スケッチアップで遠景の建物と近景、別々に出力するか迷う…その解決アイディアを3つご紹介
今回は、遠景まである素材の処理をどうする問題です。こちらのご質問の回答にもなっています。
主人公が歩くのは王宮の美しい庭、招かれたガゼボでのお茶会、その遠くに立派なお城、そして爽やかな空。ロマファンで特によくあるシチュエーションです。
遠景は、ぼかしたり色々と手心を加えたいので、別々のほうが扱いやすいですよね。
スケッチアップで1枚のJPGとして書き出したほうが早いけれど、加工がやりづらい。別々で書き出せば加工がやりやすくクオリティアップできるけれど、手間と時間もかかる。
「クオリティの追求」と「タイムコスト」、この二つの分水嶺の見極めが大切です。
そこで、ロマファン背景にかれこれ2年以上携わって、私が実際に使ってきた方法を3つご紹介します。
今回は、こちらの素材の左下にあるベンチに座った場合の、お屋敷の処理でご説明します。
ベンチから見ると、お屋敷はこんな感じです。このままだとペラっとした1枚になってしまうので、お屋敷をいい感じにぼかしたりして、距離感の演出をしたいところです。
今回使用させていただく素材です↓
あっ、ご質問には空についての話もありましたが、空はスケッチアップで出力するより、クリスタ上でやったほうが断然良いと思う派なので、空については言及していません。
これに似た、クリスタ公式素材の「青空02」をぺったんとしています(今探したら、もう公開されていませんでした…)。
1.タグ分けして選択範囲をとる
ご質問のマシュマロ内にもあったアイディアです。
こちらの利点は、出力は1枚絵でいいので(影や線画のレイヤーを分ければ、増えてしまいますが)、手早くできる点です。さっそくやってみましょう。
まずは、建物をタグ付けします。
タグのアイコンをクリックして、タグのカラーを確認してみましょう。
こんな感じで、いい感じにカラー分けされています。
たまに、すでにある色と同じ色が振られる場合があるので、注意が必要です。その場合は、タグ名の横にあるカラーアイコンをクリックすると、カスタマイズできます。
では、さっそく出力です。いつものように出力しつつ、タグカラーの出力もしてください。
タグカラーの出力方法はこんな感じです。
スタイルトレイで、デフォルトのスタイル→その中の「Interior Design」を選択。
スタイルトレイの編集タブ、エッジ設定の「エッジ」をノーチェックに。
(これで線画が消え去ります)
影トレイの「明」を0、「暗」を100に。
(これで、影が消え去ります)
タグトレイの「タグの色」を選択。
これで、このようなタグカラーのみが出力されます。
一連の作業を毎回やっていたら大変すぎるので、こちらの記事を参考に、スタイルやシーンを活用するのがおすすめです。
ちなみにWEEXをお持ちの方は、「colorLayer」にチェックを入れて出力するだけでOKです。超ラクチン。
一連の作業を超ラクチンにしてくれるWEEXのご紹介はこちらの記事から。
(マジのマジでおすすめです)
さて、各自の方法で出力して、クリップスタジオに持ってきたのがこちら。
選択範囲用のレイヤーは、分かりやすいように乗算で乗せています。
さっそく、選択範囲をとりましょう。
うん、いい感じに、お屋敷だけ選択してくれています。
じゃあこのまま、お屋敷だけガウスぼかしをかけて、あとはスクリーンレイヤーなどで空気感を出してみます。
意外とお屋敷が近いので、距離感がちょっと不自然ですが、まあ、いいかな。もっと広いお庭で、遠くにあるお城とかだと、これでいい感じに収まるはずです。
アップにするとこんな感じ。手すりや外灯を見ると、お屋敷だけきちんとわかれているのが分かります。でも、境界線がちょっと微妙かな。奥の木々はぼかしをかけていないので、奥の方がクッキリ見えるという矛盾にも困ったところです(奥は手動で選択範囲をとって、ふわーっとぼかすしかないですね)。
これでもいいんだけれど、ちょっと取り回しがしづらいかなというのが、個人的な意見です。
私は、この方法を使う時もありますが、あまりメインでは使わないかなといったところです。1コマだけとか限定的なときに使うかも、くらいです。
なぜなら、タグ分けやレイヤー分け、選択範囲取りなどに意外と手間がかかる割に、得られるクオリティはあまり高くないからです。
やっぱり別々に書き出したほうが良さそうなのでそうしてみましょう!
2.別々に書き出す
さあ、さっそく別々に書き出してみましょう!
もう「建物」というタグは振ってあるので、まずは「建物タグ」をオフに!
建物が消えたぞ!よし!出力!!
次は、建物のみを出力したいので、「建物タグ」をオン!そして、建物以外の目玉を一つずつクリックして、オフオフオフー!あ、デフォルトの「タグなし」をオフにしようとしたら、怒られたよー(泣)
しょうがないから、「現在のタグ」(鉛筆マーク)を、建物のところへ持って行って、「タグなし」を頑張ってオフにするよ。
これで、やっと建物のみになったから出力!!
はい!次のコマ!!さっきオフ祭りしたタグの目玉を、全部オンにするよー!鉛筆マークも移動だよー!ずっとオフにしたいタグは触らないように注意だよー!タグに英語とハングルがいっぱいあって、もうこの作業、心が折れるよーーー!!!
この作業の煩雑さ、けっこうスケッチアップあるあるかなと思います。今回の例ではタグ少なめですが、この3倍くらいタグがあることも多いでしょう。
1クリック = 1タイムコスト + 10メンタルコスト
です。
時間がかかるのももちろんイヤなんですが、それよりも精神に来る感じがイヤッ!イヤすぎる!!
ずっとオフにしておきたいタグもある日には、もう…もうね……禿げちゃう。
ということで、タグの目玉クリック祭りを、もっと簡単にする小技をご紹介。
建物以外を、フォルダにぶっこむ。ただこれだけです。
そうすれば、目玉一つをクリックするだけで、建物だけ、建物以外を切り替えることができます。
これで、建物のみと、建物以外の分離はかなり楽になります。
中景の分離もありかと思います。
このお庭だと、
遠景:奥のお屋敷
中景:お屋敷が立っている高台とその上に乗っているもの
近景:ベンチまわり
という感じで。
あとは、別々に出力したものをクリップスタジオ上でドッキングして加工です。
この方法は、結果的にとても丁寧な仕事となります。仕上がりは一番きれいになるかなと思いますが、少しタイムコストがかかります。
最初のタグ振りがそもそもちょっと面倒です。オブジェクトのグルーピングがこまごました素材だと、「なんでこの謎の線だけ残るのー!!??」となります。
また、1コマに2枚以上の背景ができるので、クリスタ上の処理もちょっと時間がかかることでしょう。
キメゴマ、大ゴマ、キャラなし背景のみコマ、そもそもコマ数が少ない、トリッキーなカメラアングルが多めな場合は、この方法がベストかなと思います。
次にご紹介する方法は、私が一番使う方法です。キメゴマやトリッキーなアングルには対応しづらいですが、タイムコストが少なく応用もしやすいです。通常コマ、このベンチでの会話劇が10コマ以上続く、などの条件下では、ほぼ次の方法でやっています。
3.書き割り背景で押し切る
書き割り背景、という表現が合っているかどうかよく分かりませんが、私が心の中でそう呼んでいる方法です。
イメージとしては、舞台に使われる背景大道具です。
どういうことかと言うと、「2Dで書き出した同じ遠景をどのアングルでも使いまわす」という、字面だけ見るとめちゃくちゃ強引な方法です。
まじかこいつ…3Dの概念はどこいった!?と思われるかもしれませんが、意外といけちゃいます。とりあえずやってみましょう。
まずはお屋敷を選択→コピー→そのまま新規ファイルを立ち上げ→ペーストで、お屋敷だけのデータを作ります。
原点にデフォでいる猫ちゃんたちは、退場してもらいましょう。
これでお屋敷だけのデータができました!
さっそくだいたいのアングルを決定して出力、クリスタ上で2Dとして処理して保存します。死ぬほど使いまわす場合は、素材登録するとさらに効率が上がります。
このとき、アングルには注意です。この場合はお屋敷が高台があるので、ちょっぴりあおり気味のアングルとしています。
遠景が同じ高さにあるようだったら、もう少しフラットなアングルで保存しておきましょう。
また、上下左右が切れないように注意です。少しくらい小さくなってもいいので、画面内にきちっと収めてください。
お庭の方は、建物を非表示で出力です。
一生使わないなら建物は消してしまった方が省エネになりますが、さすがに消してしまうのは過激なので、ちょっと迷うところです。建物のデータが重そうな場合は消してしまって、別名で保存(王宮の庭園建物なし、みたいな)で管理すると良いでしょう。
クリスタ上に持ってきたのがこちら。好きな場所に微調整できるのが嬉しいポイントです。距離感の加工なども、別レイヤーなのでとてもやりやすいです。
アップにするとこんな感じ。後ろの建物だけぼかしがかかっています。
でもこの方法、1つのアングルしか対応できないのでは…?と思うかもしれませんが、意外と大丈夫です!
このベンチでの会話劇を想定してみましょう。お屋敷が映り込みそうなアングルをいくつか想定してみます
これが、1つめのアングル。
2つめ。
3つめ
4つめ。
どれもカメラアングルは異なりますが、建物に使っているものは、全く同じ2D素材です。意外と気にならないものです。
さらにここにキャラが乗り、吹き出しや仕上げのエフェクトが乗れば、読者さんは全く違和感を感じないでしょう。
今回は、このベンチで会話劇があるという想定で、動きが少ないからいけたんじゃないの?と思われるかもしれませんが、この庭園を歩き回る想定でも意外といけます。
建物は、正面、ちょっとななめ、ななめの3パターンくらい用意しておけば、よほどトリッキーなアングルが出てこない限り、ほぼ全部いけちゃいます。
またこの方法は、お城とお庭が別々の素材である、というパターンにも応用できます。
お城は、正面、ちょっとななめ、ななめの3パターン、それぞれちょっとあおり、フラット、ちょっと俯瞰を用意して、2D素材化。これでほぼ全部に対応できます。
一番おすすめの方法です。
お次は、番外編。ごりごりツールを使って時短する方法。
番外編:ツールを使って思考停止状態でやっちゃう
なーんにも考えずに出力しても、不思議といい感じに処理できちゃう方法です。私は、3の書き割り背景もよく使うんですが、一番使っている方法がこれです。
有料の外部ツールを使うので、番外編とさせていただきます。
まず、毎回激推ししているWEEX。ほんと、おすすめだから!!サブスクじゃなくて、買い切りなのも嬉しいポイント。
WEEXってなんやねんな方はこちらの記事を参考にしてください↓
あと、宣伝っぽくなってしまうんですが、私がご紹介しているオートアクションを使います。
この二つの組み合わせで、いい感じにあれこれすると、この画像に対して、こんな感じに選択範囲がとれるレイヤーが自動でついてきます。すごい!
分かりやすく、クイックマスクをかけたのがこちら。
選択範囲をとるあたりが、1の「タグ分けして選択範囲をとる」の方法に近いように思えますが、ちょっと違います。
お屋敷がガッツリ選択範囲がとられているのは、1のアイディアと一緒。
しかしこの方法がすごいのが、お屋敷がある高台(青枠で囲ったあたり)も、ちゃんと「遠景」として選択されています。そして、中景の手すり(緑枠で囲ったあたり)は、薄く選択範囲がとられています。
この、なんかすごい選択範囲をワンタッチでとることができます。ですので、すごく自然に距離感を演出することができます。
実際の作業動画がこちら(等倍再生です)。
あれよあれよと1分くらいの手作業で加工したものがこちら。
通常コマなら、コストとクオリティのバランスが一番取れている、ベストな方法かなと思います。
まとめ
ということで、「遠景を加工しやすいように分離したいがどうしよう」の、私なりのアイディアをご紹介しました。
いくつか方法がありましたが、求めるクオリティラインと、準備にかかるコスト、実際に運用するコストのバランスを見て、一番よさそうなものを選ぶのがベストかと思います。
1.タグ分けして選択範囲をとる
メリットは、少ない枚数で対応できること。
デメリットは、意外とタグカラーの出力は面倒であること(WEEXがあれば簡単ですが)と、クオリティはあまり上がらないこと。クリスタ上での処理は意外と繊細な作業になり、ちょっと面倒です。
少ないコマ、小コマだったらこれでOKかな。
2.別々に書き出す
タグさえきちんと分けてしまえば、そんなに大変でもない。1コマに2枚以上出力するので、ちょっと手間がかかる。クリスタ上での処理がやりやすく、クオリティを上げやすい。
キメゴマなどは、この方法が良さそう。
3.書き割り背景
3Dソフトの使い方を紹介している人のアイディアとは思えない暴挙。だけれど、意外といけちゃう。ソフトなんてものはしょせんツールにすぎないので、とにかくいい感じに仕上がればそれでいいんです。
通常コマ、同じ場所での会話劇が続く場合はおすすめ。
番外編:ツールを使い倒す
ちょっと宣伝くさくなってしまったんですが、レイヤー分離もせず、脳みそ空っぽ状態でいい感じに距離感を取れます。ツールを使いまくることに抵抗がなければ、通常コマはツール使用で鬼時短、キメゴマ大ゴマは2の方法をとるのが、バランスがいいかなと思います。
ということで、3つのアイディア+αをご紹介しました。
自分に合ったスタイルで、やってみてください~!
ご意見、ご感想、ご質問等は、四つ葉のXか、マシュマロまでお気軽にどうぞ。