精神科 強制入院の罪
『輝け!九条』新護憲市民の会・神奈川 会員 伊那太郎
「今、何が見えていますか?」「ホールの壁を大きなカマキリが二匹歩いています」「気分はどうですか?」「普通です、特に変わりないです」。25年前、北海道浦河町にある精神障害者のための社会福祉法人「ベテルの家」の理事、向谷地生良(むいやち いくよし)氏が利用者10人ほどと共に全国を講演し、途中八王子での講演会に来た時の冒頭部分だ。壇上に並んだ利用者に向谷地氏がマイクを向ける。しゃべらない人もいるし、ごく普通に話す利用者もいる。当時から浦河町の「ベテルの家」では、「(入院ではなく)地域で暮らす」理念を掲げ、薬を飲む、飲まないも自由。暴れてドアをけ破る、窓を壊すなどはしょっちゅうで、壊してしまった人の多くは同じ利用者の大工に修理を依頼し、代金を支払う。浦河の町に利用者が出て行って立小便をしてしまうとか、大声で何か叫ぶとかが普通にある。浦河の町民との交流は困難で大変であったが、「ベテルの家」は当時すでに相当程度町民に受け入れられているという話だった。今、この日本で精神疾患がある人が暴れたら少なくとも服薬させる、あるいは入院をさせるのは当然と思われるだろう。25年間日本の精神科強制入院の実態は変わっていないということだ。
以下、2010年から日本精神科病院協会会長を務める山崎学氏(83歳)に対するインタビュー記事の一部である(2023/9/4東京新聞)。
―(記者)年間1万件超の身体拘束がある。
(会長)粛々と法に則って拘束するのは当然。拘束しないで、患者が逆に自殺したり転倒骨折したほうが怖い。
―(記者)入院し続けることは幸せか。
(会長)そう思う。
―(記者)社会構造も変えないと。
(会長)医者になって60年、精神障害者への社会の偏見はなくならない。
―(記者)国連障害者権利委員会は日本の強制入院を問題視し、根拠法を勧告した。
(会長)余計なお世話だよ。
これが日本の精神科病院を統括する会長の言という現実、暗澹たるものだ。