望まれる「文理横断」。しかし、頭ごなしの誘導で解決できるのか・・・
教育未来創造会議でも「文理横断」を重視
文理の壁を越え、文理が融合する――
データサイエンス学部がもたらす新たな学びの場については前回お話ししましたが、現在、政府の方でも、「文理横断」が未来の教育を語るうえでの重要なテーマとなっているようです。
現在、岸田首相のもとで議論が進められている「教育未来創造会議」では、令和4年5月10日、「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について」の第一次提言が出されました。
そこでは、「予測不可能な時代に必要な文理の壁を超えた普遍的知識・能力を備えた人材」の育成などが目標として掲げられ、「文理横断」の観点から入試科目や、入学後の教育の在り方を見直すべき、と訴えています。
そして、大学教育におけるデータサイエンス教育の有用性も強調されています。
「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について」
(第一次提言)令和4年5月10日
提言の文面からは、「文理の枠を超え」、「文理横断」へ進むべきとの熱意がひしひしと伝わってきます。
では、そもそも、文系と理系を分けることの弊害とは一体何なのでしょか?
「文・理分け」が国際競争力の障害に
国内では長い間伝統化している「文・理分け」について、2017年に日本初のデータサイエンス学部を開設した滋賀大学(滋賀県)の武村彰通学長も、その問題点を指摘しています。
また、データサイエンスが理系領域に限定されていることも否定しています。
「データサイエンスは理系の領域と思われがちですが、ビジネス応用も多く、文系的なセンスも必要とされます」
このポリシーを反映して、滋賀大学のデータサイエンス学部では、「文理両方ができる人」、あるいは「文理両方をつなげる人」を育成すべく、いちはやく「文理融合」を掲げ、文理融合型カリキュラムを組んでいるというわけです。
データサイエンスは理系の専売特許ではない・・・
名古屋大学(愛知県)大学院経済学研究科の隠岐さや香教授も、「情報科学」イコール「理系」、と決めつける傾向を揶揄しています。
文・理分断の溝は深い
隠岐教授は、この「文・理分け」について、さらに詳しく解説しています。
「文・理分け」が日本特有の二分法ではないか、という点について、隠岐教授は、「文・理分け」は日本独自の伝統とまでは必ずしも言いきれないものの、日本と欧米を比べてみると、やはり、日本では文系と理系の間の溝は深い、と指摘しています。
可能性の芽を摘まれている?
現在、高等学校では、早いところでは1年次の後半、遅くとも2年次に、文系に進むのか、理系に進むのかを決めています。
そして、文系・理系がいったん決まってしまうと、その後変更しようとしても、履修科目の問題もあり、なかなかできないのが現状です。
つまり、文・理分けがなされた以降は、文系、理系という別々のレールに載せられてしまい、後戻りできず、そのまま文系人間、理系人間という2種類どちらかのカテゴライズされた人材として社会に送り出されていく・・・
これが毎年繰り返されているわけです。
学生個人がもつさまざまな可能性が、こうした文理の分別で狭められ、自由で柔軟な発想やイノベーションの芽を摘まれてしまっている可能性があることは容易に想像できますね。
入試科目の見直しだけで解決するのか
さきほどの「教育未来創造会議」では、入試科目の見直しが提言されていましたが、それにより、文系・理系の垣根が取り壊され、文理横断や文理融合が果たして一気に進むのでしょうか?
答えは、残念ながら、「難しい」と言わざるを得ません。
事はそう簡単には進まないでしょう。
まず、高等学校における履修科目の設定の問題もありますし、
あるいは、もし、諸事情を無視して、頭ごなしに、文系の受験生たちに対して理系科目を、逆に、理系の受験生たちには文系科目も履修しなさい、と強く命じたところで、彼ら彼女らは、負担になる科目から何とか逃れようとするのが自然の摂理でしょう。
さらに、提言では理工系人材をふやすために理工系学部への進学者を5割にするという目標を掲げていますが、受験生や高校生たちに対して強引に理工系学部に行け、といっても、素直に従ってくれるとは到底思えないのです。
彼ら彼女らは、自らそこで学びたいと思うような魅力的な学部でなければ、まず受験はしないでしょう。政策として、仮に強引に入学させても、それは典型的なミスマッチとなるでしょう。
つまり、高校生や受験生の志向を無視して、上からのトップダウン方式で、理工系を増やしたり、理系科目を入試で課したりすることには困難が伴うことでしょう。
なかなか難しい問題ですね。
次回の最終回は、ビッグデータやデータサイエンスがもたらす
新しい学問のきざしや動きを探ってみたいと思います。
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