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「ファミコンバカ」と呼ばれた5歳児は今でもゲームをしている (6)
前回はこちら ⇒ https://note.com/you1293/n/n6b3e1f4be3a3
まとめ ⇒ https://note.com/you1293/m/mf3a3e862c18b
「わるそぼうず」という言葉がある。おそらくこっちの方言だろう。
いわゆる「悪ガキ」という意味だが、なんとなく、親や近所の大人たちが、親しみを込めてそういう子たちを呼ぶときに使うイメージがある。
幼稚園時代、僕はその「わるそぼうず」だった。
「わるそぼうず」は4人組。
カズオ、カンタ、ハルオ、そして僕。
ペンキ屋のカズオは金回りがいい、なんとなくスネ夫タイプ。
カンタは体がデカく、ちょっとやさしめなジャイアンタイプ。
そしてハルオはとびっきりの「バカ」だった。
いつも鼻水をたらし、袖が鼻水でカピカピになっていた。
今と違って、近所に遊ぶ場所はいくらでもあった。
幼稚園の子どもでさえ、家に帰るなり、ひとりで友達と遊びに行き、暗くなるまで遊んだ。
近所の公園はもちろん、神社や近くの山。
時には人の家の庭や屋根の上(!)なんかも遊び場だった。
大量に虫やカエルを捕まえて逃がしてみたり、瓶を見つけては割ってみたり。
そんな「わるそぼうず」4人組は近所の大人たちに笑顔で怒鳴られながら、小さな町中を走り回る日々を過ごしていた。
外で遊ぶことには困らない時代ではあったが、もちろんそれぞれの家に集まって遊ぶことも多かった。
4人のうち、カズオ、ハルオ、僕の3人はファミコンが家にあった。
もしかしたら、カンタも持っていたのかもしれないが、カンタの家には行ったことがないのでよく知らない。
某名人や某県が「ゲームは1日1時間!」と言う前の話だが、だいたいの家には同じようなルールがあった。
それぞれの家に「わるそぼうず」たちは集まり、親から怒られる前に次の家に移り、それぞれの家でファミコンで遊んだ。
僕の家ではドンキーコング、マリオブラザーズ、クルクルランド。
カズオの家ではベースボール、スパルタンX、アイスクライマー。
カズオの家にはファミリーベーシックもあったが、当時の僕たちには全く意味が分からないシロモノだった。
ハルオの家はボロボロで、貧乏そうに見えたが、なぜかファミコンのソフトだけは豊富にあった。おそらく、ハルオのお父さんはファミコン好きだったのだろう。
レッキングクルー、マッピー、デビルワールド、イーアルカンフー。
その他にもたくさんの魅力的なソフトがガチャガチャと置かれていたその空間は、今思い返してみてもパラダイスそのものだ。
僕は4人の中でも一番ファミコンが好きだった。
ひとしきりファミコンを遊んで、「外遊びにいこうぜー!」と他の3人が外に行った後も、一人残ってゲームをしていたこともあるくらいだ。
その家の親に怒られて、しぶしぶ外に遊びに行くこともちょくちょくあった。
そんな僕は、いつしかカズオとカンタから「ファミコンバカ」と呼ばれるようになっていた。
それが単なる「ファミコン好き」という意味なのか、はたまた蔑称なのかは今となってはどうでもいいことだが、当時の僕はその呼び名があまり好きではなかった。
なんとなく、そこから2人との間に溝ができはじめていた気がする。
そして、彼らが自転車を持つようになってから、僕はあまり2人と遊ばなくなった。
ウチは父の「おかげ」で貧乏だった。
ファミコンこそ、父がそこそこ遊んでいたのでソフトは買ってもらえたが、自転車はどこから譲り受けたのか知らないが、ボロボロの、ハンドルによくわからない円盤がついたおもちゃのようなものを与えられた。
その円盤は、おそらく電池を入れれば光ってクルクル回ったりしたのだろうが、その姿を見たことがない。きっと壊れていたのだろう。
右手のハンドルには、赤いボタンがついていて、ぐっ、と強く押すと
「プェ~~~~~ン」
と気の抜けたような音が鳴った。これも明らかに壊れている。
一方、カズオは5段ギアの「イカした」自転車を買ってもらい、カンタは体がデカかったので親のママチャリを乗り回していた。
僕は自分の自転車(のようなもの)で一緒に遊ぶのが恥ずかしかった。一生懸命こいでも、彼らの自転車のスピードには当然かなわず、置いて行かれた。
そんな中、ハルオは自転車を持たず、いつものように鼻水をたれながら、すごいスピードで走ってついてきていた。
ハルオは底抜けのバカだったが、決して人を馬鹿にするようなことはしなかった。
僕はハルオとそれまで以上に仲良くなった。
ハルオとは、一緒に遊んでいて本当に楽しかった。
アーバンチャンピオンで殴り合い、マリオブラザーズで殺し合い、ハイパーオリンピックで爪をすり減らした日々を昨日のように思い出す。
それは確か、まだ暑さが残る秋、雨の日だった。
いつものように、ハルオの家に行き、玄関で彼の名を呼ぶ。
「ハルオー!!あそぼうぜーーー!!」
いつもはすぐに返事があるが、その日はハルオの返事がなかった。
「あがるぞー」
そう言って、僕はハルオの家の居間に入った。
そこにはいつもより真剣で、力強くコントローラーを握っているハルオがいて、僕にこう言った。
「おー、ごめんごめん。ちょっとユウ、これ見てみぃ。でたんすげぇとばい。」
そう言われて見たテレビには、もちろんファミコンゲームの画面。
だが、今まで見たことがないゲームだった。
忘れもしない。
それは「ファミコンバカ」が、「あいつ」に初めて出会った瞬間だった。
(つづきます)
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