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本を出すこと

これまで私は自分の名前で15冊ほど出していますが、最初の一冊目をどうやって出したらいいのか、悩ましい人は多いと思います。特に普段の仕事で、出版社との接点がないとどうすればいいかわからない人が大半ではないでしょうか。
 ライターは雑誌の連載をまず取るなりしてからまとめればいいんですが、いわゆる「本」の原稿をどう売り込むかが困りますよね。

ちなみに小説やノンフィクションは公募が山ほどあるので、そこに送ってください。それが最短です。

●原稿を揃える

 本を出すのは目的ではなく、原稿を書いた結果なので、原稿を書く前に本が出るかどうか心配するぐらいあほらしいことありません。まず何も考えずに原稿を書きます。私は一番最初の「怪しい大人の実験室」を書き上げるのに10年かかりました。なぜそんなにかかったかというと、私はタダで原稿は書かないと決めてフリーになったので、雑誌に自分が本にまとめたい原稿が掲載されるまで飛び飛びだったからです。そういうアホなことはやめて、とっととまとめていれば、3年ぐらいで終わった気がする。あと自分のスタイルができるまでそれぐらい必要だったのかもしれません。


 原稿を書かずにサンプル原稿と企画書を作って出版社に送る人もいますが、無駄です。現物を用意しないと話になりません。全部書きます。そのままデザイン事務所に渡せる状態に仕上げます。
 目次も作ってください。あとがきもまえがきも書きます。そしてプリントアウト(出版社によっていらないことも)とデータを送ります。
 私も送って次の日の午後には2社から電話が来たので、すげえや佐川急便と思いました。

●一般からの持ち込みをやっている出版社に送る

 次に出版社ですが、一般から募集している出版社は数社あります(彩図社とかディスカバリー21とか五月書房新社とか)。出版関係でなければ出版社に興味のある人は少ないでしょうし、小さな出版社で不安でしょうが関係ありません。出したら勝ちです。大きな出版社(どことは言いませんが、一ツ橋グループですね)だと社内稟議に手こずり、出版まで2年待ちなんてザラです。

●本が出たら祝う

 出版はお祝い事なので、みんなおめでとうと言ってくれます。ありがとうと喜びます。身内の小さなパーティぐらいは開きます。あまり図に乗るとバカだと思われるので、うれし泣きぐらいで止めておきます。あくまでスタートラインに立っただけです。
 本は著者分として10冊もらえますが、名刺代わりにする間もなく、なくなります。あとは自腹で購入です。定価の8掛けで10冊単位が購入の相場です。払いたくないですよね? 払いたくない時は、パーティの時に編集者に売ってもらいます。そして余った分を安く買い叩きます。
 ちなみに半年ほどで倉庫を空けるために絶版になるので、その時はタダでもらえます。野菜と同じで本は旬のものなのです。

●アマゾンは無視する

 アマゾンで部門1位! を惹句に使うのは、何も知らないおじいちゃんたちをだますためです。出版物のうち、アマゾンで売れるのは2~5パーセントです。書籍全体の動向さえ反映していないのがアマゾンです。ジャンル別1位とっても、本は売れていません。重版なんてかかりゃしません。見ない方が、精神衛生上はセクシーです。

●企画を立てる

 1冊目が出たと同時に即座に2冊目を動かします。ここからは企画書で勝負です。最初に出版した出版社に話を持ち込むか、連絡のあった出版社に企画を見せて、どこかしらから2冊目を出します。あとは何とかなります。来た仕事をなんでも受けて、自分に何が書けて何が書けないのかをチェックしましょう。

●テレビやラジオ

 ネタにもよりますが、本が出ると出版社から媒体へ献本が行われるので、テレビやラジオに呼ばれます。これで本が売れると思ったら、大間違いです。言っておきますが1冊も売れません。
 私は朝のニュースからゴールデンタイムのバラエティまで出ましたし、周りも似たようなものです。毎週どこかしらのチャンネルで知り合いを見かけますが、どの本もまったく気持ちがいいほど動きません。唯一、王様のブランチでは動くとのうわさですが、他は無理。
 雑誌や新聞の書評も効きません。ダヴィンチも週刊ポストも週刊現代も毎日新聞も書評に載りましたし、中にはほぼ1ページの書評や著者からひと言的なコラムもありましたが、渋谷のハチ公ぐらい動きません。
 出版の神はいけずだと思います。

●交流会

 私のようなヒマなライターや編集者は、たまにロフトとかで出版関係の交流会を開きます。顔を出しておくとずっと後で効いて来たりするので(今、私が進めている本は7~8年前に交流会で会った編集者からの提案です)、機会あれば顔を出したり、私のように自分で開くと良いと思います。
 高円寺のパンディットという安くて使い勝手の良い箱があるのでお勧めです。ただし出版社交流会だと漠然として集客が弱いので、そこはテーマを作りましょう。私は「サイエンスクリエイターの会」という名前の催しや私の持ちネタの科学実験などで人を集めました。

高円寺パンディット http://pundit.jp/

●現実を知る

 出版業界は関ケ原、討ち死にした足軽の山であるとこのぐらいになってやっと気がつきます。本を出す前にはあれほど近かった30万部のベストセラーが、今や成層圏の向こうの国際宇宙ステーションのように遠く、しかも滅多に見えません。ここからが勝負です。最後まで立っていたものが勝ちます。勝つまでやめなければ負けないの法則です。

●補足

 現実を知った時にはビギナーズラックは過ぎ、旬は終わっています。うれし泣きが悔し泣きに変わり、自分が凡人だと打ちのめされ、いくら飲んでも酔わなくなります。というわけで、できるだけ早く本を出すことをお勧めします。早ければ早いほど次の波に乗れるからです。ちなみに次の波に乗るにはどうするかといえば、またゼロから出版されるかどうかもわからない原稿を書くのです。

川口友万 略歴等はリンク先で
https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B7%259D%25E5%258F%25A3-%25E5%258F%258B%25E4%25B8%2587/e/B004BZ57ZI%3F

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