ツーリング日和5(第4話)佐多岬から桜島
フェリーを宮崎フェリーにするか、さんふらわあにするかを悩んでいたのは、到着地が宮崎か鹿児島の差もあったのよね。宮崎から霧島を抜けて鹿児島に入るコースも魅力的だったのだけど、志布志から鹿児島を走るコースを選んだぐらいかな。
ここは日数の短縮の意味もあるし、宮崎となるとコトリの歴女の血が騒ぎすぎるのもあるのよね。今回のメインはあくまでも鹿児島だから、宮崎をバッサリ切り落とす意味もあって、さんふらわあにしたぐらいで良いと思う。
朝は展望浴場に行っても良かったけど部屋のシャワーで済ませて朝食バイキングに。これも値段だけあって充実してるな。今日のツーリングのために、何回もお代わりしながらタップリ詰め込んでたら、
「おはようございます」
カケルも朝御飯だ。わたしたちはデラックスだったけど、カケルはツーリスト。昔で言うなら二等の雑魚寝部屋。それでも昔より良くなっていて、寝る時には左右のカーテンがあるから、最低限のプライベートは確保できるとなってた。ユーチューブで見ただけどけどね。
「デラックスの半額やからな」
一万五千円ぐらいの差だけど、これを重く見るか軽く見るかは人によって違うものね。フリーターのカケルは重く見るだろうな。朝食をすませたら、デッキに出たんだけど、
「あれが都井岬や」
野生馬が自生してるところね。その都井岬を回って入るのが志布志湾。到着は八時五十五分だけど、バイクが下船できるのは三十分後ぐらいが目安になるみたい。館内放送で案内があったからバイク置き場まで下りて、
「カケルは350CCなんか」
アメリカンじゃなくてヨーロピアン、そうだね昔のイギリス風のテイスト満載のバイク。空冷単気筒なのが潔いかな。
「可愛いバイクですね」
ものは言いようだけど、カケルのバイクをミニチュアみしたみたいなのがわたしたちのバイク。
「見たらわかると思うけど、小型だから下道ツーリングなのは我慢してね」
荷物を詰め込んで待ってたら下船。ここが志布志フェリーターミナルか。もう九時半になるけど、
「まずは佐多岬に行くで」
佐多岬は大隅半島の先端で、本土の最南端になるところなの。人ってね、そういう端っこを見るのを好きなのよね。もちろんわたしもそう。まずは国道四四八号を南下して、途中から県道五二〇号に入って大隅半島の西側、錦江湾の方を目指す感じだね。
鹿屋で県道五六二号に入って、ひたすら西に、西に。半島と言ってもけっこうあるじゃない。当たり前か。南大隅町って書いてあるけど、
「ユッキー、根占や」
そっか。やっぱり昔からの地名は残すべきよ。今じゃ、やたらと南や北や、挙句の果てに中央とか味も素っ気もないのが多すぎる。
「ひらがなもな」
ボヤいても仕方ないけどね。根占市内を抜けたら海岸だ。砂浜になってるから海水浴場にもなってるみたい。
「もうちょっと先に道の駅根占があるから休憩や」
朝にしっかり飲み食いした分のトイレ休憩も必要だものね。ここから佐多岬まで三十キロぐらいか。この辺からは基本はシーサイド・ロード、信号も少ないからまさに快走。ツーリングに来たからには、こういう道を走りたいよ。神戸に住んでると市街を抜けるだけでウンザリだからね。
「ここや、ここや、右に曲がるで」
なになに本土最南端佐多岬ってアーチがあるじゃない。ここから八キロだからいよいよね。この道も適当にワインディングがあってイイ感じ。展望所もあるけど、目指すは本土最南端。
「ここに停めるで」
ちゃんとバイク用の駐輪場もあるのが嬉しいし、観光案内所もあるじゃない。それにあれってガジュマルだよ。でもここが本土最南端じゃない。まだそれすら見えていない。
「こっちから見えるで」
ホントだ。いやいや、ここまで来て、これで満足なんてあり得ない。そこのトンネルを抜けたらもっと近付けるはず。
「歩きや」
そうこなくっちゃ。トンネルを抜けたら遊歩道になってるけど、さすがは南国、ブーゲンビリアに蘇鉄にガジュマル。神戸じゃ見れないものよ。
「まずは御崎神社の参拝や」
この神社可愛い。白い壁に赤い屋根。御利益はなんと縁結び。このツーリングで恋をゲットするぞ。
「コトリ、佐多岬と言えば有名な廃墟スポットがあったよね」
「いつの時代の話をしてるねん。佐多岬レストランやったら、とっくの昔に解体されとるわ」
そんなことを話しながら遊歩道を歩いていると見えて来たのが立派な展望台。中も綺麗だし、屋上に上がるとまさに絶景。歩きになっちゃうから、さっきの駐車場から帰ってしまう人も多いみたいだけど、ここに来なくちゃ佐多岬に来た意味がないじゃない。
「たった1キロぐらいやけど、登り下りがあるからな」
そこから見えるのが佐多岬灯台。あれこそ本土最南端。
「あそこは行かれへん。あれは島の上に作ってあるからな」
そうなんだ、ちょっと残念。でもここから見える景色がまさに本土最南端だ。
「夕日も見事らしいけど、さすがに時間があらへん」
そうだよね。絶景を堪能して駐車場に引き返したらコトリが観光案内所に。お土産でも買うのかと思ったっら、
「ここで本土最南端到達証明書がもらえるんや」
ちなみに北が宗谷岬、東が納沙布岬、西が長崎の神崎鼻だって。神崎鼻は行けそうだけど、宗谷岬と納沙布岬はこのバイクじゃ無理だよね。
「佐多岬は本土最南端やけど、本州最南端は潮岬やから行けるで」
本土は九州まで含むけど、本州なら潮岬か。でもまあ、日本の最南端は本当は沖縄になるのだろうけど、
「ユッキー、ボケとるで。日本の最南端は沖ノ鳥島や。あんなとこ行けるもんやないけどな」
そうだった。それはそうと、そろそろお昼なのだけど、
「桜島目指すで」
途中で食べるってことね。そうい言えばホテルがあったからそこでランチとか、
「つまらんやん」
そうだけどお昼過ぎてるよ。佐多町に入ったところで、
「ここは直進するで」
すぐに突き当たって漁港だけど、漁港の食堂とか。
「鹿児島いうたらラーメンやろ」
なかなか年季の入った店だけど、こういう店が美味しいのよね。店内はテーブルが五つに、小上がりの座敷が三つか。テーブルに案内してくれて、メニューは壁に貼ってあるやつね。みそラーメンも魅力だけど、初めて来る店なら。
「ラーメン三つ」
「やきめしも」
二つ合わせて千円とはお得かも。十分もしないうちにまず焼き飯が出てきたけど、
「美味しいじゃない」
「色が濃い目やけど、思ったよりアッサリしとるわ」
すぐにラーメンも出て来たけど、醤油ラーメンなんだよ。トッピングはチャーシューともやしと、
「ゆで卵が付いとるのは嬉しいな」
ベースはもちろん豚骨だけど、これはなかなか行ける。当たりだよこのラーメン。お腹も満たされたから桜島だ。一時間ぐらい走って道の駅たるみずはまびら。平仮名ばっかりで読みにくいところだな。
道の駅から北上していくと桜島が見えて来る。今日の桜島は大人しそう。噴煙を上げてる桜島も見たいけど、そうなると火山灰でエライ目に遭うから、これぐらいがツーリングにベストだよ。
「コトリ、南側から桜島を見るのは初めてね」
「西側からもそうやし、桜島に行くのも初めてや」
そうなのよね。たまたまかもしれないけど、鹿児島視察は超が付くぐらい愛想がないパターンばっかりで、鹿児島空港から高速で鹿児島市内にズドン。そこで説明会やら歓迎会があって、
「そうやねんよな。泊まった事ものうて、鹿児島空港にトンボ返りや」
この辺は鹿児島にグループ企業が少ないのも一因になってる。少ないと言うか鹿児島市内しかないのよね。仕事で行ってるから視察しないといけないし、下手に数が少ないから全部見てまわる羽目になる。どこかを省略すると後がウルサイのもあるんだよね。
だから桜島も鹿児島から見てただけ。鹿児島から桜島なんて目の前にあるのに信じられる。桜島は元々は錦江湾に浮かぶ島だったのだけど、大噴火の時に大隅半島と陸続きになっていて、バイクで走るとなんとなく島に上陸したって感じかな。
時計回りでも、反時計回りでも走れるけど、いわゆる観光名所は島の南側に多くなってる。だから時計回りに走る予定だけど、まずは黒神埋没鳥居を見るために寄り道。今でもそうだけど、こんな火山の麓に住んでるのよね。黒神埋没鳥居から引き返して、時計回りに桜島の南側に。右手に桜島、左手に錦江湾の贅沢なツーリングだよ。
「ここで停めるで」
有村溶岩展望所と書いてあるけど、遊歩道になっているのか。これは自然の驚異だよ。同じような溶岩流の跡は他にもあるけど、今でも桜島は活発に活動して、何十年かに一度の大爆発で新たな溶岩流を作るんだもの。
「鹿児島市に近いのも凄いよな」
有村溶岩展望所から西へ、西へ。この辺が桜島の中心地になるのだろうか。中学校や小学校も見えるものね。良く住んでいると思うよ。
「桜島の中心はやっぱり鹿児島の向かいの辺やろ」
今日は走るからわかるはず。うん、あれかな、
「右に曲がるで」
湯の平展望所まで七キロか。つうかさ、道路案内って曲がる前に出すものでしょう。あれじゃ通り過ぎる人が出ちゃうじゃない。そんなことはともかく、湯の平展望所は桜島で一番高いところにあるのだけど、さすがに登るね。でもこういうワインディングを楽しむのもツーリングの楽しみだし、バイクの醍醐味。あははは、コトリも乗ってるよ。
この道イイよ。ちゃんと二車線あるし、登れば登るほど景色が広がるじゃない。こりゃ、楽しい道だ。展望台はあれかな、一般駐車場があるけどまだ行けそうね。ドンドン走って行ったら、着いた。これもまた火山が真ん前に見えて絶景だ。ここで標高三七三メートルなのか。
ここから引き返すのかと思ったら、北側に下りるのか。その方が知らない道を走れるから楽しいかも。こっちの道も快適だ。海岸線まで下りて来たから、次はフェリーだ。フェリー乗り場はこっちだけど、料金所みたいなところで料金を払うみたい。
料金は大人が百円で、原付が二百七十円。クルマが二千円ぐらいみたいだから妥当ね。こういう料金って妙に気になるところがあって、クルマに較べて割高って感じちゃうことが多いのよね。
料金所から走って行って、へぇ、そのまま乗り込んじゃうのか。ちょうど出航時刻みたいでラッキー。さっそくデッキに上がって記念撮影。桜島でもたくさん撮ったけど、フェリーからのもグッド・ショットでしょ。