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とあるお茶屋さんで得たもの〜【私は何者なのか】バイト編
大学時代のアルバイト編・第2弾は、お茶屋バイトです。
お茶屋さんとは、お茶っ葉を売っているお茶専門店の方です。
コンビニバイト編(↓)を書いていたら、そういえばお茶屋でバイトしていたことも思い出しました。すっかり忘れていたのに、連鎖しますね。
お茶専門店の喫茶店
母の知人からの紹介だったと思うのですが、日本茶専門店の2階にある喫茶スペースで、土曜日だけ働ける人を探しているというのです。
場所は小田急線の各駅停車駅で、商店街といっても小規模な、こじんまりとした落ち着いた街でした。土曜日のみの10時〜18時と決まっていましたが、時給1,000円もいただけるというではありませんか。大学生って、土曜日暇だったんですね、さっそく紹介してもらって、週一勤務することになりました。
いまならカフェと言えるのでしょうか、ちょっと小洒落た喫茶店という風情の、素敵なお店でした。というのも、本業のお茶屋の社長の奥様がはじめられたとのことで、彼女の叶えたいお店になっていたんですね。
一流を揃えた一軒茶屋
会社の名前を掲げているだけあって、メインのお茶は、最上級の部類の茶葉を使っていました。
煎茶とほうじ茶くらいは知ってましたが、京番茶、玉露、抹茶…となるとまったく知らない世界でした。抹茶は茶筅で立てていたし、お茶によって、淹れ方、量、器とそれぞれにベストなものがチョイスされていました。
さすが、日本茶専門店のこだわりです。
紅茶やハーブティーの販売にも手を広げていたようで、それらを飲ませるという目的もあったのでしょう。
アールグレイやダージリン、アッサムティーなど、それぞれ産地によっての違いや特徴を教えてもらい、紅茶の味の違いを知りました。
当時は家でハーブティなんて飲んだことなかったので、ガラスの器で、香りや味の違いを楽しむ文化があることも知りました。
コーヒーは豆から轢いて、サイフォンで、アルコールランプを使って淹れていました。これも初めての経験で、ファミレスとの違いにカルチャーショックでした。コーヒーもお茶同様に愛を持って扱っていたので、コーヒーだけ飲みにくるお客さんもいらっしゃいました。
食器類も当然こだわっていました。
和食器は、覚えていないけど名のある焼き物で一点もの、高級洋食器メーカーの名前もここで覚えました。それらの器で提供されることは、お客様にとっても喜ばれ、反応してくださることもしばしばでした。
わたしはとにかく割らないようにと気をつけて、洗い物をしていました。
黒いワンピースの制服まであって、要はこだわり尽くしの一軒茶屋だったのです。……と、すっかり忘れいた記憶が、いろいろ蘇ってきました。
若手社員の熱意
マダムがオーナーのお店でしたが、切り盛りを任されていたのは24歳の女性社員さんでした。
どこかで修行でもしてたのだったか、彼女は喫茶部門を担当したいと熱望したそうです。飲食のプロ意識がすごく高い人で、お茶を淹れるのもプロ並みでしたが、さらにすごいのはケーキをお店で手作りしていたことでした。
20〜30席規模のカフェを、社員として切り盛りできるのはきっとやりがいがあったのだと思います。その姿勢はとてもカッコよく見えました。
土曜日は、平日よりはお客さんが多かったようで、基本は2名体制、混雑したら1階の店舗から別の社員さんをヘルプで呼ぶような感じでした。
そんな熱意のある社員さんとほぼ2人体制だったのですが、若くて優しかったので、とても楽しく働けていたのでした。
だから彼女から教わることがほとんどだったのですが、単独店ならではのさまざまな体験、学びがあったことを、思い出します。
練り切りを知る
お茶専門店としてお茶を飲ませるのに、スイーツは欠かせません。
和菓子セットと洋菓子セットがあり、選べるようになっていました。
和菓子というのは、近所の和菓子屋さんの練り切りで、社員さんが朝いちで買ってくるのです。そこは老舗の和菓子屋で、季節感を取り入れた練り切りは、芸術品のように美しく、それも初めての文化だったので、感動したものでした。
いつも4〜5種類くらいを仕入れて(買ってきて)、オーダーしたお客様に選んでもらうのですが、選べる状態が保てなくなると、わたしが追加を買いに行きます。
明らかにいま買ってきた感じは否めませんでしたが、目と鼻の先の和菓子屋で240円で販売していた練り切りが、お店で出すと400円相当になるというのも、一つの学びでした。
和菓子屋さん、まだありました。懐かしくて泣ける。
一律の値段設定で
日本茶、紅茶、コーヒー、ハーブティーを取り揃え、アイスでの提供もあれば、夏は水出し煎茶なんかもありました。メニューが多いと覚えることが多く、間違えずに器を用意することなどに精一杯でしたが、だんだんと、メニューによって手の掛け方、原価などに差があることが分かってきました。
でも、すべて一杯600円でした。
正確には、コーヒーとお抹茶、コールドドリンク以外はポットサービスだったので、2杯程度は飲めたので、コスパもさまざまだったのです。
ちなみに、洋菓子・和菓子セットは一律1,000円です。
磯部餅セットなんていうメニューもあって、たしかそれも1,000円で、値段設定に原価率という概念は放棄されていたような…。
1階で茶葉を売っているし、和菓子は近所に売ってるしで、お客さんにも原価はバレているはずなのですけどね、なんといってもレジのときの計算が楽なのは助かりました。
ロイヤルミルクティーを知る
わたしがもっとも絶品だと思っていたのが、ロイヤルミルクティーでした。
タカナシの牛乳をたっぷり小鍋で沸かし、アッサムティーを投入します。抽出時間が肝で、あるタイミングでささっとポットに移す手際の良さ。
ほどよい色みになった紅茶がたっぷりとポットに注がれると、同時に豊かな香りが漂います。ポットを覆うお洒落なティーコゼーを被せて、輸入物の角砂糖とともに、熱々をお持ちするのです。実際にこれが一番の人気メニューだったように思います。
もちろん社員さんのお仕事で、バイトは淹れさせてもらえません。わたしはまんまと1階で同じ茶葉を買って、家でつくっていましたね。
ロイヤルミルクティーを覚えたのは、大学1年生だったと明言できます。
お茶屋バイトで得たもの
コーヒーサイフォンを家でも導入したこと、いくつもの茶葉を買い込んだこと、シフォンケーキや抹茶ババロアのレシピを教えてもらって家でも実践したこと……、バイト経験が生活にいきた場面がさまざまにありました。
コンビニやファミレスでは感じなかったプロ意識を間近で見れたこと、お客様に喜んでもらいたいと心をこめた丁寧なサービス……気持ちが形になったお店でした。それらは、業態を変えても見習いたい心です。
一方で、経営や集客には問題があったと言わざるを得ず。
常連さんはいらっしゃいましたが、グループ客や若い人が気軽に来れるお店ではなかったし、そもそもこういったこだわりのお店を好む人が多い商圏ではなかったのでした。
本業の経営とは分離された治外法権的な、採算度外視だったにも関わらず、よくぞ持ち堪えて頑張ったな、というのはあとになって気づいたことです。
わたしは1年以上は働いて、辞めたあとも何度か遊びに行きましたが、数年後にカフェは閉店してお茶屋さんのイベントスペースになったと聞きました。
いまはどうなっているかな?とストリートビューで見てみたら、お茶屋さんがクリーニング屋さんになっていて、せつない……。
わたしにとって初めて尽くしだったお茶屋さんでのアルバイトは、本当に勉強になったし、お茶についてはある程度わかる状態で大人になれたことに、感謝しています。おかげでお茶一般で困ったことはありません。ま、あまり困ることはないと思いますが……。
また豊かな時間を過ごせる、美味しいお茶を淹れてみたくなりました。
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