舞台 「ピーチオンザビーチノーエスケープ」 観劇レビュー 2021/02/13
公演タイトル:「ピーチオンザビーチノーエスケープ」
劇団:キ上の空論
劇場:シアターサンモール
作・演出:中島庸介
出演:藍澤慶子、井上実莉、小嶋直子、斉藤マッチュ、佐藤沙千帆、田中あやせ、仲井真徹、難波なう、谷沢龍馬、春山椋、三浦真由、美里朝希、宮島小百合、山田梨佳、山谷ノ用心、ゆにば
公演期間:2/7〜2/14(東京)
個人評価:★★★★★★★☆☆☆
R-18指定の舞台作品という条件とフライヤーのインパクトから、非常に気になって観劇。本来は2020年5月に上演予定だったがコロナ禍によって延期となり、満を持して2021年2月に上演することに。実に1年近く待ちわびての観劇だった。
勿論前情報として、濡れ場シーンありということも知っていたので、記憶に残る衝撃的な観劇体験になるだろうとある程度覚悟はしていたが、ここまでストーリーに関しても衝撃を受けるとは思わなかった。
物語の設定は、藤谷ミキオという男が自宅のアパートに何人もの女性を監禁して、毎晩違う女とセックスをするというもの。ここで登場する監禁された女性たちも痛めつけられたいと乞うドMが多くて狂気に満ちていた。そんな体の張った役を見事演じ切れる女優たちが素晴らしかった。
女優だけでなく、数少なかった男性キャストの熱演も光った。特に主人公のミキオを演じる仲井真徹さんの知的障害者っぽく、でも哀れに感じられる演技や、道成演じる斉藤マッチュさんのあの犯行を犯しそうな怖さが非常に印象的だった。
ストーリーの結末は、同時上演の「PINKの川でぬるい息」と対照的でとても衝撃的だった。こちらは詳細を後述してしっかり考察していきたい。
こちらは男性におすすめの作品、女性は引いてしまうかも。素晴らしき作品。
【鑑賞動機】
舞台作品でR-18指定というものに生まれて初めて出会ったので興味を抱いたというのと、フライヤーのインパクトも強烈だったから。キ上の空論は自分にとってはすっかりお馴染みの劇団で3回目の観劇。出演キャストはほとんど知らないキャストばかり。男女が丸裸になったり濡れ場シーンがあると聞いていたので、覚悟して観劇することに。期待値は非常に高め。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ベッドを挟んで、8人の女性たちが談笑している。今日は誰が主人に指名されて性行為してくれるだろうかと。最近誰が指名されたとかされていないだとか、そろそろ私の番がくるかもと話している。
主人の藤谷ミキオ(仲井真徹)が帰ってくる。どうやら仕事場で、後輩の失敗を自分の失敗だと見なされて叱られた様子で落ち込んでいた。今日はセーラー服を着たセーラー(春山椋)を指名したミキオは彼女と性行為をする。今日はいつもと違って、彼女に自分で自分の服を脱がせていた。
ミキオの職場では、職場の先輩の峰(山谷ノ用心)とはよく話をしていたが、職場の先輩自身はミキオのことを変な人間だと訝しんでいた。
次の日もミキオは自宅のアパートに戻ると、今度はロリータ(井上実莉)とブレザー(佐藤沙千帆)を指名した。ミキオはロリータに対しては冷たく、非常に暴力的だった。ロリータ自身はドMで引っ叩かれたり痛めつけられるのが大好きだった。今日も色々とミキオに苦しめられながら洋服を脱ぎ、性行為をしていた。その後にブレザーも性行為をしていた。
カワチ(谷沢龍馬)は、久々に友人の道成(斉藤マッチュ)と会った。道成はずっと服役していて、この前更迭されてシャバに戻ったばかりだった。
カワチはキョーコ(三浦真由)と付き合っており同棲していた。2人はお互いに愛し合っており、近々結婚しようという話までしていた。
道成は偶然カワチとキョーコが2人でいる所を目撃してしまう。そして後日、道成はカワチにキョーコのことを尋ねると付き合っているということを聞かされ驚く。道成が服役する前、キョーコと性行為をしたことがあるようだ。そんな女となぜ付き合っているとカワチに問い正すが答えてはくれなかった。
ある日道成は、キョーコを連れ出して強引に性行為をしようとする。キョーコは必死で拒んで逃げる。
一方、ミキオの自宅に住んでいる女性たちは、手帳に書かれている「サクラダヨウコ」という名前の女性に引っかかる。ミキオの家に連れて来られた時期は皆バラバラであるにも関わらず、皆その「サクラダヨウコ」という名前に聞き覚えがあるのだった。
ミキオは電車の中で、小学校時代の同級生だった河原(藍澤慶子)と偶然再会する。懐かしい思い出話をして仲良くなった2人はLINE交換をする。
ミキオはまた、自宅に新しい女性を連れて帰ってきた。目隠しをしてOLの格好をしているその女性、名前をOL(山田梨佳)と名付けてその日の晩の性行為対象とした。ミキオとの関係性は、小学校時代の幼馴染でOLということもあって非常に河原に似ているが、河原とは別の女性である。
道成は執拗にキョーコに電話をかけてくる。キョーコは恐る恐る電話で受け答えする。道成は、どうせカワチと結婚するのならそれまで俺とやらせてくれ金になるんだからというようなことを遠回しに言ってキョーコの元へ向かおうとするが、キョーコはそれを怯えながら拒み続ける。
なかなか自分の要望を受け入れてくれないキョーコに対して、道成は怒って電話を切る。
ある日、道成とミキオが通り道ですれ違う。久しぶりとお互い声をかける。彼らは兄弟だったのだ。ミキオは道成がシャバに戻ったことを知り、道成は今でもミキオが小学6年生の少女を誘拐し自宅アパートに監禁していることを知る。
道成はカワチと会う。カワチはキョーコに脅迫している道成を問い詰める。苛立った道成は、カワチを電気ショックによって気絶させる。そして彼をミキオのアパートへ連れて行く。道成と気絶したカワチを見ながら呆然とする監禁された女性たち。
道成は、カワチの頭に袋を被せて椅子に座らせ手を縛り上げて身動き取れない形にした。そのまま道成はミキオの家を立ち去る。
ミキオのアパートの部屋の隅に一人の女性が座っていた。監禁された女性たちは、誰?と訝しんでいる。その女性(難波なう)は話し始める。
その女性は「サクラダヨウコ」と名乗っており、小学6年生の夏の暑い日にミキオに誘拐されてこのアパートに連れて来られ、そこから10年以上も監禁されてきたのだと。ある時は中学生の制服を着させられて性行為をされたり、ある時はロリータ服を着させられて性行為をされたりと。その日その日をまるで自分が別人であるかのような扱いをされながら性行為したことによって、次第に自分らしさというものが消えていった。
その代わり、アパートには何人もの女性が姿を現した。セーラー、ブレザー、ポリス(宮島小百合)、ロリータ、ナース(田中あやせ)、マリア(小嶋直子)、ネグリジェ(美里朝希)にヤンチャ(ゆにば)、そして最後に加わったOL。監禁されている女性たちは全てミキオの幻想だった。初めから監禁されていたのは「サクラダヨウコ」ただ一人だった。
ミキオは喫茶店で河原と待ち合わせをしていた。河原が喫茶店に現れる。ミキオはしどろもどろな会話で河原が困惑している。そこへ、峰が偶然喫茶店に現れる。峰は驚く、河原は峰の元妻だったからだ。峰はショックを受ける、よりによってなんで自分の後がミキオなのだと。
そのことを知ったミキオは急に狂い始める。「お前らセックスしてたのか!」といきなり喫茶店内で大声を出す。峰と河原はドン引きしている。
ミキオは急いで自宅アパートに帰る。その手には包丁を持っている。その包丁をサクラダヨウコに渡す。
「いいから、俺を刺せ。俺のことを殺したいと思うくらい憎んでいるだろ?」ミキオはサクラダヨウコに包丁を自分の腹へ向けさせる。しかし、サクラダヨウコは彼を刺そうとミキオの腹寸前まで包丁を向けるが、刺すことは出来なかった。
その代わり、サクラダヨウコはその包丁で椅子に縛られているカワチを解放してあげた。
「何をしてるんだ!カワチは俺らのことを警察に通報してしまうぞ!」ミキオは叫ぶが、サクラダヨウコはそれを聞かなかった。
カワチは解放されると、そのまま呆然としたままミキオのアパートを出ていった。
カワチは自分のアパートへ戻ってくる。そこには、キョーコが首を吊って死んでいる光景を目の当たりにする。
「おかえり、数日前首を吊って死んでたよ」カワチのアパートに上がり込んでいた道成が出てきてそう答える。
カワチは手にしていた包丁で道成を殺害する。血だらけになったカワチは、首を吊ったキョーコの姿を見て泣きじゃくるのだった。
ミキオは今でも自宅アパートにサクラダヨウコを監禁して、毎晩のように様々な女性に変装させて性行為を楽しんでいるのだった。ここで物語は終了。
改めて今作のストーリーを書き起こしてみて、凄まじくイカした作品だと感じた。実際に昔日本でも、「新潟少女監禁事件」という新潟県柏崎市で9歳の少女を約9年間男の部屋に監禁していたという事件があったので、今作に描かれているような出来事が実際問題として起きても何も不思議なことではない。
一番衝撃的だったのは、女性たちがヌードになって演じるということもそうなのだが、長い年月監禁された結果、サクラダヨウコという少女はアイデンティティーを失ったということ。毎晩のように性行為をされて次第に何がなんだか分からなくなってしまったということ。だからミキオを殺すことも出来なかった。ここは考察でも深く考えて自分の意見を書いていきたい。
一先ず、R-18指定という濡れ場シーンがあるというインパクトだけでなく、脚本にもクレイジーな側面を孕んだ問題作だったことは特筆しておきたい。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
今作品の舞台美術は、特に舞台装置に関しては「PINKの川でぬるい息」と同時上演であるということもあり、舞台中央に大きなベッドが置かれているだけの簡素な演出だったのだが、照明、音響、そしてなんと言ってもR-18指定という濡れ場シーンの演出について厚めに考察していく。
まず照明だが、基本的には黄色い照明で照らされるシーンが多かった印象だが、道成がキョーコに対して電話で脅迫してくるシーンや、終盤のミキオがサクラダヨウコに自分を刺殺するよう仕向けるシーンの薄暗く青い照明はなんとも不気味で印象的だった。
一番印象に残ったのは、一番最後のシーンの舞台手前側でカワチが首を吊ったキョーコを見上げて泣いているシーンの背後で、監禁された女性たちがベッドを囲んでビキニ姿になりながらミキオとサクラダヨウコが性行為を楽しんで、まるでビーチにいるような感覚で楽しんでいるシーンの照明。非常に白に近い黄色の光量の強い照明が当てられ、まるでパラダイスのような浮かれたシチュエーションが描かれることによって、この監禁地獄は今でも続いているんだなと感じさせるあたりが凄く衝撃的なラストだった。照明演出とは関係なくなるが、手前側でカワチが血だらけになって泣いているというバッドエンド的な描写の背後で、ミキオがビキニ女性に囲まれながらビーチを楽しんでいるというハッピーエンド的な構図がとてもイカしている。演出として素晴らしいと思った。
次に音響だが、まずBGMに関しては客入れとエンドロールの洋楽が耳に残っている。客入れ時のBGMは少し静かめな洋楽でカラーボールが光っていた記憶、客入れ無音だった「PINKの川でぬるい息」と比較すると非常にお洒落で軽快に物語が始まった印象。ラストのビキニ姿で女性たちがベッドの周りで踊る時のBGMは、こちらも洋楽なのだがもっと明るいテンポでノリの良い音楽だった印象、アーティストはちょっと分からないが凄くハマった音楽だった。
効果音というか劇中の歌詞なしBGMも凄く恐怖を煽られるような演出。特に印象に残ったのは、キョーコと道成の電話でのやり取りの中でのシリアスな音楽。あの後暗転もしたので凄く恐怖が煽られたことを覚えている。素晴らしい音響効果だった。
そして、今作の一番の見せ所というか演出ポイントである、R-18指定の濡れ場の演出。序盤から舞台女優たちが本当にブラジャーまで脱ぎ始めるので、「マジだった・・・」という感想。客席は90%以上が男性だったので皆どんな気持ちであの描写を観ていたのだろう。私は凄く観てはいけないものを観てしまったような罪悪感みたいなものに襲われましたが、性的な興奮みたいな感覚には陥らなかった。やっぱりそれだけ芸術というものを観させられているからなのだろうか、凄く変な感覚に陥った。
そしてヌードを演じる女優の方たちの覚悟ってどんなものなのだろうかとも思った。AV女優とかではなく舞台女優を目指して活動されている方たちだろうから、何かしらの躊躇や戸惑いはあったと思う。そこを乗り越えて演じ切れる女優たちに拍手を送りたい。
また、最後のシーンでヌードではなくビキニ姿になって踊るシーンでも感じたのだが、みんな素っ裸になって解放された感覚だからなのだろうか、役者のテンションも異常なくらい高かった印象を抱いた。やはりそういう本能的な気持ちから来る演じ方も大事だと思うし、そういうハードルを超えて作品に仕上げた演出家の中島庸介さんにも拍手を送りたい。
その他の演出部分でいうと、監禁されたコスプレした女性たちが、サクラダヨウコとして一体化して棒読みで過去を語り始める演出がとても印象に残っている。凄く演劇的な演出だった。そして、そこから物語は急展開するのでハラハラドキドキさせられる感じがあの演出によって更に煽られて凄く良かった。ああいう演出は個人的に物凄く好き。
細かい演出部分だと、ちょっと意味を捉えきれなかったが道成とミキオが一生懸命手を洗っている演出が記憶に残っている。性行為をする前後だからだろうか、ちょっと完全には理解出来なかったが印象には凄く残っている。
また、最後のシーンのキョーコが椅子を倒すことに寄って、自分は首を吊って死んだのだということを示した演出が個人的には好きだった。なるほどってなった。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
ヌードになって演じ切るという点でもあっぱれなのだが、それ以外の側面でも役者の演技力の高さを非常に感じたので、ここでは濡れ場以外の観点での役者の演技の素晴らしさについて触れていく。
まず主人公の藤谷ミキオを演じた仲井真徹さん。彼が演じる知的障害者的な狂気地味た演技に感動した。
特に印象に残っているのは、終盤の峰と河原が夫婦関係であったことを知ってから狂い始める演技である。いきなり「セックスしてたのか!」と叫び始める所から始まり、無性にアパートの部屋の中を走り回る姿、サクラダヨウコに自分を殺すよう迫る姿は非常に恐ろしさを感じた。あそこまで狂った演技が出来る仲井さんは素晴らしい役者だと感じた。また、あの型位の良さも相まって狂った時の恐ろしさが倍増する。
また、「1、2、3」と数えるあたりや、誰もいない席に向かってそこに河原がいるかのように話しかけるシーンも、演出も相まって凄く狂っていて心動かされた。
次に、サクラダヨウコを演じた難波なうさん。最初はひっそりと隅の椅子に座っていて存在感がなかったのだが、コスプレした監禁された女性たちに「誰?」と声をかけられてから、次第にモノローグを語り始めて、ミキオに襲われて性行為を求められ発狂する演技がなんとも苦しかった。そこにいるサクラダヨウコはたしかに大人なのだが、小学6年生の少女にも見えてきてしまって、その少女が男に襲われて性行為を強要されている感じにも見えて苦しかった。
そんな演技を出し切れる難波なうさんは素晴らしい。
コスプレした監禁された女性たちも色とりどりで見ていて楽しかったのだが、中でも一番印象に残ったのが、ロリータ服を着たロリータの井上実莉さん。
彼女の愛らしさみたいなものが単純に好みでもあったのだが、一番衝撃を受けたのが痛めつけられて欲しいと乞うドMであること、「痛い!」と叫び苦しみながらも凄く喜んでいる感じがしていて、それが非常に狂気地味てみえたし、最高だった。
個人的には今作品で一番演技力の高さを感じたのが、道成を演じた斉藤マッチュさん。Twitterの口コミでも非常に彼の演技を褒め称えるツイートが多かったが、彼は本当に一流の俳優として活躍出来る素質があるくらいの迫力と演技力の高さを感じた、
例えば、キョーコと電話するシーンの、あの苛立ちを感じていつ爆発するのかビクビクしてしまうくらいの恐怖を煽る演技だったり、カワチとの電気ショックを噛ますシーンの恐ろしさだったり、非常に声が通るのもあり、あの柄のついた衣装と強面な印象も相まって本当に恐ろしさを感じさせる俳優だった。
ミキオのアパートに押しかけて、あの少女はいるかと布団を貪りとって下着姿の女性を見つけるシーンなんかも恐怖という意味では印象的。
そして最後に、キョーコを演じた三浦真由さんの演技も個人的には好きだった。あの大人しく繊細な女性という感じが好き。カワチのことを凄く愛していて、このままカワチと結婚して幸せな家族を築いて欲しいと願ってしまう。
しかし、道成という男が邪魔をしてきて、キョーコを電話で脅迫するシーンがなんとも心苦しかった。脅迫に対して怯えるキョーコの姿が本当に可愛そうに思えて、そういう演技が出来る三浦真由さんが女優として素晴らしかった。
だからこそ、最後に首吊をしてしまったというオチがなんとも残酷すぎる。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
冒頭でも記載したように、この作品を観劇して思ったことは、20年近く昔に「新潟少女監禁事件」という30代の男性が当時9歳だった少女を監禁して自分の部屋に閉じ込め、約9年間に渡って暴行を加え続けてきたという事件が実際にあったことである。
当時自分はまだ小学生だったので、その事件について薄い記憶しか残っていないのだが、この作品を観劇していかにその事件が狂気じみた事件だったかを痛感させられたような気がする。
この舞台作品を観劇して思ったことは、劇中の描写にサクラダヨウコという女性がミキオとの性行為を続けていく内に、次第に自分という存在が消えていったと語っている点が非常に興味深かったことである。サクラダヨウコというアイデンティティーは消えてなくなり、ポリス、ナース、ロリータ、セーラーといったコスプレした記号としての女性だけが残った。だからサクラダヨウコという自分の名前に対して記憶にあるが思い出せない存在となってしまったのである。
それが、カワチをミキオのアパートに監禁するという出来事が起きたことによって思い出されたのである。自分も10年前に、同じようなことをされた経験が蘇ったのである。
OLという記号でしかない女性は、ミキオの中では河原がモチーフになっていた。これを考えると、他のコスプレをした女性たちもミキオが今までに遭遇した女性の誰かを想像して作り上げた女性なのかもしれない。
更に興味深いことは、ミキオは実際に相手に好きだと思われた女性から性行為をしたことがなかった訳だが、峰と河原がお互い愛し合って性行為をしていたという事実を知って気が狂ってしまうと、サクラダヨウコに自分を殺すよう仕向ける。しかし恨みつらみは十分溜まっているはずのサクラダヨウコはミキオを殺すことは出来なかった。
一方で、数日間しか監禁されなかったカワチは、解放されると真っ先に恨みの根源である道成を殺害している。この対照的な行動は何を示唆しているのか。
これはおそらく、カワチは正常でありサクラダヨウコは異常であったことを意味しているような気がする。カワチは数日間の監禁の上、大人であるから当然状況をよく分かっている。その上愛人のキョーコを自殺へ追い込んだ首謀者として道成へ怒りの矛先が向き殺害に至ったのだと思う。
一方でサクラダヨウコは、当時小学6年生という子供であった上に、10年以上も監禁されて外の空気を知らない。性行為をしたことがある人間もミキオただ一人で、それが全てとなっている。こんな状況下では、なかなかミキオを殺すことは出来ないだろう、そもそも自分というものを見失った状態なのだから。
そして、カワチが外へ解放された後もミキオは世間にバレることはなくサクラダヨウコを囮にして性行為三昧の毎日を送っているのだろう。
実際に「新潟少女監禁事件」で、ずっと監禁され続けた少女が発見された当初は、運動障害などを起こしていて筋力低下や骨量減少、そしてPTSDも患っていたという。元の生活に戻るまでに相当な時間がかかる上、一生付きまとう障害も残ってしまっただろう。
そんな悲惨な事件はあってはならないし、やはりそういった事件については皆が知っておくべきだと思う。
そういう過去にあった事件についての理解を深められたのは、今回の観劇があったからでもあるし、R-18指定というだけでもインパクトのある作品だったが、そういう観客に教訓を残してくれた作品でもあったという観点から、脚本という意味でもなかなか評価をすべき衝撃的な内容だと思っている。
【写真引用元】
キ上の空論 公式Twitter
https://twitter.com/kijyooo