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[architect]House in Shukugawa



1.バックグラウンドとして土地のロケーション

立地は兵庫県西宮市。周辺は自然が豊かで古くからの邸宅街が広がる夙川沿岸の閑静なエリア。地価が高く坪単価も比較的高いため、土地が細分化され密集しているエリアも多くみられる。

 敷地は、そのような旗竿型のコンパクトな土地であり四方を2階建て隣家に囲まれ、決して条件が良い方ではなかった。しかしながら、クライアントは周辺環境の良さと幼い頃から慣れ親しんだ地域であるという点を重視し、この土地を購入された。

2.依頼のきっかけ

狭小など、一見デメリットが多いと思われる敷地でも、建築家はそれを逆手に取ることで建築の長所や個性を見出すことができる。その点を期待され、今回のご依頼に繋がったと認識している。狭小など、一見デメリットが多いと思われる敷地でも、建築家はそれを逆手に取ることで建築の長所や個性を見出すことができる。その点を期待され、今回のご依頼に繋がったと認識している。

3.要望

クライアントから伺った理想の住環境や要望は、次の5つに整理できる。

  • 家の中にいても自然(緑、光、風)、四季(時間の移ろい)を感じ取れること

  • プライバシーを確保しつつhygge(デンマーク語で「居心地がいい空間」や「楽しい時間」をさす言葉)を大切にできること

  • 陰翳礼讃の精神で影や外光の変化を繊細に感じられること、照明計画も均一な明るさではなく変化や緩急があること

  • 全体がゆるく繋がりつつ、用途に合わせて空間ボリュームにメリハリがつけられること

  • インテリアから建築まで家を長く楽しむことのできる普遍性のあるデザインであること

これらのテーマと敷地条件をもとに、建築形態を検討していった。

4.デザインコンセプト

プライバシー確保に対し、外側に開くことが難しい敷地条件であったため、家の中にクライアントのための独立した世界をつくることを目指した。共有していただいた好みのインテリアイメージにはヨーロッパの空気感を感じるものが多く、意匠にもそれらの要素を取り入れることにした。

 まず敷地に対して可能な限り大きく建物のフットプリントを設定し、外に閉じた箱型の計画とした。内部でも自然や四季を感じ取れるよう、比較的採光が確保しやすい北側の角に中庭を配置。その周りにホール(リビングダイニング)やキッチンなどのアクティブスペースを設けた。寝室や浴室といった個人の休息スペースは、必要最小限の大きさにして2階に配置した。(寝室の収納家具は、部屋割りの変化に対応できるよう可動式となっている)


 この住まいの最大の特徴であるホールは、外に閉じた住まいの中で窮屈さを感じることなく、家族や親しい人達との時間を優しく包み込むことができるような空間を目指した。団欒を生む適度に求心性のある平面と、人が集まっても居心地の良さを担保できるドーム状の大きな気積によって空間に包容力を持たせた。

 また完全にプライベートな空間である2階に対して、1階は住宅でありながらセミパブリックな空気感を持たせることで、狭い箱の中に変化と奥行きを生み出そうとしている。床のタイル仕上げ、路地のテラス席のようなダイニングテーブル、吹き抜けに突き出したバルコニーのような踊り場、ドームとシンボリックなトップライトが醸し出す少し厳かな雰囲気、などの要素が相まって1階の空気感をつくり出している。


 採光については、単に明るいことだけではなく相対的に明るさを感じられることも重要である。ホールの開口部は最小限として全体の照度を下げつつ、中庭に落ちる光が最大限美しく感じられるように明るさの序列を整理した。また壁天井の仕上げは淡い赤褐色の漆喰塗りに統一することで、明るさを増幅させながら光の暖かさも感じられるようにした。

 空間操作としては、中庭外壁隅部のR加工、シームレスな左官仕上げとしたドーム天井、ドームと対照的に低く抑えた1階天井高などが距離感の錯覚を起こし、コンパクトな空間に視覚的な広がりをもたらしている。

5.室内環境

居心地のよい空間をつくるためには快適な温熱環境も不可欠である。建物全体がコンパクト且つ緩やかに繋がっているため、冬季は1階ホールとキッチンに設置した床暖房によって、効率よく建物全体を温めることができる。壁天井には全体を通して漆喰(マーブルフィール)による左官仕上げを採用し、建物自体の調湿性能を高めている。

 換気設備は「第1種換気※1」を採用。温度交換効率92%の全熱交換型換気ファン(オンダレス)により、給排気の際に室内の温度と湿度を損なうことなく換気を行うことができるため、快適で冷暖房負荷の削減に繋がる。CO2濃度や湿度をセンサーにより検知し、自動で換気量を増やす仕組みも取り入れている。

 また断熱材は、一般的なボードタイプよりも気密性が高く、透湿性に優れた木造用の吹き付けタイプを使用。サッシはLow-E複層ガラス+アルゴンガス充填で断熱性を高めた。

※1「第1種換気」..給気、排気ともに機械換気装置によって行う換気方法。

6.構造計画

木造軸組構法の構造材には、強度が高いことで知られる高知県産の土佐材を使用。上部躯体には土佐杉、土台にはより強度や耐久性の高い土佐桧を用いた。工務店が高知県から直接仕入れるこだわりの材であり、安定した品質の確保とコスト削減につながっている。

7.造園計画

この住まいにおける重要な要素である中庭は、光や風を映し出す雑木による設え。苔やシダなどの下草から景石や中高木まで、複数のレイヤーを重ね、コンパクトでありながらも奥行きのある風景をつくり出している。またコンパクトな分植物と人との距離が近く、天候や四季の移ろいを生活の中で身近に感じ取ることができる。石畳となっているため、気候の良い時期は気軽に外へ出て軽食を取るなど、テラスのような使い方も可能。草木を愛でる豊かさを生活に取り入れてもらえることを目指した。

 敷地のアプローチ部分には錆御影石を乱張りし、大胆にも室内の玄関土間まで引き込んで連続させている。隣地に挟まれた狭い通路であるため、訪れる人に奥への期待感を抱かせるような手の込んだ仕上げとした。また石敷きを採用することにより来訪者の意識が足元に向かい、ホール吹抜けの開放感を演出する一助となっている。

8.照明計画

 ベース照明は、明るすぎず器具自体の存在感を極力感じさせない配置を心掛けた。特に中庭の植栽を引き立てる照明は、月明かりのように高い位置から照射することで、ガラスへの映り込みを防止しつつ、植物の自然な美しさを表現できるよう配慮している。ホールについても、空間の抽象度を損なわないために、エアコンのニッチ内にアッパーライトを仕込み、天井面に器具が露出することを避けた。

 対して、人を迎え入れたり留まらせる場(玄関、ダイニング、リビング、トイレ)には、質感のある存在感をもった照明を配置し、インテリアに寄与するとともに空間のアクセントとしている。

9.まとめ

近隣住宅が密集する環境の中で、周囲を隔てて内部空間を切り離すことで、住み手のための世界を築くことができた。仕事で毎日を忙しく過ごすクライアントだが、ここでの時間は、仕事を忘れ、好きなものに囲まれ、家族や友人たちと心から安らげる時を過ごしてほしい。心身共に癒やされるような家での日常が、日々の活力となるように。この住まいがそんな生活を支える器になることを願っている。

10.物件情報(家族構成、建築概要、面積関係など)

〈概要〉
クライアント|夫婦
延床面積|70.10㎡
建築面積|42.56㎡
1階床面積|39.59㎡
2階床面積|30.51㎡
所在地|兵庫県西宮市
用途地域|22条区域
構造|木造
仕上|外部 外壁:小波ガルバリウム鋼板貼り、ジョリパッド吹付
   内部 床:タイル貼、複合フローリング貼
      壁:マーブルフィール塗装仕上
天井:マーブルフィール塗装仕上
設計期間|2022年11月~2023年7月
工事期間|2023年8月~2024年3月
基本設計・実施設計・現場監理| arbol 堤 庸策 + アシタカ建築設計室 加藤 鷹
施工|株式会社稔工務店
造園|荻野景観設計株式会社
照明|大光電機株式会社 花井 架津彦
空調|ジェイベック株式会社 高田 英克
家具制作|ダイニングテーブル、ソファ:wood work olior.
ダイニングチェア:tenon
インテリアスタイリング|raum
撮影|下村 康典 (一部 加藤 鷹)
資金計画・土地探し・住宅ローン選び|株式会社ハウス・ブリッジ
テキスト|加藤 鷹


クリエーティブの力で人がもっと本質的に豊かな状況を作り出す活動費に使っていきます。 先ずは自分自身で体系化出来た事などをお伝え出来ればと思います。 次に、過去にクリエーターズシェアオフィスや、デザインアートの実行委員長をしていたように、周りの人と共に新たな活動をしていきます。