なぜ、地方の女子学生は東京大学を目指さないのか【2023年度調査結果】
サマリー
調査概要
地方女子は東大進学にメリットを感じない傾向にある
地方女子は資格取得を重視
地方女子は安全志向
保護者の期待は生徒の難関大志望度に強く影響する
地方女子は自己評価が低い傾向にある
残存する「女子は地元」の呪縛
家庭の影響
本人の意思にも影響
まとめ
サマリー
地方女子高校生の進学支援を行う団体である#YourChoiceProjectは全国の高校生3716名を対象として、地方/首都圏・女/男の間にどのような意識格差が存在するのかを明らかにする調査を行った。
地方女子を、他の三属性(地方男子・首都圏女子・首都圏男子)と比較したところ、顕著に偏差値の高い大学に進学することに対するメリットを感じていないことが判明した。さらに原因として、資格取得を重視する傾向、浪人回避並びに安全圏を志望する傾向、高偏差値大学合格に対する自己評価の低さなども明らかとなった。
※本調査では、首都圏を一都三県とし、地方をそれ以外の都道府県としている。
調査概要
対象:「偏差値が67以上であること」「東大合格者が例年5名以上であること」などを目安に、全国から選定した97校に在籍する高校2年生の男女3816名
調査期間:2023年2月7日~4月15日
調査主体:東京大学の学生団体#YourChoiceProject及びpolaris
有効回答数:3716件(地方女子:1310名、地方男子:1666名、首都圏女子:542名、首都圏男子197名)
なお、本調査の統計は有意水準を5%と設定した。
地方女子は東大進学にメリットを感じない傾向にある
「偏差値の高い大学に行くことは自分の目指す将来にとって有利だと思うか」という設問に関して、首都圏女子と首都圏男子には回答に差がなかったのに対し ( t (362) = 0.82, p = .41) 、地方女子と地方男子には回答に顕著な差が見られた ( t (2784) = 6.07, p < .001)。ここから、地方では女子が性別が理由で、東京大学などの偏差値が高い大学へ行くことそのものにメリットを感じていないことが分かる。
地方女子は資格取得を重視
上記の理由として、地方女子が資格取得を重視する傾向があるということが挙げられる。
「資格のある職業に就くことは自分の将来にとって大事だと思うか」という設問に対する回答から、男子より女子 ( t (3659) = 2.10, p = .035 ) 、首都圏より地方 ( t (1117) = 3.73, p < .001 ) の方が資格のある職業を目指す傾向が強いことが分かった。さらに、「偏差値の高い大学に行くこと」と「資格のある職業に就くこと」のどちらが自分の将来にとって重要かを比較したところ、高偏差値大学への進学より資格取得を重視する割合は、首都圏男子で13.2%、首都圏女子で20.8%、地方男子で17.9%に対して、地方女子は28.5%と非常に高い結果となった。
地方女子は安全志向
「自分が志望する大学に行くためなら浪人したいと思うか」(浪人肯定度)の設問においても、首都圏女子と首都圏男子には回答に差がなかったのに対し( t (335) = 1.62, p = .11 )、地方女子と地方男子には回答に顕著な差が見られた( t (2895) = 5.56, p < .001 )。首都圏女子と首都圏男子にも数値上の違いは見られるが、サンプル数の制約もあり、この調査で統計的に有意な違いがあると言うことはできなかった。
そして、浪人回避傾向もさることながら、そもそも大学を選ぶ段階において「偏差値が高いこと」と「合格する可能性が高いこと」をどの程度重視するかを問うて比較したところ、偏差値の高さよりも合格可能性の高さを重視する割合は、首都圏男子で24.9%、首都圏女子で33.6%、地方男子で38.5%に対し、地方女子は50.8%と非常に高い結果となった。
保護者の期待は生徒の難関大志望度に強く影響する
「保護者からできるだけ偏差値の高い大学に行くことを期待されていると思うか」という設問に対して、首都圏女子/首都圏男子/地方女子/地方男子の平均値を比較したところ、首都圏女子と首都圏男子の間に差が見られなかったのに対して ( t (355) = 1.07, p = .29 ) 、地方女子と地方男子には顕著な差が見られた ( t (2788) = 2.30, p = .021 ) 。
さらに二設問、「偏差値の高い大学に行くことは自分の目指す将来にとって有利だと思うか」「保護者からできるだけ偏差値の高い大学に行くことを期待されていると思うか」を比較したところ、高校生が偏差値の高い大学へ行くことを有利に感じるかどうかは、保護者に期待されるかどうかに強く左右されることがわかった ( F (4, 3711) = 18575 , p < .001 ) 。
地方女子は自己評価が低い傾向にある
二項目「自分の成績は学年の中でどれくらいだと思うか」「自分の高校にいる人で、東大に入学できる可能性が高い人は上位何%以上の人だと思うか」から、「客観的な学力」を割り出し、「あなたが今、東大志望だと仮定した時、今後努力すれば東大に合格できると思うか」の項目(自己評価)と比較した。同じ「客観的な学力」帯の人では、地方女子が首都圏女子(t (1001) = 6.86, p < .001 ) ・地方男子に比べ (t (2937) = 10.14, p < .001 ) 、自己評価が低いことがわかった。
また、「東京大学に進学した先輩や、東京大学に在学する知り合い(話したことがあるひと)は周りにどれくらいいるか」という質問からロールモデル数を測定し、ロールモデル数によって自己評価の値に差が出るかを調べたところ、有意な差が検知された ( F (4, 2104) = 15570 , p < .001 )。今回は環境を揃えるため上位5%が東大に進学する地方高校の生徒の中でこの関係を調べた。
残存する「女子は地元」の呪縛
家庭の影響
保護者の方からの実家に近い大学に行くことの期待度について、地方女子は地方男子に比べて有意に高かった ( t (2636) = 8.00, p < .001 ) 。「女子は地元に」の固定観念がいまだに残存していることが伺える。
本人の意思にも影響
大学選びにおいて重視するポイントを順位づけしてもらい、その重みづけを行なったところ、地方女子は地方男子に比べ、有意に「実家に近いこと」を重視することが分かった ( t (2636) = 5.20, p < .001 ) 。また、地方女子が実家からの近さを重視する度合いは、保護者からの期待度に影響を受けることが分かった ( F (4, 1848) = 3601, p < .001 ) 。
まとめ
今回の調査から、地方女子には地方男子とも首都圏女子とも異なる意識の差があることが明らかになった。本人たちの意識の差是正に向けた活動のほか、女子率の低さに悩む東京大学をはじめとする日本のトップ大学は、地方女子がそのような意識の下にもより幅広い大学進学・キャリア選択ができるような制度づくりが求められる。
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追記:調査概要において、調査期間を「2022年2月7日〜4月15日」としておりましたが、「2023年2月7日〜4月15日」が正しい期間でした。訂正するとともに、お詫び申し上げます。