクロしてまるで鏡像関係にあるみたいに左右反転して同じ体の動かし方をしながら語るシーンが好きだった。上段と下段という二段を上手く活かした演出で好きだった。
次に舞台照明。
舞台照明も普段あまり芝居では見られないような演出が沢山仕込まれていて、個人的には好きだった。
例えば、沙世子がまるで幽霊のように演劇部員たちを祟るときに、部室の壁に全体的に万華鏡のような模様をプロジェクションマッピングのように映し出す演出が印象に残っている。
また、男子学生がまるで「サヨコ」が乗り移られたかのようなシーンのときに、影で女子高校生のシルエットが彼に対して出来ていた演出も見事だった。
ステージの下段の一番手前側にも照明が仕込まれていて、下からステージに対して照明を照らしたり、または客席側に照明が向けられる演出を初めて観劇したので興味深かった。
あとは、上段で津村沙世子が赤い傘を差してモノローグするシーンの、全体的に赤い感じの照明演出も好きだったし、幽霊のように沙世子が登場するシーンの薄気味悪い紫の照明演出も印象的だった。
沙世子が台本の台詞を語りだした時の、あの夕暮れの日差しが部室に差し込む照明や、卒業した時の夕暮れの照明がオレンジっぽくて好きだった。
そして舞台音響。
舞台音響はもちろん、音楽や効果音といったスピーカーから流す系のサウンドも良かったのだが、今作で私が注目したかったのは効果的な生音の使い方。更衣室の方でいきなり聞こえてくる何か物が落ちる音、あれは目に見えなくて音で聞こえて気づくので非常にびっくりする、それが非常に効果的。また、水道の蛇口から水の音が流れ出す「ポタポタ」という感じで、あれも音だけで聞こえてくるから不気味に聞こえて非常に良かった。
SEでは、雨の音だったり交通事故のサイレンの音だったり、雷の音だったりが印象に残っている。また校内放送のスピーカーから流れる録音もそれらしかった。
音楽は、客入れ時と客出し時の静かなクラシック音楽が印象的。なんて楽曲だったかは思い出せないがピアノのエレガントな演奏が舞台空間の世界へ誘ってくれた。
その他演出について最後はみていく。
鶴田法男さんが総監督だからなのかわからないが、とにかくホラー要素を上手く取り込んで、観客をぎょっとさせる演出の上手い舞台演出だった。
例えば、ステージ上に置いてあるハコだったり本だったりが「サヨコ」の呪いによって突然床に落ちてくる演出は素晴らしいもので、終始驚かされていた。無意識的にビクッとなってしまう。おそらくワイヤーか何かで天井から予め吊るしておいて、キューが来たら動かしているのだろう。びっくりする演出だった。骸骨がいきなり動き出すのも非常にビックリさせられた。でも素晴らしかった。
あとは、沙世子役が鈴木絢音さんと緑谷紅遥さんの2人いるので、まるで幽霊のように彼女がどこから現れるのかビクビクさせる演出とか凄くホラー要素として上手くいっていた演出だったと思う。舞台中に登場する生徒たちも沙世子どこにいるの?とビクビクしているが、観客もどこから現れるのだろうとビクビクしながら観劇出来るのが凄く良かった。あまり普段の観劇では出来ない体験だったので、こんな演出もアリだなと思った。
脚本の性質上致し方ないかもだが、青春物語なのだしもう少し男女の恋愛的な部分でドキッとする演出が欲しかったかもと思った。唯一あったのが、唐沢と雅子のマフラーを一緒にするシーンくらい。全体的に緊迫感の張り詰めた舞台だったので、イチャイチャみたいなシーンが創りづらい作品だったのかもしれないが、もっと男女の仲睦まじさを感じさせるシーン、演出は欲しかったかなと個人的には思った。そういった部分を観劇前に期待していた自分がいた。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
黒川先生役の森下能幸さんを除いて、基本的には20代前半という年齢層若めなキャストの座組で、非常に演技に若々しさと初々しさを感じて良かった。まだ役者としては伸びしろはあるのだろうなとは思いつつ、今ある実力を出し切っている感じを受けたので大満足だった。
特に印象に残ったキャストについて触れていく。
まずは、主人公の津村沙世子役を演じた乃木坂46の2期生の鈴木絢音さん。坂道グループに疎い私にとって鈴木絢音さんの存在すらこの舞台観劇で初めて知った。アイドルグループとしての活動だけでなく、やはり舞台出演経験は過去にもあって舞台「けものフレンズ」に出演経験がある。
非常に透明感のある女子高校生が印象的で、透明感はあるんだけど凄くホラー的で怖い印象も凄くある。台詞の発し方も、まるで誰かに取り憑かれているかのようで魂そこにあらずで、亡霊のように一本調子で話すあたりが上手く役作りされていて好きだった。
また存在感が全くないようで物凄くある。亡霊っぽいので存在を消すことは上手いのだが、一度舞台中に登場すると存在感が大きい、迫力がある。そこが凄く沙世子役としての鈴木絢音さんの魅力だった。
そして若干フェチのようなコメントになってしまうが、髪が黒くてサラっとストレートで長くて女子高生らしい魅力を沢山感じられて釘付けだった。
次に個人的には一番今回のキャストで魅力的に感じたのが、花宮雅子役の尾碕真花さん。尾碕さんの演技を拝見するのは初めてで、舞台出演も調べたところ2018年以来になるそう。尾碕さんは「騎士竜戦隊 リュウソウジャー」のリュウソウピンク役に起用された経験がある。
孤独を感じていて亡霊のように暗い津村沙世子とは対照的で、演劇部の部長を務めていてリーダーシップを発揮するようないわば陽キャ的なポジション。しかし、自分は文化祭で自分が書き下ろした台本を上演したいにも関わらず、「サヨコ伝説」を恐れた部員たちは「サヨコ」を上演しようと言い出して、徐々に孤独になっていく。それでも彼女は明るさと正義を崩さずに突き進む格好良さに魅力を感じた。
キャラクター的にも凄くサバサバしていて、普通に友達としてそんな女性がいると話しやすくて良いなと感じるくらい良いキャラクターだった。
そして久しぶりの舞台出演とは思えないくらいの尾碕さんの演技力の高さにあっぱれ。
個人的には、男性キャストは全員が素晴らしい演技をしていたと思っていて、特に唐沢由紀夫役の熊谷魁人さんと、設楽正浩役の山本涼介さんは、どちらの方も演技初拝見だったが凄く魅力的に感じた俳優さんだった。
まず熊谷さんは、主に舞台を中心に活躍されている俳優さんだそうで、スターダストプロモーションの俳優集団「劇☆男」に所属していた時期があったり、鴻上尚史さんの虚構の劇団に所属していた時期もあるという。最近では、刀剣乱舞ミュージカルなど2.5次元舞台を中心として活躍されている。
結構人当たりが良さそうという点において、唐沢の役は雅子の役と同じ観点で魅力を感じた。普通にどこにでもいそうな男子高校生、いいやつって感じ。
特に好きだったのが、雅子と距離を詰めていこうとしたシーン。あそこが一番印象に残った。さり気なく一緒にマフラーをかけるあたりが好きだった。
そして山本さんは研音に所属の俳優さんで、映画、テレビドラマ、舞台など幅広く活躍されている。テレビドラマでは仮面ライダーシリーズの出演が際立っていて、「仮面ライダーゴースト」や「仮面ライダージオウ」へ出演されている。舞台は2.5次元がメインで、「家庭教師ヒットマンREBORN!」の出演が目立つ。
山本さんは文化祭実行委員長の設楽役だったので、態度と台詞に常に力が籠もっていて魅力を感じた。一番覇気のある演技をしていたと思う。女子高生が多い作品なので、力強い男性の役は今作では非常に良い意味で目立つ。ましてや文化祭実行委員長という役なので、その威厳さや力強い迫力ある演技は輝いているように感じて好きだった。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、脚本で主張したかったメッセージについて考察していこうと思う。
転校生の津村沙世子は、「サヨコ伝説」について特に何も知らないまま偶然高校に転校してくる。それを知った黒川先生はあまりにも偶然過ぎて驚く。何がかというと、12年前に「サヨコ」を演じたいと切望していたが交通事故に遭って死亡した転校生「津村沙世子」と同姓同名だったからだ。
黒川先生は、例の台本の入っていたロッカーの鍵を持っていたので、転校してきた「津村沙世子」に例の伝説についてと鍵を渡す。台本を読んだ津村沙世子は、最後のシナリオがあまりにも恐ろしかった(例の体育館が焼き尽くされるという終わり方)ため、最後だけ書き換えて台本を新しく印刷し直す。黒川先生の言う通り、もし「サヨコ伝説」が本当なら今年がその六番目の「サヨコ」の年で誰かが犠牲になるだろうと。その犠牲を出さないためにも、生徒を守ろうと台本の最後を書き換えた。しかし、それが逆に12年前に死んだ津村沙世子の亡霊の逆鱗に触れてしまった。
その時に津村沙世子は、父親が持っていた印刷機を使って印刷し、後で黒川先生にその父親の印刷機を譲渡しているらしい。だから、春に印刷された黒川先生のプリントと同じ汚れがついていた。
六番目の「サヨコ」に選ばれたのは加藤だった。その加藤を守るために津村沙世子は台本を差し替えていた。だから始業式の日、これで「サヨコ伝説」を終わりにしてやるという思いから、石碑を見ながら笑っていたのかもしれない。
加藤が演劇部の部室に赤い生花を用意したのだろう。
しかし二番目の死んだ津村沙世子の呪いは強いものだった。今年の「サヨコ」に選ばれた加藤がその呪いによって発作を起こしてしまう。転校生の津村沙世子は、自分が「サヨコ」であると言い張り、文化祭の「サヨコ」の役を自分が引き受けて終わらせようとするが、雅子は自分の脚本を上演したいと言い出すし、死亡した津村沙世子が次々と演劇部員を呪い始めて、そして本物の「サヨコ」の台本を登場させて、それを上演させようとする。
結果的には、亡霊の津村沙世子が「サヨコ」を演じてボヤを起こすことで収束した。
結末を知った上で改めてシナリオを整理すると、上記のようになるかなと思う。あくまで自分の中で整理した内容なので、間違っている可能性もあるのでご了承いただきたい。
そう考えると、転校生であった津村沙世子はなんて友達思いな子なのだろうと思う。「サヨコ伝説」から皆を守ろうとした。しかし彼女は転校生ということもあったり、成績優秀であったりと、周囲の生徒たちからは近寄り難い存在でもあった。その辺りは、12年前に亡くなった津村沙世子と一致するのかもしれない。
この物語のメッセージは、転校生だからといったようにマイノリティ、部外者の人を異物扱いするのではなく、平等に接しようというものにも聞こえてくる。それが出来なかったことによって、「サヨコ伝説」が出来上がってしまったのだから。
人とはちょっと違う人間を差別する心理は普遍的に存在すると思う。野田秀樹さんの「赤鬼」でもそこを深堀りして描いている。でもそうではなく、たとえマイノリティな存在でも異物とみなさずにしっかり向き合って接すること、それが大事なのだとこの恩田陸さんの小説は教えてくれているように私は感じた。
↓花崎那奈さん、緑谷紅遥さん過去出演作品
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