愛しのミックジャガー
父には、仲のいい友達がいた。
それはサーフィン仲間のMくんだ。Mくんには奥さんと娘がいる。娘は私の一つ下で、うちと同じ三人家族だった。
Mくんは身長が高く、ホリの深い顔。ずっと誰かに似ていると思って調べたらミックジャガーだ。彼はいつも父に対して敬語だったので、年齢は多分父より年下だったと思う。
破天荒な父に対し「Kちゃん(私の母)を大事にしてあげなきゃダメですよ!そんなことじゃあ逃げられますよ!」と言ったり「うすしおちゃんに彼氏ができたら俺がチェックするからすぐ教えてね!」と小学生のうぶな私に、なかなかアダルトなフォローをしてくれたりして、頭の回転も早くジョークの得意なMくんを、私たち母娘は大好きだった。
Mくんの奥さんはナイスボディの美女で喋り方はふんわりしていたが、とにかく酒乱でホームパーティの時はうちの母と一緒にいつもへべれけになって呂律の回らない二人で笑い合っている姿を遠くから眺めたこともあった。
私といえば彼の娘(実名は今で言うキラキラネーム)とホームパーティの際など、絵を描いたりテレビを見たりふざけあったりと…小学生あるあるな遊びをしていた。お互い年が近かったのと、家庭環境が似ているのもあって意気投合して泊まった際はいつも一緒の布団で手を繋いで寝ていた。
そんな中、問題が起きた。
M夫婦の離婚だ。
何があったのかは知らないが次にM家に行った時に彼はいなかった。
娘の方も少し落ち着きがなく彼女の部屋で私が遊んでいる時も一度だけ、彼女がメソメソと泣いていた事があった。
その後奥さんの方は再婚し、新しい家庭を築いたが、Mくんの方ははずっと一人だった。
Mくんは、父とは時々遊んでいたみたいだったが我が家に来ることは少なくなっていた。たまにきても、少し顔を出すだけで、早口だった口調はさらに早口になっており、今考えたら何かクスリをやっていたかもしれない。
それから10数年が経ったころ、Mくんは癌を患いあっけなく亡くなってしまった。いつの頃からか、Mくんは覚醒剤に溺れて「病院にはユーレイがいっぱいいるから怖くていけない!」と言って、一人、家の中で闘病していたらしい。父はそんなMくんにクスリをやめろとしつこく話をしに行っていたらしいが、結局はやめれなかったようだ。
漁師の仕事で筋肉隆々だったMくんは、この頃はガリガリに痩せ細っていた。
そういえば私が20代の頃、彼氏がうちに遊び来た時、ふらりとMくんが立ち寄った事がある。Mくんは玄関に立ち、居間でお茶をすする私の彼氏を見つけて
「あーっ!うましおちゃんの彼氏?!…んもー、うましおちゃんを泣かせたら承知しないよ!マジでやっちゃうから…って。ふふっジョーダンジョーダン⭐︎」
と、ムキムキの体を見せつけて笑っていたのを今でもよく覚えている。
優しくて頭の切れる私たちのミックジャガーは、今もどこかでサーフィンをしながら自由気ままに遊んでいるのだろうか。