②ほぼサバイバル旅行記
その日の銭湯は人生で1番気持ち良かった。
「青春の湯」だった。
高校時代に弓道をやっていたというのに所作もへったくれもないモカは「あじぃ、あじぃ」と言っても何にもならないことを繰り返していた。
高校時代テニス部だったひこまるはものの見事に日焼けした。
こんがり焼けた肌は「テニス部」という刺青のようである。
僕は日焼けが苦手だ。元々肌が白いので日焼けすると真っ赤になる。
つまり全身大火傷だった。こればかりいまだに変わらない。アロエ園に住みたい。
すっかり暗くなったのでコンビニで夕飯を買って帰った。
なぜかは忘れたがエロ本も一緒に購入した。
マジでなんでかわからない。
多分ひこまるあたりがはやし立てたんだと思う。
家に帰ってコンビニ飯をもしゃもしゃ食べ、しばらく話して、いよいよ寝るぞと就寝準備に取り掛かった。
問題1つ目。
布団もベッドもなかった。
問題2つ目。
蚊が異常なほどいた。
ふふふ、バカめ。そんなこともあろうかと僕はテントを持ってきていた。
(車にキャンプセットがずっと入っていた。マジでよかった)
家の中にテントを張るという前代未聞の就寝方法で寝ることになった。
家in家である。
ダイワハウスもびっくりの二世帯住宅だ。
テント屋さんでもこんなことしない。テント屋さんってんなんだ。
いかんせんテントは暑い。
ひこまるは「あじぃ、あじぃ」と言っても何にもならないことを繰り返していた。
モカは「枕がない」と言い出した。この状況で贅沢を言い過ぎである。
無人島でティータイムを求めるようなものだ。
「枕がない」
「あじぃ、あじぃ」
虫の声、波の音、テントはサウナ、隣にはステレオに成り代わってしまった友が横たわっている。
本当の地獄は死の先にあるのではない。
茨城県にあった。
結局モカはその日エロ本を枕にして寝た。
最終手段にもほどがある。
あなたは隣で友人がエロ本を枕にして寝ている状況になったことがあるだろうか。
私はある。
おそらく日本で0.1%に満たないだろう。貴重な経験をさせてくれた。ありがとう。
いつか行われるモカの結婚式で、僕は新婦に「こいつはエロ本を枕にして寝たことがある」と暴露してやろうと決めている。
別の旅行の際、モカは山梨の山奥でトランクの中で寝ることになるのだが、その話はまた今度にしよう。