[29] 濃い鼠
よくぞここまで……
そんなお褒めの言葉を頂戴するために
よく食べ
よく学び
よく励んでいた
勲章のような傷さえ負えないのに
遅まきながら
大志掲げた壮語から
究めるための
歩みを止めることはなかった
少なくとも私の目には
理想を追い求める 高邁な青年に映っていた
それがどうだ
今となっては
敗残の鼠色 濃く
虚ろで
目を離せば
消えてしまいそうな
肩息
私を敬愛していたらしく
なんの気なしに贈った
もっともらしい訓示を胸に
眼光するどい時期もあり
それはあたかも 闇夜をつらぬくサーチライト
それがどうだ
今となっては
鼻がもげそうな
異臭を放つ襤褸を着て
うわごとでは
あま……の……がわ
焦がれすぎて
狂死してしまいそうな
声つき
報われないのはあんまりだと
こぼす知人
だれに救うことができようか
同情など効かぬのだ
ひっそり消えたいと
つよく望む 愚かさのただなかで
灰燼となる悪夢には
毎晩のように
うなされているのだから
それでも私は
信じてやりたい
眠りこけた天稟など見当たらなくとも
殻をやぶり 突き出してくる
夢想の魂を
あきらめのわるさが
あいつの取り柄
ぶざまにわめいて ふらふら立ちあがる
そんな驚きの再生を
想像し
たたずむばかりの
発駅
※逃亡銀河の鼠たち
(逃げのびた闇のなかで 前編)
お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。