②大変失礼いたしました
バカみたいに重い。
派遣のバイトには設営という現場での雑用仕事がある。
真冬の野外イベントの設営はマジで地獄of地獄だった。
当時バスケ仲間だったTと群馬の上の方にいた。
腕が引きちぎれそうだった。
Tとは放課後よくバスケをしていた。
高校3年生の頃の1番の楽しみは体育の授業でのバスケだった。
授業はほぼ毎回バスケだった。
体育が1番の楽しみなんて健全な高校生だ。
当時、超イケメンでバスケがうまく、オシャレでイケボという神が創りたもう芸術品のKに密かに憧れを寄せていた。
(彼は今アパレルで働いている。知る限り最もインスタがオシャレだ)
体育館のコート半面を女子が使う日は男子の目つきが変わる。
面白いほど全員気張る。
彼女がいるとかいないとかでは無いのだ。
何千年とつないできた遺伝子のノートに書いてある。
論理ではなく、まっすぐな感情が言っている。
心の奥底から、まるで生まれる前からそこにあったような感情が伝えている。
ーモテたい、と。
モテたいとは、彼女がほしいとか子孫を残したいとかの感情では無い。
もっと単純で純粋な感情だ。
ただ、ただ一瞬。
「カッコいいとこ見せたい。」
それだけである。
そこに快楽(エロス)が生まれる。
だから面白いほど失敗する。
みんな横目で女子を気にしながらドタバタやっていた。
男子ズッコケ隊の隊長はもちろん僕だ。
僕がコケなくて誰がコケよう。
ダブルドリブルも歩数オーバーもお手の物である。
歩けば笛が鳴り、投げれば敵に渡り、シュートは届かない。
Mr.トラベリング男はバスケがうまいイケメン達を際立たせるために転んでいるようなものだ。
しかし1回だけ、ほんっっっっとうに超偶然なのだがハーフラインからシュートを決めたことがある。
しかも振り向きながら45°くらいで、めちゃくちゃ綺麗なフォームだった。
今でも忘れない。
マジでこの瞬間のために生きてきたくらいの感覚だった。
Kが褒めてくれたのも超嬉しかった。
話が逸れすぎた。軌道修正どころでは無い。もはや別の惑星の軌道に乗っている。
夢中になっていたバスケを、放課後いつも一緒にやっていたのがTだった。
Tとは下道大阪ドライブというトンデモイベントを共有した思い出がある。
設営バイトが鬼クソ辛かった話の続きだったな。
居酒屋はとにかくとにかくとにかく忙しかった。
店名を「居酒屋人手不足」に変えてやろうかと思うほどに忙しかった。
丼モノとか麺モノは時間かかるから注文しないでほしい。
メニューをビールとチャンジャだけにしたい。
自分で使った食器は自分で洗ってほしい。
ゴミは持ち帰ってほしい。
そのくらい忙しかった。
ピークがあるならいいのだが、金曜はずっとピークだ。
6時間ずっとピークだ。
山頂が遥か彼方まで続く山だ。
生きることの意味を問い始めるあたりで高校生バイトが「まかないお願いしま〜す」とか言ってくる。
チャンジャでも食って帰ってくれ。
ホールにはホールの事情があり、
キッチンにはキッチンの事情があるのだ。
キッチン:あったかいうちに持って行ってくれ!
ホール:これでも最高時速なのわかんねえのか。目ついてんのか自分で運べ。もしくは100℃で作れ。
ホール:4番さんの料理まだですか!
キッチン:これでも最高時速なのわかんねえのか。目ついてんのか自分で作れ。もしくは帰ってもらえ。
キッチン:オーダーミスだけはやめてくれもう半分できてんだ。
ホール:料理ミスだけはやめてくれ客が閻魔大王に見えてきた。
忙しくて機嫌が悪い時はお互いこんな感情である。
ガシャーン!!!!と音がしたら
「失礼しました〜〜〜!!」と言ってから様子を見に行く。
忙しすぎるが故にこんな感じだ。
だからあなたも、居酒屋で料理が遅くても怒らないでほしい。
チャンジャとかキャベツとかは早く来るからそれ食べて待っていてくれ。
どうしてもサービスが許せないなら、それなりの値段のお店に行ってくれ。