映画「レミングたち」の覚書 | #14 吉田惇之介
「レミングたち」でイラストを担当してくれたのはトラちゃんこと、吉田惇之介くんです。イラストの使い所はひみつです。
トランク
大学の同期の突出したすごい人たちについて何人か書いてきましたが、彼もまたその1人です。精緻な鉛筆画と、人形アニメーションと、CGを作る人です。
そのすごい人たちの例に漏れず、とにかく彼も知識量が深く、常に手を動かしている人でした。そして作るものも趣味趣向もそれまで全く知らない世界で、彼と出会えたのも僕にとってはとても幸運なことでした。
大学入学当初、髪を逆立て、髭を生やし、チュパチャップスをくわえ、古い革トランクを持ち歩いていた彼は、いつでもスケッチブックを片手に絵を描いていて、近寄り難さを感じていました。しかし、気づいたら気さくにトラちゃんと呼び、作品も共に作る仲になりました。よく考えると、最初に近寄り難さを感じた人ばかりと今仲良くしているので、人生分からないものです。
渡邉監督の「大怪獣グラガイン」では、怪獣のCGモデリングとアニメーションを担当していて、CGについても造形が深いです。怪獣のリアリティのおかげで、作品の切迫感はとても高まっています。
そして彼の修士卒業制作「蘆屋家の末裔」を観て、度肝を抜かれました。
手法としてジャンル分けするならストップモーションアニメーション、いわゆる人形を使ったコマ撮りアニメですが、こんな作品・表現はこれまで観たことありませんでした。
生きること
そして、それを昇華させた彼の最新作「繩」が昨日公開されました。怪作です。
本来は上映会を開催する予定だったそうですが、コロナが蔓延する現状を鑑み、YouTube上にて公開することを決めたそうです。10分に満たない短編です、ぜひご覧ください。
ぱっと見はとどうしても人を選びそうな印象があります。けれど、不条理に満ちた今のこの時勢だからこそ、至る所に縄が降りてきているこの世の中だからこそ、ぜひ彼とこの作品のことを多くの人に知って欲しいなと思います。
この「繩」は間違いなくこの1年くらいの映画祭を沸かせる作品だろうと思います。表現としてこれほどオリジナリティがあって、しかもそれが作品の内容にぴったり一致していて、人形のアニメーションや背景画の緻密さは尋常ではありません。何より撮影と照明のクオリティもとても高くて学ばねばならないところがたくさんあります。くやしい。
そして、実は図らずも「レミングたち」にも「繩」と近しいモチーフを用いていて、タイミングの重なりにも驚きましたが、一方で作家によってこうも表現が変わるのかという発見もありました。
正直に言ってしまうと、「レミングたち」のために彼に描いてもらったイラストは、本編の物語自体には関与していません。けれど、どうしても彼に描いてもらう必然性が僕の中にはあって、そのイラストと、このnoteで書いてきたことも全て含めてやっと「レミングたち」で本当にやりたかったことが完成しています。
「縄」と「レミングたち」を同時上映するタイミングも伺っています。ぜひ、二つ合わせて楽しみにしていただけると幸いです。
トラちゃん、普段の作家としての名義は「吉田虚無」で活動していますが、「レミングたち」には合わないだろうということで吉田惇之介でクレジットされています。いずれにせよトラ要素は一切ありませんが、これからもトラちゃんと呼んでいこうと思います。
最後は、イトウナホさんについてです。
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