茨城県立並木中等教育学校で実績ある競技プログラミング部が消滅の危機か
先週あたりからQiitaに茨城県立並木中等教育学校に関する記事が投稿されている。
これらの記事によれば、茨城県立並木中等教育学校の科学研究部のプログラミング班・ロボット班について、部員の新規受入を停止する事になったらしい。
茨城県立並木中等教育学校の概要
茨城県立並木中等教育学校は、公立の中高一貫教育を行う六年制の学校。
偏差値は63程度。
2012年度から2016年度までスーパーサイエンスハイスクールに指定され、授業のみならず課外活動においても、理科・数学教育に重きを置いていたらしい。
公式ページの部活動紹介には、件の科学研究部の存在が確認できる。
プログラミング班
プログラミングに特化した部活動があるわけではなく、科学研究部の中に研究班、ロボット班、プログラミング班があり、その内のプログラミング部が競技プログラミングに取り組んでいるようだ。(Qiitaに投稿された科学研究部員らしきユーザーの投稿からの推測)
実績
世界でも三指に入る競技プログラミングのコンテストサイトであるAtCoderの2023年の中学部門の学校ランキングでは、茨城県立並木中等教育学校が開成や灘に次いで4位にランクインしており、部活動として一定の実績があるように見える。
全75校中の4位という母数の少なさや、20位以下はほとんど個人参加に近い状態のランキングであることから、日本4位という成績をそれ程のものではないという意見は、上位校は開成や灘といった名門校のみという事実から否定できる。
また、ランキングの母数の少なさはそのまま、部活動として競技プログラミングに取り組める環境の希少さでもある。
AtCoderの成績の見方を少し補足しておく。
AtCoderには、競技プログラミングと呼ばれる競技において、どれだけのパフォーマンスを発揮できるか表したレーティングが存在する。レーティングは一定の間隔で色が着けられている。
レーティングの着色は、上から
赤色
橙色
黄色
青色
水色
緑色
茶色
灰色
の順になっており、赤色は日本に50人もいないレベルの上級者ということになる。
並木中等教育学校には、少なくとも青色が1人、水色が1人、緑色が2人、茶色が3人、灰色が8人いるようだ。
青色というのは、普通のITエンジニアから見て、常軌を逸したコーディング速度を持ち、複雑なロジックにおいてもバグの少ない安定したロジック構築が可能な、大学(競技プログラミングの強豪校を除く)のエース選手レベルだとされてる。これが1人。
水色でもAtCoder参加者の上位7.9%に位置する上級者で、アルゴリズムの絡んだ開発が特技と呼べるような水準であり、現役のエンジニアを含む競技者の中でも自信を持っていいレベルだとされいる。これが1人。
緑色は上位16.0%で、素養がなければ到達は難しいとされ、一般に業務上よく発生する複雑な処理は緑色レベルまでがほとんどだと言われている。これが2人。
中学生ながらこれだけの競技者が在籍しているというのはかなり大きい。全国4位という成績がどういったものか理解する助けになるのではないか。
ロボット班の実績
ロボット班もプログラミング班と同様に、新規部員の受入停止となるようだ。
こちらは2023年度の学校案内においても、同班の活動実績と思しき、WRO Japan 北関東 2022 予選会 ロボミッションジュニア部門優勝、同シニア部門準優勝といった実績が喧伝されている。
研究班の実績
並木中等教育学校では「一人一研」を掲げて全生徒に研究ノートを配り、自由研究をさせているようなので、明確に科学研究部員とされていない限り、部活動の実績なのかの判断が難しい。
少なくとも2023年度の学校案内を見ると、第46回全国高等学校総合文化祭自然科学部門 研究発表化学部門 奨励賞や第15回日本地学オリンピック銅賞などは科学研究部の実績、それもおそらくは研究班の実績ではないかと思われる。
廃止理由について
学校が科学研究に力を入れていることは確かだが、ロボット班、プログラミング班のどちらも華々しい活動実績を挙げており、新規部員の受入を停止しなければならないような状態とは思えない。
というか、仮に実績がなかったとしても、人数が規定に満たないわけでもない部活動を廃部にするようなことは通常の学校では中々起こりえないのではないだろうか。
先述したQiitaの記事のうち、現役の中学生部員によって書かれた記事によると、廃止理由は「活動を監督する教員が足りないから」らしい。
科学研究部はかなりのマンモス部らしく、また研究班はそれぞれが異なる研究をしているため、監督する教員も多数必要になるらしい。
そうした状況下で、プログラミング班・ロボット班は部活動の時間中にゲームで遊ぶなど真面目に活動していないことが何度かあり、そうした印象の悪さが廃止に繋がったのではないかと記事を書いた生徒は推測している。
学校としては部活動以外でも明らかに科学研究に重きを置いており、研究班を優先したい考えなのかもしれない。
また昨今では教員の働き方が社会的な問題となっており、特に部活動はほとんどボランティアに近い形で運営されているという問題もあり、並木中等教育学校も「茨城県立並木中等教育学校の部活動に係る活動方針」の中で以下のように定めている。
今回の話はこの中の「部活動数を精選する」という方針によるものだろうか?
新入生について
今年、科学研究部には19人の新入部員が入ってきたようだ。
当然のことだが、部活動は進学する学校を選ぶ際の判断材料になり得る。人によっては部活動を最重視して志望先を決定するということもそれほど珍しい話ではない。
また、冒頭で述べた通り、並木中等教育学校は六年制であり、2023年度の学校案内ではロボコンの実績が喧伝されているが新入部員の受入停止には触れられていないことを考えると、部活動で競技プログラミングやロボコンに打ち込みたいと意気込んで入学した生徒の六年間について学校側がどう考えているのかは興味深い。
部活の総会でも取り上げられていなかったり、当事者である部員達も新年度まで全く知らなかったといった証言があり、学校側がこの件を軽視している姿勢が見て取れる。
現実的な着地点は
教員が不足している以上、これまで通りの決着は難しいだろう。
告発をした生徒も言及しているが、同好会としての再出発が妥当だろうか。同好会には顧問が必要ないのか、これまでと同様の設備が使えるのかなど気になるが外部からは知り得ないことだ。
複雑なアルゴリズムについて指導できる教員がいないという、顧問ではなく指導者不在は元々の問題である。
競技プログラミングにおいて、指導者の指導の元で強くなるというのはレアケースと思われるため、指導者自体は必要ないと思うが、部活動の枠組みとの相性は良くない。
県内に新たな中高一貫校が誘致されているタイミングでの本件がどう帰着するのか興味は尽きない。
自分は直接無関係な一個人のため特にできることはないが、この件を知る人が少しでも増えればと思い、この記事を書いた。
生徒らのみならず教職員にとっても納得の帰結となることを願ってやまない。