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『「不在」 ―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル』 in 三菱一号館美術館〜行ってきたレポ〜

本格的な冬の訪れを感じる11月後半の某日。
東京駅の前は冬の装いをした人々が街を行き交います。

丸の内の街を5分ほど歩くと細まった道の先に見えてくるのが、趣あるアンティークな風格をした煉瓦作りの建物、三菱一号館美術館です。

今回ご招待いただいたのは、1年半ほど休館していた三菱一号館美術館の展示『再開館記念「不在」 ―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル』の内覧会です。


本展示では、2人の作家の作品が前半と後半に分けて展示されています。
生前、存在について「人間だけが存在する。風景は添え物に過ぎないし、それ以上のものではない。」と語り、常に存在をとらえてきたロートレックと、身近な死や喪失をテーマに、大胆な創作をしてきたソフィカル。

それぞれの作家が見つめる「不在」と「存在」は、どのような作品を生んだのでしょうか。



存在の記録と、不在の苦しみ


展示はまず、3階、ロートレックの作品からです。

ロートレックの作品は、彼自身が生きる15世紀フランスを舞台にしており、彼が接した友人やモデルといった人物の「存在」が多く描かれています。

左『コーデュー』、右『ラ・ルヴュ・ブランシュ誌』


作品に何度も登場するのは、ショーに出演する女性の姿です。
華やかな衣装を身に纏いながら、足を突き上げて大胆に踊る「エグランティーヌ嬢一座」や、「ジャヌ・アヴリル(ジャルダン・ド・パリ)」など、黄色と黒の色彩が印象的です。

そしてその中でも特に印象的だったのが石版画16点をオリーブグリーンのインクで刷られた「イヴェット・ギルベール」。


「イヴェット・ギルベール」


本書内で描かれているのはキャバレー歌手のイヴェット・ギルベール。挿絵として描かれた彼女は必ず真っ黒な手袋をはめており、表紙には脱ぎ捨てられた真っ黒の手袋が哀愁と存在感を放ちます。
この手袋こそが、彼女にとって「下劣で知性のかけらもない環境に持ち込まれた、優美さのシンボル」であったといいます。彼女の最後のアイデンティティのような存在だったのかもしれません。

「イヴェット・ギルベール」表紙


3階 展示風景


2階からは、ソフィ・カルの展示が始まります。
最初の展示は、明かりのない展示室で鮮やかに流れる6等分の海。映像作品「海を見る」です。

同作品は「生まれてから一度も海を見たことない内陸部に住み続ける貧困差別の対象となるイスタンブールの人たちが、初めて海を見る瞬間を捉えた」もの。
6人が1人ずつ海の前に立ち、海を見つめ、振り返った後にカメラを見つめる表情を映し出します。

帽子を被った初老男性のカットは、特に目を惹きました。
眉間に皺を寄せながら、何分もの間じっとこちらを見つめている表情は、深刻にも、どこか放心した様子にも見えます。どこまでも広がる海の前で、一体何を思い巡らせていたのでしょうか。


展示室を進むと現れるのは、カル自身の内面世界を探る展示です。

深く突き刺さった傷を追いかけるような作品の数々は、鑑賞者が持つ痛みさえ包括するように、静かに佇みます。

『自伝』シリーズより
『自伝』シリーズより


確かに存在していたからこその不在


本展示を鑑賞し思い当たったことは、一度でも存在したものは本質的には「不在」にならないということ。

永遠の別れをしても、会う約束ができなくても、実体がなくても。自身の中でその存在を覚えているのならば、それは存在していることと変わらないのではないでしょうか。


三菱一号館美術館、3階通路からの風景


ぜひ、本展で皆様のなかの「不在」と再会するきっかけにしてみてください。


三菱一号館美術館
会期:2024年11月23日(土) ー 2025年1月26日(日)
開館時間:10:00-18:00(祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
※年末年始の開館時間は美術館サイト、SNS等でご確認ください
休館日:月曜日、 年末年始[12/31と1/1]
ただし、トークフリーデーの[11月25日・12月30日]と1月13日・20日は開館

三菱一号館美術館公式HP

展覧会公式HP:


参照サイト:



ロートレックの展示作品を収録した公式図録の詳細は下記よりご覧いただけます。

文・写真:73

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