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[64] 簡易葬儀

あれこれ煩わしい葬儀など
こんな死体には 無用です
おんぼろの棺に放りこんだら
口には桜を
胸には向日葵を
臍には彼岸花を
股間には水仙を 咲かせて
こっけい哀れな死人の男をつくりあげ
くすくすと
笑っていただきたいのです
最期に
だれかひとりでも 楽しませたいですね
花に疎まれてしまうのは
ちょっと困りますけれど

火葬だって
適当に済ませてくださいね
灰になってしまえば
なんにも残らないのですから
だれかの心に留まるなんて
滅相もございません

忘れておりました
もしもお優しい方がおられたなら
赤っ恥の
数々のくだらない詩作品を
棺に入れてもらえないでしょうか
死んでもやっぱり 恥ずかしいですから
全身が埋まるくらいの原稿があるかどうかは
わかりませんけれど

いや
いけませんね
この死体は だれかの涙を欲しがっています
詩作を人生の大仕事と決め
哀れに生きた
ナルキッソスな男のために
だれかひとりでも
さめざめと
泣いていただきたいのです
嘘泣きでも
一向に
かまいませんから


※幻想宇宙でうたう星々
(耳をすませば星の声 前編)

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牙皎耀介
お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。