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『友達』と『出発』の物語─『宇宙よりも遠い場所』感想レポート

█ タイトル:『宇宙よりも遠い場所』

█ ジャンル:青春、友情

█ 筆者的キャッチフレーズ:あなたもきっと誰かと旅に出たくなる

█ あらすじ


そこは、宇宙よりも遠い場所──。

何かを始めたいと思いながら、中々一歩を踏み出すことのできないまま高校2年生になってしまった少女・玉木マリ(たまき・まり)ことキマリは、とあることをきっかけに南極を目指す少女・小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)と出会う。高校生が南極になんて行けるわけがないと言われても、絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは、報瀬と共に南極を目指すことを誓うのだが……。

(よりもい公式サイト より引用)

█ 2018年 冬

█ 制作スタジオ


マッドハウス

█ [監督]いしづかあつこ[脚本]花田十輝

█作画 ★★★★★


・キャラクターの輪郭を象る線は明瞭でアニメ的。
・リアルな背景美術。
・大袈裟なぐらい感情表現がわかりやすいキャラクターの表情の動きや雰囲気が見ていて気持ち良い。
→キャラクターの泣き顔にインパクトがあってこちらの感情も揺さぶられる。

█脚本 ★★★★★★

・JKが学校を飛び出し「南極を目指す」という新しい本作ならではのストーリー。
→学校の中で上手くいってない少女たちの冒険的逃避行としても解釈できる。
・日常パートはコミカルな描きでシリアスパートに向けた振れ幅を作っている。
・南極での生活がリアルに描写されている。
・主人公たちが新しい仲間と出会い、仲間と時にぶつかり、心の交流を経てともに困難を乗り越えながら成長していく王道ストーリーを緻密に伏線回収をしながら巧みに描いている。
・自分が今まで観てきた作品でこの作品ほど「友達」というものを納得感があって、美しく、瑞々しく、表現している作品は他にない。

█演出 ★★★★★

・キャラクターの心情や言動と背景描写がリンクしている。
→映像の中で伏線を張っている。
・劇伴、BGMを要所で効果的に用いてる。

█キャラクター ★★★★★★

●玉木マリ (cv 水瀬いのり)

高校2年生のJK。あだ名は『キマリ』。好奇心はあるが、一歩踏み出す勇気が出ずに新しいことに挑戦できない女の子。報瀬と出会いともに「遠い場所」へ向かう仲間を得たことで、幼なじみのめぐっちゃんに世話を焼かれることに甘んじている自分を変えるべく「南極」を目指す旅に出る。最初は他者に引っ張ってもらうことが多かったキマリが、めぐっちゃんとの一時的な別離を経てから旅の中で報瀬や結月を引っ張るような描写が増えて人間的な成長を遂げていることがわかる描きが良い。本作の名言製造機。

●小淵沢報瀬 (cv 花澤香菜)

本作の実質的な主人公。キマリと同じ高校の2年生。南極観測隊員の母親が南極から帰って来なかったことを現実として完全に受け入れられないまま日々を過ごしている現状を変えるべく、自力で100万円を貯めて南極を目指す。容姿端麗な優等生だが、極度の人見知りであがり症なため気を許した人間以外の前だとポンコツになる。クールキャラに見えた報瀬のメッキが剥がれていく様が観ていて面白い。母親を亡くした過去との決別に加えて報瀬をバカにしていた同級生たちを見返すために南極を目指すというもう1つの動機を設定したのが巧い。これによって視聴者が感情移入しやすいキャラクター造形になっていると思う。また、人見知りでありながら目標に対して一直線な無鉄砲で大胆な爽快感のある人物でもある。

●三宅日向 (cv 井口裕香)

キマリが通う高校の近くのコンビニでアルバイトしている元高校2年生。常識人枠。陸上部で自身が巻き込まれたトラブルが尾を引いて高校を中退した。よって、バイトをしながら勉学にも励み大学入学を目指している。受験勉学に打ち込む前に何か大きなことをしたいという思いがあり、気を使わなくて良さそうな関係を築いているキマリ・報瀬の仲間となり南極を目指す。4人の中で最も学校における人間関係に悩まされている人物であるといえる。学校の人間関係で傷ついたけど、本当は同年代の友人を求めていた日向が、報瀬たちと出会って本心を打ち明けられる「友達」を得ていくストーリーが泣ける。

●白石結月 (cv 早見沙織)

芸能活動をしている高校1年生のJK。本作における萌え担当。かわいくて軽く死ねる。芸能活動のせいで友達が出来なかったが、キマリたちと南極を目指す旅をする中で絆を深めて「友達」になる。

●STAGE1 青春しゃくまんえん


[評価]★★★★

[脚本]

・1人で新しいことを始めるのが不安で踏み出せなかったマリが1人で南極を目指して努力する意志の強い報瀬との出会いをきっかけに歩み出す描きが良い。

[演出]
・冒頭で映される4匹の鳥は主要キャラ4人を表している?砕氷船、幼少期のマリ、空を翔る飛行機、示唆的で惹き込まれるアバン。
→空虚な青春を過ごしている自覚があったマリの溜まった鬱憤の解放と先行きを示唆しているのか。
・生徒たちが一言書き収めた短冊、他の生徒たちは「今この瞬間を大切に」とか「一歩踏み出さないことには何も始まらないから」など書いているのに対しマリは「プリンは飲みもの」なのが何もないマリの現状を表していておもろい。
・マリ1人で旅に出ようとしていた時の天候は「雨」だったのに対して、報瀬と一緒に旅に出るラストは「晴れ」で、天候の変化でマリの不安だった心情が変化している様を表現していて良い。

●STAGE2 歌舞伎町フリーマントル


[評価]★★★★★

[作画]
・3人が逃亡するシーンの躍動感◎。キャラクターの走り方の違いがちゃんと描写されているのも良い。

[脚本]
・日向の加入
・マリと同じく報瀬がいかがわしいバイトに応募しようとしてたのおもろい。
・10代の勢いはあるけど短慮な人間的な未熟さを表現しつつそれをコメディに昇華している。
・マリたちが「大人の世界」歌舞伎町を走り抜ける逃亡劇、マリが感じる楽しさが画面を越して伝わってくる。

[演出]
・サイダーの中で青く輝く"氷"が憧れの南極を表しているようで巧い。
・「嘘をつく」ことが嫌で学校の人間関係から離脱しコンビニの内側からマリと報瀬の姿を眺めていた日向。そんな日向がマリ、報瀬と共に大人から逃亡する姿をコンビニの内側にカメラの視点を配置して描写することで日向がマリたちと出会い一歩踏み出せたことを表現しているようで巧い。

●STAGE3 フォローバックが止まらない


[評価]★★★★

[脚本]
・結月加入回。
・ケレン味溢れるギャグシーンが楽しい。
・打算抜きに結月を思いやれるマリたちの優しさよ。
→そんな3人の関係性に憧れる結月。
・結月が勇気出して作った学校の友達がグループから退会→朝早いのにマリたちが遊びに誘いに来る→涙を流す結月、という綺麗な脚本。マリたちが自分を南極に誘いに来る夢(=マリたちに自分を救って欲しいという願望の現れ)が現実になってて泣ける。
・最初は写真撮影を拒んでた結月が最後はマリたちと写真撮影をする対比で結月がマリたちを受け入れたことを表現してて良い。

[演出]
・複数のランドセルが寄り添うように置かれていて公園からは子供たちの賑やかな声が聞こえる。小さい頃から芸能活動で満足に友人を作れなかった結月の背景が示唆されているようだ。

●STAGE4 四匹のイモムシ


[評価]★★★★

[演出]
・4人と出会い改めて南極に行きたいとビジョンを明確にするマリ。そんなマリたちの見据える先に見える日の光が希望を表しているようで良い。

●STAGE5 Dear my friend


[評価]★★★★★★

[脚本]
・マリをある意味で見下し、そんなマリを世話する自分に優越感を感じているめぐみの内面を伺えるアバン。
・緊張で頭おかしなる報瀬おもろいw
→序盤はしっかり者のように描かれていただけにどんどんポンコツになっていく落差のある描きが笑える。
・マリのどこか遠い別の場所に行きたいという心情の裏には、いつまでもめぐみに世話を焼かれている自分から脱却したいという心情があったという描きに深みがあって良い。
→一方でめぐみはそんなマリとの関係性が変わることを望んでいなかった。
→故にそうした関係性を変えるためにめぐみもまたマリに「絶交」(リセット)を宣言する脚本、お見事です。
・自分の元から成長するために外の世界へ踏み出したマリの姿を見て、羨ましい、妬ましい、寂しいといった感情やマリと違って変わることに踏み出せずにマリの邪魔をしていたことの罪悪感や自己嫌悪が渦巻くめぐみのゴチャゴチャした内面がひしひしと伝わってくる上手な描き。
・マリがめぐみに依存しているように、めぐみもマリに依存している。そんな相互的な関係性がマリの南極行きをきっかけにリセットされ、マリの「一緒に行こう!」「全てが動き出す」という台詞とともに新しい関係性の構築が予感されるラスト、泣ける。
・1話の冒頭で描かれた幼少期のマリが草舟を流そうとしているシーン、草舟は南極行きの砕氷船そして新しい世界(南極)へと踏み出したマリを表しているのだろう。南極へ向かって動き出したマリと決壊し再構築されるマリめぐの関係性を表現しているかのように、回想内で草舟が流れ出す様子が描かれているのが巧い。綺麗な伏線回収。

[演出]
・マリが楽しそうにプレイするテレビゲームは南極を表していてめぐみがコードを外すことで画面が途切れる描写でめぐみがマリの南極行きに対して何らかの不穏な行動を起こすことを示唆しているようで巧み。
・劇伴良いね…。

●STAGE6 ようこそドリアンショーへ


[評価]★★★★★

[脚本]
・シンガポール観光、楽しい。
・1話冒頭で描かれた空飛ぶ飛行機の回収。
・気を遣う関係でいたくないからこそ報瀬の気遣いを嫌がる日向と報瀬の衝突。
→報瀬の気遣い、それは4人で一緒に南極に行きたいという報瀬の意地の表れであることを知って和解する日向と報瀬のやり取りに泣ける。
・日向が失くしたと思ってたパスポートを実は報瀬が持ってたというオチ笑える。
→こういうの現実でもありがち(笑)
・最終的にはドリアン回(笑)
→シリアスな話がメインだったけど最終的には笑いに変える描きが良い。

●STAGE7 宇宙を見る船


[評価]★★★★★

[脚本]
・計画が無事に進んでいるのか怪しんで大人の船員たちをマリたちが覆面を被って尾行する遊び心のある描きが楽しい。
・とにかく泣ける。なんだかよくわからないが、泣ける。

●STAGE8 吠えて、狂って、絶叫して


[評価]★★★★★

[脚本]
・マリの変な前髪は自分で切っているから。
→独り立ちしたいマリの心理とマリというキャラの不器用さが表れているようで良い。
・船酔いにもなんのそのな大人の船員たちを見て軽く挫折をしたことで「やらされてる」心理で後ろ向きになっている報瀬、結月に対して、自分1人で何かをやろうと踏み出せなかったマリが「自分でここを選んだんだ」と鼓舞する脚本、いいね。
・荒波で揺れる甲板の上ではしゃぐ4人の姿が眩しい。

●STAGE9 南極恋物語(ブリザード編)


[評価]★★★★★

[脚本]
・母親の「帰り」を待つだけの毎日を「変える」ために宇宙よりも遠い場所を目指す報瀬、「かえる」にかかってる脚本が巧い。
・何度もぶつかりながら氷を砕いて進む砕氷船と日本の南極探査隊派遣の歴史そして銀隊長の中で何度も反復する過去と後悔に三重で重なっているようで泣ける。
→この前振りを踏まえた「ざまーみろ!」の台詞に込められた感動と爽快感半端ないって。

●STAGE10 パーシャル友情


[評価]★★★★★★

[脚本]
・友達がいなかった結月の不器用さに端を発する「友達ってなんだ?」を問う名回。
・友達は「言葉や形では表せないもの」だから「自由」「友達ってひらがな一文字」(=言葉が無くても分かり合える)ってめちゃくちゃ名言やね…。
・初めて『友達』に誕生日を祝われる結月。
→改めて4人の『友情』の誕生を祝しているような描きが素晴らしく泣ける。

[演出]
・キマリと結月がLINEのやり取りで「ね」の一文字だけで会話を済ませている画で本作のテーマを示しているのが巧い。

●STAGE11 ドラム缶でぶっ飛ばせ!


[評価]★★★★★

[脚本]
・日向回、友情回
・日向の報瀬に対する「手だけで良い」という台詞に『友達』に「言葉はいらない」が詰まってて熱い。
・日向の元チームメイトに対して日向の代わりに「ざけんなよ」と言葉をぶつける報瀬、キマリ、結月の熱さ、4人の友情に泣ける。
・「和解」ではなく「決別」をもって未来へと一緒に進んでいく4人の姿が気持ち良い。

●STAGE12 宇宙よりも遠い場所


[評価]★★★★★★

[脚本]
・報瀬回、友情回
・まだ母親の死を現実として受け止められてない報瀬。
→改めて母親が亡くなった現実と向き合うことに不安を感じる報瀬の心理の描きが巧い。
・「良い友達」って言われて嬉しそうな結月かわいい。
・「一緒だから南極を好きになれた」「連れて来てくれてありがとう」と報瀬に感謝するキマリに泣かされる。
・報瀬のため、報瀬の母親の痕跡を必死に探すキマリたちの姿に泣かされる。
・母のPCを開くと報瀬が母に送り続けた「未読」のメールが大量に映し出される。
→母親が絶対に手の届かない「宇宙よりも遠い場所」に行ってしまったことを現実として受け止めた報瀬。
→報瀬と一緒に泣くキマリたち。
→涙が止まりません。

●STAGE13 きっとまた旅に出る


[評価]★★★★★

[脚本]
・もはや何しても泣けるのズルいわ。
・4人だけで見上げるオーロラは4人だけのもの。
→母親が死の直前に呟いた「綺麗⋯」それはオーロラだったということを最後に回収してくる脚本マジでマジで😭
・めぐっちゃんも北極という「どこか別の場所」に行ってるの泣ける。
→キマリとめぐっちゃんも「友達」である。
・「別れ」を「出発」として描いたこれ以上ないくらい感動と清涼感に満ち溢れたラスト。

[演出]
・「離れていても友達」を空港で別れるという些細な描写で表現してるの巧すぎる。
・母親の仏壇で冥福を祈る報瀬
→過去との決別

█総括

文句なしの神アニメです。『友情』や『友達』をテーマにした作品は数多くあれど、その中でもこの作品は最も『友達』というものの難しさそして尊さ、美しさを上手に表現出来ている作品だと思います。学校で満足のいく人間関係を構築できず上手くいってない4人の少女が、『南極』という「今いる場所とは別のどこか遠い場所」ある種の「非日常」へと向かう「日常」からの脱却を図った逃避行的な旅の中での人間的な成長と『友達』という関係性が形成されていく過程における心理的な変化を巧みに重ねて描いているストーリーが素晴らしいです。他にも多角的に作品を解釈できる余地がありますし、エンタメ性の高さ、文芸度の高さ、構成、キャラクターの掘り下げ等等…欠点の見当たらない脚本だと思います。また、こうした脚本をちゃんと「画」の中で表現している作画演出にも感服しました。キャラクターが本当に画面の先で生きているんじゃないかと錯覚してしまうぐらい生き生きとした躍動感が伝わってきますし、画面の至る所に後に繋がる伏線を仕込んでいるという徹底っぷり。とにかくアニメ史に残る名作ですので、観てない方には今すぐに観て欲しいです。さすれば、あなたもきっと誰かと旅に出たくなることでしょう。ね!

【参考】

https://note.com/momokaramomota/n/n1d1f1a6b066a

https://note.com/soundws/n/n7a3e6cda7636

https://note.com/iwaiwaimania/n/nc429534998fb

https://note.com/katuragi1984/n/nc2609cf2c918

https://note.com/bk477/n/n503cb3073fb1

https://note.com/noruniru0826/n/n70f7bd8aeba8

https://note.com/osaka_note/n/n0c9bc302f232

https://note.com/katuragi1984/n/n4351bb8ee8e5

https://note.com/iwaiwaimania/n/nd03e26f51ca8

https://note.com/petrus1095/n/n44072b3f6eec

https://note.com/masahiko_tojyo/n/n8db6b5b36662

https://note.com/nioka_sekinu/n/nbdf9f4ae8387

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