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涙出でて初めて

元来が夜型で、朝に弱いこともあり、退職後は昼夜逆転の生活を続けた。
世間様が通常通りに動いている時間帯を敢えて避ける様、明るいうちは身を沈める様にダラダラと横になり、可能な限り眠りで外界との接点を断つ。
多くの人が寝支度を始める頃合いに、カタカタと自室にこもり朝方までうんうん唸り続ける生活を続けた。

目的のために硬い仮面をつけて外出する以外は、極力日中の外出は避けた。

ここ最近は、必要に応じて、日中も少し外に出る事が増えた。
この4年で街の様子は少しずつ変わっており、人の流れも少しずつ変わっていた。

『人とは存外、その渦中にある時には無我夢中で行動しているだけであり、悲しいかな、自分の本然というものは、当人にもしかとはわかっておらぬものでござりまする。あとで振り返ってみて初めて、後付けの理屈として自分の本当の気持ちを認識するに過ぎぬものでございまする。
人は、悲しき気持ちりより涙が生じるものに非ず。
涙出でて初めて、悲しきことにはたと気づくものでござりまする。』

眠れない夜、ツラツラと読み物をしながら思った。

無我夢中の中での、悔し涙はどうなのだろうか。

今朝も悔し涙で目が覚めた。

いつの間にか、娘が死んでもうこの世にはいないことが、夢ですらデフォルトになってしまっている事に、己の恨めしさを思う寝覚めが増えた。

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