3.屋根裏
我が家は木造新築の二階建てだ。
階段を登った所の天井に開き扉があり、鍵棒でレバーを引っ掛けて開き扉を開けると折り畳まれたハシゴが降りてくるパターンの、よくある屋根裏がうちにはあった。
そこには、私のお雛様の道具や家族のスキー道具のほかに、赤ちゃんの頃の洋服やおむつなどの思い出の品やなども置いてあった。
当時、近所にはうちより高い屋根の家はほとんどなかったので、屋根裏の明かり取り用らしき小窓を開けると、紺色の瓦屋根があちこちに散らばり、そこから気持ちの良い風が入ってくるので私はその場所を結構気に入っていた。
その日も、ジュース片手に屋根裏に登ってみると…そこには見知らぬ鉢植えが置いてあった。
私は目を丸くしてその鉢植えを凝視する。それは30センチぐらいの大きめなよくある赤茶色いレンガ色の植木鉢に、これまた30センチぐらいはあるであろう茎が凛として生えているのだ。
茎は、細身だったが痩せ細っているわけではなく、それがスッと真っ直ぐ上に向かって生えている。そして青々とした大きな葉っぱが二、三枚。一枚は小学生の私の手のひらぐらいだろうか。葉っぱに模様はなく、全体はもみじのような形をしている。
前からあった?
いや、そんなことはない…おもちゃ?いや、生きてるっぽい…。
なぜここに?水やりは誰がしてるの??
小3の頭がぐるぐる回転したところで、答えは出るはずもなく、しかもその植木鉢は、その後庭先でも時々出没するようになった。どうやら誰かが移動させてるようだった…。
数日経ち、また、私が屋根裏に行こうとしたら、ハシゴがすでに降りており、誰かが上にいる気配があった。
「おとうさん。」
登ってみるとそこには、植木鉢を触る父の姿があった。
父は私の声かけに特段動じることもなく、しきりに植木鉢を触っている。私は、ここぞとばかりにそれはなんなのか、なぜここにあるのか、と聞いた。
「ああ、これ?…これはな、タバコの木だ。外で栽培して警察に見つかったら捕まってしまうからな。だからここで栽培してるんだよ。」
少し口角を上げて話す父。
そんだけの枚数しかならない葉で、タバコなんて作ったらせいぜい2本程度だろう。なのになぜそこまでしてタバコを作りたいのか。
なんとなく納得できぬままだったが、植木鉢はその後も時々屋根裏で見かけたので、こっそり私も水やりをしたりして育成を見守っていた。
私は翌日から友達に
「うちのお父さん、屋根裏でタバコの葉っぱ、育ててんだよ!」
と言いふらした。
父親は「見つかったら警察に捕まる」と言ってたのに早速言いふらす娘。なんとシュールなことだろう。子供の口ほど軽いものはない。
友達は
「タバコの葉っぱ?なんで?」と不思議そうな顔をして聞いてきたが、それについては私も答えられず、「なんでだろうね〜?でも警察に見つかったら捕まっちゃうんだって!」と言い、友達と一緒になって「それってやばいジャーン!」と赤いランドセルを揺らし、笑いながら下校したのを覚えている。
その後、あの植木鉢は気づいたらなくなっていた。
そして今も実家の軒先には空になったあの植木鉢だけが、静かに余生を送っている。
もしかしたらあの植物は、あの青々とした緑の葉っぱを青空いっぱいに広げ、世代交代をして今もどこかで大きく成長しているのかもしれない。