「戦うきらら系」─『リコリス・リコイル』感想
█ タイトル:『リコリス・リコイル』
█ ジャンル:日常、バトル
█ 筆者的キャッチフレーズ:戦うきらら
█ あらすじ
日本の治安を守る秘密のエージェント「リコリス」である井ノ上たきなは、ある事件をきっかけに喫茶「リコリコ」への転属が命じられる。超優秀なNo.1リコリス(?)の千束とバディを組み、DA復帰を目指し意気込むたきなだが、リコリコでの仕事はひとクセもふたクセもあり!?
(リコリコ公式サイトより引用)
█ 2022年 夏
█ 制作スタジオ
A-1Pictures
█ [監督][脚本]足立慎吾[原案]アサウラ
█作画 ★★★★★
・リアルで精巧な背景美術。
・ヌルヌル動く人物作画。
・キャラクターの細かい表情の作り込みが素晴らしい。
・光陰の付け方が非常に丁寧でリアリティを感じる。
█脚本 ★★★★
・制服の少女たちが銃撃戦を繰り広げる世界観が実にキャッチー。
・メインキャラクターは10代の女性が主体で、関係性に百合味がありコミカルな掛け合い、千束たちの拠点が喫茶店。
→きららっぽい。
・全体的にコミカルな千たきの掛け合いや関係性が魅力として打ち出されていて、シリアスシーンの中でも際立っている。
・設定の説明を日常における会話やテレビで流れているニュースで視聴者に自然に説明していてスタイリッシュ。
・終盤の千束の心臓問題が解決するまでのくだりのご都合主義感や淡白さは否めない。
・吉松や真島のバックボーンやアラン機関についての掘り下げが少なかったことが終盤の物足りなさの原因ではないだろうか。
█演出 ★★★★★
・カメラアングルが多角的で立体感を生んでおり、視聴者を飽きさせない画面作り。
・ポップな演出が多くてシリアスな話ながら全体的に明るい印象を受ける。
→本作の主人公・千束のキャラクター性とマッチしている。
・戦闘シーンの音響のクオリティが高くて、銃撃戦の迫力が伝わってくる。
・映像の中にさりげなく伏線を散りばめていたり、千たきら登場人物の心情や関係性の変化を表現していて巧み。
・場面切り替えがスムーズでテンポが良い。
█キャラクター ★★★★★
本作がヒットした最大の要因はキャラクターのビジュアルデザインと造形の良さにあると思う。千束とたきなの百合味のあるバディ関係とラフな掛け合いがハマったのではないだろうか。
●錦木千束 (cv 安済知佳)
本作の主人公。銃弾を回避するという天才的な能力の持ち主であり、最強のリコリス。「やりたいこと最優先」「不殺」を信条とする心優しい陽キャ。彼女の存在や行動が関わる人々の心に変化を与え、物語を突き動かす。リコリコは千束を中心に回ってると言っても過言ではない。そんな千束には、過去にアラン機関に保護され人工心臓によって命を救われた経験があり、この経験が「やりたいこと最優先」「不殺」を信条とする千束の人間性を形成してる。そんな千束の明るさや柔らかさの裏に儚さが見え隠れしているキャラクター性を安済さんの緩急自在な演技が完璧に表現していると思う。日常パートのおもしろお姉さん千束と戦闘パートのつよつよエージェントな千束のギャップが良い。関わるキャラのほとんどが彼女に感化されていくわけだが、しっかりと魅力的なキャラに仕上がっており説得力があった。
●井ノ上たきな (cv 若山詩音)
本作の準主人公的な立ち位置のキャラで、千束の相棒。仲間を守るために命令に反したことで喫茶リコリコに左遷され、そこで千束と出会う。最初は冷淡で任務を遂行する為だけに生きているといったキャラだったが、千束から日常を楽しむことの大切さを伝えられ、物語を通して変化していく。千束の足りない部分を補完する(射撃が得意、真面目)ようなキャラクター性が相棒感あって良い。序盤で千束に助けられ、千束との関わりの中で成長してきたたきなが、終盤では千束のピンチに駆けつけて千束のためのヒーローになる描きが良かった。
●真島 (cv 松岡禎丞)
本作最大の敵キャラ。電波塔事件に関わっていたテロリストであり、天才的な聴覚を持つが故にアラン機関から支援を受けてきたアランチルドレンでもある。「バランス」を取ることを重要視しており、DAが暗躍(コントロール)して平和を偽装している現在の日本の状況を破壊しようと行動する。その過程で同じアランチルドレンである千束に興味を持ち、やがては殺しの才能がありながら不殺を信条としている千束が「バランス」取れてると思ったのか感化されていく。真島の背景、思想や信条、目指しているものについての掘り下げがそこまで無くて最後まで掴みどころのないキャラだった。正直、敵キャラとして物足りなさは感じるし、共通点を持っている千束と正反対のキャラにすれば綺麗な対立関係になったように思うが、これはこれでミステリアスで魅力は感じるとも思う。
【各話感想】
●1話 Easy dose it
[評価]★★★★
[作画]
・千束の顔面アップから弾丸を避けまくる作画の迫力◎
[脚本]
・平和の象徴としてテレビで報道されている「延空木」を描写→千束が日本が平和であることをナレーションしていると同時に制服を着た少女が犯罪を犯そうとする男性を淡々と射殺。
→日本の治安が制服を着た少女たち(=リコリス)の暗躍によって維持されていることを示唆しており、インパクトがあって惹き込まれる導入。
→流石にそんなところで●したら目立つのでは?とツッコミをするのも忘れてしまう程に濃ゆい。
→この描写だけでリコリコの舞台が「少女たちの暗躍によって偽りの平和を謳歌してる日本」であることが読み取れる。
・リコリスは孤児を集めて構成。
→「大人」に支配され利用される「子供」たち。真島がいう「管理される弱者」を象徴しているようだ。
・千束がコーヒー豆をヤクザの組長に渡しているのをたきなが薬物の取引だと勘違いし、それを千束に煽られる流れが面白い。
・めちゃくちゃ発砲するたきな草
→クールに見えて脳筋というギャップがおもろい。
・ハッカーの雇い主で千束とも因縁がありそうな敵キャラ(?)がまさかの喫茶リコリコに来店。
→良い引き。
[演出]
・コーヒーをドリップしている容器の近くにカメラの視点を置いている。
→千束が喫茶店で働いてることの示唆。
・アバンで決戦の舞台である「延空木」を描写している。
・効果音が鳴ると同時に別シーンに背景作画だけ切り替わる作りがテンポ感の良さを生み出しているように思う。
[楽曲]
・さユりさんの素晴らしいED楽曲…イントロが良いね。
●2話 The more the merrier
[評価]★★★★
[作画]
・たきながロボ太のドローンを狙撃するシーンの構図の立体感と迫力半端ないっす。
・引いた構図で若干粗が見える。
[脚本]
・才能のある恵まれない子供を保護する機関の登場。
・ウォールナットがたきなにケースを盾にされて慌てていたことが伏線として回収される。
→激しいアクションシーンの中で細かく伏線が張られていて良いね。
→ケースの中にウォールナットが入っていたという(笑)
[演出]
・音響と劇伴も抜群のクオリティ。惹き込まれる。
・アバンで『ダイ・ハード』を観て眠りについている千束の姿が描かれているけど、『ダイ・ハード』とかアクション映画のシーンが参考にされてそう。
●3話 More haste ,less speed
[評価]★★★★★
[作画]
・超近距離での射撃&格闘戦、スピード感抜群で堪らん。
[脚本]
・ほぼ水着回そして千束&たきなの相棒爆誕回。
・親のいない孤児を手厚く保護することで忠誠心を植え付けて都合の良い兵隊を作ってるんだろうな...。
・百合百合しとる。
・2話では半信半疑だったが、この回では明確に千束が弾丸を避けれると確信して撃つたきな。
→たきなが千束を信頼するようになったことを表現。
[演出]
・最初は雨天だった天候が千束の言葉を受けて前向きに変化するたきなの心情とリンクして晴れる基本的な演出。
・行きの電車では向かい合わせに座ってた千たきが隣り合わせに座っている構図で2人の関係性の変化を表してて良い。
●4話 Nothing seek, nothing find
[評価]★★★★
[脚本]
・人を殺せない銃弾を使用するたきな
→リコリコの美学に従うたきなの変化。
・たきなの服をコーディネートする千束
→千束がたきなを変えていることを表しているよう。
・3話では施設の天井を通して見ていた空を4話では外で青空を見る。
→千束がたきなをDAの檻から連れ出したことを表しているようで良い。
・たきな「さかな~」千束「ちんあなご~」
→可愛いすぎる名場面。
[演出]
・ストローが2人の間にある境界線のように見える。そして、それを超えて寄り添う千たき
→2人の関係性の変化が現れているようで良い。
●5話 So far, so good
[評価]★★★★
[脚本]
・世間の人々が知らないところで人々を守り、犠牲になっているリコリスという存在の残酷さ。
・千束の心臓が人工であるとサラッと明かされた。
・千束の命を救った代わりに使命を与えるアラン機関。
→千束に与えられた『人工心臓』が与えられた『使命』を表しているようだし、千束の人生をアラン機関が支配しているものとして捉えられる。
・千たきの距離感、一気に縮まりすぎやろw
→親がいないし組織でも性格的に浮いていたであろうたきな、心のどこかで孤独感を感じていたのが察せられる。
●6話 Opposites attract
[評価]★★★★
[脚本]
・DA、情報戦弱すぎ(笑)
・じゃけんに勝って大喜びするたきなが可愛すぎる
●7話 Time will tell
[評価]★★★★
[作画]
・千束の腋作画が細かい皺まで描いててエロい。
[脚本]
・たきなの真島違いすぎて草
・DAのセキュリティガバガバすぎる(笑)
●8話 Another day, another dollar
[評価]★★★★
[作画]
・電波塔事件の戦闘シーン、粉塵の中を銃弾を避けながら駆け抜ける千束の作画◎ 粉塵の掃け方が自然。
[脚本]
・千束の逆立ちエロすぎ。
・うんこパフェを笑顔で持ってくるとツイートされてるたきな(笑)
・真島の銃弾を避けた時の千束の表情エロすぎる...。
・真島曰く「純粋」。アラン機関は偏に才能のある者を支援する。それが善だろうと悪だろうと関わらず。
→真島のバランス思想の源泉はアラン機関の存在意義にあるのかもしれない。
・Aパートでリコリコの朗らかな日常を描いたのに対して、Bパートは千束に迫るアラン機関を対比的に描いている。
[演出]
・千束の心臓がいじくられてるシーンをバックに明るいイントロが流れてきて笑う。ここは特殊EDにして不穏感を最大限まで引き上げたまま終わっても良かったように思う。
●9話 What's done is done
[評価]★★★★
[脚本]
・千束が「やりたいこと優先」で自由に生きようとしていたのはそう遠くないうちに終わりが来ることを知っていたからという悲しい背景😢
→キャラクター造形にちゃんと深みがある。
・ミカと吉松の愛人関係の示唆
→千たきの関係性とリンクさせてるのか?
[演出]
・雪が降り始め、千たきが真反対に向かって歩き出す...この一連の描写で「別れ」を完璧に演出しててすごい。
●10話 Repay evil with evil
[評価]★★★★
[脚本]
・まーたDAハッキングされてる⋯。
・真島と吉さんの信念の背景にあるのは何なのか、彼らを突き動かす源泉とは、そこら辺の掘り下げがもっと欲しい。
●11話 Diamond cut diamond
[評価]★★★★
[脚本]
・まーた、DAハッキングされてる...。
・ヒーローのピンチに駆けつけるヒーローのヒーロー・たきな、登場の仕方カッコよすぎる&千たきコンビネーション半端ない。
●12話 Nature versus nurture
[評価]★★★
[脚本]
・たきなを守るために恩人の吉松を撃ってしまった千束、心臓を持つ吉松が逃げようとするのを射殺することで阻止しようと鬼の形相になるたきな、とそんなたきなを諭す千束とどれも情緒的な重要なシーンであるはずだが、尺の問題なのか演出含め淡白に描かれているのが残念。
・リコリスたちを抹殺するために男リコリスたちが接近しているという緊迫感のある状況のはずなのに、Aパートとは打って変わってゆるっとした緊張感のない描き。
→ラストの真島の急襲で一気に視聴者の緊張を高めて次回へ繋ぐための布石としてあえてBパートは緩和させていた?(『緊張と緩和』)
だとすれば狙いはわかるけど、緩急の付け方が随分と大雑把に思える。
●13話 Recoil of Lycoris
[評価]★★★★
[脚本]
・千たきとリンクしているかのように描かれている関係性のミカと吉松
→たきなは千束を救い、ミカは吉松を殺すという対比的な描き、吉松の「狂わされたなあの子に」という台詞は千束によってミカだけでなくたきなや真島も変えられていることを含めて示唆しているようにも思える。
・真島の提案で戦闘中に休憩を挟み、駄べる千束と真島の関係性の描きが良い。
█ 総括
この作品で制作陣が最も描きたかったのは千たきの『日常』であり、シリアスパートはそうした2人の『日常』の尊さやピースフルさを際立たせるためのサイドストーリーとして描かれていると個人的には解釈しました。全体的にシリアスパートにおいて演出がラフだったのもそうした『非日常』的な場面も2人の『日常』の一部として軽快に描きたかったからなのかな~と思いましたね。『日常』パートにおけるコミカルで百合味のある千たきの掛け合いや関係性は「きらら系」の作品を思わせます。そんな可愛らしいビジュアルデザインの美少女たちが激しいガンアクションを繰り広げるというギャップが本作ならではの魅力となっていて、『日常』と『バトル』、正反対に位置する2つの物語を1つの作品の中で高いレベルで融合できているのが凄いです。このバランスの取れ具合には真島もニッコリでしょう。
全体的にキャラクターのキャッチーなデザインや千たきの百合と友情の絶妙なラインを突いているちょうどいい凸凹相棒関係が視聴者にはウケてた印象です。作画はキャラの表情や動作の作り込みが丁寧で、戦闘シーンの立体感や奥行を感じる構図の取り方が素晴らしかったです。演出は示唆的で視聴者に考察させるフックになるような演出が多く見られ、戦闘シーンでは音響のリアリティが光ってました。脚本面では、世界観や設定に関する情報や伏線を日常パートにおける会話の中などで自然に提示しているなど抜かりのなさを感じましたね。
以上のように全体的にクオリティの高い本作ですが、前半部分と後半部分で評価が変わるように思います。前半部分は日常パート主体で、千たきの百合味のある凸凹関係の変化や2人のコミカルでキュートな掛け合いを中核としつつ、千束のバックボーンや本作の世界観に関する伏線を配置して視聴者を引き込めていた。一方で後半部分はシリアスなバトルパート主体で、千たきの掛け合い自体減少し、そのうえ、千束の人工心臓の問題がクルミ主導でトントン拍子で解決してしまったり、真島・吉松やアラン機関の背景に関する掘り下げがほぼ無かったりと、後半のストーリーは淡白で粗が多い印象を受けました。それに、千たきが能動的に事態を解決したというよりは真島や吉松ら敵キャラの譲歩で事態が解決したというオチでそれも終盤の物足りなさの原因の1つになっていると思いました。なので個人的には前半部分に比べて後半部分は評価を落とさざるをえない内容だと考えてます。2クールあればもっとしっかりした脚本を作れたように思いますね…。ただ、続編の制作が既に決まっているので、1期で明確にされていない部分が続編で回収される可能性は高いと思いますし、楽しみに待ちたいと思います!