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サンデー喫茶店モーニング with モスキート

とある日曜日の早朝、一人で喫茶店に出かけた。目的は、お店でモーニングを食べ、本を読むこと。たったそれだけ。たったそれだけの時間ではあるが、仕事に子育てに日々てんやわんやしている私にとって、貴重なおひとり様時間であり、とてもとてもとーっても贅沢な時間なのだ。

自転車で10分ほどの喫茶店に行く。開店してすぐに入店し、そこから1時間ほどゆっくりする。日曜日の早朝は、街がまだまだ微睡の中にいて、瞼を擦っている状態だ。その中を颯爽とチャリで駆け抜けていくのは、実に爽快である。

7時10分、お店に到着。すでに2名のお客さんが席についていた。私は3番。よかった、3番くらいがちょうどいい。1番目のお客さんになるには、荷が重い。恐縮しちゃう。

とはいえ、店内は、まだまだスカスカで席は選び放題である。店員さんに「お好きな席にどうぞ〜」と言われたとき、選択肢が多すぎるので、これはこれで迷うやつだわ、と思った。

さて、どの席に着こうか。

店内全体をざっと見渡し、情報を仕入れる。常識的な席に着こうと考える。先客の席を確認する。彼らから遠い場所がベターだ。彼らの視界の邪魔をしたくないし、私自身も開店直後の雰囲気を味わいたい。こんなに席が余っているのに、わざわざ近所に陣取ってしまったときには、気遣いできない人認定を受けることになるだろう。「こんなに空いてるのに、なんでわざわざ近い場所に座んねんおじさん」にはなりたくない。

そんなこんなでいい感じに空間を独り占めできる席を選んだ。・・・はずだった。その席には、まさかの先客がいたのである。

蚊である。

席に座って、ゆったりとくつろぎ態勢を整えて、注文を済ませて、温かいコーヒーを一口いただき、バターの乗ったトーストをサクサク食べているときに気づいた。

この席には、蚊がいる。間違いない。紛れもなく蚊がいる。どうやら蚊が1匹飛んでいる。なにやらスネのあたりがかゆい。どこかにいる。きっと蚊がいる。未確認だが、なんとなく分かる。この席には、蚊がいる。

しかし、蚊がいるくらいでキャンキャンいうほど私も子供ではない。コーヒーを一旦ソーサーに戻して、対処しようと背筋を伸ばす。

探す。探す。探す。蚊を探す。どこいった。どこいった?蚊。出てこい。いるんだろ?わかってんだよ。さぁ、出てこい。姿を現せ。ワイの両手でパチンといったるから出てこい。

蚊を発見した。机の下に飛んでいる。不規則なムーブをかましている。予測困難系の蚊だ。多分、若い蚊だ。それなりに元気なやつだ。くそう。とりあえず、机の下から出てこいよ。そこではパチンできない。机に潜ってパチンはできない。絶妙に届かない場所でプ〜ンしている。くそう。



おい。俺、一体何をしているんだ。時刻は、7時20分よ。すでに、10分も蚊に時間を使っている。贅沢にモーニングを取り、優雅に読書する予定だったはずだ。私は、蚊をしばきに来たのではない。コーヒーをしばきにきたのだ。くそう。勢いで恥ずかしい文章を書いてしまったではないか。

「蚊がいるので、別の席に移動してもいいですか?」ということもできたはずなのに、できなかった。席を移動する理由にしては、少しばかり弱い気もするし、すでに10分経過しているだけに、ここに来て席を移動するのも恥ずかしい。

「お客様、お席を移動するのはいいですが、あなたが移動したその席に他の誰か座り、その人があなたの代わりに蚊の餌食になるかもしれませんね。それでもよろしければ、他の席に移動していいですよ」と言われたら最後、反論はできそうにない。それに移動したとて、移動先に蚊がいない保証はない。

あるいは、蚊がついてくるパターンも想定できる。これが1番、恥ずかしい。席のせいにして、席を移動したのに、蚊は席に居着いているのではく、私の血が蚊を呼んでました、どうもすみません。蚊を呼んでしまいまして、逆にすみません。と、なってしまっては、もうこの喫茶店には行けない。

そんなこんなを自意識過剰に考えれば考えるほど、やはり、ここで蚊を退治するのが今の私の使命なのだ。あんなに席を選び放題だったのに、あえてこの席を選んでしまった男の末路なのだ。

とはいえ、気にしすぎも良くない。もはや蚊と共にモーニングを楽しむのも一つの手だ。ある意味諦めも肝心だ。現状から察するに、with モスキートで物事を考える時間になったのかもしれない。トーストとコーヒーを美味しくいただきつつも、蚊が隙をみせたならば退治するくらいのスタンス。蚊がいるのに蚊がいないつもりでモーニングを楽しむしかない。

そんなこんなでモーニングを楽しみつつ、読書を始めた。時々、蚊に集中力を持っていかれるが、気にしない。with モスキートな社会でいこうぜ。

気づくと店内は、満席に近くなっていた。しかし、依然として蚊は、私の席の周りを飛んでいる。不思議と他の席に移動しない。困ったものだ。

最後に現状を報告してこの文章を締めたいと思う。3箇所だ。3箇所、しっかりちゃんと蚊に噛まれた。右ふくらはぎと左脛、左くるぶしを噛まれている。痒い。ちゃんと痒い。くそう。

蚊の席を選んでしまったばかりにとんだモーニングになっちまった。サンデー喫茶店モーニング with モスキートだな、こりゃ。

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