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いじめの心理学 1

この章では、いじめを生じる心理や「いじめ」という集団が引き起こす力について、心理学の有名な実験や理論も交えて説明していきます。

いじめは正義から生まれる

 まずはいじめる心理についてです。
 いじめについて多くの人が誤解していることがあります。それはいじめは悪意から起きるものだという誤解です。もちろんそういうこともありますが、それだけとは限りません。むしろ、いじめは正義によって行われることも非常に多いことを意識する必要があります。
 昨年『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』という本がアメリカで出版されました。この本はネットでの炎上騒動について書かれた本なのですが、炎上のほとんどは悪いことをした人を罰してやろうという私的な正義の心によるものでした。それが集団の力によって大きな影響を与えてしまいます。日本の炎上案件もほとんどはこの正義の心、義憤によって起こされたものです。


 ネットでないリアルないじめにも、この正義という心は大きく関係します。 例え相手に非があり、自分に正義があったとしても、個人や集団が一方的に判断して裁いてしまうことはいけないことです。それは私刑、リンチとなるのです。

いじめは被害から生まれる

 正義と似た心理として、自分達の方が被害者であるという被害者意識があります。
 私達の方が嫌な思いをしている。だから攻撃していいのだ。そういった心理です。いじめられる側にも直すべきところがあるという声もこの心理でしょう。
とてもよく聞く言葉です。いじめられてる側が悪いことをしてるので、その自分達はやり返しているだけだという考え方です。悪いことをしてるのはむしろいじめられてる側だと。いじめている当事者からすればいじめてるという感覚がほとんどない場合もあるでしょう。
 いじめられる側に直すところがあるかどうかはここでは問題ではありません。問題は、だから私達は彼を攻撃していいと思う心です。

 被害を感じたり、正義があると思うと、人は加害行為をしていいと思いがちですが、もちろんそんなことはありません。

アッシュの同調実験

 いじめにおける大事な心理はいじめをする行為だけではありません。もう一つの大事な心理はいじめがあることを意識しない、いじめを認めない心理です。いじめをつくりあげる集団の心理といってもいいでしょう。前の章ではそういった作用こそがいじめの本質であり、その力こそをいじめと定義すべきと書きました。
 ここからは、有名な心理学の実験をふまえて、なぜこういった作用が生じるのかを書いていきます。

 アッシュの同調実験という有名な実験があります。
 これはソロモン・アッシュという心理学者が五十年代に行った実験です。
 8人の被験者が集められ図を見せられます。図には3本の線があり、その中で一番長いものを被験者は順番に手を挙げて答えます。棒の長さは微妙などではなく、誰が見ても明らかな違いです。
 実は、8人の中で本当の被験者は最後に答える一人だけで、後は全て実験者の指示で動くサクラです。自分の前の人達が明らかに間違いだと思う回答を何人も答えた時に、人はどんな回答をするのかというのがこの実験の目的なのです。
 自分の前の人達が何人も間違った回答を出すと、全問正解した人は4人に1人でした。一目瞭然の問題でも7割以上の人が1問は間違えたのです。
 集団というのはそれくらい力のあるものなのです。集団の中で本来なら違法なことが行われても、それが当たり前として行われていると、そのことに対して異を唱えるのは簡単ではありません。それは自分に被害が及ぶかもしれないというケースだけではないのです。

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