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親を見送るということ- 私の喉にも違和感が 編 -

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本人の同意を確認し、父は放射線治療を受けることになった。
まずは放射線担当の先生に説明を受け、同意書にサインする。
次に、治療後自宅に戻ってからのことをサポートしてくれるスタッフとの話し合い。
病院では1人の患者に何人ものスタッフが関わるのだと、改めて知った。

放射線治療をしたら、その後また癌が進行していったとしても、もう他に出来ることはない。
いずれは緩和医療ということになる。
緩和医療については、「可能であれば自宅に近い病院を探して欲しい」と希望した。
自宅で訪問看護をしてもらうために、認定調査の依頼もしなくてはならない。
やることは山積みだった。
受け入れ先の介護先も決まり、役所で認定調査の予約も済ませた。

認定調査の2日前の夜、私は喉にひりつくような違和感を感じた。
「あれかもしれない」と、嫌な予感が脳内を駆け巡った。
数年に一度のペースで、私は扁桃炎に襲われる。
しかし、大抵は病院で処方された抗生物質を飲めば数日で治ってしまう。

とにかく、明日は朝一で病院に行こう!
と、その日は早々に床に着いたのだが、違和感から痛みに移行するのは思いの外早かった。

数年前にはかなり悪化させてしまって入院した事がある。
あの時は扁桃腺周囲膿瘍だった。感覚としてはあの時に似ている。

もう翌朝の時点で、唾を飲み込むことも声を出すことも辛い状態だったため、たまたまリモートワークで自宅にいた娘に病院に連れて行ってもらった。
父が受診して大学病院を紹介してくれた病院だ。
ところが、その日はまさかの休診。
一瞬目の前が真っ暗になった。
このコロナ禍真っ只中の状況で、発熱および喉の痛みを訴える患者。
果たして初診の病院で受け入れてもらえるのだろうか・・・?

しかし、娘がいてくれたことが不幸中の幸いだった。
彼女にスマホで近くの耳鼻科を探し出してもらい、すかさず診療予約を入れた。

そこから病院まで20分。どんどん喉は痛くなってくる。
早く抗生物質を・・・

やっと受診出来たのは、病院に着いてから10分後くらいだっただろうか。
医師は私の鼻にカメラを突っ込み、喉の状態を診た。

「扁桃腺が赤いですけど、まあ薬で治るかなぁ・・・」

良かった!薬で治る!
と思った矢先、

「でも一応奥まで見ますね、舌を引っ張りますよ。」

え。

「あぁ、だめですね〜、喉頭蓋が腫れてます。ここが腫れると最悪の場合気管切開しなくちゃならないから、入院が必要です。うちは入院出来ないので紹介状書きますね。どこにしますか?」

やっぱり入院か・・・

父は咽頭癌。娘の私は喉頭蓋炎。
このタイミング、父が自分の辛さをわかって欲しくて私を巻き添えにしたのではないかと思ってしまった。 

私が入院することになって、母は相当ショックを受けたようだった。
私に負担をかけ過ぎたと反省もしているようで、「今は自分の身体のことだけ考えるように」とのことだった。
認定調査には私の弟が代打で同行した。

入院するにあたってPCR検査をした。結果は陰性。
ただ、結果が出る前に4人部屋に入院させて大丈夫なのだろうか?と疑問に思ったが、そうも言っていられない状況なのだろう。

喉を腫らして入院するのは2度目だから、どんな治療をするかはわかっていた。
シャントを作って24時間、痛み止めや抗生物質を点滴し続けるのだ。
喉の痛みは早いうちに治るけれど、次は針を刺されっぱなしという苦痛が炎症が治るまで続く。

薬剤の交換は3時間おきくらいだから、夜中にも交換する。
点滴の時間が気になって、夜中に何度も目を覚ます。

たまに、別室の患者の「助けて〜、助けて〜」という声が微かに聞こえてくる。
そういえば父が入院している病院にも、ずっと誰かを呼んでいる患者がいた。
 
どこにでもいるのだろうか?
他の人たちはこの叫びを、どんな気持ちで聞いているのだろう?

看護師が薬剤の交換に来た。
暗がりの中で起こさないように気を遣っているのだろう、私は寝たふりをした。
チクッとした痛みを感じたが、気づかれないようになんとかこらえた。
こんなご時世の中で働く医療スタッフに、負担をかけてはいけない気がしたからだ。

結局私は5日間入院した。
最後の診察の日、担当医に「私の父は今咽頭癌で入院しているのですが、私は大丈夫でしょうか?」と聞いてみた。
担当医は突然そんなことを言われ、驚いたようだった。
そして同情するように、
「私が診た限り大丈夫だと思います。最後にもう一度CTスキャンで見てみましょう、多分大丈夫だと思いますよ。」
そう言ってくれた。

父の病院でもそうだったし、自分自身も入院して思った。
いつクラスターが起こるかわからない現場で働いている医療スタッフには、つくづく頭が下がる。

こんな時期に親子で病院のお世話になるなんて。
私は神や仏を信じるようなタイプではないが、この時ばかりは
何かを学べ!生き方を改めろ!
そんな天の声が聞こえたような気がした。


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