「一人でつらさを抱えない社会を作りたい」 -wakarimi代表・高本玲代さんインタビュー
ーー こんにちは。今日は宜しくおねがいします。初めに自己紹介をお願いできますでしょうか?
高本玲代です。これまで大手二社を経験した後ヘルスケアのスタートアップに参加し、ヘルスケアのアクセラレータープログラム500 Kobeにも二回参加しました。でも本当に自分がやりたいことを、という思いが募り、『wakarimi(ワカリミ)』というサービスを立ち上げました。
更年期の原体験から生まれたサービス
ーー wakarimiというのはどういうサービスですか?
更年期世代の夫婦間のコミュニケーションを改善するためのサービスです。①女性の日々の心身の状態を共有できる、②女性の更年期の不調について知識が得られる、③夫婦間のコミュニケーションを活性化しどんな手助けを欲しているかが分かる、というサービスです。
料金は月額1,500円(税別)で気軽にお使いいただけて、最初の一週間は無料。LINEを通じて夫婦お二人にwakarimiから毎日簡単な質問が飛び、夫婦それぞれの気持ちを橋渡ししてくれるサービスです。
女性は更年期に体調不良を感じる事が多いのですが、自身の経験からいっても、初期にはそれが「更年期症状」だと自分も周りもわからなかったりします。体調が悪いのに、怠けているようにみられたり・・・
それでだいぶ苦しい思いをして、自分で更年期についてやパートナーの理解をどう得るか、っていうことを色々調べていったんです。その結果、自分も自分の症状を理解でき、パートナーにも理解してもらえるようになっていって更年期がとても楽になったのですが、周りの女性にもそういう悩みを持っている方が多かったので、自分とおなじような悩みを持つ方を救いたい、と思いサービスをつくりました。
本当に自分らしいチャレンジがしたい
ーー 事業として自ら立ち上げてみよう、と思ったのはどんなきっかけですか?
スタートアップに参加して、起業家を間近でみて刺激を受けたり、その中で感じた違和感もあって、自分で事業を立ち上げたい想いは徐々に強くなっていたんです。そこに「更年期に向き合う」という原体験を得た、とタイミングが重なったことですね。
ーー そもそもどうしてヘルスケアスタートアップに興味をもったのですか?
大手で働いていれば安定はしていたのですが、やっぱり自分の裁量をもってやりたくて。ヘルスケアやウェルビーイングヘの興味っていうのは実はずっとあったんです。もともと受験の時には医学部も目指していたんですが、ただ理数系が弱くて(笑)。そして医学そのものというより、人の心にも興味があって。自分自身も10年前くらいに鬱も経験して、そのときに認知行動療法っていうのを知って、調べて、自分と向き合うことができた。そう考えるとヘルスケアといっても、体のことのようなんだけど実は「人のココロ」っていうのにずっと興味があったんですね。
ーー 今回の事業立ち上げは自ら起業するのではなく、インキュベーション事業『Your』という仕組みから立ち上げていますよね?その選択をしたのはなぜですか?
スタートアップ業界に実際入ってみて、やっぱり想像以上にスタートアップは男性社会だったんです。投資家やメンターの方も男性ばかりで、女性の起業家のニーズがなかなか伝わらないのをみてきました。女性のための課題解決したい!という想いで立ち上げても「それじゃ規模が小さい」といわれて、市場規模が大きいサービスにピボットさせられるようなケースもありました。
それから「起業するなら東京に行きなさい」というようなことも言われて。営業面や投資家との面談の利便性もあるのですが、そういう経験をするうち「やっぱり起業は子育て終わってからじゃなきゃ無理か…」と半ば諦めかけていたんです。その時にちょうど「Your」のことを知って。自分ひとりじゃなく複業で立ち上げられるし、スケールだけ追い求めない感じもあって。この形なら自分がやりたい事業がつくれるのでは、といてもたってもいられなくて応募したんです。
wakarimiをはじめて気づいたこと
ーーサービスはいつから開始したのですか?ローンチ後の手応えはいかがですか?
β版として2020年の4月14日にリリースしました。β版とはいっても無料ではなく有料で、まずは3980円の買い切りの形で始めてみました。
無料だと本当にニーズがあるか分からないと思ったので、β版から有料にしたのですが、お使いいただいているユーザーの方に「このアプリで元気になりました」というお声を頂いたり、有料でも満足いただけていて、手応えを感じています。
もともとこのプログラムは継続していくものなので、サブスクリプション(月額継続課金制)の開発をしていたのですが、いよいよ2020年7月1日から月額1,500円(税別)のサブスクリプションサービスとして本格開始します。
ただ一方で、予想とはちがうところもありました。サービスが一番刺さるのは、更年期の変化でモヤモヤを抱えている女性なのですが、実はそのモヤモヤについてパートナーに伝えられない、っていう人が思った以上に多かったんです。
もっと沢山の人に想いを伝えていきたい
ーー なるほど。本格開始にあたり、いま一番課題だと考えていることは何ですか?
サービスのアクティブ率は80%以上と高いのですが、まだまだユーザー数が少ないので、まず一度使っていただく機会をどう増やすか、ということですね。
先程も申したように女性にはサービスを使いたい需要があるんですが、「wakarimiを一緒に使おう」とパートナーに言い出せない、っていう問題があって…。wakarimiは当初、女性側からサービス訴求していたんですが、これだと難しいかもしれない。一方でユーザーテストをしている時に、サービスを知ってパートナーに勧めてくださる男性が結構いて。更年期に関する知識がない分、更年期について知るとパートナーを気遣う男性も多いことに気づきました。そして自分から言い出しづらい女性に対し、男性から声を掛けてもらう方がむしろ使い始めていただきやすい。そこで今、訴求のターゲットを男性側にシフトすることを検討中です。
これからの人生100年時代には、女性にも男性にも体調の変化の波があるわけで、更年期に限らず心身の変化を夫婦一緒に乗り越えていくことができるととても強いと思うんです。
ですから更年期ってつらい時期ではあるけれども、「夫婦がお互いのことに向き合う絶好の機会」なんじゃないかと思うんですね。実際に、サービスをお使いいただいている方からも「使っててすごく毎日が明るくなった」というようなメッセージをいただいたり。
ですから、ターゲットと伝え方を少しピボットしてみたいと思っています。女性からは言い出しづらいので、まず男性への啓発も含めて興味をもってもらい、利用をパートナーに勧めていただく。そしてもう一つは「更年期」を全面に出すのではなく、そしてもう一つは「更年期」を全面に出すのではなく、「夫婦というチームの問題」としてお伝えしていく。
ーー 事業の立ち上げをしていて、大変なことはありますか?
複業しつつ子育てしながら、しかもリモートで事業を立ち上げているのですが、不思議なほど大変っていうことはないんです。手探りでやるからわからないことにぶつかる苦労は勿論あるんですが、もがきながらやるっていうのもやりたいことだからやっぱり楽しいんでしょうね。
ただ、まだまだだなあ、難しいなあと思うことはあって。それは「想いを上手に伝えられない」っていうところなんです。以前にスタートアップに入ったのも起業家の想いに打たれてJoinしたわけなんですが、自分がまだそんな風に思いを上手く伝えられなくって。日々の「もがき」や考えたり工夫したことを人に上手く伝えられない「もどかしさ」、それが一番いま難しいことかも。
wakarimiがつくる、助け合える社会
ーー 起業家は、やっぱり「想い」が一番大事ですもんね。そんな「想い」も込めて、最後にこれからの展望について教えて下さい。
サービスを始めてみて、今使ってくださっているユーザーさんの声を生できくと、wakarimiを通じて「それぞれの夫婦のあり方」を見つけられる、というのが見えてきたんです。wakarimiは「こうしなさい!」って理想的な仕方を押し付けるのではなくて夫婦の間をとりもつ役目なので、そこで生まれてくるのは「それぞれの夫婦のカタチ」なんですよね。
人生100年時代には、夫婦がこれまで以上にお互いを知って支え合っていくことが必要だと思っていて。更年期だけではなくて、月経による体調変化や妊娠中のつらさや育児のストレスなど、これまでは十分に共有されてこなかったと思います。だからその橋渡しをwakarimiがすることで「つらさを一人で抱える」ことから解放したい。
「しんどいから助けて」ってちゃんと言える、それは女性だけのためではなく、身近なパートナーや家族に共有し支え合って乗り越えていける社会にしたい。私がwakarimiで思い描く未来は、「抱え込まずつらいことはつらい」と言える社会をつくることですね。
ーー「抱え込まずつらいといえる社会」というのはとても素敵ですね!これからのwakarimiの展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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wakarimi(ワカリミ)サービスページ
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【高本玲代さんプロフィール】
セブン&アイ→帝人(株)を経て、2016年には米国MBAを取得。その後スタートアップの世界に入り、ヘルスケア分野で2つの事業に携わる。自身が所属する2つの事業で500Kobe2018、2019にヘルステックにて初めての二度の採択メンバーとなる。二度目の事業で2019年ラスベガスCES展示会にJETROより採択される。子育てをしつつ複業・遠隔で事業責任者として事業を立ち上げ。