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ランチはディナーに比べてなぜコスパ最強なのか |俗なサピエンスの生態観察日記 #75
ランチって、なんで安いんだろう。夜は一人当たり6000円から1万円台はするフレンチやイタリアンや和食割烹が、ランチ営業だと1000円程度の定食メニューを提供している。え、まじで。いいの?
「食べログ」を検索しても月マーク(ディナータイム)と太陽マーク(ランチタイム)の価格差には驚かされる。たとえば、初台の高級しゃぶしゃぶ&すき焼き店『松坂牛 よし田』は夜が3万円近い価格帯なのに昼は1000円台で美味しいすき焼きが頂ける(←激ウマでした)。
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ランチって、なんでこんなにコスパいいの?
飲食店がランチ営業をするメリットについては、以下の食べログ公式記事がよくまとまっている。
>飲食店がランチ営業を行うメリットとは?成功のためのポイントや戦略について
要はこの3ポイントらしい
・食材ロスを減らせる(FL比率を抑えられる)
・ディナーの宣伝ができる
・単純に売り上げが増える
なるほどね、前日の食材の余りを使えるから安いんだ!って、そんなの納得できるかよ。同じ食材だ。賞味期限切れのわけあり品ってわけでもないんだぜ。
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ディナーが高くランチが安いのは、つきつめればおなじみの〈需要と供給〉の法則で説明されるだろう。消費者から高いランチはあまり求められていないけど、高いディナーは求められているってことだ。
じゃあどうして、客の支払い意思額(WTP)はディナーだと膨らんで、ランチだと減少するんだろう?
「自制心」はその謎を解くカギの一つかもしれない。
ホモサピエンスが〝我慢〟する時に働く脳のシステムが自制心モジュールだ。「いまガマンして、あとでもっとイイことをしよう」────異時点間選択問題とよばれるやつを、「いま」ではなく「あと」のほうに傾けるのが自制心の役目なんだ。*K. McGonigal (2012)
ランチタイムには、ディナーという「あと」がある。ランチタイムには、仕事という、「いま」頑張るべきタスクが頭を占めている。
ランチのタイミングだとたいていその日の仕事はまだ片付いていないから、自制心を全解放して"ご褒美"にありつくのはまだ我慢しないと…と俺たちサピエンスは考える。高いものを今食べるのは違うでしょ? 1000円札一枚で収まるくらいにしておこうよ、となる。財布の紐が弛まない。
一方ディナーの状況だと、自制心が働きにくい。繰り返すけど自制心は「いま我慢してあとでいい思いをする」ために作動するシステムだ。
でも今日の仕事はもう終わったし、もう夜なんだから、今日という一日にはもう「あと」がない。お酒が入ると尚更だ(ヒトの自制心はアルコールの効果でゆるむことが分かっている)。*E. Slingerland (2021)
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でも、理由はそれだけ?
いや、まだある。
ランチとディナーの最大のちがいは、〈性〉が絡むか否かだ。
総合格闘家のショーン·ストリックランドは切れ味鋭く言っている
"男は女を抱くときしか高い飯は食わねえんだ。
独身男は家で安くてクソみてえな飯を食うんだよ。"
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男は女を抱くときしか高い飯は食わねえんだ。
— ショーン・ストリックランド語録bot (@SeanGoroku) February 18, 2025
独身男のくせに寿司とかピザが好きって言う奴はゲイだ。
独身男は家で安くてクソみてえな飯を食うんだよ。 pic.twitter.com/4lH9XGToVm
エグザクトリー。
あいかわらずごもっともだ。
高いメシは〈女を口説くため〉の消費だ。
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進化マーケティング学者のV.グリスケヴィシウスは、サピエンスの男性は実験的な手続きによって性的なプライミング(文脈づけ)をされると、より多く出費するようになることをつきとめている。*Kenrick & Griskevicius (2013)
交際したい女、口説きたい女、ヤりたい女を前にすると、男の脳は「交尾相手獲得モード」に変わるように進化した。男たちは自分の財力を、権力を、RHPを異性に向けてアピールするために金を支払う。
高級フレンチ代は、ハイスペ男がロレックスをつけたりポルシェに乗るのと同じ、「俺はいい男だぜ」という広告/シグナリング費用なんだ。
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ヒトの消費には純粋な個人の楽しみのためのような消費のほかに、ライバルに対する相対的な優位性をディスプレーするための地位財への消費があって、これは〈顕示的消費/conspicuous consumption〉と呼ばれるけれど、男が女に奢るオシャレなディナーはこれに当たる。顕示的消費の顕著な特徴は、価格が安いほど消費者に喜ばれる通常の財やサービスとちがって、「高いほどニーズが高まる」ヴェブレン効果があらわれることだ。
つまり、全く同じ質の料理を出したとしても、3,000円と30,000円の値付けなら30,000円の値がついているほうが消費者から喜ばれる可能性があるってことだ。
顕示的消費では価格はドラゴンボールの戦闘力みたいなもんだ。「私の戦闘力は53万です」とフリーザのようにドヤ顔をする快感が3,000円ぽっちじゃ得られない。消費者は効用を味わうために消費をする。そしてそれは高い方がキモチイイ。
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・私の戦闘力は53万です
でもそれは、ランチで出てくる1500円のごはんが「質が悪い」ことを意味しないだろう?前日の食材の余りを使っている? だからって30,000円のディナーの20分の1の質しかないなんてことはありえない。
────そう、そういうことじゃない。
世間一般的にランチで女を口説く男はいない(俺は口説くが)から、ランチはディナーのように顕示的消費のバトルに巻き込まれていないってことなんだ。
むしろランチが巻き込まれているのは価格競争(こっちは一般的な意味の価格競争。値段を下げる方向)だ。女を口説いて付き合ったりセックスするという動機がなければ、シグナリングの魔力は解けて、ここまで物やサービスの価格は下がる。
事実、デートには向かないファミレスチェーンやラーメン屋はランチもディナーも価格は変わらない。性欲分の上乗せがあれってことだ。
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ここまで読んで、ふつふつと怒りを覚えてきたソロ飯勢もいるかもしれない。
「こっちは女を口説きにきてるわけじゃないのに、1人で飯を食いにきてるってのに、なんで下心野郎どもの煽りを受けて、こっちまで高い値段を払わなきゃいけねーんだよ!!」
お門違いの文句。
無粋すぎる。
(リア充爆発しろ!!!)
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・・・・・・・・・・・・。
まあ、そんなわけでオレは、異性獲得を諦めた食道楽の非モテたちには、「ちょっと良い店」のランチに行くことをおすすめしている。
ひとり外食はディナーよりもランチだ。晩飯を軽くして翌日のお昼にでかけよう。(ダイエットチャンスだ!寝る前の飯は太る。) 夜は、明日のご馳走のことを思って、ちょっとお腹が空いたまま就寝につこう。そして朝から仕事をバリバリこなし、お昼時、レストランには食欲だけを持っていけ。