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たまに思い出せるツッコミ
何か具体的にはわからないけど、音楽とか言葉とか匂いとかをトリガーにして、記憶が呼び起こされる瞬間がある。
映画でもドラマでも、テレビを見てもYoutubeでもお笑いが好きだ。とくに人と人が掛け合いをして笑いになっているのが好きだ。それはお笑い番組とかだけでなくて、物語の中でのエッセンスだったり、不意に生じる無意識の笑い、自分の失敗を誤魔化すような愛想笑いだったりするが、どれも好きだ。
そんな「笑い」のある瞬間のうち、ツッコミが光る瞬間っていうのもあると思う。漫才でいうボケとツッコミ。ボケが面白いだけじゃなくて、それに切り替えして言葉を返す。ボケに対して、笑いどころを解説し、独自の笑いをそこに生む。ボケだけだと収まっていた(かもしれない)笑いを、ツッコミがあることで、周囲に伝播させる。
自分にも、そんなボケを解説しつつ、周りに笑いを伝播させたなという会心のツッコミがある。たまに思い出せるツッコミだ。
昔、別の仕事をしてた時、20代前半だったころに沖縄の離島へひとりで旅行に行った。何がしたかったわけではないが、特にすることもない夏休みを消化するべく、遠くに旅に出た。その島では、自転車を借りてサトウキビ畑の間を走ったり、ツアーに参加してウミガメを見たり、居酒屋で地元の人たちの声に耳を傾けたりしていた。
3泊4日と一人旅には持て余す時間を島で過ごしていた。ある日も晩御飯を食べるべく、近所の居酒屋で飲んでいた。モズク酢とクルマエビの塩焼きを食べながら、隣のテーブルに運ばれた「美ら蛍」を眺めつつ、テレビから流れている映像を眺めているふりをしていた。
すると、観光客の自分に常連と思しきおじさんが声をかけてきた。しばらく話をして、観光客であること、普段は○○の仕事をしている事、ひとりであること…当たり障りなく自己紹介をしつつ話をした。そんなに特別盛り上がることもない、ただの観光客いじり。特別でない、観光客がたまに来る居酒屋での日常の光景、ただの暇つぶしだったろう。
「おまえも人殺してきたんか?」
話の中で急に飛び出してきた言葉。でも次に、ツッコんだ。
「いや、市〇達也じゃないんですよ!」
ウケた。いまでもこのツッコミを思い出してふっと笑う。その島はその殺人犯が逃亡先に選んだ久米島だった。独り者の男性観光客に市〇達也いじりをすることは定番だったのかもしれない。でもこの返しをして、その場に笑いが広がった瞬間の気持ちよさをまだ覚えている。そのあとのことも、その島で過ごしたこともあまり覚えていない。
この瞬間をなにかのトリガーで思い出し、たまにほくそ笑む。