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BTS

はじめに BIGBANGとの出会いと終わり


私がK-POPと出会ったのは二〇一九年の秋のこと。たまたまYouTubeでBIGBANGのBang!Bang!Bang!のPVを目にする。BIGBANG。もちろん知っている。私が学生だった頃周りで流行っていたし。でも当時は興味がなかった。なのに私はPVに釘付けになった。今まで聞いたことのないジャンル。徹底された世界感。歌詞は韓国語だし意味は分からない。いきなり明るい髪の男の人が車の上に乗ってがんがんに歌いまくる。何も理解していなくていい。そこで聴いていろ!と頭を撃たれたような衝撃を受けた。何度も繰り返し見た。他の曲も聞いてバラエティ番組や歌番組の動画もあさった。特に夢中になった曲は「無題」。PVではGDが一人で歌いながらゆらゆら揺れている。後ろの背景はゆっくりと色を変えて動く。それだけなのに。派手なダンスや装飾やら何もないのに。自分の知らない世界が広がるような何度見ても飽きない不思議な魅力があった。韓国語の読み書きもできないのに「ナエゲトラオギガ...」と聞こえる文字をカタカナで覚えてしまったほどだ。これはただ事ではない。私はこういうのに興味がないと思っていたからハマっていくほど驚きもあった。当時すでにBIGBANGのマンネ、スンリは芸能界を引退していたが、スンリが好きになった。でも全盛期を知れば知るほどスンリの終わり方は絶望的だったと思い知らされることになる。
BIGBANGのマンネ。愛されキャラ。ちょっとダメな部分も含めて人気があった。GDなど他のアーティスト気質なメンバーと比べてスンリは普通だった。取柄はダンスが上手いところ。しかしダンスが上手いだけではK-POPアイドルになれない。スンリの最大の武器は愛嬌と人間性であった。表面にでていたスンリのキラキラした輝きが実際にはどす黒かった。嘘か本当かは分からないが性接待のあっせんだとかドラッグだとか。スンリのそうした悪事が世間にさらされると彼は芸能界を引退した。韓国では女性たちが「スンリを逮捕しろ」とデモをした。昨日まで黄色い声をあげられていたアイドルがこんなことになるなんて。スンリは『グレートギャツビー』を目指していたし、なんていうか、もしそういうことをしていたとしてもスンリならやりかねないと納得してしまう何かがあった。スンリはアイドルとしてプロだったし人脈もあったし輝いている面ももちろんあったが、同時に危うさもあった。それはマンネゆえの特性であるしGDがスンリの友達が嫌いと公言する理由も理解できた。堕ちた。そう言って過言ではない。ヒョン達が兵役に就いて一人で自由に飛び回っていたツケが最悪の形で回ってきた。ただそれだけだった。けれど何故スンリはハメを外すことになったのだろうか。
スンリは「スンリ個人」ではなく「BIGBANGのマンネ」でいなければいけなかった。歌番組の歌唱中にヒョン達から飛び蹴りされて歌が乱れてしまってもいつも笑っていなければいけなかったし、「スンリはだめだな」と言われれば笑って頭をかかなければいけなかった。そうしないとスンリに居場所がないことが、彼自身許せなかったのではないだろうか。彼のソロ活動はヒョン達がいなくても大丈夫なんだと証明するためのものではなかったか。ソロ曲は素晴らしかったし歌番組では自分一人のステージで自分だけに黄色い歓声が集中する。しかし彼女たちが見ていたのは「BIGBANGのマンネ」である。マンネが一人で頑張ってる。だから応援していたのではないだろうか。だって私たちはBIGBANGのマンネとして彼を知ったのだから。兵役の時期をズラしたことはスンリの勝負だったように思う。残り少ないアイドル時代を賭けた。そして失敗に終わった。
彼の栄枯盛衰を見届けると次はiKONや他のグループを知っていった。そうしてK-POPの沼にゆるりと足を踏み入れると見えない底までずぶずぶと入っていくのだった。韓国ドラマも見たし簡単なハングルも読めるようになった。次の転機が訪れたのは二〇二〇年十二月末のことである。

新たな衝撃 BTS


BTSのことも存在は知っていた。
・ファンはARMYと呼ばれている。→意味が分からない。
・防弾少年団→なんだか物騒だ。
・めちゃくちゃ人気。→自分の入る隙はない。
これくらいの印象。一応K-POP畑を歩いてきた人間として興味はあったので『Boy With Luv』のPVを見たことがある。二〇一九年の夏頃だったと思う。この青い髪の男の子がAMBUSHのピアスをつけていることくらいしか知らなかった。特に印象に残らず通り過ぎた。二〇二〇年一二月。『Dynamite』が世界的ヒットを記録しどこにいても曲を聞くようになった。可もなく不可もなしの印象。

それは本当に偶然の先にあった一つのきっかけであった。なんとなくだった。年末の暇な時期にPVでも見ようかしらと軽い気持ちでクリックした。曲は知っている。そういえば何を歌っているのかと日本語字幕付きで再生した。すると巨大な隕石が脳に直撃した。
今夜僕は星の中にいるから  だから僕の火花で夜を照らすのを見ていて
は?と確かに思った。ロマンチックが過ぎる。こんなことを歌っていたなんて知らなかった。星の中にいる?僕の火花で?夜を照らす?全部意味不明。私の理性がそう言った。一方でがっちりと頭を掴まれたかのように目が離せなくなった。何度も何度も繰り返しPVを見た。歌詞を書き写して意味を理解しようとした。星の中にいるだなんて理解できないことを、ひょいとジャンプして。分からなくても何もしなくてもこの曲を耳と目で楽しむことを許可されていることが分かった。「BTS」でしかなかった彼らが「メンバー個人」となり一人一人の顔を見分けられると声だけでも分かるようになる。何十回見ても新たな発見があった。YouTubeのコメント欄を見て英語でも日本語でも読めるものは読み共感した。気付けば落とし穴の奥底に落ちていた。あたりを見渡すと綺麗な花が咲きそよ風が吹く平和で安全な場所だった。自分でも知らない感情が芽生えて急速に成長していくことになる。
私はBTSのファンを増やしたいわけではない。ただ自分に起きたことを整理し語りたい。そして同じような境遇の人とその不思議さを共有したい。

メンバーについて


個人のプロフィールはwikipediaを読んでほしい。ここでは私個人の印象を書き連ねていく。*年齢順
長兄ジン。私の推しである。自らを「worldwidehandsome」と語るほど整った顔立ちであるが親父ギャグが好きで年下のメンバーからも慕われて(舐められて)いる。肩幅がとても広い(あなたが想像した広さの1,5倍はある)。笑い声が高く特徴的で窓を拭く音に似ている。ステージに立つと圧倒的な歌唱力で「あ、そういえばこの人歌手だったんだ。。」と気付く。
SUGA。ラッパー。基本的に動かずだるそうなことからファンの間から爺と呼ばれている。彼が軽快に動くのはPVの中だけだろうか?私はSUGAをグループ内でもっともアイドルらしくないなと思っている。だから楽しそうにしていたりかっこつけていたりすると何故か安心する。
RM。リーダー。ラッパー。後述する黄金マンネジョングクがBigHitに入ったのはRMのラップがきっかけだった。IQが高く英語もペラペラ。一方破壊神というあだ名がつくほど物を破壊する。生卵を割らないようにするゲームなのに手でがっしりと叩き潰したり。
J-HOPE。ラッパー。名前の通り希望のような人。彼がこのグループの潤滑油なのではないだろうか。ダンスが上手い。いつもニコニコしている。クラスにいたら友達になりたい人一位。
JIMIN。彼のダンスはダンスというより舞踊に近い。女性らしい柔らかな舞のようだ。ジミンは「ぼくが笑えば世界の角が少し丸くなること」を分かっているような笑い方をする。意味は分からないと思うが私にはそう見える。
V。テテ。ボーカル。テテはまさにアーティストというか自分の魅せ方をよく分かっている。人を引き付ける存在。なんでこんなかっこいい人がこの世に存在するのだろう?と考えてしまう。なのに天然で不思議ちゃんな部分もある。テテはパフォーマンス中にキレッキレなのだが時折虚を見つめていたり心ここにあらずみたいな瞬間があり心配になる。それがまたファンを一喜一憂させる。
ジョングク。黄金マンネ。なんでもできる。顔良しダンス良し歌良し。欠点がない。スーパーアイドル。できすぎて怖いくらいなのだが人間味を感じる部分もあって、それはタトゥーだ。かわいい顔と裏腹にゴツいタトゥー。片腕のほとんどがタトゥーに覆われている。手の甲にもBTSメンバーとARMYの意味をこめて彫っている。そこまでいれなくても、と思うし、多分そういう声が多いと思うのだが、それでもタトゥーをいれるジョングクの意志の強さを感じる。

BTSとは何なのか?


アイドルとしての彼らを眺める日々が続く。YouTubeには毎日時間をかけても見切れない動画で溢れており、日々増えていく一方である。ありとあらゆる番組がオフィシャルで、あるいは非公式にあげられる。まず韓国語で、次に英語で、英語を日本語訳したものもあり、意味が通っていない訳もある。(が、どうでもいい)私はまず彼らを一つのアイドルグループとして理解した。しかし彼らの輝きは私の理解度を超えていた。次第に私は彼らをただのアイドルではないように思えてきた。
・(自分と同じ)人間ではない
・天使?
・人造人間?
目の前で起きていることが現実のことだとは信じられない。いっそのこと人造人間なら納得できるのだが、どうやらそうではないらしい。

私はARMYなのか?


BTSのメンバーはファンを「ARMY(アミ)」と呼ぶ。「アミ、ヨロブン、サランヘ」といった具合だ。(ファンの皆さん愛してます)いつ何時もアミへメッセージを伝える。ありがとう。愛してる。アミのおかげ。ここで語られるアミとは誰のことなのだ?私はARMYなのか?ジョングク。うさぎみたいに可愛い男の子がまっすぐな目をして「アミ、ありがとう。アミは僕の星」と言うのだ。僕の星て。私は自分をARMYだとは思わない。何故ならBTSに一円も支払っていないからだ。YouTubeの再生回数を回したって微々たる広告費にしかならない。ファンクラブにも入ってない。音源を買いもしない。しかし。「アミがいるから僕は頑張れる」と言われるとまるで自分に言われているような気がする。はた、と冷静に考えてみるとBTSの世界にはARMYしかいないのだ。語りかけられる対象はいつだってARMYだけ。つまり「ARMYではない人」は存在しない。だから私はARMYなのかもしれない。
私は思うのだけど。百%の自信を持っているわけではないのだけど。多分違うのだけど。BTSはある意味宗教なんじゃないかと最近思っている。信じる人は信じる。信じていない人はいまいちピンとこない。なにかにすがりたい。キラキラしたものを見ていたい。夢見ていたい。こうした気持ちを彼らは昇華させる。

Butterが私にもたらしたもの


新曲のButterのMVが公開された。まだDynamiteのグラミーの映像を繰り返し見ていて抜け出せていないのに新しいものが公開されるなんてスパンが短い。今回も英語の曲で和訳を読むとキザさにびっくりする。
High like the moon rock with me baby
月ほど高くまで僕と踊ろう ベイビー
月ほど高くて。こんな言葉を真面目な顔して歌われても困る。でもジョングクがそう歌うと、なるほど私にもその月が見えるように思った。HIgh like the moon. 月ほど高くまで。月は見上げるものだ。月ほど高くまで踊るなんて意味が分からない。なのにBTSがそう言うなら自分も空間を浮遊して月まで高く飛べるような気がする。最後のサビ部分はメンバー全員のダンス。黄色地の煌びやかなステージをお揃いの衣装で踊る。
Side step right left to my beat.
この音に合わせて左右にサイドステップ
ここのテテは楽しそうに踊り笑顔でキラキラしていて、初めて見たとき「ここには世界の全部がある」と思った。書きながら自分でも意味が分からないのだがそうとしか言いようがない。何度もMVを繰り返し見てこの部分にさしかかると「あ、世界の全部がくる」と思い、テテのしなやかな動きを見ると「あ、世界の全部だ」と確認できる。DynamiteもButterも「これは一体なんだ?」と問いながら見る。けれど問いは解けないどころか深まるばかりだ。
この曲で私はJ-HOPEの魅力を理解した。最後のラップ部分、キレキレのダンスを披露する。J-HOPEは親しみやすい人柄がクローズアップされるしダンスも一番上手い。けれどこの人の最大の魅力はラップなのかもしれない。声。軽快な音。J-HOPEが笑うなら私も笑えるような。「一緒に楽しもうよ」と手をひかれるような思いがする。

オッパとヒョン


オッパ、直訳するとお兄ちゃんという意味。韓国では女性から年上の近しい男性を指して使われる。年上の女性が年下の男性に対しては使わないので、私がBTSのメンバーをオッパ呼びすることはない。ファンが年上のアイドルを呼ぶとき、本当の兄、彼氏、夫にも使う言葉なのだ。まぁ私には縁のない言葉だし、と思っていたのだが。ButterのPVとは別のパフォーマンスでテテが髪の毛を一つに結んでいるのを見たとき、心の中で「オッパ」と呟いてしまった。
次にヒョン。メンバー同士では年上を「ヒョン」と呼ぶ。これも兄を指す。ジョングクからすれば全員ヒョン。長兄ジンは全員を名前で呼ぶ。ジンはよく「ヒョンガハルケ」と言う。「ヒョンがやるよ」だ。弟たちが調理器具を持って「熱い!」といえば「ヒョンガハルケ」、蓋があかずに困っていると「ヒョンガハルケ」。全部やってくれる!ヒョンがやるよ、と言ってできないことがない。すごい。

それはファミリーマートでのことだった。(×二)


二〇二一年の冬、私は杉並区にいた。


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