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【エッセイ×短歌】かなしみをあつめて耳を傾けてみた話

twitterでは今日も悲痛な言葉の数々を見かける。どこででも誰かが苦しんでいる。

職場で一緒にいる自閉症の子は、ときどき前触れもなく悲しくなってパニックになったり涙を流したりする。ぼくもおんなじだよ、と思いながら頭を撫でる。

高校生のとき好きだった女の子と、社会人になってからしばらく連絡を取りあう時期があった。思いやりのない困った(でも6年間付き合っている)彼氏の愚痴を聞く。そのうちに電話の向こうで泣き声に変わる。本当に悲しんでいるんだと思った。

ぼくの大切な友人の一人は、あまりLINEに返事をくれない。たぶんまた自分の心とたたかっているのだろう。そういうときは本当に助けがいらないそうだ。ほっとくしかない。

寂しくなる夢を見たので、元カノにLINEスタンプをプレゼントしようとしてみた。なんでもそうすることによって相手に「ブロック」されているかどうか分かるらしい。

するとどのスタンプも「購入済み」の表示になった。彼女が新日本プロレスのボイススタンプを購入したとは考えにくいので、ぼくはブロックされているのだと思う。もののついでに他の元恋人にも試してみたら4人中2人にブロックされていた。二分の一。

お風呂から上がってドライヤーを髪にかけるたび、「毛並みにそって風を当てるんだよ!」と怒った恋人を思い出す。ぼくはずいぶんだらしない人間だから、毎食後歯を磨くのも、洗面台の髪の毛を取り除くのも、デート中どんな女の子の話もしてはならないということも、大人になってから恋人たちに教えてもらってきた。

みんなが何かしらぼくに教えてくれて、そして去っていった。そのおかげでぼくは何とかいっちょ前の人間らしく振る舞えているのだ。これからできる(かもしれない)恋人にはもちろん言えないことだが。

ある日のこと、一年半ほど音信不通だった女の子から突然、電話していいかとメッセージが届いた。少しあいさつを交わして、彼女は言った。

「私、結婚したんだ」

「それと今、お腹の中に子どもがいます」。

相手は7年付き合った彼氏らしい。たしか最後に彼女と連絡を取ったときは、もう別れる、一人になりたいと言っていたはずだった。

へえ! そうなんだ、それは……びっくりだな、おめでとう! そんな風にぼくは言ったと思う。その時の心情はまあお察しだ。連絡の取れない一年半の間にこんな短歌をつくった。

  Tシャツのはためく音が飛んでった「ぼくは元気で暮らしているよ」

本当にぼんやりとした男だと思う。

昼寝をした後、職場へ向かう。そこで働いて、なんとか生活できるだけのお給料をもらっている。ほとんど労力がいらない仕事なのが気に入っている。自閉症の彼と一緒におもちゃのモノレールを眺めたりする。

そうして少しずつ貯めたお金で先日クロスバイクを購入した。これで体力をつけたらいつか海まで行ってみたい。よく晴れた日の海を撮って、たとえばこんな感じの短歌をくっつけてツイートしてみよう。

  とうめいな球体のなかさざなみをきけばかすかにうごくかなしみ

それを見て誰かが「いいね」くれれば、すなわち世の中のかなしみを少し減らしたのだと思うことにしよう。


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