蒼蒼のカタストロフ
蒼蒼のカタストロフ
Ⅰ 第六葬船
海の色が黯變する翌日 の午
沙より多い死魚の群が 汀に跳ね
吐きだされる七色の可 塑物が彩る巣に
つめたい卵を抱く海鳥 の
閉ざす瞬膜に銀鱗の波 濤が雪崩こみ
引き波のあとの
乾涸びて涯のない沙浜 に
親鳥をなぞり散乱する 濡羽だけが
汐風にあらがい
天蓋を貫く星より多い 嘴が
沈まない陽に焼かれ
力尽きたものから落下 し
沙丘に突きさす墓標の 朽ちる尖端に
透明な骨格標本が交わ りあげる
蒼い喘ぎ
みじかく濃い沈黙の影 が
一片一片うすく剥がれ 墜ちていく
眼にはみえない緩慢な 死
私から始まる
時おり痙攣する蜜蜂の 羽ばたきに
視線がゆれる星草の
萎れ吊られる舷窓に反 射する
南の地平に俯く満月は
こまかな石英に砕け私 の掌を滑り
転變する風紋のくぼみ に乗りあげる
方形の廢船が運ぶ大量 死
船倉に隙間なく積まれ る化石
隅にころがる異様な牛 と犬の剥製を
腰巻布一枚の瘠せた児 どもたちが
列をつくり頭にのせ點 點と
浮きしずむ紅蓮の沙漠 の曖昧な彼方へ去り
かろやかな狂氣の旋風 が舞う
この系を私はいま無慚 に斷ちつつある
Ⅱ 集団墓地
極 夜を告げる鐘がなり
息苦しい風景の内で
地を穿つ噪音に力な く消されていく濤音
くの字に曲げら れる腕が掬う沙流に
こぼれ落ちる骨片は
口を塞が れ禁じられた言葉が
網目模様に 硬直する鼻音の晶石
爪をつきたて齒で 刳りぬくトレンチの
計りしれない深奥に
忘却の土壙に
先に抛りいれられ たものの嗟きが澱み
はじまりのない鐵路を 走る貨車に揉みあう
壞れる蝋人形 黑く包まれるこけし
後ろ手に縛られるデ ッサンドールたちを
足もとに突然開く
貪欲 な裂け目が呑みこみ
急 上昇し狭まる天穹の
星座すべてを織り こむ屍衣が捩れおち
死者の聲がにじむ
身 動きできない暗所に
疵口が露わな 人形を埋め壓し壞し
土砂をか ぶせまた掘りかえす
殘忍なバケット
私の指のか かる殘忍なバケット
はやく指をはずせ
穴を掘るな
人形を壞すな
夜空を刻む船笛 乱打される尖塔の鐘
荒地のトレンチを迂曲 する紅殻色の運河を
喫水線を越える荷 を負う葬船がすすみ
私の指のはずれない
バケッ トの地響きはやまず
極夜を掘りかえす
Ⅰ【22O04AN】
Ⅱ【22O03AN】
*画像は「Dream by WOMBO」にて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。