東北一周自転車旅(12)宮城県気仙沼市〜岩手県奥州市
東北一周自転車旅
第12ステージ
宮城県気仙沼市〜岩手県奥州市(63km)
6時半に起床し、ホテルから徒歩10分の「鶴亀食堂」へ行った。昨夜のアドバイスを受けて、7時のオープンと同時に入店。すでに2組が並んでいた。
ここは早朝から新鮮な魚の定食が食べられる店として人気のよう。定番メニューのほかに、「松竹梅」の日替わりメニューがあり、ぼくは1500円の「竹」を注文。今日はサンマの塩焼きとカキフライの定食だという。さらに、500円でカツオの刺身を頼んだ。朝から2000円の豪華な朝食だったけど、気仙沼ではカツオとサンマをどうしても食べたかったから、満足だ。どちらもおいしかった。牡蠣も大きい。
宿に戻る道で、2つの民宿に電話をかけたが、どちらも満室だった。困ったな。今夜の宿が決まらないと、落ち着かない。今日は気仙沼から峠を越えて一関方面に出る予定だったけど、付近の手頃なビジネスホテルは結構埋まっていて、どこに泊まろうかなあと前夜から悩んでいた。宿に戻ってから改めて探すと、奥州市水沢の「プラザイン」というビジネスホテルがちょっとお得に泊まれることがわかったので、そこをすぐに予約した。水沢までとなると一関よりも遠くなるけど、もう頑張って行くしかない。でも宿が取れてまずはひと安心。
その後、朝風呂に入る。前夜サウナが閉まっていたから、朝は開いているだろうとを期待していたのだけど、なんとやっていない。清掃のおじさんに聞くと、「え、聞いてませんか? 23時以降は電源落としちゃうんですよ」と言われてしまう。え〜、そんなのチェックインのときには聞いてなかったですよ。。。
実は昨夜は遅くに着いたから部屋のシャワーだけ浴びて夕食に出て、お風呂には23時過ぎには言ったのだった。それでサウナがやっていなかったというわけか。
気仙沼港を望む露天風呂は気持ち良かったけど、サウナに入れなかったのは残念だ。ちょっと不機嫌になりかけた。
けど、「ここが大事なところだ」と自分に言い聞かせた。そしてすぐにTwitterで「今日もご機嫌にいきましょう〜」とつぶやいた。
不機嫌でいても、良いことは起こらない。こういうときこそ自分で機嫌を取ることが大切だし、「上機嫌でいよう」と決意することが大事だ。そう心がけていれば、きっと運も取り戻せると思っている。不機嫌でいると人に文句を言いやすくなってしまったりと、負のループに入りやすい。そうすると起こる幸運もなくなってしまうから、気をつけていきたい。自分の機嫌は自分で取る。サウナのことは忘れ、今日もワクワク楽しもうと決意する。
9時過ぎにチェックアウトして外に出ると、宿の方が大漁旗を振って「いってらっしゃい」と言ってくれた。その写真を撮っていると、「良かったら持ちます?」と手渡してくれた。気仙沼らしい思い出ができた。
まだ昨日の日記が書けていなかったので、昨夜テイクアウトした「アンカーコーヒー」を訪れた。おしゃれで、作業のしやすいカフェだった。何よりドリップコーヒーがおいしい。結局11時半頃まで作業していたけど、集中できて心地良かった。
気仙沼を出発し、国道284号線で一関方面へ向かう。しばらくすると岩手県に突入し、長い山道が始まった。大変だったけど何とか大きな峠を越えて、「道の駅 むろね」に立ち寄る。気仙沼の和菓子屋「いさみや」の「蜜入りゆべし」と「大島まんじゅう」を買い、糖分補給。
そこからは一気に下り道。でも昔のようにスピードを出し過ぎないよう注意する。ときどき道路にくぼみもあって油断すると危ないから。
まだ猊鼻渓までは25kmあったけど、15時からの舟下りに参加したいから必死に走った。舟は1時間に1本。90分間のツアーだから、15時の便を逃すと日が暮れてしまう。
ショートカットするために選んだ途中の田舎道が本当に最高で、「こういう景色を求めていたんだ」というような美しい道だった。車通りも少なく景色を堪能できた。
そして無事、14時ちょっと過ぎに猊鼻渓のすぐ近くに着いたから、気になっていたイタリアンのお店「トラットリアマンマ」で急いでパスタを注文した。シーフードが入った「マンマ風スパゲティ」、大盛りにしたらお皿の大きさにビックリしたけど、メチャクチャおいしかった。こういう小さな田舎町でこんなお店に出会えると嬉しい。
14時50分に店を出て、急いで猊鼻渓でチケットを購入。15時からの舟下りに間に合った。
猊鼻渓は、北上川支流の砂鉄川沿いに、高さ50メートルを超える石灰岩の岸壁が、およそ2kmにわたって続く渓谷。日本百景のひとつに数えられている。その美しい景色を舟下りで楽しむのがここの名物になっている。
こういう舟下り、一度やってみたかったから嬉しい。といっても、激流下りのようなものではなく、ものすごく流れが静かで、川底も深くないから、どう転んでも危ないことが起こらなそうな安全な川だった。水が綺麗で、覗くと魚も見えた。子どもたちが餌をあげると、魚だけでなく鴨もやってきた。
美しい景色を眺めながら30分ほどゆっくりと進んでいった先で船が止まり、しばらくの散策タイムになった。道に沿って奥まで歩いて行くと、巨大な岩壁があり、その近くでは「運玉投げ」というここの名物の遊びがあった。それは対岸の壁に空いている小さな穴(願掛けの穴)に石を投げ入れることができたら、「幸運になるかも?」というものだった。
投げるための石は、3つで100円。なかなか難しそうだったけど、眺めていると何人かが見事に入れていた。ぼくも恥ずかしがらずに記念にやれば良かったな。でもこういうときひとりだとちょっとやりづらい。3投とも外れても、誰かといれば笑い合えるが、ひとりでニヤニヤしている姿はちょっと気持ち悪い。かといってお通夜みたいに神妙な表情をするのも場の空気が悪くなりそう。運良く穴に入っても喜びを表現しづらい。なんとも微妙になりそうだから、見学者に回ってしまったのである。誰もいなかったら確実に石を投げていただろう。みたいなひとり客は結構いるはずだ。と思ったけどそもそもあの舟に乗っていたひとり客はぼくだけだったな。
帰りの舟で、船頭さんは「大谷翔平と菊池雄星もここで運玉投げをやったけど、二人とも全然入らなくて、『難しいですね〜』と言ってましたよ」と話していた。実話なのか作り話なのかわからないけど、二人とも岩手の人だし、本当かもしれないな。
無事戻ってきて、時刻は16時30分。まだ水沢の街までは、23kmある。しかも峠道だ。日が暮れるから急がなくちゃいけない。
その峠越えもまた、なかなかキツかったけれども、何とか最後の山を下ってくると、一気に視界が開けた。西を奥羽山脈、東を北上高地に挟まれた南北90kmの北上盆地である。その空の広いこと、広いこと。ちょうど夕暮れのいちばん綺麗な時間帯で、冬のように空が澄んでいた。
ただ、18時頃になると真っ暗になって、田んぼ道では虫が多く大変だった。暗くなると活発になるのか、飛んでいる小さな虫がバンバン顔に当たる。見えないから避けることもできない。それがちょっと嫌だった。なるべく暗くなる前に着かなきゃな。
18時半、無事に水沢の「プラザイン」に到着。ロビーは大谷翔平選手のパネルやら新聞やらが賑やかに展示されていた。この奥州市は、大谷選手の出身地。今や国民的英雄だから、この街の人にとっては誇りだろう。
シャワーを浴びて、外に出る。ホテル内にコインランドリーがなかったから、街のコインランドリーに行ってきた。新しめのお店では、「洗濯から乾燥まで一気にやりますよ」という便利な機械が導入されているけど、店にもよるが700〜800円と結構高い。昔ながらのコインランドリーでは洗濯機が300円くらい。そして乾燥機が20分で200円くらいだから、500円あれば済むことが多い。まあいちいち取り出す手間が省ける分、楽か。
洗濯している間に夕食に出かけた。Google マップで見つけた「宝来軒」という街中華に行くことにした。年配のご夫妻がやっている昔ながらのお店だ。
麻婆丼を頼んでしばらく待っていると、女将さんが「はい、五目ラーメンです」と見事に間違えて机に置いた。せめて麻婆ラーメンか五目あんかけ丼であってほしかったが、何ひとつ惜しくない。「おいおい、大丈夫か」と一瞬思ったけれども、単純に別のお客さんのを間違えて持ってきただけでまだ良かった。
やがて無事に(?)麻婆丼を食べていると、突然女将さんが半分だけ入ったコーラの瓶をくれた。
「私コップ一杯だけ飲みたいから残りあげる」
「???」
他のお客さんたちは既に帰っており、ぼくが閉店前の最後の客だった。
「え、ありがとうございます」
「お兄さんは水沢の人?」
「いえ、東京からです。自転車で来ました」
「あ! 昼間来た人!?」
「いえ、来てないです(笑)」
「えー? 昼間も自転車で東京から来た人だったよ。『ひとりで寂しくないの?』って聞いたら『いや、ひとりのがいいんです』って。私ならお金もらってもやりたくないね」
ぼくも「運玉投げ」みたいな機会を除けば、ひとりの方がいい。
周辺の観光の話になり、「奥州市は何かありますか?」と聞くと、
「ここは、大谷翔平の出身地だよ」
「ですよね。さっきホテルでも大きなパネルが展示されていました。この辺りなんですか?」
「この裏の常盤幼稚園に通ってたんだよ」
「え?この裏?」
「ちょっと来てみな」
と言って、ぼくは麻婆丼をまだ食べている途中だったけど店の外に出て、常盤幼稚園の看板と建物を見せてくれた。
「ここに通ってたんだ。すごいですね」
「そうだよ〜。だからうちの店の前を毎日歩いてたんだ。でもそのときはこんなすごい人になるなんてわからないじゃないか」
店に戻ってからも、出身の小学校や中学校を教えてくれた。いかに大谷選手がこの街の誇りになっているか、今夜の出来事だけでも窺い知れた。そしてほとんど初めて接した岩手の方が、意外とこうしてオープンにいろんなことを話してくれたのも嬉しかった。たまたまこの女将さんがそうだったのか、岩手にはこういう方が多いのか、まだわからないけれど。方言はなかなか聞き取りづらかった。でもこれも旅情のひとつ。
ホテルの近くにスタバがあったので、そこでドリップコーヒーを飲みながら23時の閉店まで作業していた。花巻のホテルを予約して、明日の過ごし方を考えていた。
それから、この先のことも。今の最大の懸念点は、思っていた以上に往路で日数がかかってしまっているため、いちばん行きたいと思っていた下北半島の恐山へ行けないかも、ということだ。青森市でレンタカーを借りて1泊2日で訪ねようと思っていたけど、青森になかなか着かない。このままだとあと一週間かかるだろう。仮に恐山へ行けても、復路の行程が日程的に圧迫されるため、青森から日本海側から帰ってくるときに満足に楽しめなくなるかもしれない。
一度に欲張らなくてもいいから、今回は下北半島は諦めて、「東北一周」という目的により時間を割くのはアリだろう。恐山の宿坊は、1週間前までに予約を取らなくちゃいけない決まりになっていて、それを考えると今日か明日で予約しないとそもそも泊まれない。自転車旅だと、天候のこともあるし確実に行けるかどうか、ちょっと不安もある。今は走るのと日記を書くので精一杯だから、あまり余計なことを考えたくない、というのもある。
一方で、日本三大霊場のひとつとして独特の雰囲気を持つ恐山に行けたら、おそらく「死」について何かしら考えることになると思うんだけども、この旅も震災の傷跡の残る町々を巡ってきたから、そういう意味ではなんかこの東北の自転車旅の裏テーマがもしかしたら「死」なのではないか、とも感じ始めてきている。
行きたいけど、わからないね。旅って優先順位だなと思う。いろんな選択肢があるなかで、自分が何を選ぶか。そこに個性が出るし、頭の使いどころ。もうちょっと走りがら考える。どちらの選択を取るにしても、良い旅にしていきたい。少なくとも事故らないように。まだ死にたくはないからね。
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