僕たちはこの街を変えることが出来ない
会期中の国会で審議された法案には、重要なものが多いのに特に問題にもならずにすんなり決まった印象だ。
まずは、マイナンバーカード。政府はデジタル施策に関する「重点計画」を閣議決定して、健康保険証や運転免許証などの各種証明書を一本化する方針だ。
基本的に僕はこの方向性は悪くはないと思っている。その理由は、コロナ禍において給付金などが素早く必要な人に届けることができない行政の体制が露呈したと見ているからだ。この状況を改善することと、働き手が不足していくこれからの日本の社会において行政サービスの効率化は欠かせないはずだ。
とはいえ、登録の間違いや情報漏洩にはあきれるばかりだが。
もう一つは、いわゆるGX(脱炭素化)束ね法案だ。これはあまり知られていないかもしれないが、原発の60年超運転に向けた原子炉等規制法や原子力基本法の改正だ。
東日本大震災がおこり福島の原発事故を経験したこの国の原発政策において、ここ数年で最も大きな方針転換といってもおかしくないような話だが、とくに話題にもなっていない印象だ。
今回の改正で、原発を脱炭素に欠かせないとして積極的に推進していくつもりなのが露わになったといえる。
さらに入管法だ。
2021年に名古屋の出入国在留管理局に収容中のウィシュマさんが亡くなった。(本当に痛ましい事件であり、動画が残っているので興味がある方はご覧ください。)この国の一部の外国人に対する非人道的な行為はもっと問題になるべきだ。
事件をうけて、入管の対応が問題となり、その年の秋の衆院解散で法案が提出されたが、廃案となっていた。その後、今国会で再提出され、難民申請中の送還を可能とすることの是非が論点となった。簡単にいうと、これまでは人権派弁護士などの尽力で、難民申請の申請中は一律に送還が停止されるという現行法の規定を「利用」して、(改正したい側は「乱用」と言っている。)難民の送還を食い止めてきた。
あまり知られていないが、現在も難民とされている人は世界中で一億人以上いると言われている。大きな戦争があるわけでもないのになんでそんなにいるんだ?と思う人もいるだろうが、その多くは自国の政権や多数派からの、弾圧、差別から逃れるために難民となる。
難民の認定率は日本は0.7%で、他の先進国にくらべて比較にならない低さだ。イギリス、カナダは60%以上、ドイツ、アメリカ、イタリア、フランスなども2.30%だ。このことはずっと国際的な批判の対象になっているが、一向に改善しない。
ドイツは年間100万人以上の難民を受け入れており、他の国でも年間10万から50万人受け入れている。日本は去年で200人あまりだ。(例年は40人くらいだからこれでもがんばったのかもしれないが。)日本にくる難民だけが「質」が悪いはずがない。日本もいちおう先進国として人道的な責任があると思うのだが、なぜかそうはならない。
いちおう記しておくが、この話は難民であり、移民ではないので間違いなく。過去に海外でのインタビューで安倍元首相が勘違いして、質問に答えていたこともあった。
ウィシュマさん死亡直前の映像入手 衰弱し指先が冷たくなり…
https://youtu.be/F3Uu-b4ndGs
ここまででもおなかいっぱいの状態だが、次はLGBT理解増進法案だ。いわゆる理念法なので罰則規定などないし、いまこれを書いている時点で成立するかは未定だが、この法案にも深刻な問題がある。それはなにか。
問題点は明確で、この法案は野党の反対にあい修正を余儀なくされていた状況だったが、そこに日本維新の会、国民民主両党が修正案を提出した。これが問題だ。
修正案には『法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。』という文言が入ることになった。これは簡単にいうと、LGBTの人たちは多くのそのほか大勢に迷惑をかけないように行動をしなさいということだ。
LGBTへの理解を広げるための法律でなんでこんなことになるのか、まったく意味不明だが、そうなってしまった。怒りを通り越して、さらにはあきれるのも通り越して、笑ってしまう。この法案を良いと思っている人たちが多くいるのも理解しているが、そんなことを言い出したらどんな差別もなくならない。
ここ鹿屋でもハンセン病の療育施設があるので資料館に見学に行ってほしい。僕たち人間は差別を理由にどれだけ非人道的なことをしてしまう生き物なのかを知ることができる。差別をなくすようにこの社会はこれまでやってきた。そのことを思い出してもらいたい。(いつ誰が少数派になってしまうかわかんないんだよ。自由がよくない?)
公共浴場やトイレのことで懸念をお持ちの人もいると思うが、それらについては僕たちは社会全体としてこれらのサービスを維持しないといけないので、何か問題があれば個別に対応していけばいいはずだ。僕はこれらのサービスがLGBTへの配慮を理由に、大きな変化を強いられるとは思わない。このことについては以前、参政党の議員や支持者と議論したトークイベントがあるので興味ある方はご覧ください。
参政党は陰謀論なのか!?
https://shirasu.io/t/namaudon/c/tsuchiya/p/20230509221454
最後に防衛費増額の問題だ。まだあるのか?という感じだろうが、特に大きな議論にもならずに財源確保にむけて議論が進んでいる。僕は防衛費を増額すること自体に反対ではない。この国の防衛についていわゆるリベラル側が正面から議論してこなかったことが問題だと思っている。とはいえ、特に議論や審議もなく大きな方針転換をすることはやはり深刻な問題だと思っている。
なぜここまで強引に話をすすめるのだろうか。与党はここ数年どう見ても盤石な状況だ。それなのに、今の政治は議論とか関係なく、やりたいようにやるんだというようなある種の投げやり感のようなものを感じるのは僕だけだろうか。
この投げやり感は政府与党の態度だけではない。維新や参政党の躍進にくらべて立憲の不甲斐なさ、マスコミの報道などにも「もう何をやっても無駄だ」というようなある種の諦めを感じる。将来は暗い。明るい話などどこにもなく、こんなことをぐちぐち言ってもなにも変わらない。誰も聞いていない。そんな感じだ。
四の五の言わずに俺についてこい。というやつを僕たちは待ち望んでいるのかもしれない。維新の躍進もこういう見方ができるのかもしれない。
そう、僕たちはこの街を変えることが出来ないのだ。
これが落ち目の社会というものなのかもしれない。そして、そういうやけっぱちな行動は、のちのち後悔しか生まないはずだが、どうだろうか。