ユースセンターのリアル——今を生きる中高生の声を聞く
中高生の声を聞く
今は大人になった誰もが、かつて通ってきた10代の期間。
人はあっという間に大人になり、気が付くと自分自身が中高生だった頃の感覚から離れていってしまいます。
だからこそ、ときに今を生きる中高生の声に耳を傾ける必要があるのかもしれません。
中高生がどのような日々を過ごし、何を経験し、何を感じているのか。
それらを、 “ユースセンター” を日頃から利用する中高生の声を通して受けとるオンラインイベントが2024年3月20日に開催されました。「#ユースセンターがある生活 特別編」です。
ユースセンターとは、中高生を中心とする若者が自分の好きなときに集い、自由に過ごすことのできる施設です。学校や家に次ぐ、中高生の「第三の居場所(サードプレイス)」になることもあります。そこでは、ときには友達やスタッフと思いきり遊び、ときには学校のことや家のこと、友達のことなどおしゃべりを楽しみます。そうしたなかで、自分の好きなことややりたいことを見つけて挑戦することもあります。あるいは、辛いことやしんどいことなどをスタッフに相談することもあります。
そうした、若者が放課後の時間を思い思いに過ごせる場所。それが、ユースセンターです。
「#ユースセンターがある生活 特別編」には、全国各地のユースセンターを利用している中高生7人が登壇してくれました。また、司会進行は、かつて中高生時代にユースセンターを利用していた大学生2人でした。これほど、中高生世代の声を直接聞くことを徹底したイベントはなかなか珍しいのではないでしょうか。
このnoteでは、本イベントでの中高生の語りを振り返りながら、中高生の目線で見えてくる ユースセンターの価値を考えていこうと思います。
日常の居場所としてのユースセンター
イベントの第1部には、希望丘青少年交流センター(東京都世田谷区)を利用する「こうすけさん」、Co-study space “Posse”(東京都府中市)を利用する「あいこさん」、オープン型交流スペースMoi Moi(愛知県名古屋市)を利用する「レオンさん」の3人が登壇しました。
ユースセンターでの日々の過ごし方は、3人それぞれです。施設にあるギターを弾いたり、自身の趣味である写真の整理をしたり、スタッフに勉強の手伝いをしてもらったり。そんな3人に共通するのは、「スタッフと話す」ことが日常的な過ごし方の一つとなっていることでした。勉強で利用することが多い「レオンさん」は、勉強の休憩のときやお茶を取りに行くときにスタッフとよく話すと言います。
スタッフとの会話は、自分の好きなものをきっかけに始まることが多いそうです。「あいこさん」は音楽についての会話を、「こうすけさん」はスポーツについての会話をよく交わすといいます。そうしてよく話しているうちに、中高生たちはユースセンターにいるスタッフと仲良くなっていきます。
そして、そうしたスタッフとのコミュニケーションは、ときに中高生を元気づけるものでもあるようです。例えば、他の地域から府中市に引っ越してきた「あいこさん」は、「引っ越し直後で学校にまだ馴染めない頃、Posseではスタッフと話すことができ、居場所になっていた」と話します。また、レオンさんはMoi Moiで受験勉強をしていたときに、「スタッフが応援してくれたことが嬉しかった」といいます。
もちろん、ユースセンターでの過ごし方はスタッフとの会話だけに尽きるものではありません。学校・学年を越えて他の中高生と出会う場でもあります。学校内のコミュニティでは話しづらいことであっても、他の学校の生徒であれば話しやすいこともときにはあるそうです。
また、「あいこさん」はユースセンターでの印象的な出来事としてスマブラ大会というイベントを挙げてくれました。「あいこさん」は普段はゲームをせず、その日初めてスマブラを触ったそうです。最初はやり方もわからなかったが、触っていると意外にも楽しかったと話します。ユースセンターは、そうやって他の人と交流しながら新たな体験に出会う場でもあります。
イベントの第1部の最後には、司会から「ユースセンターの存在意義はどこにあると思う?」という問いかけが3人になされました。「レオンさん」は、「塾とか学校とかに日常にもう一つある感覚で、生活が豊かになる」といいます。「あいこさん」は、「学校で嫌なことがあったときに、友達に言うと広まってしまう。Posseであれば学校とつながっていないから何でも話ができる」と話し、本音を話せる場所としてのPosseの大事さが伝わってきました。最後に「こうすけさん」は、ユースセンターを知る以前の生活は家・学校・塾ばかりで息苦しかったと話し、ユースセンターが気持ちに余裕をもつうえで「なければならない存在だ」と語ってくれました。
それぞれにとっての重要性は少しずつ異なりますが、ユースセンターが日常的な居場所として大切に感じられていることが切に伝わってきました。
挑戦の舞台としてのユースセンター
続くイベントの第2部では、Youth+アカシア(北海道札幌市)を利用する「ねここさん」、文京区青少年プラザb-lab(東京都文京区)を利用する「みわさん」、青少年育成プラザMiacis(山梨県韮崎市)を利用する「たいすけさん」、そして、ユースセンターをテーマに探究活動に取り組み、「『それいいね!』からはじまるプロジェクトミニ☆大阪」で現在活動されている「ひまりさん」の4名に登壇いただきました。
第2部の冒頭では、それぞれが経験したユースセンターでの「挑戦」を話していました。例えば「たいすけさん」は、ユースセンターを経由して、地域の市民向け講演会でボランティアをしたことを語っていました。その講演会は、それまであまり聞いたことのなかった地元の人口減少について触れるいい機会になったといいます。また、最初は大人の参加者相手に受付をすることに不安があったことを明かしつつ、講演会がうまくいったことで最終的に自信につながったとボランティア経験を振り返っていました。
また「ねここさん」は、自身と「絵を描くこと」との関係について話していました。元々絵を描くのが好きだった「ねここさん」ですが、当初はネットに絵をあげるなどもしておらず、人に自分の絵を見せたときの反応が怖いと感じていたそうです。そんな折、ユースセンターの「イラスト部」の活動に参加し、絵をきっかけにスタッフと仲良くなっていきます。そしてスタッフと話すなかで、次第に「自分でも力になれることがあるのかな」と思って活動するようになっていきました。作品を持ち寄って展示する「合同展覧会」の企画に関わったり、センターのキャンピングカーのデザインに取り組んだりと、活動の幅は次第に広がっていきました。そうした活動を通してねここさんは、「人のために絵を描いて、人から感想をもらえることが自分の心の支えにもなった」と話し、さらには自分の将来を考えることにもつながったといいます。
なお、今回のイベントのポスターを作成してくれたのも、この「ねここさん」です。
このようにユースセンターでは、それまでやったことのなかった経験や、自分の「好き」を活かした活動に取り組むこともできます。しかし、そうした取り組みをしている中高生の語りからは、活動的な姿勢だけでなく、それを下支えしている日々のスタッフとのコミュニケーションの様子が垣間見えてきます。
例えば「みわさん」は、イベント当時、自身が利用するユースセンターにおいて年度を締めくくる大きな企画である「フェス」の運営に関わっていました。そんな「みわさん」はこのイベントのなかで、ユースセンターのスタッフと話すようになったきっかけを次のように振り返っていました。最初、「みわさん」は自習のできる場所を探してユースセンターを見付けました。いざ来館したとき、スタッフが「みわさん」に積極的に話しかけてきたことで、「ここは話してもいい場所なんだ」と感じたそうです。そして徐々にスタッフと話すようになり、現在では気軽に世間話をしたり、顔なじみのスタッフに手を振って挨拶をしたりするといいます。
また、「たいすけさん」は、最初にユースセンターを訪れた頃は、他の人に声をかけることもできず孤立しがちだったと話します。しかし、「めぐるクローゼット」というファッションのイベントに参加したことをきっかけに、イベントを企画していたスタッフと話すようになり、そこから次第に他のスタッフとも仲良くなったそうです。そんな「たいすけさん」は、「これからユースセンターで取り組みたいことは?」という質問に対し、「めぐるクローゼット」の復活を挙げていました。そのイベントは、企画していたスタッフがユースセンターを離れた際になくなってしまっていたそうです。自分がスタッフと仲良くなったきっかけである大切なイベントを、自分自身で復活させていきたいという「たいすけさん」の気持ちを受けとることができました。
ユースセンターを増やしていくために
ここまでの中高生の声を通して、ユースセンターのリアルな様子が皆様に伝わっているでしょうか。
ユースセンターはよく、中高生の「居場所」であり、同時に「挑戦の場」であると言われます。このイベントでは、そのことを再確認できると同時に、「居場所」「挑戦」といった言葉がどんなことを指すのかが具体的に伝わってくるのではないでしょうか。そして、「居場所」も「挑戦」も、ユースセンターにおけるスタッフと中高生との日々のコミュニケーションと密接につながっていることも感じ取れたかもしれません。
そんな複合的な魅力・価値をもつユースセンターですが、日本全国を見渡すとまだまだ数少ないのが現状です。近年、「こどもの居場所」への注目は徐々に高まっているものの、ユースセンターの拡大は依然として不十分と言えるでしょう。
この「#ユースセンターがある生活」というイベントは、そうした問題意識のもと、全9回行われてきました。ユースセンターの価値を当事者の視点から広めていくことをコンセプトにおき、日本全国の様々なユースセンターのスタッフと利用者をゲストとしてお招きしてきました。そして、イベントやイベントのレポートに触れて下さった方々に、ユースセンターの魅力・価値を届けることを目指してきました。さらにその先では、中高生の選択肢の1つとして当たり前にユースセンターがあるような社会が訪れることを願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。もしこれを機にユースセンターにご関心を持っていただけた方は、ぜひ全国のユースセンターについて調べていただき、ご自身の可能な形で(例えば寄付者として、ボランティアとして、スタッフとして)関わっていっていただけると嬉しいです。