マーケティング戦略構築手法:Who
概要
Whoでは市場構造を理解した上で「どこに経営資源を投下するか」を整理する。
ここでは下記のフレームワークを使う。
・なぜ?
・購入時の心理と行動
・USP
・質的データ
・市場調査ステップ
・5c
・ファイブフォース
・N1分析
・製品パフォーマンスの分類
・コアターゲット
※「それはWhat or Howでは?」と思われた場合、それは読者なりにカテゴライズして頂いて構わない。戦略構築フローのゴールは戦略を作り上げることであり、要素のカテゴライズをゴールに対して重きにおいていない。
なぜ?
そもそも「なぜ〇〇を買うのか?」を考える。なぜ?を問う目的は、顧客が「本当は何を求めているのか」を定めるためである。
またこの時、なぜ?を一度ではなく答えが明確になるまで自問自答する。
さらに、その答えに対して「他のモノ/サービスでも解決できるのでは?」と代替案を調べておく。
━━━
例:ハウスメーカー
Q:なぜ、家を買うのか?
A:今の家が狭いから etc
Q:なぜ、狭いから家を買うのか?
A:子供が窮屈そう etc
Q:なぜ、子供が窮屈そうなのか?
A:家が狭いから
Q:家を買わないと狭さは解決できないのか?引越しではダメなのか?(代替案)
A:ダメ。なぜなら好みなオリジナルの家にできないから。
━━━
上記の例では、顧客が欲しいのは家ではなく「オリジナルの空間」であることがわかる。
思考1回目ではこれくらい簡単な答えでいいと考える。
本フレームワークでは2回目の思考を反証にて行うため、さらに本質的な顧客の欲求に近づけるように設計してある。
思考1回目ではざっくりとなぜ?を整理しておく。
購入時の心理と行動
購入時における心理と行動を整理する。
後に「反証」を行うため、ここで心理を厳密に決める必要はない。
━ 購入時の心理と行動 ━
【例:注文住宅の顧客】
購入時の心理:不快、不自由(今の家がせまい、自分の空間がほしい、顕示欲を満たしたい etc)
購入時の行動:ハウスメーカーの店舗へ行く
━━━
ポイントは、顧客の心理が「不快、不自由」であること。
顧客は「不快、不自由」の解消が目的であり、注文住宅の購入が目的ではない。
ここで「顧客の心理は家が欲しい」と営業が勘違いする。そうすると、提案内容が家に関する最新設備や価格の提案になってしまう。
顧客の「不快、不自由」がなぜ起こっているのか、なぜそのような感情なのかを聞き出しておく必要がある。
ただし、必ず顧客が全てを話すとは限らない。そのため、マーケターとしては感情の真理を予測する必要がある。
例えば、来店顧客が「内装はこういうデザインにしたい」と言う背景には「友人が来た時にセンスが良いと思われたい」と、見栄や承認欲求が裏側にあるかもしれない。
その場合、営業資料には訪問した友人が驚いているような画像を使うのがいいかもしれない。
最終的には認知前後、検討前後、購入前、購入後など、カスタマージャーニー全体における心理と行動を書き出す。
詳しくは「How」にて解説している。
USP
Unique Selling Proposition の略称。
直訳すると「独自の販売提案」、つまりは独自性である。
USPは簡単な加算の式で表すことができる。
━ USP ━
USP=自社の強み + 顧客のWant - 競合の強み
※下記は参考図:引用元 https://neilpatel.com/blog/the-entrepreneurs-guide-to-google-adwords/
━━━
本フレームワークの便利なところは、は自社のUSPを知れると同時に、他社のUSPを知れること。
他社のUSP、つまりは自社が取れていないターゲットを把握することで、そのターゲットを奪うのか、共有するのか、諦めるのかを判断できる。
さらに細かいターゲット把握は、後述するN1分析で可能。
質的データ
インタビュー等の定性的なデータ。Twitterでエゴサすることで取得することも可能。
ポイントは「なぜ質的データが重要なのか?」を把握していること。
本質的な理解は質的データからしか取れない。
会社の生存には正しい現状・近未来の判断と正しい中長期の判断が必要。
量的調査は、現状の商品の改善やカテゴリーの延長線上の新商品に関する意思決定には非常に役立ちます。
しかし、中長期の未来は量的調査からは必ずしも出てきません。
なぜでしょうか?
それは、プレファレンスが感情的判断であり、人々の現状においては同じような状況におり
量的調査は現状と近未来の全体の指標でしかない。
(引用元:確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力)
つまるところ、未来は質的データからしか描けない。
したがって、質的データがなければ未来を今より良くなることは難しい。
市場調査ステップ
市場調査は下記のステップで行う。
━ 市場調査ステップ ━
前提:消費者の本質的なニーズは「豊かな生活」。豊さの満たし方が時代によって変わる。
1.「自社カテゴリーと上位商品群」の本質を質的調査を基に見極める
2.「自社カテゴリーと上位商品群」の法則性を見出す
3.競合との相対的な差を把握する
4.現行の戦略を見直し、具体的な複数のシナリオを作成
━━━
前提となる「豊かな生活」は、物理的かつ心理的なもの。
例えば、昭和ならマイホームや大企業勤務が豊かさだったかもしれない。
しかし、本稿執筆時の2021年ではインスタでいいねをもらえること、残業せずに早く帰ってNetflixやYouTubeを見れることが豊かさかもしれない。
調査ステップの1~3は本稿の5cやN1分析でも可能だが「What」の戦略キャンバス「How」の50Q Scamperのフレームワークで見出すこともできる。
またB2B事業において予算が潤沢な場合、SPEEDAやStatistaの購入を推奨する。
市場調査に必要な情報を包括的に獲得できる。
5c
3cが有名だが、5cを使う方が良いと考える。
理由としては、2021年において各国の政府が環境アセスメントに注力しているためだ。
故に今後は戦略に地域環境を考慮に入れた方が、政府の方向性と合い、相乗効果が望める。
━ 5c ━
「自社の理解、消費者の理解、流通等の中間顧客の理解、競合他社の理解、地域社会の理解」、これら5つの概況を把握する。
━━━
自社や競合を把握する時はSWOT分析を活用すると便利だ。
地域社会の理解は常日頃の情報取得が鍵になる。特に、欧州政府の動きには注目すべきだ。
また「流通等の中間顧客の理解」への理解は曖昧にしがちだが、ここに注目して急成長しているのが中国ECのPinduoduoだ。(解説記事)
データを活用し、流通における管理と物流コストを下げ、結果的に破格の安さで販促している。
筆者の場合、現在の5c分析だけでなく、過去の5c分析も行う。
現在と過去の5c概況を比較することで、環境がどのように変化したのか?プレイヤーは変わってきているのか?など、市場概況をマクロかつ時系列でみることで今後のトレンドを推測している。
ファイブフォース
ファイブフォースでは業界がどのように機能し、どのようにして価値を創造、共有しているかわかる。
また、これら五つの要因が業界の収益性を決定する。
マイケル・ポーターの研究により、業界構造と収益性の因果関係で下記のことが判明している。
1.業界は表面的には異なるように見えても、一皮むけばどの業界にも同じ力が作用している
2.業界の収益性を決定するのは、その構造である
3.業界構造は驚くほど硬直的である
━ ファイブフォース ━
買い手:強力な買い手は値下げ圧力をかけたり、製品・サービスの向上を求めたりすることで価値の取り分を増やす。
下記の場合、買い手の価格感度が上がる。
1.差別化されていない
2.買い手のほかのコストや予算と比較して、相対的に高価である
3.買い手の製品・サービスの質に影響を及ぼさない
サプライヤー:強力なサプライヤーは、他社より高い価格を請求したり、有利な条件を要求することで、業界の収益性を引き下げる。
下記の場合、サプライヤーの力は大きくなる。
1.サプライヤーが大規模で集中している場合
2.代わりのサプライヤーが(少なくとも短期的に)いない場合
3.スイッチングコストがサプライヤーに有利に働く場合
4.差別化がサプライヤーに有利にはたらく場合
5.サプライヤーが製造機能を垂直統合し、業界の製品を内製する可能性が実際にある場合
代替品:代替品、つまり業界の製品と同じ基本的ニーズを異なる方法で満たす製品・サービスは業界の収益性に上限をつくる。
代替品は、予想することが難しい。
ただわかっていることは、スイッチングコストが代替において重要であること。
代替品が普及するには、買い手が代替品に乗り換えるスイッチングコストが低い時である。
例えば1990年頃、パソコンの値段は約30万円ほどだった。しかし現在では数万円で購入することができる。
新規参入者:新規参入者の脅威は、二つの方法で業界の収益性を低下させる。
1,価格に上限をつくる。価格を引き上げれば、新規参入の魅力がます。
2.既存企業は顧客をつなぎとめるために、投資を増やす必要に迫られる。
新規参入者は脅威か?またどのようにして参入を阻むかは、下記を確認する。
1.生産量増加に対し、単位あたりコストは下がるかどうか:規模の経済
2.顧客がサプライヤーを変更すると、スイッチングコストが生じるだろうか
3.ある企業の製品の利用者が増えるにつれて、利用者にとっての製品の価値は高まるか:ネットワーク効果
4.事業に新規参入するための「入場料」はいくらか
5.業界の既存企業には、規模とは別に、新規参入者にもちえない強みがあるだろうか
6.政府の施策は、新規参入を制限または阻止しているだろうか
7.新規参入を計画している企業は、既存企業からの反撃をどのように予測しているだろうか
既存企業:既存企業同士の競争が激しいと、値下げ競争によって業界の生み出した価値が顧客に流れたり、競争にまつわるコストがかさんで価値が散逸する。
既存企業との競合が激しいかは、下記を確認する。
1.競合企業が乱立しているか、規模と影響力においてほぼ互角である場合
2.業界の成長が鈍いと、シェア争いが激化する
3.撤退障壁が高いと、業界から企業が退出しにくくなる
4.競合企業が事業に対して道理に合わない執着をもっている、つまり財務業績を最優先目標としない場合
また、価格競争が起きそうかは、下記を確認する。
1.製品・サービスの見分けがほとんどつかず、買い手のスイッチングコストが低いとき:競争の収斂
2.固定費が高く、限界費用が低いとき
3.生産能力の大幅な拡充が必要になったとき
4.製品が陳腐化しやすいとき
最後に、そもそも業界が魅力的かどうか、下記を確認する。
1.業界の収益性はなぜいまのような水準なのか?収益性を支える要因は何か?
2.何が変わりつつあるだろうか?収益性は今後どのように変化するだろう?
3.自社が生み出している価値のとり分を増やすには、どういった制約要因を克服しなくてはならないだろうか?
4.競争要因の影響が弱い場所に自社をポジショニングできるか?
━━━
上記の確認/質問事項を整理しておくだけでも、どこに課題があるのか、どこにチャンスがあるのかを見出せる。
N1分析
一重に顧客と言っても段階や種類がある。ここでは9セグマップを元に顧客を細分化する。
━ 9セグマップ ━
まず、ブランドを知らない、知ってるが買ったことない、知っていて買ったこともあるが今は買ってない、まぁまぁ買う、すごく買う...これら5つに顧客をカテゴライズする。
さらに、ブランド選考度合いによってさらにカテゴライズする。
※上図引用元:https://markezine.jp/article/detail/30846
━━━
例えば、Aさんは自宅から200m先にあるスーパーBに必ず週3回行く。リピーターであるAさんはロイヤル顧客と言えるだろう。
しかし、ここでAさんが「積極ロイヤル顧客」なのか「消極ロイヤル顧客」なのかは見極めないといけない。
突然100m先に、200m先のスーパーBよりも、安くて品揃えの良いスーパーCができたらAさんはスーパーCに行くかもしれない。
もしそうなれば、AさんはスーパーBにとって「消極ロイヤル顧客」だったにすぎない。
要は近いから行っていただけであり、スーパーBへの忠誠心があったわけでない。
このように、9セグマップでは各段階における顧客の整理に向いている。
本稿では9セグマップの詳細は割愛する。詳しい解説は引用元記事、ないし書籍より確認できる。
製品パフォーマンスの分類
自社製品は機能重視なのか、またリピートビジネスなのかどうかを分類していく。
━ 製品パフォーマンスの分類 ━
【機能性が重視されるカテゴリー】
製品パフォーマンスによって一度満足させることができると、エボークトセットに入りやすい。
消費者はリスク回避の選択をする傾向が強くなる。
ex.家電、洗剤、家具 etc
【機能性が重視されないカテゴリー】
ブランド・エクイティーの増強に集中しなければならない。
ex.ブランド品、水、化粧品 etc
【リピートビジネス:中長期の売上の大半を再購入から得る】
常に投資を繰り返し、顧客満足の注力を行う必要がある。
ex.洗剤、お菓子 etc
【トライアルビジネス:中長期の売上の大半をトライアル(初回購入)に依存】
製品パフォーマンスは重要ではない。
ex.観光地の土産屋やレストラン、ぼったくりバー etc
━━━
特に現代では「機能性が重視されるカテゴリー」においても、「機能性が重視されないカテゴリー」同様のマーケティングが必要になっている。
例えば、日用品に関して。Amazonのオリジナル商品は非常に安く、即日配送と便利なため、Amazon以外のブランドを買う理由がない。(実際に筆者はノートを日々大量に使うため、Amazonの安いノートは非常に助かる。)
家電も、中国製の安かろう悪かろうから、徐々に安いかつ悪くない、に変わってきている。
つまるところ、供給が需要を上回った現代においてはマーケティングによって的確に顧客へアプローチする必要があると考える。
コアターゲット
これまでの情報を活用しつつ、コアとなるターゲットを絞り出す。
そもそも「なぜターゲティングが必要なのか?」を整理する。
━ ターゲティングをする理由 ━
1.限られたリソースを消費者全員に投下すれば、1人当たりのリソースが薄くなる。
2.消費者全体の中でも「買う確率」や「購買欲」には大きな偏りがある。
3.満たすべき消費者ニーズにも偏りがある。
━━━
ターゲットを見つけ出す際、下記6つの切り口を使うと絞りやすい。
ペネトレーション:カテゴリーの中で自ブランドの世帯浸透率を増やせるグループはいないか
ロイヤリティ:既存の使用者の中でSOR(Share of Requirements)を伸ばせるグループないか
コンサンプション:既存の使用者の中で1回あたりの「消費量」を増やせるグループはいないか
システム:既存の使用者の中で使用商品の種類(SKU=Stock Keeping Unit数)を増やせるグループはいないか?
パーチェスサイクル:既存の使用者の中で購入頻度を上げる(購入サイクルを短くする)理由を作れるグループはないか?
ブランドスイッチ:競合ブランド使用者の中にブランド変更の可能性の高いグループはないか?
まとめ
Whoでは「どこに経営資源を投下するか」を整理してきた。
本稿のフレームワークを使うと「こんな人がターゲットでは?」「こういうサービスを加えたら?」など色々アイデアが出てくる。
しかし、これらは消費者がモノ/サービスを実際に五感で触れ、感情を抱き、アクションし、お金を払い、自社の売上となり、友人や家族に紹介するまで「適当なターゲットだったか?」「サービスの質は良かったのか?」はわからない。
筆者の場合、現段階では「顧客は何の不を解消したいのか?を完結に説明できる。またマーケティング活動に関わるメンバーと認識を完全に共有できている」ことが最重要と考える。
認識がズレていると、What以降の作業は水の泡となるためだ。
「反証」で新たな視点が生まれることもあるため、Whoの段階では「顧客の不」を抑え、"ある程度"経営資源の投下先を定めておく。
参考文献