ゆっきん

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エッセイと小説・短歌。 寝落ち用ラジオ配信中です。 https://open.spotify.com/show/4Li05dXxN7cOEnqoIYmmpG?si=3E_eA79sRSK30UMu-cgcZw twitter: @you1475963

最近の記事

是枝監督作品『怪物』徹底(ネタバレ)解説

是枝監督の『怪物』が大変良かったので考えたことを書き記していきたいと思います。ネタバレ解説になりますので、未鑑賞の方にはお勧めしません。 目次 (1)   映画の構成、伏線と謎解き (2)   依里と湊を追い詰めた怪物とは何か? (3)   依里と湊を救うのは? (4)   依里と湊は死んだのか? 基本的には映画のストーリーに沿って解説していきます。 (1)映画の構成、伏線と謎解き後にこれは星川(ほしかわ)依里(より)だということが判明します。いつも持っている笛は、「回

    • 【エッセイ×短歌】ゆうやけ空に片頭痛

      昨年末、はじめて片頭痛というものに襲われた。とんでもない痛みだった。 数日後に病院で診察を受けたところ、単なる肩こりからくるものだったのだが、診察を受けるまでぼくは軽くパニックに陥っていた。 頭痛は日に日に強くなる。自分はなにか進行性の病に侵されているのだろうか? というパニック。 年末年始で病院が休んでいるさなか、ぼくは自宅でただただ断続的に襲ってくる死の頭痛に耐えることしかできない。 炬燵に入り頭をソファにもたれかけ、脈動するズキズキを絶望的な気分でただただ味わっ

      • 【エッセイ】いっそ神隠しに遭いたい気分

        台湾の九份は、千と千尋の神隠しの湯屋街のイメージに似ている、幻想的な風景を湛えた街である。 これはネットに転がる画像だが、ぼくが行ったときは雨降りで、ランタン燈かりもぼんやりと、これよりずっと寂しい街だった。 細い階段、傘をさして上ると、たしかに神隠しにも遭いそうな、迷宮に入りこむような気がしてきた。 ようしいいぞ、という気分になってぼくはどんどん情報を目に入れていく。並んだお店、お土産品たち、階段を降りる人々の顔、階段を上る色鮮やかな傘の柄。 時おり雨脚が強くなり、

        • 歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第6夜「明けましてコアラのマーチ」

          動画:https://youtu.be/EKLaEl3EqY0 twitter:https://twitter.com/you1475963 夜の公園で、高校生(村上茉莉)と先生(相沢哲)が話をしている。 村上「2022年ですね」 先生「ですねえ」 「2が多いですね」 「うん」 「……」 「……」 先生「2月22日は猫の日らしいですよ」 「え、じゃあ2022年は……」 「うん」 「猫年」 「寅年」 「あー」 (紅茶を紙コップに注ぐ音) 先生「紅

        是枝監督作品『怪物』徹底(ネタバレ)解説

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第5夜「ココア(マシュマロ入り)」

          動画: https://youtu.be/HnR8lsqiKeY twitter: https://twitter.com/you1475963 「意外です」 「何が?」 「先生がココアを飲むのも、それを水筒に入れるのも」 「ああ……」 「作りたくなったんですか?」 「うん、甘いものが飲みたくなって」 「それは、私の分もありますか?」 「……紙コップでよければ」 「ありがとうございます!」 (ココア注ぐ音) 「はい」 「ありがとうございます」 「…

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第5夜「ココア(マシュマロ入り)」

          【エッセイ×短歌】求めてもいないのにどこにでも幸せがあるって話

          天気のいい日。自転車を買ったのでサイクリングに行ってみた。 車道を走っていて横を車がたくさん通りすぎていくのはストレスなので、田舎っぽい雰囲気の方向を選んでいたら見事な田舎道に出た。川沿いの風景がきれいだ。 走っていて突然、道路にカマキリが飛び込んできた。いや、落ちてきた。 おい投身自殺か?と思って戻ってみるとカマキリは車道でひっくり返ったまま動かない。 うーん、と思いながら拾いあげると手の上で身を起こす。生きてはいる。 だが鎌が片方、欠けている。それでバランスが取

          【エッセイ×短歌】求めてもいないのにどこにでも幸せがあるって話

          【エッセイ×短歌】かなしみをあつめて耳を傾けてみた話

          twitterでは今日も悲痛な言葉の数々を見かける。どこででも誰かが苦しんでいる。 職場で一緒にいる自閉症の子は、ときどき前触れもなく悲しくなってパニックになったり涙を流したりする。ぼくもおんなじだよ、と思いながら頭を撫でる。 高校生のとき好きだった女の子と、社会人になってからしばらく連絡を取りあう時期があった。思いやりのない困った(でも6年間付き合っている)彼氏の愚痴を聞く。そのうちに電話の向こうで泣き声に変わる。本当に悲しんでいるんだと思った。 ぼくの大切な友人の一

          【エッセイ×短歌】かなしみをあつめて耳を傾けてみた話

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第4夜「みわける」

          ボイスドラマ動画:https://youtu.be/EKLaEl3EqY0 twitter: https://twitter.com/you1475963 「久しぶりに見たら食べたくなっちゃいまして」 「たべっ子どうぶつ」 「はい、子どもの頃は毎日食べてました」 「子どもの頃」 「カバどうぞ」 「あ、ありがとう」 (食べる音) 「でも食べてたら動物園に行きたくなるんですよね」 「あー市立動物園?」 「はい、大好きでした。久しぶりに行きたいな」 「いいね

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第4夜「みわける」

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第3夜「ひたるふたり」

          動画:https://youtu.be/6vvtpUM77Gk twitter: https://twitter.com/you1475963 (秋の虫の声) 「煙草というのは良いものなんですか?」 「煙草というのは良いものじゃありません」 「いえ、なんというか、先生は煙草が好きだから吸ってるんですよね」 「……うん」 「煙草のどの辺が好きなのかなって」 「……煙草を吸っているという自分に浸ることができます」 「浸る……」  「浸る」 「じゃあ煙草の煙が

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第3夜「ひたるふたり」

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第2夜「クランキーな気分、サワーな気分」

          動画 https://youtu.be/naGQGDJhRoM (秋の虫の声) 「今日はクランキーチョコレートをもっています」 「また、散歩してるんだね」 「先生こそまたいるんですね」 「はい、またいます」 「何を持ってるんですか?」 「……レモンサワーです、すみません」 「なんで謝るんですか」 「いや……村上さんって、もしかして毎晩散歩してるの?」 「次の日がお休みのときだけです」 「ああ……」 「もしかして迷惑ですか?」 「俺にとって迷惑というわ

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第2夜「クランキーな気分、サワーな気分」

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第1夜「おやすみなさい」

          動画 https://youtu.be/4IGLhPY4Bss その日俺はアパート裏の小さな公園のベンチに腰掛け煙草を吸っていた。 「こんばんはー」 「……こんばんは」 「相沢先生ですよね?」 「……うん」 「そこ座っていいですか?」 「……どうぞ」 「失礼します」 「……」 「なんだか先生、雰囲気が違いますね」 「うん、突然すぎて、教師モードに切り替えられなかった」 「あーそういうモードがあるんですね」 「どうしたの、こんな夜中に」 「ただの夜の

          歌物語ボイスドラマ『相沢先生と村上さんの無益な話』第1夜「おやすみなさい」

          [短歌×エッセイ]小三女子の短パン理論

          小学校から学童までの道を子どもたちと歩く。 右の手に三年生の女の子が手をつないでいる。本来は一年生のお迎えしかしないのだが、途中で会ってそのままついてきた子だ。 彼女の話に相づちを打ちながら、雨上がりのアスファルトを歩いた。ほかの子どもたちは思い思いに友達と一緒に、ぼくたちの前や後ろを歩いている。 「みてけがした」 指し示された短パンの膝にたしかに擦り傷がついている。この子の脚にはほかにも無数の傷跡があった。前に尋ねたことがあるが、よく転ぶのだそうだ。 「ありゃー痛

          [短歌×エッセイ]小三女子の短パン理論

          [エッセイ]喉をいためてデクノボー

          先日、この季節の乾燥によって喉をすこぶる傷めてしまい、ほとんど声を出すことができなくなってしまった。 声を出せないと自分は「無防備」だという気がする。言葉をつかえないからだと思う。言葉をつかって自分を守ることができなくなる。 たとえば今どこかの見知らぬおじさんに「あんた俺の大事なものを盗んだだろう」と疑いをかけられても声を出して釈明することができない。 もっと小さなことでもいい。 たとえば「松島さんはいつもジャージですね」と言われたとする。それはだいたい合っているので

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          [小説]電幻アルカロイド

          ※ミステリー小説の終わりだけを書きました。ちょっとだけ未来の設定です。 宮内さくら殺害に使用された電子モルヒネは、その構造解析によって剛堂慎之介のストレージに残されていた電幻ケシから精製されたものとの鑑定が下り、沖縄県警はこれを証拠として受理した。 剛堂慎之介は逮捕された。 電幻植物を利用した殺人は世界初の例となり、メディアはすぐにその開発者である宮内さくらの経歴・研究内容から、剛堂が起こした過去の事件までをも掘り起こし、ワイドショーはこれを凄惨極まる愛憎劇としてとり上

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          [エッセイ]二つ以上の居場所をもつこと

          ぼくはふたつの異なる性質のものを同時に備えるのが好きだ。 運動の習慣をもつこともあれば、本を読む習慣をもつこともある、みたいなことだ。それは時期によって入れかわる。 みんなそういうものかもしれない。人間みな夏には涼しさを求め、冬には暖かさを求める。 だから自分の生きていく環境とかコミュニティとかいうのも、二つ以上あった方がいい。一つのところで息苦しくなったときにもう一つが逃げ場所になってくれる。 ぼくは大学でもダンスサークルと文芸部の二つに所属した。ダンスの方はノリと

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          [小説×短歌]レンチと紅茶のトロイメライ

          「記憶について?」 みかげ先生はモンキーレンチで自分の左手のひらを一定のリズムで叩きながら繰り返す。面談をおこなうときのいつもの癖だ。ぼくは彼女のモンキーレンチを見つめながら言葉を続ける。 「ええ、記憶について考えていました。記憶するプロセスが人によって違うようなのです」 「それは、『記銘』『保持』『想起』とかいうプロセスとは別の話?」 「もっと子細なイメージの話です」 ぼくはそこでひと呼吸置く。この話題が面談にふさわしいかどうか判断してもらわなければならない。先生

          [小説×短歌]レンチと紅茶のトロイメライ