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山行記その11 西穂高岳〜犀の角のように〜
死ぬまで新しい体験を続けていきたい。
そしていつか死んでしまう時、それさえも新しい体験と思えたら、まあまあの人生だったのだろう。
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ここから大小10の峰々を越えて主峰を目指します
暴力的な爆風と目の前の岩塊より先を見通すことのできない濃い霧のなか、マーカーを頼りによじ登る。同行者はなく、すれ違う登山者も一人とてない。この先の晴れの予報を信じて前へと進むが、小ピークを越える度にここまでにしようかと弱気が顔を出す。垂直に近い岩の壁に、風に飛ばされぬようしがみついて、生きていることを実感する。まだ死んでない。死ぬまでは生きている。
怯むこと無く次の一歩を踏み出し、前に進め。
ただひとり犀の角のように。
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何も見えません
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目の前しか見えません
眺望なし 風強し
穂高4座登頂を目標にほぼ30年振りに山登りを再開して3年目。最後に残した1座、西穂高岳の山頂にようやく足跡を刻むことができた。
天候やら仕事やら、あれこれ万障繰り合わせて山行に臨むことが一番の苦労ではあったが、実際体力と気力が充実しているうちに目標を叶えることができたことを、ただ嬉しく思う。
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晴天予報にも関わらずガスで真っ白な山頂に辿り着いて、景色は何も眺めることも出来なかったけれど、唯一人突き進んで、ようやく標柱に触れることができた。
他に誰もいない、自分独りだけの頂きで、濃い湿度を含んだ標高2909メートルの空気を深く吸い込んだとき、初めての強い達成感に痺れるように酔いしれた。
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最後まで何も見えなかったけど
充実感でいっぱい
山登りは人それぞれの目標があっていい
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人生は皮肉に満ちているが
だからこそ面白い
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また来るよ