No.69 『加賀電子』 母の願いを社名に込めて
加賀電子はエレクトロニクス商社の大手である。「おまえは加賀百万石の出身なのだから、売上高100億円の会社に大きくなるといいね」。創業者である塚本勲(つかもと いさお)会長のお母さんの言葉が社名の由来という。会社設立から51年目を迎えた加賀電子の業績は、売上高4.420億円(前年比+51%)、営業利益90億円(同+19%)となる見通し。浮沈の激しいエレクトロニクス業界において、優れた経営手腕と積極的なM&Aが奏功し、創業当時の思いを遥かに上回る規模の企業に成長した。
エレクトロニクス商社が辿る成長の軌跡はみな同じと言っていい。メーカーの製品を流通させる存在から、みずからものづくりを担う存在へ転身するパターンが一般的だ。ただし、自社ブランドによる露骨な製品展開は、取引のあるメーカーと軋轢を生む恐れがあるため、顧客の販売代理から製造代理へ、という表情を装って進化することが通常は多い。実際、加賀電子の場合もEMS(電子機器の受託製造サービス)事業を成長の牽引役と捉えている。
ただ、EMSの機能を供えたからと言って、すべてのエレクトロニクス商社に成長が約束されるわけではもちろんない。ここにおいても、他社との違いを作る競争戦略が必要となってくる。まずは台湾や中国のEMSと差別化しなければならない。FoxconnやPegatron、Flextronicsなどの巨人たちだ。かれらは一般的に完成品の組み立て、いわゆるアッセンブリーを得意としている。スマホやパソコンなどの組み立てが良い例だろう。同じ製品を大量に安く製造するコスト競争力では台湾や中国に歯が立たないとなると、日本のEMSが目指すべきは、生産数量こそ少ないものの高品質が求められる領域ということになる。例えば、自動車や産業機器、医療機器などに搭載される高密度プリント基板への部品実装などが好例だろう。
その点、加賀電子のEMS事業は恵まれている。主な業種の売上構成を見ると、自動車23%、空調機器23%、産業機器14%、医療機器9%など、技術的な参入障壁が比較的高く、かつ市場の成長が見込めるB to Bの顧客が全体の7割を占める構造だ。もともと商社として幅広い顧客基盤を有することに加え、EMS事業の先行きを見据えて早い段階から顧客の開拓に努めてきた成果ではないかと思う。
2019年1月にグループ入りした富士通エレクトロニクスも、EMS事業のさらなる強化に貢献する存在だ。エレクトロニクス商社でトップシェアのマクニカ・富士エレ(富士通エレクトロニクスとは別会社)ホールディングスに迫る売上規模の獲得だけが同社を買収した狙いではない。富士通エレクトロニクスが持つ欧米の顧客にEMS事業を展開するための布石である。
加賀電子のポジティブ要因は顧客のポートフォリオだけではない。EMS事業を運営する思想にも秀でている。『コンビニ型EMS』を自称する加賀電子のEMSは、小額な初期投資、多品種少ロット対応、地産地消型モデルが特徴だ。顧客にとって便利で価値あるEMSをグローバルに展開することを基本的な考え方としている。ともすると手間だけかかって儲かりにくい便利屋に堕する危険も孕むが、適切なコストコントロールを通じて顧客の日常に必要不可欠な存在となることにより、結果的に他社との差別化が図れることを加賀電子は知悉しているのかもしれない。