見出し画像

断ち切る

 上司と部下の関係性は、部下のパフォーマンスに大きな影響を与えています。もっと言うと、上司の行動そのものが、部下のパフォーマンスに影響を与えます。

 私は前職での部下に対して、ネガティブな言葉かけをしていました。今思えば、その部下に対してとても貴重な時間を奪ってしまったと反省の気持ちでいっぱいです。
 彼は集中力が高く、一度取り組むと周りの音が聞こえなくなるほどです。この1つの作業に集中して取り組むという強みを持っています。
 私がいた商品開発と品質保証を兼務する部署は、複数のタスクが存在し、同時並行に進めていくことが求められました。
 新しい原材料の開拓と知識取得、配合の立案、包材設計や生産ラインへの落とし込み、一方では、お客様からのお申し出が発生すれば、その現物を調査し、工場と打ち合わせし対策を立案、報告書を作成し、時には従業員教育や仕組みを回していくこと、時には急なライントラブルなど。
 期日や緊急性などが、事前に立てた計画とは全く関係なく入れ替わる毎日です。当然、各個人で持っている強みは、時にはタスクを進める上では弊害となることがしばしばありました。

「何で今そのタスクをやっているの?今はそれよりもこちらを優先して行うべきでしょ。考えて行動してよ。何度言ったらわかるの?」

 もっとひどい言葉をかけていたと思います。今でも、思い出すと胸が痛みます。
 そして、私が投げかけるこの「ネガティブな見方」が、この部下自身の「自分へのネガティブな見方」を徐々に形成していました。

◎ピグマリオン効果

 教育心理学の分野で生まれた理論です。マネジメントの領域でも時折耳にすることがあります。上司や教育者が部下や生徒に対する「見方」が、部下や生徒の学習成果に影響を与えるというものです。

 ピグマリオン効果という言葉の由来はギリシャ神話なのだそう。

キプロス島に、ピグマリオンという王様がいました。ピグマリオンは、自分が彫り上げた女性像のあまりの美しさに、心を奪われます。どうにかして女性像が本物の女性に変わってくれないか、と切に願いました。それを哀れに思った神様が、彫刻に生命を吹き込んでくれたので、ピグマリオンはめでたくこの女性と結婚することができました。

 この神話から、「心から期待していれば、相手がいつかその期待に応えてくれる」という意味で、ローゼンタール氏らが提示した心理効果はピグマリオン効果と名づけられたのです。

◎ゴーレム効果

 ピグマリオン効果とは逆の作用として、「ゴーレム効果」というものがあります。「相手に見込みがないと思っていると、実際その通りになっていく」という心理効果です。
 つまり、部下などに対して「この人は伸びないだろうな」と思っていると、期待されていないことが暗黙のうちに伝わり、相手の成長に悪影響を及ぼすことがあるのです。
 先ほどの私の言葉はまさにNGです。「自分はだめなんだ、期待されていないんだ」と部下は感じ、さらにパフォーマンスが下がります。

◎ハロー効果

 ピグマリオン効果、ゴーレム効果と意味が似ている心理効果に、「ハロー効果」というものがあります。「相手の一部分に対する評価を、全体に対する評価として錯覚してしまう」心理効果です。
 例えば、「有名企業のA社に勤めているということは、人格も優れているのだろう。」「見た目がハンサムということは、きっと内面も優しいんだろう。」と言った例です。
 ハロー(halo)とは、英語で「後光(天使や聖人の背後から差す光)」のことで、「肩書き」や「見た目」などの後光に目がくらんで、その人の本質や全体像が見えづらくなってしまう、というニュアンスです。

 ハロー効果では、Aさんの肩書きによって「私の中でのAさんの評価」が変化する一方、ピグマリオン効果では、「私の中でのAさんの評価」によって、「Aさんの中身」が変化します。
 つまり、心理効果を受けるのが「私」か「Aさん」かという点で、ハロー効果とピグマリオン効果は異なるのです。

◎問い続ける

—そもそも、あなたはどういう人なのか?
—あなたが持っている力とは何か?
—あなたが誇れることは何か?
—今あなたができることは何だろうか?
—それを実現することで手に入れることはどんなことだろうか?

「外側からの見方」は、いつしか「自分に対する見方」として内側に取り込まれ、自分のパフォーマンスに影響を与えます。
 結果、「自分が自分をどう見ているか」こそが、パフォーマンスに大きな影響を与えるのです。

 私がネガティブな言葉をかけつづけた部下は、今、私とのコーチングセッションを通し大きく変わりました。
 彼は、以前、「自分はだめだな」と責め、劣等感、悲しみ、不安などがごちゃまぜの状態でした。それが、このようにお話してくれました。

 まずは出来ていないことを受け入れました。そして、今まではできていなかった「次にどうしたらいいのか」と露頭に迷うことがが少なくなり、「次にどういう行動を起こせばいいのか」を考えるようになりました。そして、ネガティブだった気持ちはフラットになりました。
 そして、口癖だった「すみません」をいうと気持ちも沈むので、その言動にも気を付けています。これは無意識から意識へ自覚してきています。

 私達は自らの「ネガティブな見方」を打ち破る潜在能力があります。そして問い続けます。思い込みを断ち切ること新たな道がひらけていきます。
 きっかけは外からのものであったとしても、最終的には、自分で打ち破る、問いかけることで自らが新しい自分への見方を獲得できるように支援することで変わります。

※ご本人へ了承をいただいております。一度は離れた関係でしたが、改めてこうしてお互いに関係性を構築できたこと、支援できたこと、成果をだしていることに深く感謝申し上げます。
内容について気になる、お話してみたいなど、お気軽にご連絡ください。
Mail : youhei_machiya@outlook.com


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?