舞台 「クリスマスキャロル2020」 観劇レビュー 2020/12/12
公演タイトル:「クリスマスキャロル2020」
劇場:東京キネマ倶楽部
作:チャールズ・ディケンズ
脚色・演出:湯澤幸一郎
出演:堀江貴文、寺本莉緒、仲野温、湯澤幸一郎、横山智佐、百花繚乱、澤田拓郎、とまん、飯窪春菜、Eddie、田代明、別紙慶一、関根優那、佐藤望美他
公演期間:12/9〜12/15(東京)、12/24〜12/25(神戸)
個人評価:★★★★★☆☆☆☆☆
毎年クリスマスの時期にホリエモンこと堀江貴文さんが企画プロデュースする、食×劇をテーマとした「クリスマスキャロル」を初めて観劇。同企画は今年で3度目になる。
食×劇をテーマとしているため、客席前方は丸い円卓のディナー席となっており、食事を楽しみながら観劇できるというもの。食事はサンタのコスプレをした女の子たちが運んできてくれて会場を盛り上げてくれる。30分間の幕間ではホリエモンとチェキが撮影できたり、スペシェルゲストとのトークセッションを楽しめる。
私はディナー付きの席ではなく後方の一般席での観劇だったが、思ったより舞台の脚本自体や演出もしっかりしていて、食事がなくても作品を十分楽しめた。ただ、ディナー席の人たちは仲間と複数人でワイワイしていたので、一人で潜り込んだ自分にとってはアウェイな気持ちで一杯で正直辛い雰囲気でもあった。一般席は1階席と2階席があったので、2階席の方がそんな食事の雰囲気に飲み込まれず落ち着いて観れたのかもしれない。
脚本は、チャールズ・ディケンズのクリスマスキャロルを現代風にアレンジしたもの。スクルージ青年は社長という設定で私利私欲に走っており、そんな青年を3人の天使が更生させるという話。スクルージ青年を演じた仲野温さんや少女ケイトを演じた寺本莉緒さんの好演や、オリジナルで音楽が書き下ろされてミュージカルチックに仕上がっていて役者・演出共にクオリティが高かった。
普段あまり見られない形式の舞台作品だったので、良い経験ができたと言ったところ。
【鑑賞動機】
ホリエモンは以前から演劇のアップデートを掲げて、様々な演劇関係者とコネクションを築きながら演劇をもっと身近なものにしようと活動してきた。その活動の一貫として今回の「クリスマスキャロル」があって気になっていたので今回初めて観劇しようと思った。
それに加え、キャスト陣にも寺本莉緒さんや、劇団4ドル50セントの田代明さんなど知っている女優も多数出演していた点も大きい。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
脚本は、チャールズ・ディケンズの「クリスマスキャロル」をベースに現代風にアレンジしたものであり、2013年にニコニコ動画をきっかけに書かれた脚本であった模様。
スクルージ家の15歳の娘パティ(関根優那)は彼氏が出来たため、クリスマスイブの夜は彼氏と過ごしたいと祖父のスクルージ(堀江貴文)に懇願するが、クリスマスイブの夜は大事な人と過ごす時間だから家族と過ごすように言いつけられる。母のベティ(田代明)も家族と過ごすようにパティに言う。
では一体なぜ、クリスマスイブの夜は大事な人と過ごさなければならないのか、スクルージの祖父の過去を語ってくれる。
若きスクルージの青年(仲野温)は、会社の社長を務めていた。世の中金が全てであり、貧乏人には見向きもしない私利私欲に走っていた人間だった。そのため、家族を省みることもせず、自分の会社に勤める部下たちに対しても冷たい態度で、節約のためにトイレの水を流せるのは1日2回だと言って、彼らの衛生面に対してもそっちのけで自分自身の野心に邁進していた。スクルージ青年は、当然クリスマスイブの夜も家族と過ごすことをせず、一人で過ごそうとしていた。
スクルージ青年はクリスマスイブの夜、街中で貧しい格好をした子供達に出会う。子供たちは「ジングルベル、ジングルベル」と歌いながらスクルージ青年を囲い込む。スクルージ青年は邪魔だと子供達を追い払おうとするが、そこへケイト(寺本莉緒)という可愛らしい少女が現れ、子供達は彼女についていく。
スクルージ青年は、ケイトに一目惚れをする。
その夜、スクルージ青年がベッドで寝ていると大天使ミカエル(湯澤幸一郎)が現れて、彼を鎖で繋ぎ彼が社長として今まで行ってきたことを更迭させようとする。
ここで一幕が終わり幕間に入る。幕間中はスペシャルゲスト(私が観劇した回は箕輪厚介さん)によるトークがあったり、アンサンブルたちのダンスがあったり、ディナー席で食事をしている方たちとホリエモンが交流する場があったりとパーティー形式で盛り上がれる30分間だった。
二幕は、コーラスたちのミュージカルパフォーマンスの後、スクルージ青年がケイトに近づき親しくなるも振られるシーンから始まる。
スクルージ青年は、会社でも自分の居場所を失っていきひとりぼっちになってしまう。
スクルージ青年の前にもう二人の天使も現れ、スクルージ青年は更迭されてやはり自分の生き方はよくなかったと反省し、自分の過去にも立ち返ってクリスマスイブの夜は大事な人たちと暮らすことを決意する。
スクルージ青年はケイトと結婚し、今では温かい家族に囲まれている。
その話を聞いたパディは、「私もクリスマスイブの夜は大事な人と過ごすから、彼氏と過ごしたい」と言って出て行ってしまう。
しかし、パディは彼氏を連れてきて家族と過ごすことを決めて物語は終了。
だいぶ後半部分のストーリーは端折って書いたが、大きなストーリーの流れはこんな感じ。
ホリエモン自身がライブドアの社長であったこともあり、テレビ局や球団を買収しようとした話とか、刑務所にいた時の話とか、時々事実を織り込ませながらストーリーが進行していた点は面白かった。
たしかに凄くホリエモンの謙虚さが伝わってきた気がする。金が全ての痛々しい社長が自らの行いを改めていく過程には特にそういった想いが伝わってきた。客層も金持ちが多いと思うのである意味教訓的な意味合いもあるのかなと思った。
ただ、ちょっとスクルージ青年の台詞は尖りすぎていて差別的にも感じた。例えば、貧乏人に対する偏見とか、同一性障害に対する偏見を示す発言に対して、凄く直球すぎて痛々しく感じる台詞が凄く気になった。そこまで直球過ぎる台詞にしなくても十分伝わったんじゃないかと思った。
ただ、脚本自体は凄くわかりやすくて面白かったし、しっかりとメッセージ性が伝わってきたので楽しめたんじゃないかと思っている。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
舞台作品中の演出と、それ以外の部分(幕間など)の企画演出を分けて書き記す。
まずは、舞台作品としての演出は、舞台装置、衣装、音楽がとても豪華で素晴らしかった。
舞台装置は今年は雪を被った洋風のお家を背後のパネルとして使っていて凄く可愛らしかった。たしか去年の舞台写真を観ると、去年は機械仕掛けの歯車みたいな舞台装置だったので毎年異なるのかなと。
最初と最後の雪をイメージした紙吹雪が舞う演出も良かった。ラストのホリエモンサンタ(現在のスクルージ)とパティの彼氏が抱きしめ合うシーンの紙吹雪はとても印象に残っている。
衣装もキャストメンバーも多く兼任の役もあったはずだが、一人一人の衣装が凄く凝っていた。特に好きだったのはミュージカルシーンで女性たちが踊るシーンが複数あるのだが、その時の衣装たち。白いローブのようなものを纏って踊ったり、悪魔みたいな格好をして踊ったり、はたまた肌を露出させてデリヘルのような格好をして踊ったりとまるで衣装が違って見応えがあった。
音楽は基本的にミュージカルが主体、サブスクでも音楽自体を解禁している。音楽も良かったのだが、個人的には女優たちが踊るダンスが素敵だった。ダンスが入ることによって、一気に舞台の世界に引き込まれる感じもあるし(特に序盤は空気がざわざわしていて舞台の始まる雰囲気ではなかったが、ミュージカルが始まったことで一気に舞台に集中するモードに入った)、感覚的に作品を楽しめる感じが良い。また曲自体もクリスマスにまつわる曲のアレンジなので、誰もが知っている曲が多くて一般ウケがしやすいだろうと思う。特にきよしこの夜のコーラスは痺れた。
舞台作品以外での企画だが、まず料理を楽しんでいる人たちは仲間と談笑しながら楽しいひと時を過ごせるだろう。もてなしてくれるサンタのコスプレをした女の子たちも、マスクをしていて顔が良く分からないのは残念だったが、もてなしをされて凄く心地よくなりそう。
もちろん一般席の方でも料理を注文して食べることが出来た(私自身は、ちょっとあの密室で食事を取ると新型コロナウイルスが怖かったので食事しなかったが)。メニューには寿司とかあった模様。飲み物とお菓子はサービスで全員プレゼントされていた。さすが食と劇のコラボと言った感じで、特殊な企画である。
劇中はもちろん飲食OKで、写真撮影も好きなタイミングで出来る。意外と、周りの音楽等でガヤガヤしていたのでシャッター音とか気にならなかった。
子供からお年寄りまで幅広い年齢層が楽しめる作品だったと思う。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
ホリエモンは役者ではないのでさておいて、他のキャストは割と演技力の高い面子が多かった印象。特に印象に残った役者だけピックアップして書き記す。
まずは、ケイト役を演じた寺本莉緒さん。ここの配役は毎年売れっ子の若手女優を起用しており、2018年には長谷川かすみさん、2019年には武田玲奈さんが演じている。今回の寺本莉緒さんも、私自身はYouTubeドラマ「僕等の物語」で出演していたことがきっかけで知り、最近では個人でYouTubeチャンネルを開設したり、グラビアモデルとして幅広く活躍していて、まさに人気絶頂の女優といったイメージだった。
舞台出演が初めてかどうかは調べていないが、物凄く役作りを丁寧にされている印象を感じた。台詞も非常に聞き取りやすくてハキハキしていた。そして衣装が物凄く可愛らしいので、ビジュアルも相まって役者としての存在感も抜群だった。
個人的に印象に残ったシーンは、スクルージ青年の元を去ろうとした時に時間が止まって、片足で直立不動していないといけないシーンが大変そうに見えて滑稽だった。たしかに最後の方プルプル足が震えていた。
そして舞台中とは関係ないが、カーテンコール時のお辞儀がめちゃくちゃ綺麗だった。
次に、スクルージ青年の役を演じた仲野温さん。この物語で一番出番が多かったのが彼だと思うが、物凄く私利私欲に走った若き社長という感じがとてもハマっていた。そしてそれだけではなく、彼の演じる力強い演技にも惹かれた。
特に印象に残っているのは、序盤の資本主義の世の中金が全てだと豪語するシーン、あそこで彼の傲慢っぷりが良く伝わるのだが台詞のワーディングは置いておいて、凄く作品に没頭できるシーンだったと思うので、その迫力を作り上げた彼の演技は素晴らしかったと思っている。
後半の、どんどん失墜していく無様な様相も凄く良かった。ちゃんと作品を形にしているのは彼の功績だと思う。
そこまで出番は多くなかったが、パティ役の関根優那さんも好演が光った。彼女はいくつくらいなのだろう、おそらく10代だと思うが、凄く健気で真っ直ぐな少女という立ち位置で非常にはまり役だった。
初めて彼氏が出来て、初めてのクリスマスを彼氏と過ごしたいという気持ちは必然的だと思うし、そんな純粋な気持ちがストレートに観客に伝わってくる。
これからの女優としてのステップを期待したい。
最後に、ペティ役の劇団4ドル50セント所属の田代明さん。脇役かと思いきや思った以上に出番が多かった印象。凄く役者としての演技の上手さが周囲の役者と比較して際立っていた印象、客演で実力を発揮できるほどまでに成長したのだなあと感慨深かった。
なんといっても、きよしこの夜を歌っているシーンが印象的。田代さんの声楽を学んできた実力がしっかり現れた場面だっただろう。歌い終わった後の、観客の拍手に自分もつい嬉しくなってしまった。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
今回は、ホリエモンが企画プロデュースしている食×劇という取組そのものについて考察してみる。
ホリエモンがなぜこのような企画をして演劇をアップデートしようとしているかというと、彼自身が舞台を観劇するという行為について、あまりにも自由がなさ過ぎるという課題感を感じた所から出発している。
観劇という行為は、お喋りしてはいけない、飲食してはいけない、出歩いてはいけない、ずっと席に座ったまま黙って役者たちの演技を観なくてはいけないという、暗黙の了解の上に成り立っているのが普通である。当然飲食したり喋ったりしたら、観劇に集中している人にとっては大迷惑である。だから、みんなそういった常識を配慮して沈黙したまま観劇をするのである。
だが、この観劇という行為はこのように制約が多過ぎるが故に、一部の人にとっては窮屈に感じて観劇という行為そのものを毛嫌いする風潮があるようである。
そのような制約を撤廃した舞台作品をもっと広めたい、そういった想いからホリエモンは今回のような食×劇をテーマに、お喋りOK、飲食OK、写真撮影OK、離席OKの自由な演劇を企画したと語っている。
私は当初そのコンセプトを聞いた時に、その主張は確かにその通りだと思って非常に興味を唆られた。その賛同があったからこそ今回の観劇に繋がった。
では実際観劇してみて、そういった旧来の観劇という行為の短所を克服した体験になっていたかについて、私が思ったことを書いてみる。
たしかに、舞台の観劇中は非常に自由で写真撮影もできる、飲食もできるリラックスできる状況だったことは否定出来ないのだが、結論としてはネガティブな要因の方が多いように思えた。
まず、普段の公演の観劇時に比べてアウェイな感覚が強く、結界みたいなのものを会場の雰囲気から強く感じてしまった点である。
当然、ディナーつきの席には仲間たちと一緒にワイワイパーティーのように観劇をしに来ている人たちもいる。彼らの作る雰囲気に飲まれてしまって(ホリエモンと繋がりのある人たちだったと思うので尚更)正直一人で観劇しにいった自分にとっては雰囲気が辛かった。この辛さは、普段芸劇や下北沢の小劇場で舞台を観に行く時には感じない辛さである。普段の公演では、観客たちが役者たちや他の観客と関わることがないため確かに孤独さはあるのだが、パーソナルスペースがみんな守られているせいかそれに対して辛い気持ちにはならず、みんな大人しく観劇を楽しんでいる印象である。
今回の舞台で強く感じてしまった身内間の作る結界というのは、正直初めて観劇するような人にとっては心苦しさがあると思った。
次に、食事が運ばれてきたりとスタッフが会場を周回しているので、舞台にあまり集中できないという点である。
ミュージカルみたいな見所の場面は、舞台上の雰囲気が会場全てを包み込むので邪魔にはならないのだが、そうでないシーン、例えばストーリーが淡々と進むようなシーンはやはり客席内の動きが気になってしまう。
やはり観劇を楽しみたいと思って訪れた人に対しては、良い雰囲気ではなかったのだと思う。
私が感じたネガティブ要素は上記の2点だが、これがホリエモンの身内で且つ仲間たちと一緒に観劇となると、上記のようなネガティブ要因は払拭されて楽しめるのだと思う。よって、必ずしも今回の形式のような作品が良くないという訳ではないのだが、身内限定の舞台作品といった状況かなと思ってしまう。
今回のような観劇の制約に縛られない新しい演劇の形という意味でやっていくのであれば、小劇団が身内を招いてパーティーみたく楽しむ上ではありだと思っている。そういった形式の演劇や会場はもっと増やしていくという方向で良いとは思う。
ただ、今回の形式の舞台がニューノーマルな演劇としては定着しないと個人的には強く思う。作品には十分入り込みたいし、その舞台上の雰囲気を肌で感じたいものである。それを食事や騒音で邪魔されたくはないなと。
また、こういう形式の舞台を配信で一般客に見せるのはアリかもしれない。アウェイな気分になることなく自分のペースで作品を楽しむことができるので。
色々試せる範囲は広いと思うが、いずれにせよ従来型のお喋りNG、飲食NG、出歩きNGの観劇スタイルは今後も必要だと思うし、もしそういった制約を撤廃したいのであれば身内だけにするとか、観客のことをもっと考慮して実施すべきかなという思考にたどり着いた今回の観劇経験だった。
【写真引用元】
クリスマスキャロル2020公式 Twitter
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