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舞台 「ホリディ」 観劇レビュー 2023/01/20


写真引用元:画餅 公式Twitter



公演タイトル:「ホリディ」
劇場:下北沢 小劇場B1
劇団・企画:画餅
作・演出:神谷圭介とチーム画餅
出演:海上学彦、小野カズマ、神谷圭介、佐久間麻由、佐藤有里子、髙畑遊、波多野伶奈
公演期間:1/19〜1/22(東京)
上演時間:約1時間40分
作品キーワード:コメディ、コント、オムニバス
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆



演劇ユニット「テニスコート」の神谷圭介さんが昨年(2022年)立ち上げたソロプロジェクト「画餅(えもち)」の公演を初観劇。
今回の公演は「画餅」の第2回公演にあたるのだが、作風は第1回公演も含めてオムニバス形式で進行するコメディである。
また、劇場公演の他に配信も存在し、配信ならではのカットで楽しめるので、劇場公演とはまた違った楽しみ方が出来る点が「画餅」の魅力の一つである。

今作の物語は、タイトルに存在する「ホリディ」にまつわる3つのオムニバス作品から構成されている。
3作品とも日常の一部を描いているのだけれども、ちょっとずれてしまった日常を描いているので、起こるハプニングが奇想天外で、それをコント風に描きながら「ホリディ」を通してその3つの作品が繋がりを持っている点が注目ポイントの一つである。
出演者は7名とスタッフ役の2名の合計9名しかいないため、一人でオムニバスごとに異なる役を演じて進行する。具体的な物語に関してはネタバレ回避のため、冒頭では言及を避ける。

私が初めて「画餅」の公演を観劇して感じたことは、演劇ユニット「玉田企画」の作風に近くて、どちらかというと演劇の要素が多いコントといった印象。
演劇ユニット「ダウ90000」以上に間合いを大事にしていて、それによって笑いが起きたりする。
情報量を詰め込みすぎずに、じわじわと笑いに誘導させる伏線が展開されて、後で伏線が回収されてどっと笑いが起こる感じがとても演劇的なコントとして個人的には好きだった。

ステージ上は固定の舞台装置はなく、その都度椅子や机などの道具が場転中に用意されて、話が展開される。
だからこそ、各オムニバス単位で全く別の場所のシチュエーションを描いていて、上演時間100分の中で様々な作品を鑑賞出来たお得感もあって良かった。

役者陣も演技が上手い方が多くて、会話の内容だけでなく表情だったり間の作り方によって笑いを取ってくる感じがとても好きだった。
俳優としての演技の実力を活かした笑いの取り方が良かった。
特に、ナカゴーの高畑遊さんと佐久間麻由さんが素晴らしかった。

コメディが好きな方にはぜひとも観ていただきたい舞台作品であり、劇場観劇が叶わない方には配信でじっくり堪能して欲しい一作だった(配信は2023年2月中旬に配信開始の予定)。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第2回公演「ホリディ」より(撮影:南阿沙美)



【鑑賞動機】

神谷圭介さんは、玉田企画の『今が、オールタイムベスト』や、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん作演出の『世界は笑う』で演技を拝見していたが、神谷さんが主宰するソロプロジェクトの演劇というのはどんな感じなのだろうと興味を持ったので観劇することにした。
「画餅」は、第1回公演の『サムバディ』の評判が非常に良くて、テレビプロデューサーの佐久間宣行さんもSNSで絶賛されていたので期待値は高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

# 1
飛行機の中、座席に複数人の乗客が座っている。進行方向に向かって右手の座席に、奥側にアイマスクをして眠っている西田(神谷圭介)、その横に田村優(海上学彦)が座っている。通路を挟んで左手側には理沙(波多野伶奈)が座っている。
田村は機内に飛んでいる蚊に刺されたらしい。そして今でも周囲を蚊は飛び回っているようだった。客室乗務員を呼び、機内に蚊がいることを告げる田村、その光景を気にする理沙。理沙は痒そうにしている田村に対して、持参していたムヒを渡す、これ使ってどうぞと。田村は有り難くムヒを使ってかゆい所に塗る。そのムヒには「理沙」と書かれていたらしく、田村は隣りの女性が理沙という名前であることを知る。
田村は、女性の名前を知ったことをきっかけに自分の名前が田村優であることを求められていないのに自己紹介し、そこから2人は会話を始める。
この飛行機はタイへ向かっているのだが、理沙はどうやらタイへ旅行に行くらしい。理沙はトイレに行くために離席する。

田村は先ほどの蚊を再び発見し、その蚊が眠っている西田の顔に止まったのを叩く。それによって西田を起こしてしまう。西田は不機嫌そうに田村を見るが、蚊が止まっていたことを説明する。
理沙がトイレから戻ってきて、田村がフレンドリーに理沙と話している様子を西田は訝しげに思う。それに気がついた田村は、理沙に西田が自分の上司であることを紹介する。その後に、田村は理沙とは先ほど偶然ムヒを貸してくれたことをきっかけに知り合ったと話す。
西田たちはなぜタイへ向かっているのかという話になり、西田は自分の妻の母が亡くなってその散骨のためにタイへ向かっていることを話す。

空港へ着き、乗客たちはキャリーケースを引きながら、荷物検査を並んで待つ。田村と理沙は並んでいる最中にずっと話をしている。そして荷物検査のブザーは6人に一人くらいランダムで赤く反応すると話している。
理沙と田村は荷物検査をしてそれぞれセーフだったが、その後に荷物検査を受けた西田が引っかかってしまう。

西田は、職員1(小野カズマ)と職員2(高畑遊)に荷物を取り調べられる。勝手にキャリーケースを開けられ、中に入っていたストライプ柄のパンツをタイ語で小馬鹿にされる。
職員たちは、キャリーケースの中から透明の袋に入った白い粉末を発見する。職員は「ドラッグ?」と聞いてくるので、西田は必死で否定して「マイマザーズボーン」と訴える。「ワイ?」と聞かれたので西田は「スルー」と投げるポーズをしながら説明する。職員は野球(ベースボール)と勘違いして話が通じなかったようで、西田に対する疑いは更に深まったようである。

一方、理沙と田村はタイに到着して2人でフォーを食べようとしていた。田村が食べる前に席を外している間、理沙は近くにいた犬に足を噛まれてしまう。その様子を見た田村は大慌てして、急いで病院に電話をかけようとパニックを起こす。
しかし理沙は、なぜ田村が犬に噛まれた程度でそこまで慌てるのか疑問に感じる。田村は、タイにいる野生の犬は噛まれると狂犬病を発症するリスクがあって、発症したら致死率が100%に近いからだと説明する。狂犬病に発症する確率は30〜60%、なんとかして救急車を呼ばないとと田村は言う。
しかし理沙は落ち着いた様子で、自分はスロットが趣味で、トリプルチェリーが出る確率が同じ30〜60%だが、あまりトリプルチェリーに遭遇しないから、きっと狂犬病も発症しないだろうと唱える。だからフォーを食べて、マッサージに行きたいと言う。
結局、田村を差押えた理沙は、足を引きずったままマッサージへと向かってしまう。

#2
助監督(神谷圭介)は、とあるCMの一般公募の審査で、雨宮のぞみ(佐藤有里子)という主婦が公募してきたので、彼女の演技審査をする所だった。今回のCMは洗濯洗剤「ホリディ」のCMで、雨宮に汚れた白い服を持たせて、自宅の玄関から男性が「ホリディ」を持ってその汚れた衣服を綺麗に洗濯出来ることを告げながら登場するという想定で、びっくりしたリアクションを要求していた。
いざ演技の審査に入ると、雨宮は自宅に知らない男性が入ってきたというシチュエーションをイメージしてしまい、物凄い叫び声をあげてしまう。助監督はその演技に戸惑ってしまい、びっくりした様子の演技をして欲しいと言う。雨宮は、知らない男性が玄関から入ってきたらこんなリアクションをすると思ったからと言う。そこで助監督は、その知らない男性が本番では阿部寛なので、阿部寛という世界線でお願いしますと言う。
雨宮は、早速同じように演技を行い、男性が登場した所で「阿部寛...」とつぶやく。

いよいよ「ホリディ」のCM撮影の本番直前となる。スタッフたちは忙しくしている。阿部寛本人はまだ到着しないので、スタンドインの佐竹(海上学彦)が阿部寛の代役を務めて練習する。
佐竹は雨宮に自己紹介する。佐竹は俳優を目指して修行中とのことで、非常に威勢があってポジティブで「ありがとうございます」を連呼している。佐竹と雨宮はCMの練習を始める。1回練習した後、雨宮は最初やってみてボツになったバージョンがあることを告げる。佐竹はそれで練習してみようと言う。
雨宮は、佐竹が「ホリディ」を持って登場すると、物凄い叫び声をあげて怖がる。何事かとスタッフたちは雨宮と佐竹の元へやってくる。それが丁度佐竹が雨宮に襲いかかって雨宮が叫んでいるような格好だったので、佐竹が取り押さえられそうになるが、CMの練習だったとのことで疑いが晴れる。
佐竹は、先ほどの雨宮が物凄い叫び声をあげるバージョンを気に入ってしまい、助監督にこのバージョンでCMの本番を撮影した方が良いと提案する。しかし、佐竹のその提案の推しが強すぎるあまり、助監督から取り押さえられ、スタンドインの立場で意見するな、言われたことをやれと叱られる。
そこへ、本物の阿部寛(小野カズマ)が登場し、先ほどのバージョン(雨宮が物凄い叫び声をあげるバージョン)でやろうと言う。雨宮は、「阿部寛...」と言う。助監督は阿部寛のその提案に戸惑っているが、阿部寛は強く推してくる。助監督はクライアントと相談することを約束し電話をかける。

佐竹と雨宮は2人で弁当を食べる所だった。雨宮は佐竹に唐揚げを二つおすそ分けする。2人の話から、結局CMはクライアントの要望で従来どおりのシナリオで撮影が終わったようだった。

#3
食卓に向かってサトコ(佐久間麻由)とミスズ(高畑遊)が座っている。ミスズはサトコの妹らしい。ミスズは「カニミ」の話をする。サトコは首を傾げている。ミスズの話には「カニミ」は、大量のカニが満月の日に海を渡り歩くことを指すのだと言う。サトコは、それはウミガメみたいだと言う。今度はミスズは、「カニパンガリ」と「ウチワエビ」の話をする。サトコは首を傾げる。ミスズは、「カニパンガリ」は、カニパンのカニのことを「カニパンガリ」と言い、団扇の形をしたエビを「ウチワエビ」と言うと話す。

そこへハズキ(佐藤有里子)と村松(小野カズマ)がやってくる。ハズキは顔を包帯でグルグル巻いて大怪我をした感じになっている。村松は胡散臭そうなスーツを着た男性だった。
ハズキは、どうやらサトコとミスズの姉のようで、亡くなった母親のことについて遺産相続に関しては、村松という弁護士にお任せしたと言う。サトコとミスズは、ハズキが勝手に母親の遺産相続に関して弁護士に任せてしまったことに抗議する。村松は胡散臭そうな話し方で彼女たちを説得する。
そして話は、母親の埋葬方法に関することになる。村松の話では、母親の遺言に基づき、このタイという土地の谷間でバンジージャンプをしながら散骨することを説明する。これに関しても、サトコとミスズは抗議する。バンジージャンプなんてしたくないと。

ハズキとミスズだけになる。ミスズは、ハズキの怪我のことを心配する、どうしたのかと。ハズキは村松と谷間に下見に行った時にちょっとやってしまったと言う。ちょっと所ではないとミスズは心配する。そして、ミスズはハズキと村松がデキていることを知る。
サトコは、タイに到着した夫の哲郎(神谷圭介)と電話でやり取りしていた。哲郎の話によると、保持していた母親の遺骨が空港で押収されてしまったと言う。サトコは怒る。
サトコと哲郎は合流すると、母親の遺骨が押収されてしまったことに対してサトコが哲郎を叱り、バンジージャンプで散骨する時の遺骨の代替物として洗濯洗剤の「ホリディ」を、遺骨を収納しておくためのゴディバの箱に詰める。

村松とミスズは2人きりでいる。ミスズはいきなり村松に襲いかかってキスをする。しかし村松はそのキスを振り払い、自分はハズキと付き合っているからと言う。
しかしミスズは2度も村松に強引にキスをする。そしてその光景を偶然哲郎に見られてしまう。哲郎は部屋に入ってきて、キスの光景を見るやいなや立ち去る。ミスズは見たでしょ?と哲郎を追及するが見てないですと答える。
サトコはミスズの前で嘔吐しそうになる。ミスズは人が話している時に吐かない!と叱りつける。サトコは妊娠して今お腹に3ヶ月の赤子がいるようである。

いよいよ食卓に全員揃って、ゴディバの缶箱に入った母親の遺骨も揃って、バンジージャンプして散骨する人を決める時がやってくる。村松は、じゃんけんでバンジージャンプをする人を決めるが、問題は勝った人が飛ぶか、負けた人が飛ぶかだと言う。
ミスズは自らバンジージャンプをすることを立候補する。村松は、バンジージャンプをする人にサインをさせる。しかし、ミスズは難しい内容が書かれた書類にサインすることが怖くなってしまう。今度はサトコが立候補する。
村松は、この母親の遺骨を前にしてウミはもうないですか?と問いかける。そのウミに対して哲郎が反応し、サトコのお腹にいる赤子は自分の子ではないと告白する。サトコと哲郎は1年以上離れ離れだったので、妊娠出来るはずがないと。また哲郎は、ゴディバの缶箱に入っているのは母親の遺骨ではなく「ホリディ」であり、本物の遺骨は空港で押収されたことを暴露する。また、ミスズが村松とキスしていたのを目撃したことも暴露する。そして哲郎は立ち去る。
次から次へと信じられないカミングアウトがあったことに一同は何も言えず沈黙が続く。

ハズキとサトコとミスズは3人で寝床に就いている。ミスズは絵本作家として、自分がかいた絵本を読み聞かせる。とある中華料理店の店員の2人が、緑色のボーダーの服がお揃いで出勤してきたことから始まり、店員は皆緑色のボーダーを着て接客するようになったことで、その中華料理店のユニフォームのようになった。その様子をしった店主は孤独を感じたという話。
サトコはそれは絵本なの?と疑問を投げかける。
今度は、ミスズは野口五郎の名前の由来について話す。野口五郎の名前の由来は、野口五郎岳という山の名前で、きっとその山も野口五郎という人物から由来するはずなので、名前の由来が一回山を介すのが面白いと。
ここで物語は終了する。

3つのオムニバス作品を上演する形で進んだが、ストーリーが決して展開スピードが速い訳ではないのだけれど、ずっと引き込まれて観ていられるのが素晴らしかった。脚本の素晴らしさなのだろう。
そして、3つのオムニバスの繋がり方も絶妙だった。1つ目のタイへ向かう機内と空港と田村と理沙のデートの話と、2つ目の「ホリディ」のCM撮影の話は全く繋がらないから、そこまでは関係してこないと思っていたら、3つ目がこれは1つ目と繋がりそうだぞと散骨の話から思い始め、そして実際に繋がり、まさかの「ホリディ」が遺骨の代わりにされて2つ目とも関連するというのが面白かった。こういうオムニバス形式の演劇で、多少関連してくる感じのストーリー構成は初めて出会ったので新鮮な気持ちで観られてよかった。
ただ、ラストのハズキとサトコとミスズが話している、中華料理店の緑色のボーダーのユニフォームになる話と野口五郎岳の話は、全体のストーリーに対してどう関係してくるのだろう。それが不思議だった。てっきり哲郎が全てカミングアウトして終わりかと思ったので、最後エピローグ的な形でミスズの絵本の内容を取り入れた意図が気になった。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第2回公演「ホリディ」より(撮影:南阿沙美)



【世界観・演出】(※ネタバレあり)

特に作り込まれた舞台装置がないからこそ、3つのオムニバス作品で全然異なるシチュエーションをシームレスに近い形で描いていたと思う。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
最初はタイ行きの飛行機内を表した、キャスター付きチェアを座席のように並べたようなプリセットで始まる。そこから場転を挟んで、荷物検査の何もない素舞台、西田の荷物が取り調べられる机が置かれたシーン、田村と理沙がフォーを食べる机と椅子と暗転を挟みながら持ち運び可能な装置が出し入れされる。
2作品目では、CM撮影の照明や音響機材が舞台装置として登場する。あれはおそらく本物だろう。
3作品目では、食卓と思しきテーブルが中央に置かれたシーンが多かった。ラストの3人の姉妹がミスズの絵本について語るシーンだけ布団類が舞台上にあった記憶である。
こういった移動可能な舞台装置だけ使って芝居をやっていたので、凄く観客としては想像力を働かされるし個人的には好きだった。

次に舞台照明。
特に印象に残っているのは、序盤の荷物検査の問題なければ緑色に点灯し、引っかかると赤く点灯する照明。なんとなくあの簡素な感じが東南アジアっぽさを醸し出している気がした(東南アジアへ行ったことはないが)。
あとは場転中に、薄暗い青色の照明が付いていたのが印象的だった。

次に舞台音響について。
個人的に好きだったのは、場転中に流れているゆったりとしたスローな音楽が好きだった。どことなく熱帯地域を想起させるようなタイを舞台にした今作だからこそ適切だったのかもしれない。
あとは、哲郎との電話でのやり取りの録音と、西田が荷物検査で引っかかった時の効果音くらい。

最後にその他演出について。
先述した通り、今作は演劇とコントが融合した作風の中でも、特に演劇的な間合いを大事にしたコメディだと感じた。
例えば、一番始めの蚊がずっと飛んでいて田村がずっと気にしているシーンから始まるのだが、しばらく役者が登場してからも台詞が発せられないので、沈黙がシーンを作って、それでも観客を引き込んでいく工夫があって好きだった。
あとはなんといってもラストのシーンの間、哲郎が全てを暴露して去っていくが、そのあまりにも想像していなかった事実を突きつけられたハズキ、サトコ、ミスズ、村松が何もリアクションできなくなって暫く沈黙するシーンのあの間が何とも素晴らしかった。暫く沈黙の間が続くので、観客としては笑いをずっと堪えるのに必死だった。笑ってしまうと会場内で目立ってしまうなという意味での我慢で、これも劇場観劇ならではの緊張感と面白さを堪能出来て好きだった。そして、その間の役者陣の何とも言えない表情も好きだった。
あとはストーリーの設定が、日常にありそうでへんてこなのも凄く印象的だった。例えば、亡くなった母親が散骨を望んでいたようだが、バンジージャンプをしながら散骨をするというのは奇抜過ぎる発想だし、遺骨が薬物のように白い粉末として袋に入れられているのもずれていて面白かった。
あとはコメディなのだけれど、序盤はラブストーリー、後半はヒューマンドラマ的な要素も含まれていて良かった。田村と理沙が心を通わせていく流れはどこかキュンとするようなシチュエーションで、笑いとは違う感情が動かされて良かったのと、後半の亡くなった母親の遺産相続のシーンに関しては、家族もののヒューマンドラマらしさがあって、そちらに関してもコメディとは違う感情を動かされた。姉妹同士の愛を感じられた。
あとは、3作品全体に対して、伏線を上手く張りながら最後の3作品目で回収していく構成が、凄く巧妙で素晴らしかった。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は役者陣も素晴らしかった。コント風の作品ではあるものの、演劇界隈の俳優陣たちで作られた芝居なので、役者としての実力が活かされた舞台だったと捉えた。
序盤はもう少し演技をブラッシュアップした方が良いかなと感じた箇所はあったが、特に後半に関しては申し分なかった。
7人しかキャストがいないので、全員について触れていく。

まずは、田村優役と佐竹役を演じた海上学彦さん。
田村優役に関しては、年頃の女の子を好きになる好青年という感じがして、青春らしさを感じさせてくれる演技が好きだった。最初は理沙との会話がぎこちなかったけれど、徐々に打ち解けていって、最後は狂犬病を心配する姿にラブストーリーらしさを感じさせてくれて良かった。
そして佐竹の役がもうなんともウザいキャラクターで好きだった。俳優の卵なのに、やたらと威勢が良くてとてもポジティブで、「ありがとうございます」を連呼していて、身の回りにこんな奴いたら絶対叱りたくなるくらいウザいのが凄くキャラクターとして好きだった。マーベルが好きなのも凄く似合う気がする。こんな感じの俳優の卵って本当にいるのかな?いたら距離を置きたいなと感じながら観ていた。

次に、理沙役を演じていた波多野伶奈さん。
年頃の女の子という理沙役が非常に似合っていた。田村が恋に落ちるのも頷けてしまう。
田村と同様で、徐々にぎこちなかった会話から田村と言葉を交わしながら心を打ち明けていく感じにキュンとさせられた。コメディというよりは恋愛ものらしさを上手く作り出していた。

次に、西田役と助監督、そして哲郎役を演じた神谷圭介さん。
さすが今作の作り手というのもあって、一番おいしい役を演じていた。そして今作の中でも一番いじられる自虐的な役でもあったと思う。
例えば、タイの荷物検査のシーンで引っかかって荷物を物色されてバカにされたり、3作品目ではサトコという妻の尻目に敷かれたり。けれど、ラストの伏線回収的なウミを出しまくるシーンは一番おいしい所で、あれは私も言ってみたいなと思った。
ただし、助監督の役では至ってニュートラルな芝居をやっていたので、そういった役も似合っていた。

次に、雨宮のぞみ役とハズキ役を演じた佐藤有里子さん。
佐藤さんはなかなか強烈な女性役が多かった。どちらも少し似たような感じの役で、甲高い声を出してちょっとか弱い感じがなかなか個性が尖っていて印象に残った。
個人的には、「阿部寛...」が一番好きだった。

個人的に今回の役者のMVPが、サトコ役を演じた佐久間麻由さん。
3作品目に登場する三姉妹の中では一番まともなサトコで、妹のミスズの絵本に対して厳しかったり、夫の哲郎に対して厳しかったりと、気の強い女性役が非常にハマっていた。
私が佐久間さんに注目していたのは、演じている時の表情。相手の顔をじっと見つめながら上手く表情を使って演技をしていたのが、非常に私が観ていた客席からは見やすくて素敵に感じた。哲郎がウミを全て出し切るかのように色々なことをカミングアウトして去っていくが、その後のサトコの何ともいえない表情が頭から離れなかった。さすが舞台俳優だなと感じさせる演技の上手さだった。

ミスズ役を演じたナカゴーの高畑遊さんも素晴らしかった。
ミスズは、三姉妹の中でも一番感情を吐露するキャラクターという感じで、エモーショナルな演技が印象に残る。特に村松に豪快にキスするシーンはインパクトが強かった。そしてそういった大胆な行動に出るキャラクター設定という意味ではハマっていた。
そして高畑さんは声に威勢があるので、小劇場だと凄く迫力を感じた。

最後に、阿部寛役と村松役を演じた小野カズマさん。
阿部寛としてぴしっとしたスーツで男前に登場するオーラは非常に笑えた。その一方で、村松役は非常に胡散臭くてこれまた非常にウザいキャラクターに感じたが、そんな個性の強い役を演じられていて素晴らしい俳優さんだった。

写真引用元:ステージナタリー 画餅 第2回公演「ホリディ」より(撮影:南阿沙美)



【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、「画餅」の作風と今作のストーリーについて自分なりに考察していく。

先述したとおり、私は今作で初めて「画餅」を観劇したが、演劇とコントの融合ではあるのだかれど、演劇ユニット「ダウ90000」とは全く異なり、特に演劇要素の強いコントだと感じた。
どういう点で演劇要素が強かったかというと、まずは間合いの取り方が非常に上手かった点である。「ダウ90000」は、非常に台詞の量も多いし情報量が詰め込まれた舞台作品だと感じたのだが、「画餅」はそれこそ誰も発言しない時間が流れたシーンもあるし、台詞で笑いを取ることも勿論するのだが、より間合いの取り方で笑ってしまったり、沈黙で笑ってしまったりする作風だなと感じた。
以前、「ダウ90000」の『ずっと正月』の観劇レビューで昔テレビでやっていた「イロモネア」のモノボケ的な笑いの取り方があると「ダウ90000」を表現したが、「画餅」は「イロモネア」のサイレント的な笑いの取り方だなと感じた。「画餅」はじっくり時間をかけて上手く笑いのムード、空気感を作っていく。そしてじわじわと笑いがこみ上げてくる印象を受けた。

あとは、非常に「玉田企画」の作風に近いと感じた。というか玉田真也さんの影響を強く受け過ぎでは?と思うくらいだった。
例えば、オムニバス2作品目の「ホリディ」のCM撮影のシーンでは、撮影中のドタバタを描いたコメディとなっているが、これは以前「玉田企画」の舞台『영(ヨン)』でもやられている。『영(ヨン)』ではテレビドラマの撮影現場で、脚本家の意図していない方向でロケが進んでいたというドタバタだったが、今作ではスタンドインが撮影をぶち壊しにしようとしているというドタバタである。
共通するのは、どちらも撮影現場で実際に起こりそうなシチュエーションだなと感じた点である。スタンドインは俳優の卵を起用することも多いかと思うが、変に意識が高くて上の人に噛み付いてくることなどありそうである。しかし阿部寛みたいな大物俳優になるとスタッフも何も言えなくなってしまうみたいな。神谷さんもテレビ業界にも進出している方なので、そういったテレビ製作現場の知見から思いついたアイデアなのではないかと思った。
また、ストーリーの序盤で西田がタイの職員から荷物を取り調べられるシーンがあるが、ここで片言の英語でコミュニケーションを取るシーンも、「玉田企画」の『영(ヨン)』の韓国の俳優と日本人のプロデューサーが英語の片言で会話するシーンを連想されたので、こちらも「玉田企画」の影響を強く受けている気がした。

「画餅」オリジナルな点としては、先述した通り3つのオムニバスで構成されていて、その3作品が「ホリディ」を介して繋がっているという構成があるという点である。それと、劇場公演と配信があって、配信ではまた違った角度で作品を楽しめるというのも「画餅」の見どころだと思う。
演劇好きな私にとっては、「画餅」のような演劇要素に比重を置いたコメディ作品は非常に好きだったが、コントを基本的に中心で観ている人にとっては新鮮に感じたりもするだろうし、合わないと感じる人もいるかもしれない。
だが、こうやって様々なコメディの作風が誕生して上演されることは素晴らしいことだなと一観劇者として思う。


↓観劇レビュー内で言及した作品


↓神谷圭介さん過去出演作品


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