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SNSで毎回話題の朝ドラ『虎に翼』に見るジェンダーの過去と未来

#YourChoiceProject (以下、#YCP)ライターのJuliyです。私は元々X(旧名:Twitter)をよく使用し、一時期は映画鑑賞アカウントを運営していたりするほどの映画大好き人間なのですが、全く未知のジャンルであった朝ドラにはじめて足を踏み入れたバックグラウンドとXの反響、そしてアメリカで本場のメディアジェンダー学履修者としての感想をみなさんに共有できたらと思います。いつもとはちょっと毛色の違う記事にはなりますが、よかったら是非お付き合いください。



そもそも『虎に翼』とはどんな作品? 


 NHKの連続テレビ小説である虎に翼ですが、もしかしたら初めて名前を聞く方もいらっしゃるかと思い、簡単に紹介させてください(決してNHKの回し者ではありません)。

 『虎に翼』は、月曜日から金曜日の朝08:00から08:15まで放送されるNHKの連続テレビ小説第110作で、日本で初の女性弁護士となった三淵嘉子をモデルにしています。主人公の寅子を伊藤沙莉が演じ、戦前の女子部時代から弁護士、そして戦後は裁判官として働く姿を描いています。この作品では、困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた法曹たちの姿を描いており、朝ドラ常連視聴者だけでなく、現役弁護士の方々にも感動と興奮を与えています。特に、寅子が乱世の中で感じる「はて?」は、現代社会の抱える問題にも通じており、問題に対峙する彼女の姿を通じて、法律や正義について考えさせられる内容となっています。(※1)
 今作は世紀の大反響の中で2024年9月27日に最終回を迎えるとあり、ネット上では大きなトレンドを生み出しています。

Xでおすすめにランクインし続ける『虎に翼』


 そんな私がこの作品に興味を持ったのもX経由であり、「#虎に翼」で連日のようにトレンドに入り続けることに気づいたからでした。元々生まれてこの方朝ドラには疎く、今まで何度か見始めるきっかけはあったのにそれを尽くスルーしてしまっていた人生でした。しかし、その無関心の壁をも上回る圧倒的な量のポストを目の当たりにして、『虎に翼』という作品について調べるようになりました。

 この作品が如何に稀有なものであるかを証明するのは、視聴者の幅の広さであると思います。元々私のX上のタイムラインは視聴した映画・ドラマを紹介するアカウントや映画の配給会社の広告で占められていました。しかし、『虎に翼』を検索してから流れてくる『虎に翼』のポストをしているユーザーの大半が弁護士職についている方々でした。私の約10年間の経験上、映画やドラマの中で特定の職業にフォーカスされるとき、その職業につく方々はあまり作品を見なかったり、現実との違いについてポストすることが多く、あまり共感する内容を見かけたことがありませんでした。特に、士業作品はそれが顕著にあると感じていました。しかし、この作品では現役の弁護士の方々が作品に深く共感し、ドラマで描いた事柄について細部の解説までしてくれていたのです。こんなにも「本職の弁護士の方々から愛される女性弁護士を主役にした」ドラマというのはかつてなく、X上でさらにファンが増えていきました。

現代社会と地続きの問題を扱う作品


 加えて、私がこの作品をいつも#YCPの記事を読んでくれる方々に紹介したいと思った理由として、新潟編で登場する森口美佐江という少女が地方にいながら東大を目指し、ドラマの舞台の一つとなっていることが挙げられます。そして、そこでの彼女たちの台詞は現代を生きる女性にも刺さるものとなっています。1946年に女子も東大へ入学することができるようになってまだ間もない当時、彼女たちの東大進学を巡る問題は今の入学試験における「女子枠の設置」と通ずるところがあるかと思います。(※2)

 例えば、登場人物たちの東大進学を巡った問題は今の入学試験における「女子枠の設置」と通ずるところがあるかと思います。「私、女辞める。」と言い放った“よね”というキャラクターが、家族を守るために結局女性性に頼らざるえなかった過去やそこから脱出するために弁護士を目指す姿は、100年経ってもこの国の男尊女卑の根深さが変わっていないことを感じさせました。今も地方に五万といる少女たちが性別を理由に夢を諦めなければならない現実を、その現実を変えるために活動しているみなさんに是非見てほしいと思いました。また「女子枠の設置」は100年前の何の後ろ盾もなく身一つで大成した彼女たちが、未来の少女のために贈った男尊女卑社会を是正する一歩であるのだと、私は感じ胸が熱くなりました。
 また、男女差別の御法度に斬り込みまくる展開であることも日本の典型的な作品とは一線を画し、この作品の魅力を高めています。

“Female Gaze”で描く『虎に翼』


 さらに『虎に翼』では男女差別を台詞でも演出でも強く描いているように感じます。ここで言うFemale Gaze(女性のまなざし)とは、従来の演出であるMale Gaze(男性のまなざし)の逆の新しい手法を指します。Male Gazeでは狭義の意味では作品の中で女性が男性の支配下にあるモノであることを強化し、女性は男性に評価される者であることを強調することを指します。また、この権力構造を

  • 不必要な女性の露出

  • 女性のボディラインにしたがってゆっくりと撮る(とりわけローアングルから撮る)

  • 女性の身体を小道具として扱う

  • 女性の表情だけでなく、胸のあたりまで映す

などの撮影方法で視覚的に訴えます。日本ではこの手法がオンライン新聞やニュース番組(何らかの事件の被害に遭った女性をローアングルから見上げる形で撮影することや、犯罪をおかした犯人を映す際に男性の場合は建物の映像を放送するのに対して、女性はでかでかと顔写真を載せることなどが例です。)、ドラマ・映画でも主流で使われますが、この『虎に翼』では作品の主張に沿って抑えられると感じています。反対にこの作品では女性を主体的な存在として、男性と同等の動きを同等のアングルで捉えていることが比較的多いように思います。これらの手法によって、各キャラクターがより生き生きと見えているのでしょう。この変化を感じたことが、ジェンダーメディア学をおさめたものとして感動した点でした。

最後に


 いよいよ最終回を迎える『虎に翼』ですが、私は残念ながらリアルタイムでは見られそうにありません。しかし、Xでの視聴者のポストを拝見しながら過ごしたいなと思っています。この記事を読んで下さった方に『虎に翼』の新しい切り口を紹介できたり、コミュニティの中での会話のきっかけになることを願っています。

出典


1. 『虎に翼』の「はて?」を解く、文春オンライン、https://bunshun.jp/articles/-/73523 、アクセス:2024年9月20日
2.朝ドラ『虎に翼』森口美佐江の東大合格はどれくらいすごかったのか? 女子の大学進学率3%未満を乗り越えた秀才  https://news.yahoo.co.jp/articles/f870be32eb62dbdd8fb9433ab67bf767ca521a8f

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