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手触りのある音楽をつくる。5人の作家が『若き見知らぬ者たち』に込めた想い③

『若き見知らぬ者たち』劇伴に携わった5人の作家、そして内山拓也監督を迎え、座談会を決行。制作の裏側やサウンドトラック完成後の所感など、濃厚なトークの模様を3回に分けてお届けします。と併せてご覧ください。

<参加者>
Christian Dinh Gulino
石川快
掛川陽介(オンラインにて参加)
内山拓也
松井亮
yasu2000
(順不同)


譜面化できない音をどうやってつくっていくか

内山
こうやって振り返ってみると、具現化が難しいところからお願いして、抽象的な音を探ってもらい、掛川さんが言うところのあえての劣化や、ローテクなマスタリングに終わる。最初からアナログな方向に向かっていたのかもしれないですね。

掛川
音楽的な表現じゃなくて、音像というか揺らぎのような。譜面化できない音楽だったよね。

内山
譜面化できない音って、どうやってつくっていくんですか。

クリスチャン
私の場合ですが、とにかく何度も繰り返し観ることから始めます。きっかけになるようなものを画面の中から探して、まずはベーシックに弾いてみる。何度も観ていくと、物語とシーンに対する理解が深まっていくので、新たな発見を別の楽器で即興で足していくんです。今回のすごく低い低音がでてくるドローンも、まさにそのやり方でうまくいった楽曲です。

Christian Dinh Gulino

石川
その低音に関しては思い入れがありまして。映画館っていいサウンドシステムなので、家で聴けない音を聴いてもらえるいい機会なんですよ。クリスチャンには、グラフィックよりの楽曲にブラックミュージックみたいなグルーヴのある低音を入れたいと話をしたんです。これは個人的な意見なんですが、ブラックミュージックっぽい人って、映画音楽の表舞台に出てきていない印象があったので。

内山
ルドヴィグ・ゴランソン(『ブラックパンサー』『オッペンハイマー』で知られる作曲家)はどうです?

石川
彼はパーカッシブなアプローチが印象的でしたよね。ただ、常に動向が気になる存在なのは間違いないです。ところで、日本の映画音楽ってローカット(低域の音を抑えたりカットすること)する傾向あるのかなと思うんですが。

yasu
海外の、特にSF系の映画はずっとローがでてますよね。『ブレードランナー』でも、下の音が出続けている。確かに日本映画で同じように感じたことは今のところないです。ローは人を不穏にさせたり、トリップというか、非日常感にさせる効果があると僕は思っていて。

石川
わかります。『若き見知らぬ者たち』でも、サブベースが鳴った瞬間、今までなかった要素が突然入ってくる。おっ、ていう興奮があったんですよ。

無音よりもリアルなもの。
「ない音」をつくっていきたい

石川
監督はそもそも音が必要かも悩んでいたと仰っていましたが、完成後の今はどう感じていますか? 

内山
すこし乱暴な言い方をしてしまいますが、必要だったかどうかは……
正直、分からない。でも、なくても良いのかなと悩んだ果てに、今は完成してここにあるので、これが正解なんだと思います。最近、映画音楽について考えているんですけれど、例えばドキュメンタリーでは音がないことがひとつの正解だったりする。作為的でないことが重要なので。ただ、生活をしていると外的な音を感じるし、自分(体内)から出ることもある。無音って不自然なんじゃないかと。それなら一体どんな音がリアルなのか。まだ途方のない状態ですが、今回の劇伴制作の中にヒントがあるのかもしれません。

掛川
無を不自然じゃないかとおっしゃったけど、僕もそう思いますね。映画のなかで何箇所かめちゃくちゃ好きなシーンがあって。音楽が無いところ、裏庭から風が吹いたり、カーテンが風で揺れるところ。あと、家の中にいるときに、小さな子どもの声が聞こえるところ。いやぁ、何回も観ましたよ。

内山
一つひとつが調和して音楽になるように作り込んでいったので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも映画をつくる上で、音楽が「ある」のか「ない」のか、せめぎ合い続けると思っているのですが、もし「ある」という方向で旅を追い求めるなら「ない音」を作りたい。最終的には(自分の映画から)曲がなくなるのかもしれないです。ケンローチやダルデンヌ兄弟(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/劇伴や音楽をつかわない作品づくりで有名)とか、音のない名作映画はあって、それは美学だったり狙いだと思いますが、僕の一番の理想は、こうやって皆で集まって作って、お金もかかって、いろいろ試した結果の……音なし!なのかもしれません。

一同
なるほど〜(笑)

石川
その場にいたいですよ(笑)。

正しさを求めるけれど、ミステイクだっていい。
そこに宿る共存の難しさ。

内山
僕、目も耳も良いんですよ。他の映画を観ているときに、いろいろ気付いてしまうことも多々あって。とはいえ、自作も含めてどうやってもミスは出てくるものなので、自分の目と耳を信頼して、できるだけ逃さないようにしています。ただ一方で、ミステイクが良いということもあるし、台詞だって間違ってたっていい。それは絶対に忘れたくない。正しさを求める作業と積み上げたものを壊したっていいんだっていう観点は、どっちも大事。共存は難しいですけどね。

石川
積み上げたものというと、エンディング曲「TheYoungStrangers」のピアノは、繰り返しクリスチャンに録ってもらいました。バージョン7で決まったのですが、最後に皆で聞いてみませんか?

松井
……これはすごいね。横の音までキレイに録れているし、マイキング(マイクの配置や調整)も上手。

石川
ピアノは、スタインウェイ&サンズのAモデルを使用しました。ピアノと共に生きているような素晴らしいエンジニアさんのいるスタジオで。

クリスチャン
何度も繰り返し映像を観て感じたことと、脚本が表現していることがどう違うのか、まだわかりませんが、自分が受け止めた印象が音楽に翻訳できていたら嬉しいです。

松井
今日は監督や皆さんと話をして、はじめてラッシュで『若き見知らぬ者たち』を観たときに感じた音楽の少なさ、自然の音で成り立っていたことへの意味や理由についてお聞きできて良かったです。

yasu
わたしもです。こだわりを知ることができ、より一層、監督の作品が好きになりましたね。

掛川
僕はまぐれや偶然が好き。普段はこんな曲を当てないだろ、みたいなものを当ててみたり、かつてつくった曲をはめてみたり。今回はそんな制作をしましたが、これからもそんな音楽づくりをしていきたいです。

内山
ありがとうございました。まだまだ経験値では語れないですが「若き見知らぬ者たち」でやろうとしたことを、寄り道をしながらも確実に間違ってないと思えるものができたと思っています。

石川
マスタリングについてもですが、監督にそうおっしゃって頂けて我々の試行錯誤が報われる気がします。早く皆さんにこの音をお届けしたいですね。皆さん、本日はお忙しいところをありがとうございました!

①と②の記事はこちら


オリジナル・サウンドトラック発売決定!

本編での楽曲に加え、登場人物の会話や効果音、ボーナストラックを加えた全13曲収録した、オリジナル・サウンドトラックを11月03日に発売!


Profile
・Christian Dihn Gulino(クリスチャン・ディン・グリーノ)
ロンドンはMegamen Productionを拠点に活動する作曲家、ピアニスト、キーボード奏者。Herbie Hancockに多大な影響を受け、Kylie Minogue、Roxy Music、Sam Smith、Jessie J、Jasmine Thompsonなどのアーティスト達のディレクターやキーボード奏者としてレコーディングやライブに参加。内山拓也作品には『余りある』においても一部劇伴音楽を担当した。ゲーム『FINAL FANTASY VII REBIRTH』や関根光才監督広告作品『Audi e-tron GT』など、近年は日本での活動も積極的に行なっている。24年7月にはロンドン、ハイドパークにて開催されたHans ZimmerとAndrea Bocelliのコンサートにてミュージックディレクターを担当した。

・松井亮
作曲家・編曲家、ギタリスト、音楽プロデューサー
1972年生まれ、京都府出身。95年に川瀬智子(現Tommy february)、奥田俊作と共にギタリストとしてthe brilliant green結成。97年にメジャーデビュー後、その“和製ブリット・ポップ”とも称された洗練されたサウンドが話題を呼び、98年5月『There will be love there~愛のある場所~』がオリコン1位を獲得する大ヒットを記録。2010年に脱退するまで計4枚のアルバムをリリース。その後も自身のmeistar名義でのソロ活動や数々の広告音楽の作曲、他アーティストの音楽プロデュースなど精力的に活動している。

・掛川陽介
DJ Synthesizer名義も含めたソロ、バンド Languageのメンバーとしての活動のほか、音楽制作ユニットtomisiroで映画、アニメ、ゲーム、ドラマのサウンドトラックや広告など数々の映像音楽を手がける。代表作に北野武監督『TAKESHI'S』、鶴巻和哉監督『龍の歯医者』(スタジオカラー制作)、『FINAL FANTASY VII REMAKE』シリーズなど。近年はテープ・レコーダー、フィールド・レコーダー、ペダル・エフェクターなどを使ったローテク、ローファイな手法で作品づくりをすることも多く、国内外のレーベルより作品の発表を続けている。オランダ Shimmering Moods Records(2022年)、Slow Tone Collages(2022年)、イタリアRohs! Records(2024年)から
アンビエント作品をリリース。

・石川 快
Producer / Music Supervisor
DJ、劇伴作曲家としてキャリアを始め、現在はBISHOP MUSICを拠点に国内外のネットワークを活かして広告〜ゲーム〜映画といった映像作品やレーベル、イベント、店舗など幅広いメディア〜体験へ向けた音楽をプロデュースする”音楽屋”。本作ではMusic Supervisorとして音楽監督的な役割を担いつつ、作曲家としても参加。本編映像の最終仕上げとしてパリで行われたダビングにも内山監督に同行した。

・yasu2000
1999年、DJとして渡米。現地でエンジニアリングに興味を持ち、The Institute of Audio Researchに通う。卒業後ブルックリンにあるブッシュウィックスタジオで2年間働き、ニック・ハードのアシスタントなどを務めたのち、2005年に帰国。その後、origami PRODUCTIONSが手がけるbig turtle STUDIOSのハウスエンジニアを務める。これまでに担当したアーティストはあいみょん、JUJU、藤原さくら、向井太一、GLIM SPANKY、Uru、TENDRE、Awesome City Club、U-zhaan、Nenashiら。

取材/編集:峰典子
写真:加藤友美子


■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日公開
オフィシャルサイト:http://youngstrangers.jp
映画公式note:https://note.com/youngstrangers
映画公式X(旧Twitter):https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/
原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗岸井ゆきの福山翔大 他 
製作:「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作:カラーバード
企画協力:ハッチ
配給:クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners

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