やまなしフューチャーセンターをつくろう〜その7「南アルプスとの出会い」
前回からの続きです。
キックオフシンポジウムを無事に終え、一息ついた3日後のお昼頃、6階にある地域戦略総合センターに一人の来客がありました。
アポはなかったのですが、先日のシンポジウムについてお話を伺いたい、ということでしたので、私が対応することになりました。その方が、その後長いお付き合いとなる南アルプス市役所の保坂久さんでした。
余談ですが、保坂さんに確認したところ、初めてお目にかかったのは、この時ではなくシンポジウム当日のイベント控え室だったとのことですが、当日のバタバタもあり、私の記憶からすっかり抜けているようでした(笑)。人の記憶とは当てにならないものですね。
さて、その当時保坂さんは、市の政策推進課で地域を担う次世代のリーダーを養成するための新たな事業を企画しているところでした。他の自治体の取組事例などを精力的に情報収集する中で、大手広告代理店の人材育成事業を南アルプス市で行う計画を進めていました。
そんな中で、打合せでいらした県立大学で、今度「フューチャーセンター」のシンポジウムを行うという話を聞き、どんなものかと観に来て下さいました。そして今回いらした際に、来年度に次世代リーダー養成のための講座を企画しているので協力をしてもらえないかとのご依頼を頂きました。
保坂さんは何を考えていたのか
先日、保坂さんから当時の企画書を送っていただきましたので、その資料を参考にしながら、当時の行政側の問題意識について考えてみたいと思います。
これまでの行政は、地域のニーズや課題すべてについて行政サービスを通じて応える、言わば「フルセット行政」を行ってきました。しかし、市民の価値観が多様化し地域ニーズや課題が増大する一方で、人口減少などにより財政力の低下が進み、次第に市民の不満が増大し、課題が山積する状況になってきました。今後、さらに地域の課題が増大することが予想される中で、すべてを行政サービスだけに頼るのではなく、市民と行政が協力しながらサービスを担っていく新たな仕組みが求められていました。
南アルプス市が目指す次世代リーダーとは、行政と共に地域課題の解決を目指していく能力を持つ人材を育成していくことを目的としていました。
このことは、サービス提供者としての行政と受益者としての市民の関係を大きく変えるものでもあります。
これまで、行政サービスに依存する関係の中で地域に課題や不満があると、市民は陳情や要望といった形で行政に対応を求めることがありました。しかし、ニーズが多様化し、それに対応するだけの十分な体力がなくなっていく中で、行政は市民のニーズを十分に汲み取った対応が難しくなります。そして、それが新たな不満や不信感につながっていきます。
この「負のサイクル」を断ち切るためには、これまでの行政サービスに依存する市民から、行政と協働しながら自ら課題の解決を目指す、地域リーダーの存在が不可欠となるのです。
市民と行政の新たな関わり方を考える
ここまでの話を聞くと、行政が十分なサービスができないから、それを市民に押しつけようとしているのではないか、と感じる方もいると思います。それは行政側にとって都合のよい話ではないかと言われると、確かにそうかも知れません。
人口減少や地域経済の衰退などによる税収の低下や、高齢化などに伴う医療や福祉に係る負担の増加など、もはや行政がすべての地域ニーズに応えていくことはできないと説明するかもしれません。でも、それを説明したところで、どれくらい市民の納得が得られるのでしょうか。
その当時、私が漠然と抱いていたことは、市民にとって自ら行動を起こすことに、どのようなメリットがあるのかということでした。いきなり、「今日からあなたは地域のリーダーです」と言われたところで、自分には関係ないと思う方が大半だと思います。しかし、自分が直面する日々の問題を解決することや自分がやりたいことを実現することには、きっと誰もが関心があるのではないでしょうか。それを実現することで、今よりも少しだけ豊かな暮らしが見えてくることが、きっと行動を起こすきっかけにつながると考えていました。
行政から押しつけられるのではなく、自らの幸せを追求していく結果として、新たな地域とのつながりが生まれてくる。そんな市民一人ひとりと地域、または市民と行政の新たな関わり方が必要なのではないかと感じました。その先に、これからの地域経営の姿があるのかもしれません。
こうした考え方が、南アルプスにおける地域リーダー育成講座の原点となりました。
この記事は、山梨県立大学理事(学生・地方創生担当)である佐藤文昭が書きました。(2018年8月25日)
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